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領地編
15.慶次
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不可侵の聖なる地、アジルテ・ベオに大穴が空いた。その大穴はトゥイリアース王国とナルマフ王国とを完全に繋ぐものであり、これまで国交の薄かった両者の間に新たな風をもたらした。
ただ、これは決して喜ばしいものではなかった。なにせアジルテ・ベオは諸国が手出しをしないと取り決めた聖域だ。そこに手を出し、しかも他国へ直通する通路を作ってしまった。諸外国の手前、いくらあのヴァーミリオン公とは言え、看過できるものではないと国議でも問題となり、その責任を負ってアルベルトは領地での謹慎を言い渡される。ヴァーミリオン領に空いた大穴を、ナルマフ王国からもアジルテ・ベオ内部からも安全に塞ぐ事。その全てに掛かる費用をヴァーミリオン家のみで賄い、終わらせる。それを罰則とする。トゥイリアース王グレンリヒトよりそのようにアルベルトへ言い付けた事で、国議の糾弾はようやく収まったのだった。
そう言われたアルベルトは、意気揚々と、なんなら笑顔で屋敷へ帰って行った。これで思う存分、ミスリルの研究とリリアンの観察が出来るというものだ。無関係の事件で城に呼び出される、という事も無くなるのだから、アルベルトにとっては罰でもなんでもない、ただただ利点しか無い謹慎だ。そもそも、国の運営に関わらないアルベルトが王都に居なくても何の問題もない。
そんな訳でヴァーミリオン領への帰還の準備が勧められていたのだが、思わぬ余波が生まれた。その影響を最も受けたのは王太子マクスウェルだろう。
「じゃあ、そういう事だから」
「は? なんでお前まで!? 謹慎は叔父上だけのはずだろ!」
マクスウェルは叫んだ。聞いた話では、アルベルトが謹慎を食らった、ということだった。レイナードは無関係なので王都に残るはずだ。それなのに、レイナードも一緒に二週間ほど領地へ帰るのだという。
「お前は関係ないんだろ」
「それは、勿論」
「じゃあなんで」
マクスウェルがそう言えば、レイナードは何を言っているんだ、と言わんばかりに眉を顰めた。
「リリーも父上と一緒に領地に戻るって言うから。王都に残る意味が無いんだ」
「はあ!? なんだそりゃ!?」
嘘だろ、というマクスウェルの声はフロア中に響き渡った。マクスウェルの補佐をしているレイナードに任せている仕事はそれなりの量がある。代わりの人間が来るというわけでもないと言うから、マクスウェルの顔には絶望が浮かんだ。
「おいレイ、頼む、考え直してくれ! お前無しでどうやって二週間も過ごせっていうんだ!」
「頑張れ」
絶望感に打ちひしがれるマクスウェルを残し、じゃあ、と片手を上げて、レイナードは部屋を後にした。扉が閉まる間際、隙間からこちらに手を伸ばしていたマクスウェルが、どしゃっと音を立てて机に突っ伏したのが見えた。「殿下!」「気を確かに!」という、騎士達の声が聞こえるが、レイナードに戻ってやる気はさらさら無い。
アルベルトが強制的に領地へ戻る事になり、リリアンを連れて行くと言い出した。何かと忙しいリリアンも、領地へ戻るのは一年に数回あるかどうか。領地にはレイナードとリリアンの祖父母が居る。久しく会っていないお祖父様とお祖母様に会いに行こう、と言われれば、リリアンは笑顔で頷いた。経緯を隠し誘う姿はさすがの一言だ。意地でもリリアンを連れて行こうというアルベルトの執念は凄まじい。
それで、レイナードも祖父母に会えていないし、と同行する事にしたのだ。仕事が終わってからリリアンの居ない王都の屋敷に帰った所で一体どうしろというんだ、とレイナードは本気で思っている。そんなんだったら王城に泊まり込んだ方がマシだったが、そうした所でリリアンに会えるわけでもなし。だったら一緒に領地へ行く、それしか選択肢は無い。
アルベルトの謹慎は、なんだかんだでひと月くらい解除できないだろう。その間にリリアンが王都へ戻りたいと言うのなら、レイナードはそれに着いて行くつもりだ。だからマクスウェルには二週間くらい、と伝えたのだが、これもリリアンがもっと領地に留まりたいと言えばそれに従うまでである。その場合は手紙でも出して伝えればいいか、とレイナードは軽く考えていた。
王都で所用のある一家が領地へ戻るのは、だいたい一年振りだ。きっと賑やかな旅行になるだろう。リリアンもきっと喜ぶに違いないとレイナードは確信を抱いている。アルベルトには仕事がある。不在の時間もそれなりにあるだろう、だからレイナードはこの機会を逃すつもりはなかった。リリアンの隣を独占しようと心に誓う。
意気揚々と廊下を進むレイナードは、珍しく浮き足だっている。表情はいつも通りだったが足取りが明らかに軽やかで、雰囲気も柔らかい。滅多に見られないその姿に魅了される者も多かったのだが、リリアンの事しか頭にないレイナードがそれに気付く事は無かった。
そんなわけでアルベルトとレイナード、そしてリリアンは、約一年振りに自領となるヴァーミリオン領へ戻る事になった。アルベルトは数日振りではあるものの、通過しただけだったので、やはり一年振りとなる。
その一報がもたらされたヴァーミリオン領の中心部、〝銀朱の箱庭〟は吉報に色めき立つ。街中あちこちを人が行き交い、至る所に花を飾っている。色鮮やかな布を下げた店なんかもあって実に華やかだ。街の景観を損なわないよう、計算されて飾り付けがされているのだ。街の人々の持つ計画書にはとある人物直々の指示が書き込まれている。街の魅力を最大限に引き出し、かつより一層リリアンの好みとなるようにするものだ。その計画書の通りに飾り付けられた街は、繊細ながらも華々しく、実に優美であった。
元々洗練された街並みだったのが華やかに彩られ、いつにも増して活気付いている。飲食店からは威勢の良い声が聞こえて来た。
「おーい、発注した荷物が届いたぞ! 倉庫に運んでおけばいいのか」
「ああ、助かる。それを置いたら、次はこっちを手伝って貰えるか」
「分かった!」
「あんた、もう調味料が無くなっちまったよ!」
「今丁度届いたところだ! 倉庫に運んでる」
