11 / 50
十一、路上
しおりを挟む
職場へ向かう途中、にぎやかな駅前で、今日も音楽を奏でる人がいた。
地面に引いた小さなレジャーシートの上にどっしり腰を下ろして、使い込まれたギターを抱きしめるように弾き鳴らしている。
なんだかありきたりに聞こえるバラードを延々と歌い続けている。
行くときにも帰るときにもいるのだから驚きだ。
毎日、道行く人は、まるで気にもせず、もちろん立ち止まることもない。開いたままのギターケースには何も入らない。
今日は少し違うようだ。帰り途中ふと目をやると、ギターケースの中に何か入っている。
興味に駆られてフラフラと近寄ると、弾き手はチラリと此方を見て、またギターに視線を戻した。
例のギターケースには、数本のペットボトル飲料と、菊の花束。誰かの悪戯にしては質が悪い。
何か一言かけてやろうと思って、曲の切れ間を待つことにした。道の真ん中で立ち止まった自分に、通行人の白い目が向けられる。慌てて道の反対側まで移動し、せわしなく弦を弾く指を見つめる。
初めて真剣に聴いて、切ない歌だと思った。誰かに気付いてほしいと訴えかけるような、それでいてどこか諦めを含んだ詩だった。道幅、約二百センチが、やけに遠く感じる。
どれだけ聴いていたのだろうか。最後の音を鳴らして、曲が終わる。
それが自然な事であるかのように拍手を鳴らす。弾き手が驚いた顔をこちらに向けた。
まるで機械のように歌い続けていた弾き手の表情に、少しだけ距離が近くなった気がした。通行人の少し少なくなった道を、一歩、二歩と近づく。
少しかがんで、風で飛んでしまわないようにペットボトルの下にそっと紙幣を挟んだ。
「…いい歌だった。」
シンプルな感想を述べると、漸く弾き手が笑った。破顔と言う表現が似合う笑い方だった。
「…ありがとう。」
満足したように弾き手が礼を述べる。
自然に握手を交わす。ギターで擦れ、固くなった掌は当たり前のように冷たかった。
ついでに、CDを一枚買って、その場を後にする。
翌朝、弾き手はいなかった。
次の日も、その次の日も。
忘れかけた頃、弾き手のいた場所に何かが置かれているのに気付く。
胸騒ぎがして確認する。
数本のペットボトル飲料と、菊の花束。
随分風雨に晒された、交通事故の目撃者を探す看板が近くに立っていた。
地面に引いた小さなレジャーシートの上にどっしり腰を下ろして、使い込まれたギターを抱きしめるように弾き鳴らしている。
なんだかありきたりに聞こえるバラードを延々と歌い続けている。
行くときにも帰るときにもいるのだから驚きだ。
毎日、道行く人は、まるで気にもせず、もちろん立ち止まることもない。開いたままのギターケースには何も入らない。
今日は少し違うようだ。帰り途中ふと目をやると、ギターケースの中に何か入っている。
興味に駆られてフラフラと近寄ると、弾き手はチラリと此方を見て、またギターに視線を戻した。
例のギターケースには、数本のペットボトル飲料と、菊の花束。誰かの悪戯にしては質が悪い。
何か一言かけてやろうと思って、曲の切れ間を待つことにした。道の真ん中で立ち止まった自分に、通行人の白い目が向けられる。慌てて道の反対側まで移動し、せわしなく弦を弾く指を見つめる。
初めて真剣に聴いて、切ない歌だと思った。誰かに気付いてほしいと訴えかけるような、それでいてどこか諦めを含んだ詩だった。道幅、約二百センチが、やけに遠く感じる。
どれだけ聴いていたのだろうか。最後の音を鳴らして、曲が終わる。
それが自然な事であるかのように拍手を鳴らす。弾き手が驚いた顔をこちらに向けた。
まるで機械のように歌い続けていた弾き手の表情に、少しだけ距離が近くなった気がした。通行人の少し少なくなった道を、一歩、二歩と近づく。
少しかがんで、風で飛んでしまわないようにペットボトルの下にそっと紙幣を挟んだ。
「…いい歌だった。」
シンプルな感想を述べると、漸く弾き手が笑った。破顔と言う表現が似合う笑い方だった。
「…ありがとう。」
満足したように弾き手が礼を述べる。
自然に握手を交わす。ギターで擦れ、固くなった掌は当たり前のように冷たかった。
ついでに、CDを一枚買って、その場を後にする。
翌朝、弾き手はいなかった。
次の日も、その次の日も。
忘れかけた頃、弾き手のいた場所に何かが置かれているのに気付く。
胸騒ぎがして確認する。
数本のペットボトル飲料と、菊の花束。
随分風雨に晒された、交通事故の目撃者を探す看板が近くに立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる