帰りたいワタシの帰れない噺

Rentyth

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二つ目の命

6日目

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 毛布からはみ出した脚を誰かがペチペチと叩いている。次いで、何かを訴えているようだが、正直まだ寝ていたい。ゴロ、と寝返りをうつと、奇妙な鳴き声と共に脛の下あたりに柔らかい感触がして、一瞬後、鋭い痛みが走った。

「っ、いったぁ…!」

 思わず飛び起きるが、目の前には誰もいない。強いて言うならあちこちで住人たちが雑魚寝しているだけである。気のせいかと思い、寝直そうとしたところで、横から声をかけられた。

「…脚、退けてやってくれないか?」

 ここまで連れてきてくれたオジサンである。どうやら先程の自分の悲鳴で起きたらしく、眠そうに目を擦っていた。
 言われたとおり脚を持ち上げると、何かが顔面に跳んで来た。狙いを定めたかのように正確に眉間を突かれ、思わず額を押さえて悶絶する。朝から最悪だ。

「な、何なんだ、今の…?」

 痛む額を擦りながら目をあけると、毛玉が一つ転がっていた。大きさは丁度ドッチボールくらいで、灰色で、もっさもっさしている。息を荒らげるように膨らんで縮んでを暫く繰り返した後、毛玉が喋った。

「は、発車時刻です、お急ぎください…」

「…発車時刻…?」

「電車ですよ!電車!格好でわかるでしょう!」

 怒ったように跳ねる毛玉。格好と言われて一瞬なんの事だかわからなかったが、横で未だに眠そうなオジサンの指差す先を見て納得する。

「まさか…、車掌…?」

 毛玉からすれば大きすぎる、一般的には普通サイズの車掌鞄が、引き摺った傷も顕に床に転がっていた。

「あの、どういう事なんですか、コレ…。」

 怒る毛玉車掌を放置し、ヒソヒソとオジサンに話しかける。此処は安全なんじゃなかったのか。この、あからさまな『異形』は何だ。

「あー…、読んで字の如く『車掌』だよ。電車の。乗るか乗らないかも自由意志だ。」

「………帰れるんですか?」

「今日の行き先は知らないな。なんなら聞いてみたらいい。…なぁ、車掌。」

 昔馴染みでも呼ぶようにオジサンが声をかけると、今までポコポコ飛び跳ねていた毛玉がピタリと止まった。

「はい!車掌です!なんのご用件でしょう!」

「今日の電車は、どこ行くんだ?」

 車掌と呼ばれ慣れていないのか、今度は嬉しそうにコロコロ転がりながら毛玉車掌が答える。

「そうですねー、行き先は次ですね!」

「だってさ。」

 …なんの答えにもなっていない気がする。仕方なくもう一度質問を投げかけた。

「あのー、だから、行き先の駅名は…?」

「だから、『次』です。『次』駅行き。」

 当たり前のように聞いたことがない駅名だ。恐らく、乗ったとしても帰ることはできないだろう。万に一つでも帰れるとして、そうでなかった場合のリスクが大きすぎる。

「乗りますか?」

「…いや、やめとく。」

 コロコロと近くに転がってくる毛玉車掌に首を振った。すると、呆気なく車掌が離れる。

「では、またの機会のご利用、お待ちしております!」

 そう言って、ガレージの外へと転がっていった。
 説明を求めて横のオジサンを見つめれば、面倒そうに説明してくれた。

「車掌は、たまに来るんだ。別に害があるわけじゃない。それどころか、車掌が出入りしてる建物は襲われないって噂まで流れてる。…まぁ、わざわざ敵に回すことはない、ってね。」

「…電車に乗ったことは…?」

 好奇心から問うと、オジサンがニヤリと口角を上げた。

「『俺は』乗ってない。乗って、戻ってきた奴は、今のところ…いないな。」

 それは、目的の場所まで帰り着くことができたからか、それとも…。

「乗って、戻ってくる第一号になりたかったか?」

 からかうようなオジサンの発言に大きく首を横に振る。あまりにもネガティブすぎるのはいけないが、危険を推測できないのはもっとダメだ。それくらいなら、ネガティブに、慎重に、石橋を叩いて壊す位の勢いで疑っている方がまだ生き残れるだろう。

「…さて、朝飯にしようか。」

 住人たちもチラホラと起きてきた。先程の『車掌』について、もう少し詳しい人もいるかもしれない。

(まず情報、それから行動!)

 誰に教わったかは忘れてしまったが、そんな言葉が頭を過ぎる。でもまぁ、今は取り敢えず、鳴き始めた腹の虫を黙らせることから始めようと思う。
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