「ああ、なら良かった! これできっちり準備出来そうだねぇ」
「そうだな、もう一踏ん張りだ。頑張ろう」
と、どこもかしこも大量の仕込みを行っている。そのせいだろう、品物を求めて、商店には人集りが出来ていた。店主らしき男が店先で呼び込みをしている姿がそこかしこで見受けられた。
「飾りは足りてるかい! 包装紙は、食材は、今日の夕飯は!? しばらくはセールだよ、買った買った! 我らが女神様のご帰還だ、不足があっちゃならないだろう。万全にしてお迎えしないと!」
「大量発注ならうちへどうぞ! 注文を貰えれば、荷物はお届けするよ! 重たいものを買うのにも便利だよ!」
商店には人が雪崩れ込む。誰もが両手で抱えきれないくらい大量に買い込み、店を後にする。あっという間に完売する商店まであったくらいだ。
たくさんの商品が詰められた紙袋を抱え、家路に着く女性達は興奮気味にお喋りに花を咲かせている。
「ああ、楽しみだねぇ。さぞお美しくなっているんだろうね」
「本当に。パレードでお姿を拝見出来ればいいのだけど」
「そこはドラセナ様がうまくやって下さるんじゃないの。でもまあ、いつも凄い人の数だから、馬車がちらっと見えれば良い方かしら」
「そうよね。でも、それだけでもいいわ。リリアン様がご無事に到着されれば、それで」
「その通りねぇ。ああ、楽しみだわ」
「なんだい、この騒ぎは」
それら街の様子にぽかん、と目を丸くしているのは、行商人の男だ。申請していた許可証の認定がようやく降りて、これから仕入れをする所だ。役所に入る前は、こんなではなかった。たった数時間で街中がバーゲンセールだ、一体何があったのかときょろきょろしている。
「なにか困り事かい?」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
あちこちを見渡していると、突然横から声を掛けられた。声を掛けてきたのは行商人の左手側にあるカフェ、そのテラス席でお茶をしていたらしい老人だ。白いひげを蓄えた彼は、ぷるぷると震える手で白くて長いひげをしごいている。
悪い人では無さそうだ。行商人の男は老人をそう評して、雑談に応じる事にした。実際、戸惑っていたので丁度いい。実は、とその老人に向いた。
「役所で手続きをしている間にこんな風になって、驚いてしまって」
「おや、そうなのかい。それは運が良いね。この先しばらくはセールになるよ、今の内に仕入れるといい。いやはや、女神様のご加護だね」
「女神様のご加護?」
そうとも、と老人は目を細めて頷く。
「私達の敬愛する女神様が、一年振りにお戻りになるのさ。これはその為の準備というわけだね」
「それはまた、唐突に」
行商人がそう言えば、老人はあっはっはと笑い声を上げた。
「なにせ、女神様の父君がそういう方なものでね。いつもいつでも、何でも唐突なんだ。当日はあちこちに出店が出て人手ももっと増える。大騒ぎになるよ」
「今もすごい騒ぎなのに?」
「こんなもんじゃない。もっと大騒ぎになるのさ」
「はあ、とんでもないな」
行商人の男は、改めて辺りを見回した。かなり広い街道には荷馬車が行き交い、歩道は人でいっぱいだ。その時になると、これが埋め尽くされるくらい、人が集まるらしい。大きな街とはいえ、それでは街中の人が集まる事になるんじゃないかとそう言えば、老人はその通りだと頷く。
「街中の人間が待ち望んでいるからね。当然みんな出てくるさ」
「あなたも?」
「勿論だとも。君もパレードが終わるまで滞在した方がいいよ、絶対にね。ただ、良く見たいからと言って、宿の二階から顔を出すのは止めた方がいい。不敬だからね」
「……覚えておくよ」
老人の言葉は、後半だけ低くなった。表情も真剣なものであったから冗談でもなんでもないのだろう。従った方が良さそうだと判断した行商人の男がそう答えれば、老人はにこりと笑みを浮かべる。
「それが良い。さあさ、唐突に祭りが終わらないうちに行くといいよ。君は何をお求めだい?」
「リリィローズの織物を。小物でいいから、とにかく数が欲しくって」
「なら、ここから真っ直ぐ行った辺りだね。呼び込みが凄いだろうが、安心するといい。紛い物なんざこの街には存在しないから」
老人が震える指で示す方を見れば、確かに人通りが特に多かった。なんでも、流行している物ばかりを扱う店が立ち並ぶ通りなのだそうだ。そのせいでいつも人でごった返しているという。行商人は話を聞いていなければ、その通りは後回しにしていただろう。ここで話を聞けて良かったとつくづく思った。
「親切に、どうも有難う。助かったよ」
「なに。私もね、嬉しくて堪らないものだからね。礼には及ばないよ。そうだ、最後にもうひとつだけ忠告を」
「忠告?」
行商人の男は首を傾げた。一体なんだろう、とひげの老人をまじまじと見る。彼は、やはりひげを撫でながら言う。
「この街に出入りするのなら覚えておくといい。いいかい、決して女神様を貶める発言はしない事だ。二度とこの〝銀朱の箱庭〟に入れなくなるよ」
「それは、どういう意味なんだい?」
「そのままの意味だよ。下手を打つと生きて帰れなくなるから、気を付けるんだよ」
「えっ?」
ゆったりとした喋り方とは裏腹に、随分と物騒な言葉が飛び出して、行商人は再び目を丸くした。そんな彼の目の前では、老人が柔らかな表情で街を眺めている。
「ああ、楽しみだ」
行商人の男は呆然としながらも、老人の言葉に従う事にした。街に漂う熱狂的な空気が老人の言葉を裏付けているかのようだった。誰かの来訪を待ち望む声がそこかしこから聞こえてくるのだ、きっとその〝誰か〟こそが女神様で、相手が女神なら不敬を働かない方が利口だろう。とにかく、この街へやって来た理由を片付けねばと、彼は老人の言葉を思い出しながら道を進んでいった。やはりあちこちから興奮した声が聞こえて、これはとんでもない事が起きているぞ、とようやく実感する。ただ、街の人々がなにに興奮しているのかは、ヴァーミリオン領に住んでいない彼には理解出来なかった。
「よく分からないが……リリィローズ織りが格安で手に入るのであれば、それでいいか」
と、そう呟いて、彼は人混みの中に消えていった。
