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三十八、責任
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ズルリと足を引きずる。
疲れ切っていた。まぁ、それも理由としては無難な所だろうか。また一歩、ズルと引きずりながら、壁にもたれかかる。
体が重い
単純な感想だった。
特に飾り付ける気力すらわかない。
世間体さえなければと、何度思ったかわからない。その程度には疲弊していた。ため息をつくのもためらわれるほどの体力の消費。その原因は、分かっていた。
ズルリ
また一歩
足枷に、鉄球ようなものが付き、両の足首に絡みつき、纏わりつき、じわじわと体力を削っていた。他の人に言わせれば、『精神科に行け』とのことだったが、行ったところで重くなる一方である。
引きずれど引きずれど、削れるどころか増えていく丸いソレに視線を送り、肩を落とした。
仕事は順調である。
人間関係も同じく。
必要以上に関わる必要はなく、かと言って無関係とも言いづらい関係。いざとなれば『ウチとソチラの仲じゃないですか』と取り持ち、いざとなれば『ビジネスの関係でしかないと言い切れる。その微妙な境目。
この鉄の塊が付き始めたのはいつだったか。
そんなものは、なんの役にも立たないので忘れてしまった。
ただ、ズルリ、ズルリと後ろをついて回る。かと言って跡を残すこともなく、人に知られることもない。いいんだか悪いんだか…。
アルコールも入ってふらつく足で角を曲がると、子供が一人。
補導されないのか、とありきたりな感想を抱きながら通り過ぎようとした。
「ねぇ、重くないの?」
ピタリと足が止まる。
今、何を言われたのか、消化するのに時間を要した。
「取ってあげようか?」
少々笑みが混ざった声が鼓膜を揺らした。こちらの返事を聞く前に、まだ幼い手が鉄球に伸びる。
ズルリ
咄嗟に足を引く。重い、はずなのに。
頭の片隅は、ひたすらに重さを訴えている。しかし、いや、だけど。
どこかしらで、その重さがなくなることを拒んでいた。
「取ってあげるよ?」
目の前の子供がわらう。その笑顔すら、背筋を凍らせる。
言葉を発することもできず、重たい鉄球をズルズルと引きずった。
そのまま踵を返し、持ちうる限りの速さで家路を急ぐ。
理性では、わかっているのだ。
それでも、手放せないのだ。
ジワリと滲む視界を拭い、ひたすら足を動かした。
ふと不安になって振り返った頃には、子供はいなくなっていた。
思い出したように携帯が留守電を報せる。
急いでスピーカーを耳に添えると、聴き馴染んだ声がする。
『もしもしー?例の件だけどさ、お前に任せたから!よろしくな!』
プツリと音声が切れる。
金属が擦れる独特の音が鳴る。
凝り固まった首をキリキリと後ろに向けると、案の定、鉄球は、一回り大きくなっていた。
疲れ切っていた。まぁ、それも理由としては無難な所だろうか。また一歩、ズルと引きずりながら、壁にもたれかかる。
体が重い
単純な感想だった。
特に飾り付ける気力すらわかない。
世間体さえなければと、何度思ったかわからない。その程度には疲弊していた。ため息をつくのもためらわれるほどの体力の消費。その原因は、分かっていた。
ズルリ
また一歩
足枷に、鉄球ようなものが付き、両の足首に絡みつき、纏わりつき、じわじわと体力を削っていた。他の人に言わせれば、『精神科に行け』とのことだったが、行ったところで重くなる一方である。
引きずれど引きずれど、削れるどころか増えていく丸いソレに視線を送り、肩を落とした。
仕事は順調である。
人間関係も同じく。
必要以上に関わる必要はなく、かと言って無関係とも言いづらい関係。いざとなれば『ウチとソチラの仲じゃないですか』と取り持ち、いざとなれば『ビジネスの関係でしかないと言い切れる。その微妙な境目。
この鉄の塊が付き始めたのはいつだったか。
そんなものは、なんの役にも立たないので忘れてしまった。
ただ、ズルリ、ズルリと後ろをついて回る。かと言って跡を残すこともなく、人に知られることもない。いいんだか悪いんだか…。
アルコールも入ってふらつく足で角を曲がると、子供が一人。
補導されないのか、とありきたりな感想を抱きながら通り過ぎようとした。
「ねぇ、重くないの?」
ピタリと足が止まる。
今、何を言われたのか、消化するのに時間を要した。
「取ってあげようか?」
少々笑みが混ざった声が鼓膜を揺らした。こちらの返事を聞く前に、まだ幼い手が鉄球に伸びる。
ズルリ
咄嗟に足を引く。重い、はずなのに。
頭の片隅は、ひたすらに重さを訴えている。しかし、いや、だけど。
どこかしらで、その重さがなくなることを拒んでいた。
「取ってあげるよ?」
目の前の子供がわらう。その笑顔すら、背筋を凍らせる。
言葉を発することもできず、重たい鉄球をズルズルと引きずった。
そのまま踵を返し、持ちうる限りの速さで家路を急ぐ。
理性では、わかっているのだ。
それでも、手放せないのだ。
ジワリと滲む視界を拭い、ひたすら足を動かした。
ふと不安になって振り返った頃には、子供はいなくなっていた。
思い出したように携帯が留守電を報せる。
急いでスピーカーを耳に添えると、聴き馴染んだ声がする。
『もしもしー?例の件だけどさ、お前に任せたから!よろしくな!』
プツリと音声が切れる。
金属が擦れる独特の音が鳴る。
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