私のプリンセス。

関塚衣旅葉

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ジューンブライド

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 私が好きになった人は、笑顔が可愛くて、足が早くて、勉強も私よりできて、ご飯を美味しそうに食べる人だった。
でも、それは過去の姿。
今の彼女は、引きつった笑顔で、私から逃げることも出来ず、頭の回転が遅く、出されたご飯に手をつけずにいる。


 子供の頃から、店の前は通っていたが入ったことがなかった喫茶店の中。
想像では、楽しい話をしながらクリームソーダを飲んでいたのに。
現実は、アイスコーヒーとホットミルク。
「今更、なんの話? 普通、連絡が取れなくなるタイミングで一言言ってくれても良くない? 」
私なりに、これまでの不安な気持ちを最小限にして言葉を吐いたつもりが、そこそこの凶器になっていて申し訳なくなってきた。
ホットミルクを一口飲んで、幸せそうな顔をする彼女の口から何が飛び出すか不安で仕方ない。
頼んだコーヒーには手をつけずにいる。
氷が静かに溶けて、時間の流れを教えてくれる。

 「ごめんなさい。みーちゃんならわかってくれると思って、黙っていなくなってごめんなさい。それと、みーちゃんとずっと一緒にいる約束を守れずにひとりで幸せになってごめんなさい」
相手の人と幸せになるのに、ひとりでって言ったことに対して、私を過大評価してることに対して、ムカついてしまった。
でも、ムカついたとて、ここで言いたいことを言ったところで彼女は私のモノにはならない。

 「きっと許せないし、許す気もない。私は菜々美がいない生活が辛くて、でもまた会える確証がないから必死に一人で生きてきたのに、そっちの都合でまた私に干渉して。何それ、何様のつもり?楽しい?弄ぶのはそんなに楽しいの?」
分かっている、言いたいことを言ったところで、菜々美がまた私と手を繋いで歩いてくれる訳でもない。
彼女の大事なものが増えたことも、私が今は優先度が低い人間ということも。

彼女はただ、静かに涙を流した。
そして、か細い声で、ごめんなさい。
そう何度も言っていたのが、聞こえる。
泣かせたいわけじゃない。
私と幸せになるって言った約束を破ってまで、一緒にいる相手が気に食わない。
お腹に宿った命は、私との幸せの中にはありえないものだということも分かっている。
たまたま、同性だった。
それだけなのに、何故ここまでこじれなきゃいけないのか。
私が男なら、彼女とお揃いの指輪をつけて、彼女の花嫁姿を隣で見れたのか。
氷が解けて薄くなったコーヒーをひとくち飲むと、環境音が聞こえるようになった。
外の雨が強くなった気がする。


 私が男なら、何度も考えてしまう。
でもきっと、彼女に必要なのは、私ではなくて、未来に残る家族なのだろう。

窓の外に咲いてる紫陽花が、雨の力でさらに輝いて見える。

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