それから数日。ついにその時がやってきた。今か今かと待ち望む人々の視界の先、街道に特別ぴかぴかした馬車が見えて、人々は歓声を上げる。
「リリアン様ー!」
「リリアン様のご帰還だ!」
「我らが女神! 我らが月! リリアン様、お帰りなさいませ!」
その馬車はアルベルト達領主一家の乗る馬車だ。馬車を取り囲むように、両側の街道は人で埋め尽くされている。紙吹雪が舞う中、誰もが一家の乗る馬車に手を降っていた。
入口や店先のあちこちには「祝・リリアン様凱旋」「リリアン様最高」「リリアン様万歳」と書かれた横断幕が掲げられている。気持ちは分かるが、凱旋とは、リリアンは何と戦ったのか。そう思えば、その次には「蝗せんべい万歳」とあった。なるほど、確かにあれは聖戦であった。リリアンは苦手な虫を粉末にしたせんべいを食したのだ、立派な勝利と言える。良い所に目をつけるじゃないかとアルベルトは一人頷いた。
街道沿いには、出店もたくさんあった。きらきら光るガラス細工、陶器の工芸品に果物を使ったお菓子、ジューシーな肉串。ヴァーミリオン領自慢の品々が並んでいる。
そのいずれもが、リリアンに捧げられたものだ。実際に全てをリリアンが食べたりするのは難しいのでそのまま販売されているが、気持ちとしては全てリリアンに手にして貰いたい。そんな思いから、代わりに売り上げの一部を納める事で、街の人々は気持ちを抑えていた。この街の住民も皆、リリアン教徒なのである。
「今回も、凄い人ね」
街道に集まる人々に手を振りながら、リリアンはそう呟く。リリアンの微笑みを向けられた方向からは大歓声が沸く。
そんな見慣れた光景に、リリアンは頰を綻ばせた。
「前より増えているのでは?」
「そうだろうな。去年より人口が一割増えたから」
「まあ。そんなに?」
ぱちぱちとリリアンは瞬いているが、珍しい事ではない。リリアンの為、という名目で、あちこちから技術者を呼び寄せる事も頻繁にある。一族揃って招き入れたりもするから、人口はずんずん増えていくのだ。
昨年は織物を作るのにとある一族を従者ごと呼び寄せ、領地に土地を与えて住まわせた。基本的にこの〝銀朱の箱庭〟に住めるのはそういった技術者だけだ。それ以外の、普通の移住者はここ以外の集落や町にしか土地を持てない。これは特別な技術の機密保持の為だ。商人に限っては、店舗兼住宅を建てる事が許されていたが、商業区の土地はべらぼうに高い。それを建てられるのは国の内外で有名な商会くらいしかなかった。それでも申し込みが殺到し、区画を拡張しなければならない程度には、この街は魅力的であった。なぜならば、大陸でも最新鋭の技術の粋が集結しているからだ。この街に出入りさえできれば、あらゆる流行の先進に触れられる。流行の発信源、それが現在のヴァーミリオン領の姿であった。
その増えた人々が、こぞってヴァーミリオン領の物を買い、自国へ送って売り捌く。その売り上げにも領地での仕入れにも税金が掛けられ、ヴァーミリオン領に入って来る。領地に人が増えれば金が入ってくるのだ、しかも、放っておいてもズンドコ増える。更に言えば、その人々が新たな流行を作る事もあった。それで余計に人が、物が増える。雪だるま式に増加する一方のヴァーミリオン領の財。これもまたアルベルトの強みであった。それを余す事なく享受しているリリアンだけが、それを知らない。
「活気があるのは良いことですね」
「そうだな」
「お兄様、落ち着いたら、いつもみたいに散策に付き合ってくださる?」
「もちろん。リリーの気が済むまで付き合おう」
「リリアン、私も一緒に」
「あら。お父様はお仕事があるのでしょう?」
だからそんな暇は無いのでは? そうリリアンに小首を傾げて言われてしまえば、アルベルトは何も言えない。がっくりと肩を落とす。
歓声が響き渡る中、馬車は進んで行く。車内の様子は実に和やかだ、リリアンの軽やかな笑い声がすればより一層雰囲気は華やぐ。その事にアルベルトもレイナードも目を細めて喜びを露わにした。
(天使……)
アルベルトはいつもの様にそう評し、レイナードは
(可愛い……)
と愛らしい妹の姿を堪能した。
実際、この街はリリアンの為にあるといって過言でもなかったが、リリアンが居たからこそ、ここまで発展したとも言える。アルベルトの注ぐリリアンへの愛は過剰ではあったが、その過剰さが無ければヴァーミリオンはここまで膨大な財を築く事はなかった。
それが良い事なのか、悪い事なのか。それを判別出来るような賢き者は、残念ながらこの場には居ない。
「リリアン様ー!」
「天使! 女神!」
「リリアン様、最高ー!」
「最高ー!!」
(リリアン最高)
(リリー最高)
天使に魅了された馬車の外の群衆と同じように、アルベルトとレイナードもひたすらにそれを唱えるのだった。
馬車はそのまま街道を進み、〝銀朱の箱庭〟の中心部を抜けた。沿道にはいつまでも人の姿があり、皆がリリアンの帰還を喜んでいるが、郊外ともなればそれもまばらになる。たまに出会う人々にも手を振りながら、リリアンは街の様子を眺めていた。
活気のある美しい街だ。人々は明るく精力的で、日々練磨しているという。そんな領民がリリアンは誇らしかった。自分達の持つ技術を更に高め、新しい物を生み出す。なんのちからも無いリリアンにはそれが眩しく思えた。
ここへ来る度、街を見る度に、リリアンは自分も負けられないなと気持ちを新たにする。勤勉な素晴らしい領民の模範となれるよう、努力しなければと思うのだ。いつだってリリアンに元気をくれるヴァーミリオンの領地が、リリアンは大好きだった。綺麗に整理された区画に並ぶ、立派な建物。街に溢れる明るい声、活気のある市場。行き交う人々の表情は生き生きとしている。そんな街で作られる様々な品はやはり立派で素晴らしい出来栄えだ、それを求める人の表情もまた明るい。その全てが尊く思えて、リリアンは目を細めた。
最も、リリアンが〝銀朱の箱庭〟を特別気に入っているのは当然の結果とも言える。この街はリリアンが気に入るようにと、そのように造られているのだから。
リリアンの横顔を眺めて、アルベルトは、ふっと口角を上げたのだった。
喧騒が遠ざかるのを感じているうちに、屋敷に到着したようだ。緩やかに馬車が停まる。完全に停止してから、リリアンはアルベルトの手を取って馬車を降りた。
