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一つ目の命
4日目
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点滴の針の小さな痛みも粗方収まり、とりあえず、何をするでもなく布団に横になっていた。やることもすることもなく、ただボンヤリと、先程の看護婦さんとの会話を思い返す。
『………て事があって、檻がなきゃ死んでましたよ…。』
『あら、それは運が良かったですねぇ。でも、アレは命までは取りませんから。安心してください!』
『………いや、安心できないです…。』
『まぁまぁ、アレなら私でも説得できますから…』
…鬼じゃなくて、良かったですね
結局その後『鬼』とは何なのか聞けなかったが、看護婦さんの声の調子から(表情は判らないので)相当ヤバいものなのは想像がついた。ただ、まぁ、このビクともしない檻があれば大抵のことは大丈夫だろう。少々狭いが、『捕まっている』のではなく『守られている』と思えば此処もそんなに酷い場所ではない…と思う。
(でももう少し娯楽が欲しいな…)
そんな事を呑気に思いながら寝返りをうった時、小さく床が揺れた。
(…地震?)
この吃驚異常空間にそんなものがあるかは置いといて、布団にへばりつくようにして耳を澄ませると、どうやら地震ではないと検討がついた。規則的に、かつ徐々に大きくなるソレは、にわかに信じ難いが足音のようだ。しかも、大きくなっているということは…
(…近づいてくる…!)
咄嗟に身を起こしたが、もう遅かった。扉が壊れんばかりの勢いで開かれる。まだ日が高いためか、廊下の電灯は点いていない。その為、突然の訪問者の姿をカーテン越しの光が浮かび上がらせる。
見上げるような巨躯。鋭い爪。口の端から覗く牙。そして、見るからに頑丈そうな手足。
「………………お、に………」
『鬼』と呼ばれるものが、静かにこちらを見下ろしていた。
一瞬間をおいて、状況を脳が理解したのか、激しく身体が震えだす。歯の音が合わないとはこういうことなのかと、脳の一部がやけに冷静な感想を述べた。指一本動かす事ができず、ただただ、壊れた玩具のように震えが止まらない。
(コロサレル)
本能的な恐怖がそこにあった。根拠のない、絶対的な『死』を痛感する。口の端からは意味を持たない音と、涎が零れ落ち、胸元を汚した。
「…タ、たす、…た、すけ、…タす、ケ…て…」
なんとか絞り出した言葉も、誰に向けてのものなのか、自分でもわからない。噛み合わない歯の音だけが響く中で、『鬼』が動いた。
まるで飴細工でも壊すように、檻の天井面を引き千切る。ひん曲がった鉄格子は床に投げ出され、金属音を響かせた。そして、その太い腕が自分に伸びる。
「あ、…や、だ……タス、たすケ、て…」
ろくに抵抗もできないまま、大人が幼児にやる『高い高い』のように持ち上げられた。違う点があるとすれば、その手は此方の上半身を覆ってしまうほどに大きく、こちらを見る視線には一欠片の愛情も籠もっていない事くらいだろうか。
そこから先は、一瞬だった。
なんの躊躇いもなく巨大な両の手に力が込められた。幼子が綿飴でも握りつぶすかのように、骨が、肉が、内臓が、グシャリと形を変える。何かが落ちる音がして、ちらりと目線をやると、つい先程まで一体になっていたはずの下半身が無造作に落ちていた。
(あ、ひろわなきゃ)
そう思って、手を伸ばそうとする前に、真っ赤に汚れた鬼の手が頭を包み込んだ。
頭蓋骨の砕ける音がする。
一つ目の命 死亡
『………て事があって、檻がなきゃ死んでましたよ…。』
『あら、それは運が良かったですねぇ。でも、アレは命までは取りませんから。安心してください!』
『………いや、安心できないです…。』
『まぁまぁ、アレなら私でも説得できますから…』
…鬼じゃなくて、良かったですね
結局その後『鬼』とは何なのか聞けなかったが、看護婦さんの声の調子から(表情は判らないので)相当ヤバいものなのは想像がついた。ただ、まぁ、このビクともしない檻があれば大抵のことは大丈夫だろう。少々狭いが、『捕まっている』のではなく『守られている』と思えば此処もそんなに酷い場所ではない…と思う。
(でももう少し娯楽が欲しいな…)
そんな事を呑気に思いながら寝返りをうった時、小さく床が揺れた。
(…地震?)
この吃驚異常空間にそんなものがあるかは置いといて、布団にへばりつくようにして耳を澄ませると、どうやら地震ではないと検討がついた。規則的に、かつ徐々に大きくなるソレは、にわかに信じ難いが足音のようだ。しかも、大きくなっているということは…
(…近づいてくる…!)
咄嗟に身を起こしたが、もう遅かった。扉が壊れんばかりの勢いで開かれる。まだ日が高いためか、廊下の電灯は点いていない。その為、突然の訪問者の姿をカーテン越しの光が浮かび上がらせる。
見上げるような巨躯。鋭い爪。口の端から覗く牙。そして、見るからに頑丈そうな手足。
「………………お、に………」
『鬼』と呼ばれるものが、静かにこちらを見下ろしていた。
一瞬間をおいて、状況を脳が理解したのか、激しく身体が震えだす。歯の音が合わないとはこういうことなのかと、脳の一部がやけに冷静な感想を述べた。指一本動かす事ができず、ただただ、壊れた玩具のように震えが止まらない。
(コロサレル)
本能的な恐怖がそこにあった。根拠のない、絶対的な『死』を痛感する。口の端からは意味を持たない音と、涎が零れ落ち、胸元を汚した。
「…タ、たす、…た、すけ、…タす、ケ…て…」
なんとか絞り出した言葉も、誰に向けてのものなのか、自分でもわからない。噛み合わない歯の音だけが響く中で、『鬼』が動いた。
まるで飴細工でも壊すように、檻の天井面を引き千切る。ひん曲がった鉄格子は床に投げ出され、金属音を響かせた。そして、その太い腕が自分に伸びる。
「あ、…や、だ……タス、たすケ、て…」
ろくに抵抗もできないまま、大人が幼児にやる『高い高い』のように持ち上げられた。違う点があるとすれば、その手は此方の上半身を覆ってしまうほどに大きく、こちらを見る視線には一欠片の愛情も籠もっていない事くらいだろうか。
そこから先は、一瞬だった。
なんの躊躇いもなく巨大な両の手に力が込められた。幼子が綿飴でも握りつぶすかのように、骨が、肉が、内臓が、グシャリと形を変える。何かが落ちる音がして、ちらりと目線をやると、つい先程まで一体になっていたはずの下半身が無造作に落ちていた。
(あ、ひろわなきゃ)
そう思って、手を伸ばそうとする前に、真っ赤に汚れた鬼の手が頭を包み込んだ。
頭蓋骨の砕ける音がする。
一つ目の命 死亡
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