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三十四、希望
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ソレを拾ったのは、本当に気まぐれだった。
どんよりとした空の下に、少し薄汚れたダンボールが一つ。まぁ、お約束のような状況。
辺りに人はおらず、興味本位でヒョイと覗き込む。案の定中にいた生き物と目があった。
やってしまった。
つぶらな瞳が、何かを期待するかのように此方を見上げてくる。
…いや、しかし。
ペット禁止だったはずの自宅を思い、暫く頭を抱え、悩む。ついには考えることを放棄した。
取り敢えず、連れて帰ろう。
ダンボールの中の生き物を抱き上げ、少し首を傾げた。
犬でも猫でもないが、犬にも猫にも見える。子猫ほどの大きさのソレが、『にぅ』とも『わふ』とも言い難い声で鳴いた。ますますわからない。ふわふわの短い毛は光の反射によって微妙に色を変え、表現するのが難しいほどだった。
兎にも角にも、一度拾い上げたものをもう一度ダンボール箱に戻す気にはなれず、幸いにもおとなしくしているソレを抱いて家に向かう。運のいいことに、誰にも見られず帰ることができた。
『ソレ』は、大きな声で鳴くわけでも、吠えるわけでもなく、部屋を荒らすこともなければ、ドタバタと足音を立てることもなかった。餌はというと、犬の餌も猫の餌も残さず食べる。…体調を崩すと怖いので、まだ人間の食べ物はあげていない。
ただ、一人暮らしからしてみれば、帰ったときに寝ぼけてフラフラしながら玄関まで出迎えてくれる様子や、寒い夜にピタリと寄り添ってくれる温もりが愛しくて愛らしい。
最初の内こそ周りにバレないように気を張っていたが、それもあまり気にしなくなった。『ソレ』は、まぁ、順調に成長している。
ある日、友人と二人で酒を飲んだ。
酔いが回って、『変な生き物を拾った』と口を滑らせたところまでは覚えている。そこから、いつの間にか部屋に来て飲む話になり、あれよあれよと言う間に友人が部屋に上がってきた。いつも通り出迎えた『ソレ』は、目を白黒させている。
缶ビールや酒瓶をあけ、流れのように最近の話になる。
友人は、とてもいい時計を貰ったのだと自慢してくる。送り主は婚約者だ。近々結婚式を挙げるらしい。
「時計置いてけよー」
「やだねー、絶対やんねー」
「ケチー、しんじゃえー、一人だけ抜け駆けしやがってー」
「ざまーみろー」
馬鹿みたいな会話を楽しんでいるうちに、だんだん酔いが回って、眠くなる。
いつの間に寝ていたのか、ふと目を覚ました。すると、友人が見えない。
トイレでも行ったかと思ったが、上着も、荷物もない。
帰ったのか、薄情者め。
まだ酔いの抜けていない頭で、こうなったら迷惑電話でもしてやろうと思い、卓上のスマホを探す。と、見慣れないものがある。
時計だった。
律儀に忘れていったのか。
薄情者の上に馬鹿野郎だななんて考えつつ、ラインから奴に電話をかける。
部屋の中で、呼出音がなった。
まさかスマホまで忘れたかと、辺りを見渡してギョッとした。
例の生き物がおろおろしながら抱えているお腹の中から、くぐもった音が響いていた。そういえば、こいつ、一回り大きくなっているように見える。
まさか、いや、でも…
「…出して」
無理だと分かっていても、思わず手を差し出してしまう。すると、『ソレ』はちょっと口をモゴモゴさせてから、何かを吐き出した。
スマホだった。が、それだけではない。
薄暗い部屋の中で、漏れそうになる声と吐き気を必死に堪える。
溶けかけた右手
その薬指には、婚約指輪が光っていた。
『ナニカ』は、キョトンとしながら此方を見ている。何か悪いことでもしたのかと言うように、卓上の時計を、差し出したまま固まった手のひらに運び、満足そうに鼻を鳴らした。
どんよりとした空の下に、少し薄汚れたダンボールが一つ。まぁ、お約束のような状況。
辺りに人はおらず、興味本位でヒョイと覗き込む。案の定中にいた生き物と目があった。
やってしまった。
つぶらな瞳が、何かを期待するかのように此方を見上げてくる。
…いや、しかし。
ペット禁止だったはずの自宅を思い、暫く頭を抱え、悩む。ついには考えることを放棄した。
取り敢えず、連れて帰ろう。
ダンボールの中の生き物を抱き上げ、少し首を傾げた。
犬でも猫でもないが、犬にも猫にも見える。子猫ほどの大きさのソレが、『にぅ』とも『わふ』とも言い難い声で鳴いた。ますますわからない。ふわふわの短い毛は光の反射によって微妙に色を変え、表現するのが難しいほどだった。
兎にも角にも、一度拾い上げたものをもう一度ダンボール箱に戻す気にはなれず、幸いにもおとなしくしているソレを抱いて家に向かう。運のいいことに、誰にも見られず帰ることができた。
『ソレ』は、大きな声で鳴くわけでも、吠えるわけでもなく、部屋を荒らすこともなければ、ドタバタと足音を立てることもなかった。餌はというと、犬の餌も猫の餌も残さず食べる。…体調を崩すと怖いので、まだ人間の食べ物はあげていない。
ただ、一人暮らしからしてみれば、帰ったときに寝ぼけてフラフラしながら玄関まで出迎えてくれる様子や、寒い夜にピタリと寄り添ってくれる温もりが愛しくて愛らしい。
最初の内こそ周りにバレないように気を張っていたが、それもあまり気にしなくなった。『ソレ』は、まぁ、順調に成長している。
ある日、友人と二人で酒を飲んだ。
酔いが回って、『変な生き物を拾った』と口を滑らせたところまでは覚えている。そこから、いつの間にか部屋に来て飲む話になり、あれよあれよと言う間に友人が部屋に上がってきた。いつも通り出迎えた『ソレ』は、目を白黒させている。
缶ビールや酒瓶をあけ、流れのように最近の話になる。
友人は、とてもいい時計を貰ったのだと自慢してくる。送り主は婚約者だ。近々結婚式を挙げるらしい。
「時計置いてけよー」
「やだねー、絶対やんねー」
「ケチー、しんじゃえー、一人だけ抜け駆けしやがってー」
「ざまーみろー」
馬鹿みたいな会話を楽しんでいるうちに、だんだん酔いが回って、眠くなる。
いつの間に寝ていたのか、ふと目を覚ました。すると、友人が見えない。
トイレでも行ったかと思ったが、上着も、荷物もない。
帰ったのか、薄情者め。
まだ酔いの抜けていない頭で、こうなったら迷惑電話でもしてやろうと思い、卓上のスマホを探す。と、見慣れないものがある。
時計だった。
律儀に忘れていったのか。
薄情者の上に馬鹿野郎だななんて考えつつ、ラインから奴に電話をかける。
部屋の中で、呼出音がなった。
まさかスマホまで忘れたかと、辺りを見渡してギョッとした。
例の生き物がおろおろしながら抱えているお腹の中から、くぐもった音が響いていた。そういえば、こいつ、一回り大きくなっているように見える。
まさか、いや、でも…
「…出して」
無理だと分かっていても、思わず手を差し出してしまう。すると、『ソレ』はちょっと口をモゴモゴさせてから、何かを吐き出した。
スマホだった。が、それだけではない。
薄暗い部屋の中で、漏れそうになる声と吐き気を必死に堪える。
溶けかけた右手
その薬指には、婚約指輪が光っていた。
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