王城にも引けを取らない広大な屋敷。その敷地内には広大な庭園や花畑、美しい湖までもがある。歴史を感じながらも決して古ぼけて見えないのは手入れが行き届いているからだ。ガラスの一枚一枚には曇りも見えない。荘厳で、かつ壮麗。これがヴァーミリオン公爵家本邸であった。
重厚な扉を潜ると、リリアンはぱっと表情を明るくする。
「お祖父様!」
そう声を上げ、そこに待ち受けていた人物に向かっていった。
しっかりとした佇まいでリリアンを迎える老人は、先のトゥイリアース国王、ゴットフリートその人である。
ゴットフリート。それは、荒れたトゥイリアース王国を現在の形へと導いた王の名だ。別名、闘神、鬼神、あるいは滅神とも呼ばれる。かつて王家に反旗を翻した者共をその手で沈めてきた剛の王である。恵まれた体躯に魔力を乗せその腕力を強化し、繰り出される剣技で戦車を真っ二つにした、とか、剣を振って何十人もの兵を吹き飛ばした、とかそういう逸話を持つ人物である。
老いてなおその筋肉は健在で、上着ははち切れんばかりにパツパツだ。
深く顔に刻まれた皺と傷跡が彼の足跡を彷彿とさせる。だが彼はリリアンを認めるなり、へにゃりと眦を下げて大きく腕を広げた。
「おお、リリアン! よく帰ったな!」
「ただいま戻りましたわ、お祖父様。お元気そうで良かった」
「元気に決まっとるだろう、さっきも湖畔を十周してきたところだ」
「まあ!」
くすくすと笑うリリアンの頭を撫でるゴットフリートの表情は柔らかい。鬼神と言われたかつての面影はどこへやら、その姿はどこにでもいる、孫を可愛がる祖父そのものだ。
そんな微笑ましい一幕に、アルベルトは無表情ですすす、と近付くとゴットフリートの手をパシンと払った。
「汚い手でリリアンに触るな」
と、そう言ってリリアンとの間に入り睨み付ける。そんなアルベルトを、ゴットフリートはハン、と鼻で笑う。
「なんだ、アルベルト。相変わらず心の狭いガキめ」
「うるさい」
アルベルトの表情は険しいままだ。反対に、ゴットフリートはにやにやと笑っている。
「良い加減子離れせんか」
「うるさい、と言っている。耄碌したかジジイ」
「あぁ!? なんだとォ!?」
煽り合うアルベルトとゴットフリートに、リリアンはおろおろとしてレイナードに視線を向けた。
この二人は顔を合わせるとこんな調子なので、放っておくといつまでもこのままだ。レイナードはリリアンに頷いてみせると、一歩前に出る。
「お祖父様、お久しぶりです」
そう声を掛ければ、破顔したゴットフリートがレイナードに視線を向ける。
「おお、レイナード。元気そうだな! お前はまぁた細っこいままで、ちゃんと喰っとるのか?」
「ええまあ、はい」
「ならもっと喰え、筋肉をつけろ。筋肉があれば大抵の事はなんとかなる!」
「僕は筋肉がつきにくいので」
「そんなわけあるかぁ、儂の孫なんだから!」
現に、マクスウェルはガタイが良いだろうと言われると、確かにその通りだ。だけどレイナードは容姿のみならず体質も母親似だったようで、マクスウェルと同じような訓練をしてもそこまで筋肉が太くならなかった。それでもそれなりに鍛えてはいるからしっかりとした体つきではあるものの、筋肉に頭が生えたようなゴットフリートからしてみれば細枝みたいなものなのだろう。ひょろひょろだなあ、と乱暴にレイナードの頭を撫でる。レイナードはされるがままで、髪がぐしゃぐしゃになった。リリアンがそれを見てくすくすと笑っている。アルベルトはレイナードの事はどうでもいいようで、今度は止めたりしない。というか視線は笑みを浮かべるリリアンに向いていたので、その様子は見えていなかった。
ゴットフリートの豪快な笑い声が響く中、キィ、と微かな音が聞こえて、リリアンはそちらへ視線を向ける。
「いつまで玄関に居るのです。早くお入りなさい」
「お祖母様!」
扉を開けて顔を出したのはゴットフリートの妻、フリージアだった。先の王妃だった彼女の佇まいは今でも美しい。本人の美貌もかなりのもので、その美しさはアルベルトとリリアンに受け継がれている。
フリージアはリリアンと同じ色の瞳を細め、にこりと笑んだ。
「ああ、リリアン。久しいですね」
「はい、お祖母様」
「それにとても美しくなったわ。素晴らしい、歩く姿ひとつ取っても、まるで水面をゆく水鳥のよう」
「恐れ入ります。お祖母様にお褒め頂けて嬉しいわ」
「さ、こちらへ来て、もっと良くお祖母様に見せて頂戴。疲れてはいない? お茶にしましょう。レイナードもいらっしゃい。……そこの二人も」
最後の一言だけやけに低い声でそう言うと、フリージアは孫二人を伴って部屋へ引っ込んでいってしまった。
リリアンが居なければ、玄関先なんぞに留まる理由なんてない。アルベルトは後に続こうとするが、ゴットフリートの声がそれを遮った。
「聞いたぞ、ナルマフの小僧がリリアンに不敬を働いたそうじゃないか」
「それが?」
眉間に皺を寄せ、アルベルトは振り返る。ゴットフリートはニヤリと不敵な笑みを浮かべてはいるが、目つきだけは険しい。かつての闘神と呼ばれた頃と遜色の無い鋭さを宿していた。
「生温いと言っとるんだ。国ごと潰しても良かったろ」
その鋭い視線をアルベルトはするりと躱わす。
「兄上に止められた」
「グレンリヒトめ。見た目だけで、腑抜けは変わらんか。甘っちょろいのォ」
腕を組み、ふん、とゴットフリートは鼻を鳴らした。つまらない、というよりは、リリアンに無礼な態度を取った愚か者の住む国を放っている、その事が気に入らないのだろう。
アルベルトだって、出来る事なら潰してしまいたかった。だが、将来、リリアンがその事実を知る可能性がある。そうなればアルベルトは大目玉を食らうし、最悪嫌われるだけでは済まないかもしれない。それだけは避けなければならなかった。だからほどほどに贖罪させて、逆らえない状態にして放置した方がマシだ。あの処分は渋々だったのだ。
そう考えていると、チラッとあの無礼極まりない書状の内容を思い出してしまい、ちょっとイラッとする。アルベルトの眉間に更に皺が寄った。
が、そういえば、という声がして、アルベルトはその顔のまま意識をそちらへ向けた。ゴットフリートは、そのアルベルトの表情は見慣れたものなので、大して反応は示さない。ごくごく普通に会話を続ける。
「アジルテ・ベオの大穴は塞いでいないんだろう。どれ、遊びに行ってみるか」
「その穴を塞ぎに来たんだ。兄上に言われて」
「なんだと? 別に塞がんでいいだろ、そのままで」
「勿論、完全に塞ぐつもりはない」
「ほう?」
アルベルトの言葉に、ゴットフリートは眉を跳ね上げる。
「それはどういう」
「お父様、お祖父様、早く来ないと、おやつをみんな食べてしまいますよ?」
と、そこへ、なかなかやって来ない祖父と父に、リリアンが可愛らしい顔を覗かせた。アジルテ・ベオに穴を開けたのは、リリアンには秘密にしている。余計な不安を感じさせない為だ。だから二人とも途端に話題を変える。
「おおリリアン、こいつの分はどうでもいいから、儂の分は残しておいておくれ!」
「リリアンが私の分を取っておかないわけがないだろう」
と、そう言いながら、二人は足早に扉へ向かった。相手よりも先に部屋に入るためだ。より具体的に言うと、相手よりも早くリリアンの元に辿り着き、おやつを横取りするためである。
高身長を生かし大股に進むゴットフリートと、長い股下を最大限に生かすアルベルト。両者一歩も譲らず横に並んだ。お互いまったく引かない。
我先にと二人で同時に扉に突っ込んだ結果、つっかえた。
「アルベルト、邪魔だ!」
「私のセリフだ」
ガンガンと音を立てぶつかりながら、扉につっかえた状態でなおも相手を排そうとする姿の醜いこと。
「何をしているの、もう」
フリージアは夫と息子を見ると、そうため息を溢した。呆れを全面に湛え、それを隠す事が出来ないくらいには、しょうもない諍いだ。いい大人が何をしているのだか。
幸いなのは、それを見るリリアンが楽しげであることだった。リリアンは仲が良いのね、なんて言っているが、とんでもない。この二人は水と油のように相容れないのだ。が、あえてそれを言う必要もないだろう。フリージアはしょうもない二人は意識の外に締め出して、可愛い孫達とのお茶に集中する事にした。いまだにつっかえている二人は、可愛くもなんともないから忘れてしまっても問題ない。
穏やかな陽光が差す中、フリージアはリリアンとレイナードとのお茶の時間を楽しんだ。ゴンゴンがんがんと、アルベルト達が扉にぶつかる音は、少しばかり煩かったけれど。
ただ、これは決して喜ばしいものではなかった。なにせアジルテ・ベオは諸国が手出しをしないと取り決めた聖域だ。そこに手を出し、しかも他国へ直通する通路を作ってしまった。諸外国の手前、いくらあのヴァーミリオン公とは言え、看過できるものではないと国議でも問題となり、その責任を負ってアルベルトは領地での謹慎を言い渡される。ヴァーミリオン領に空いた大穴を、ナルマフ王国からもアジルテ・ベオ内部からも安全に塞ぐ事。その全てに掛かる費用をヴァーミリオン家のみで賄い、終わらせる。それを罰則とする。トゥイリアース王グレンリヒトよりそのようにアルベルトへ言い付けた事で、国議の糾弾はようやく収まったのだった。
そう言われたアルベルトは、意気揚々と、なんなら笑顔で屋敷へ帰って行った。これで思う存分、ミスリルの研究とリリアンの観察が出来るというものだ。無関係の事件で城に呼び出される、という事も無くなるのだから、アルベルトにとっては罰でもなんでもない、ただただ利点しか無い謹慎だ。そもそも、国の運営に関わらないアルベルトが王都に居なくても何の問題もない。
そんな訳でヴァーミリオン領への帰還の準備が勧められていたのだが、思わぬ余波が生まれた。その影響を最も受けたのは王太子マクスウェルだろう。
「じゃあ、そういう事だから」
「は? なんでお前まで!? 謹慎は叔父上だけのはずだろ!」
マクスウェルは叫んだ。聞いた話では、アルベルトが謹慎を食らった、ということだった。レイナードは無関係なので王都に残るはずだ。それなのに、レイナードも一緒に二週間ほど領地へ帰るのだという。
「お前は関係ないんだろ」
「それは、勿論」
「じゃあなんで」
マクスウェルがそう言えば、レイナードは何を言っているんだ、と言わんばかりに眉を顰めた。
「リリーも父上と一緒に領地に戻るって言うから。王都に残る意味が無いんだ」
「はあ!? なんだそりゃ!?」
嘘だろ、というマクスウェルの声はフロア中に響き渡った。マクスウェルの補佐をしているレイナードに任せている仕事はそれなりの量がある。代わりの人間が来るというわけでもないと言うから、マクスウェルの顔には絶望が浮かんだ。
「おいレイ、頼む、考え直してくれ! お前無しでどうやって二週間も過ごせっていうんだ!」
「頑張れ」
絶望感に打ちひしがれるマクスウェルを残し、じゃあ、と片手を上げて、レイナードは部屋を後にした。扉が閉まる間際、隙間からこちらに手を伸ばしていたマクスウェルが、どしゃっと音を立てて机に突っ伏したのが見えた。「殿下!」「気を確かに!」という、騎士達の声が聞こえるが、レイナードに戻ってやる気はさらさら無い。
アルベルトが強制的に領地へ戻る事になり、リリアンを連れて行くと言い出した。何かと忙しいリリアンも、領地へ戻るのは一年に数回あるかどうか。領地にはレイナードとリリアンの祖父母が居る。久しく会っていないお祖父様とお祖母様に会いに行こう、と言われれば、リリアンは笑顔で頷いた。経緯を隠し誘う姿はさすがの一言だ。意地でもリリアンを連れて行こうというアルベルトの執念は凄まじい。
それで、レイナードも祖父母に会えていないし、と同行する事にしたのだ。仕事が終わってからリリアンの居ない王都の屋敷に帰った所で一体どうしろというんだ、とレイナードは本気で思っている。そんなんだったら王城に泊まり込んだ方がマシだったが、そうした所でリリアンに会えるわけでもなし。だったら一緒に領地へ行く、それしか選択肢は無い。
アルベルトの謹慎は、なんだかんだでひと月くらい解除できないだろう。その間にリリアンが王都へ戻りたいと言うのなら、レイナードはそれに着いて行くつもりだ。だからマクスウェルには二週間くらい、と伝えたのだが、これもリリアンがもっと領地に留まりたいと言えばそれに従うまでである。その場合は手紙でも出して伝えればいいか、とレイナードは軽く考えていた。
王都で所用のある一家が領地へ戻るのは、だいたい一年振りだ。きっと賑やかな旅行になるだろう。リリアンもきっと喜ぶに違いないとレイナードは確信を抱いている。アルベルトには仕事がある。不在の時間もそれなりにあるだろう、だからレイナードはこの機会を逃すつもりはなかった。リリアンの隣を独占しようと心に誓う。
意気揚々と廊下を進むレイナードは、珍しく浮き足だっている。表情はいつも通りだったが足取りが明らかに軽やかで、雰囲気も柔らかい。滅多に見られないその姿に魅了される者も多かったのだが、リリアンの事しか頭にないレイナードがそれに気付く事は無かった。
そんなわけでアルベルトとレイナード、そしてリリアンは、約一年振りに自領となるヴァーミリオン領へ戻る事になった。アルベルトは数日振りではあるものの、通過しただけだったので、やはり一年振りとなる。
その一報がもたらされたヴァーミリオン領の中心部、〝銀朱の箱庭〟は吉報に色めき立つ。街中あちこちを人が行き交い、至る所に花を飾っている。色鮮やかな布を下げた店なんかもあって実に華やかだ。街の景観を損なわないよう、計算されて飾り付けがされているのだ。街の人々の持つ計画書にはとある人物直々の指示が書き込まれている。街の魅力を最大限に引き出し、かつより一層リリアンの好みとなるようにするものだ。その計画書の通りに飾り付けられた街は、繊細ながらも華々しく、実に優美であった。
元々洗練された街並みだったのが華やかに彩られ、いつにも増して活気付いている。飲食店からは威勢の良い声が聞こえて来た。
「おーい、発注した荷物が届いたぞ! 倉庫に運んでおけばいいのか」
「ああ、助かる。それを置いたら、次はこっちを手伝って貰えるか」
「分かった!」
「あんた、もう調味料が無くなっちまったよ!」
「今丁度届いたところだ! 倉庫に運んでる」
「ああ、なら良かった! これできっちり準備出来そうだねぇ」
「そうだな、もう一踏ん張りだ。頑張ろう」
と、どこもかしこも大量の仕込みを行っている。そのせいだろう、品物を求めて、商店には人集りが出来ていた。店主らしき男が店先で呼び込みをしている姿がそこかしこで見受けられた。
「飾りは足りてるかい! 包装紙は、食材は、今日の夕飯は!? しばらくはセールだよ、買った買った! 我らが女神様のご帰還だ、不足があっちゃならないだろう。万全にしてお迎えしないと!」
「大量発注ならうちへどうぞ! 注文を貰えれば、荷物はお届けするよ! 重たいものを買うのにも便利だよ!」
商店には人が雪崩れ込む。誰もが両手で抱えきれないくらい大量に買い込み、店を後にする。あっという間に完売する商店まであったくらいだ。
たくさんの商品が詰められた紙袋を抱え、家路に着く女性達は興奮気味にお喋りに花を咲かせている。
「ああ、楽しみだねぇ。さぞお美しくなっているんだろうね」
「本当に。パレードでお姿を拝見出来ればいいのだけど」
「そこはドラセナ様がうまくやって下さるんじゃないの。でもまあ、いつも凄い人の数だから、馬車がちらっと見えれば良い方かしら」
「そうよね。でも、それだけでもいいわ。リリアン様がご無事に到着されれば、それで」
「その通りねぇ。ああ、楽しみだわ」
「なんだい、この騒ぎは」
それら街の様子にぽかん、と目を丸くしているのは、行商人の男だ。申請していた許可証の認定がようやく降りて、これから仕入れをする所だ。役所に入る前は、こんなではなかった。たった数時間で街中がバーゲンセールだ、一体何があったのかときょろきょろしている。
「なにか困り事かい?」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
あちこちを見渡していると、突然横から声を掛けられた。声を掛けてきたのは行商人の左手側にあるカフェ、そのテラス席でお茶をしていたらしい老人だ。白いひげを蓄えた彼は、ぷるぷると震える手で白くて長いひげをしごいている。
悪い人では無さそうだ。行商人の男は老人をそう評して、雑談に応じる事にした。実際、戸惑っていたので丁度いい。実は、とその老人に向いた。
「役所で手続きをしている間にこんな風になって、驚いてしまって」
「おや、そうなのかい。それは運が良いね。この先しばらくはセールになるよ、今の内に仕入れるといい。いやはや、女神様のご加護だね」
「女神様のご加護?」
そうとも、と老人は目を細めて頷く。
「私達の敬愛する女神様が、一年振りにお戻りになるのさ。これはその為の準備というわけだね」
「それはまた、唐突に」
行商人がそう言えば、老人はあっはっはと笑い声を上げた。
「なにせ、女神様の父君がそういう方なものでね。いつもいつでも、何でも唐突なんだ。当日はあちこちに出店が出て人手ももっと増える。大騒ぎになるよ」
「今もすごい騒ぎなのに?」
「こんなもんじゃない。もっと大騒ぎになるのさ」
「はあ、とんでもないな」
行商人の男は、改めて辺りを見回した。かなり広い街道には荷馬車が行き交い、歩道は人でいっぱいだ。その時になると、これが埋め尽くされるくらい、人が集まるらしい。大きな街とはいえ、それでは街中の人が集まる事になるんじゃないかとそう言えば、老人はその通りだと頷く。
「街中の人間が待ち望んでいるからね。当然みんな出てくるさ」
「あなたも?」
「勿論だとも。君もパレードが終わるまで滞在した方がいいよ、絶対にね。ただ、良く見たいからと言って、宿の二階から顔を出すのは止めた方がいい。不敬だからね」
「……覚えておくよ」
老人の言葉は、後半だけ低くなった。表情も真剣なものであったから冗談でもなんでもないのだろう。従った方が良さそうだと判断した行商人の男がそう答えれば、老人はにこりと笑みを浮かべる。
「それが良い。さあさ、唐突に祭りが終わらないうちに行くといいよ。君は何をお求めだい?」
「リリィローズの織物を。小物でいいから、とにかく数が欲しくって」
「なら、ここから真っ直ぐ行った辺りだね。呼び込みが凄いだろうが、安心するといい。紛い物なんざこの街には存在しないから」
老人が震える指で示す方を見れば、確かに人通りが特に多かった。なんでも、流行している物ばかりを扱う店が立ち並ぶ通りなのだそうだ。そのせいでいつも人でごった返しているという。行商人は話を聞いていなければ、その通りは後回しにしていただろう。ここで話を聞けて良かったとつくづく思った。
「親切に、どうも有難う。助かったよ」
「なに。私もね、嬉しくて堪らないものだからね。礼には及ばないよ。そうだ、最後にもうひとつだけ忠告を」
「忠告?」
行商人の男は首を傾げた。一体なんだろう、とひげの老人をまじまじと見る。彼は、やはりひげを撫でながら言う。
「この街に出入りするのなら覚えておくといい。いいかい、決して女神様を貶める発言はしない事だ。二度とこの〝銀朱の箱庭〟に入れなくなるよ」
「それは、どういう意味なんだい?」
「そのままの意味だよ。下手を打つと生きて帰れなくなるから、気を付けるんだよ」
「えっ?」
ゆったりとした喋り方とは裏腹に、随分と物騒な言葉が飛び出して、行商人は再び目を丸くした。そんな彼の目の前では、老人が柔らかな表情で街を眺めている。
「ああ、楽しみだ」
行商人の男は呆然としながらも、老人の言葉に従う事にした。街に漂う熱狂的な空気が老人の言葉を裏付けているかのようだった。誰かの来訪を待ち望む声がそこかしこから聞こえてくるのだ、きっとその〝誰か〟こそが女神様で、相手が女神なら不敬を働かない方が利口だろう。とにかく、この街へやって来た理由を片付けねばと、彼は老人の言葉を思い出しながら道を進んでいった。やはりあちこちから興奮した声が聞こえて、これはとんでもない事が起きているぞ、とようやく実感する。ただ、街の人々がなにに興奮しているのかは、ヴァーミリオン領に住んでいない彼には理解出来なかった。
「よく分からないが……リリィローズ織りが格安で手に入るのであれば、それでいいか」
と、そう呟いて、彼は人混みの中に消えていった。
それから数日。ついにその時がやってきた。今か今かと待ち望む人々の視界の先、街道に特別ぴかぴかした馬車が見えて、人々は歓声を上げる。
「リリアン様ー!」
「リリアン様のご帰還だ!」
「我らが女神! 我らが月! リリアン様、お帰りなさいませ!」
その馬車はアルベルト達領主一家の乗る馬車だ。馬車を取り囲むように、両側の街道は人で埋め尽くされている。紙吹雪が舞う中、誰もが一家の乗る馬車に手を降っていた。
入口や店先のあちこちには「祝・リリアン様凱旋」「リリアン様最高」「リリアン様万歳」と書かれた横断幕が掲げられている。気持ちは分かるが、凱旋とは、リリアンは何と戦ったのか。そう思えば、その次には「蝗せんべい万歳」とあった。なるほど、確かにあれは聖戦であった。リリアンは苦手な虫を粉末にしたせんべいを食したのだ、立派な勝利と言える。良い所に目をつけるじゃないかとアルベルトは一人頷いた。
街道沿いには、出店もたくさんあった。きらきら光るガラス細工、陶器の工芸品に果物を使ったお菓子、ジューシーな肉串。ヴァーミリオン領自慢の品々が並んでいる。
そのいずれもが、リリアンに捧げられたものだ。実際に全てをリリアンが食べたりするのは難しいのでそのまま販売されているが、気持ちとしては全てリリアンに手にして貰いたい。そんな思いから、代わりに売り上げの一部を納める事で、街の人々は気持ちを抑えていた。この街の住民も皆、リリアン教徒なのである。
「今回も、凄い人ね」
街道に集まる人々に手を振りながら、リリアンはそう呟く。リリアンの微笑みを向けられた方向からは大歓声が沸く。
そんな見慣れた光景に、リリアンは頰を綻ばせた。
「前より増えているのでは?」
「そうだろうな。去年より人口が一割増えたから」
「まあ。そんなに?」
ぱちぱちとリリアンは瞬いているが、珍しい事ではない。リリアンの為、という名目で、あちこちから技術者を呼び寄せる事も頻繁にある。一族揃って招き入れたりもするから、人口はずんずん増えていくのだ。
昨年は織物を作るのにとある一族を従者ごと呼び寄せ、領地に土地を与えて住まわせた。基本的にこの〝銀朱の箱庭〟に住めるのはそういった技術者だけだ。それ以外の、普通の移住者はここ以外の集落や町にしか土地を持てない。これは特別な技術の機密保持の為だ。商人に限っては、店舗兼住宅を建てる事が許されていたが、商業区の土地はべらぼうに高い。それを建てられるのは国の内外で有名な商会くらいしかなかった。それでも申し込みが殺到し、区画を拡張しなければならない程度には、この街は魅力的であった。なぜならば、大陸でも最新鋭の技術の粋が集結しているからだ。この街に出入りさえできれば、あらゆる流行の先進に触れられる。流行の発信源、それが現在のヴァーミリオン領の姿であった。
その増えた人々が、こぞってヴァーミリオン領の物を買い、自国へ送って売り捌く。その売り上げにも領地での仕入れにも税金が掛けられ、ヴァーミリオン領に入って来る。領地に人が増えれば金が入ってくるのだ、しかも、放っておいてもズンドコ増える。更に言えば、その人々が新たな流行を作る事もあった。それで余計に人が、物が増える。雪だるま式に増加する一方のヴァーミリオン領の財。これもまたアルベルトの強みであった。それを余す事なく享受しているリリアンだけが、それを知らない。
「活気があるのは良いことですね」
「そうだな」
「お兄様、落ち着いたら、いつもみたいに散策に付き合ってくださる?」
「もちろん。リリーの気が済むまで付き合おう」
「リリアン、私も一緒に」
「あら。お父様はお仕事があるのでしょう?」
だからそんな暇は無いのでは? そうリリアンに小首を傾げて言われてしまえば、アルベルトは何も言えない。がっくりと肩を落とす。
歓声が響き渡る中、馬車は進んで行く。車内の様子は実に和やかだ、リリアンの軽やかな笑い声がすればより一層雰囲気は華やぐ。その事にアルベルトもレイナードも目を細めて喜びを露わにした。
(天使……)
アルベルトはいつもの様にそう評し、レイナードは
(可愛い……)
と愛らしい妹の姿を堪能した。
実際、この街はリリアンの為にあるといって過言でもなかったが、リリアンが居たからこそ、ここまで発展したとも言える。アルベルトの注ぐリリアンへの愛は過剰ではあったが、その過剰さが無ければヴァーミリオンはここまで膨大な財を築く事はなかった。
それが良い事なのか、悪い事なのか。それを判別出来るような賢き者は、残念ながらこの場には居ない。
「リリアン様ー!」
「天使! 女神!」
「リリアン様、最高ー!」
「最高ー!!」
(リリアン最高)
(リリー最高)
天使に魅了された馬車の外の群衆と同じように、アルベルトとレイナードもひたすらにそれを唱えるのだった。
馬車はそのまま街道を進み、〝銀朱の箱庭〟の中心部を抜けた。沿道にはいつまでも人の姿があり、皆がリリアンの帰還を喜んでいるが、郊外ともなればそれもまばらになる。たまに出会う人々にも手を振りながら、リリアンは街の様子を眺めていた。
活気のある美しい街だ。人々は明るく精力的で、日々練磨しているという。そんな領民がリリアンは誇らしかった。自分達の持つ技術を更に高め、新しい物を生み出す。なんのちからも無いリリアンにはそれが眩しく思えた。
ここへ来る度、街を見る度に、リリアンは自分も負けられないなと気持ちを新たにする。勤勉な素晴らしい領民の模範となれるよう、努力しなければと思うのだ。いつだってリリアンに元気をくれるヴァーミリオンの領地が、リリアンは大好きだった。綺麗に整理された区画に並ぶ、立派な建物。街に溢れる明るい声、活気のある市場。行き交う人々の表情は生き生きとしている。そんな街で作られる様々な品はやはり立派で素晴らしい出来栄えだ、それを求める人の表情もまた明るい。その全てが尊く思えて、リリアンは目を細めた。
最も、リリアンが〝銀朱の箱庭〟を特別気に入っているのは当然の結果とも言える。この街はリリアンが気に入るようにと、そのように造られているのだから。
リリアンの横顔を眺めて、アルベルトは、ふっと口角を上げたのだった。
喧騒が遠ざかるのを感じているうちに、屋敷に到着したようだ。緩やかに馬車が停まる。完全に停止してから、リリアンはアルベルトの手を取って馬車を降りた。
王城にも引けを取らない広大な屋敷。その敷地内には広大な庭園や花畑、美しい湖までもがある。歴史を感じながらも決して古ぼけて見えないのは手入れが行き届いているからだ。ガラスの一枚一枚には曇りも見えない。荘厳で、かつ壮麗。これがヴァーミリオン公爵家本邸であった。
重厚な扉を潜ると、リリアンはぱっと表情を明るくする。
「お祖父様!」
そう声を上げ、そこに待ち受けていた人物に向かっていった。
しっかりとした佇まいでリリアンを迎える老人は、先のトゥイリアース国王、ゴットフリートその人である。
ゴットフリート。それは、荒れたトゥイリアース王国を現在の形へと導いた王の名だ。別名、闘神、鬼神、あるいは滅神とも呼ばれる。かつて王家に反旗を翻した者共をその手で沈めてきた剛の王である。恵まれた体躯に魔力を乗せその腕力を強化し、繰り出される剣技で戦車を真っ二つにした、とか、剣を振って何十人もの兵を吹き飛ばした、とかそういう逸話を持つ人物である。
老いてなおその筋肉は健在で、上着ははち切れんばかりにパツパツだ。
深く顔に刻まれた皺と傷跡が彼の足跡を彷彿とさせる。だが彼はリリアンを認めるなり、へにゃりと眦を下げて大きく腕を広げた。
「おお、リリアン! よく帰ったな!」
「ただいま戻りましたわ、お祖父様。お元気そうで良かった」
「元気に決まっとるだろう、さっきも湖畔を十周してきたところだ」
「まあ!」
くすくすと笑うリリアンの頭を撫でるゴットフリートの表情は柔らかい。鬼神と言われたかつての面影はどこへやら、その姿はどこにでもいる、孫を可愛がる祖父そのものだ。
そんな微笑ましい一幕に、アルベルトは無表情ですすす、と近付くとゴットフリートの手をパシンと払った。
「汚い手でリリアンに触るな」
と、そう言ってリリアンとの間に入り睨み付ける。そんなアルベルトを、ゴットフリートはハン、と鼻で笑う。
「なんだ、アルベルト。相変わらず心の狭いガキめ」
「うるさい」
アルベルトの表情は険しいままだ。反対に、ゴットフリートはにやにやと笑っている。
「良い加減子離れせんか」
「うるさい、と言っている。耄碌したかジジイ」
「あぁ!? なんだとォ!?」
煽り合うアルベルトとゴットフリートに、リリアンはおろおろとしてレイナードに視線を向けた。
この二人は顔を合わせるとこんな調子なので、放っておくといつまでもこのままだ。レイナードはリリアンに頷いてみせると、一歩前に出る。
「お祖父様、お久しぶりです」
そう声を掛ければ、破顔したゴットフリートがレイナードに視線を向ける。
「おお、レイナード。元気そうだな! お前はまぁた細っこいままで、ちゃんと喰っとるのか?」
「ええまあ、はい」
「ならもっと喰え、筋肉をつけろ。筋肉があれば大抵の事はなんとかなる!」
「僕は筋肉がつきにくいので」
「そんなわけあるかぁ、儂の孫なんだから!」
現に、マクスウェルはガタイが良いだろうと言われると、確かにその通りだ。だけどレイナードは容姿のみならず体質も母親似だったようで、マクスウェルと同じような訓練をしてもそこまで筋肉が太くならなかった。それでもそれなりに鍛えてはいるからしっかりとした体つきではあるものの、筋肉に頭が生えたようなゴットフリートからしてみれば細枝みたいなものなのだろう。ひょろひょろだなあ、と乱暴にレイナードの頭を撫でる。レイナードはされるがままで、髪がぐしゃぐしゃになった。リリアンがそれを見てくすくすと笑っている。アルベルトはレイナードの事はどうでもいいようで、今度は止めたりしない。というか視線は笑みを浮かべるリリアンに向いていたので、その様子は見えていなかった。
ゴットフリートの豪快な笑い声が響く中、キィ、と微かな音が聞こえて、リリアンはそちらへ視線を向ける。
「いつまで玄関に居るのです。早くお入りなさい」
「お祖母様!」
扉を開けて顔を出したのはゴットフリートの妻、フリージアだった。先の王妃だった彼女の佇まいは今でも美しい。本人の美貌もかなりのもので、その美しさはアルベルトとリリアンに受け継がれている。
フリージアはリリアンと同じ色の瞳を細め、にこりと笑んだ。
「ああ、リリアン。久しいですね」
「はい、お祖母様」
「それにとても美しくなったわ。素晴らしい、歩く姿ひとつ取っても、まるで水面をゆく水鳥のよう」
「恐れ入ります。お祖母様にお褒め頂けて嬉しいわ」
「さ、こちらへ来て、もっと良くお祖母様に見せて頂戴。疲れてはいない? お茶にしましょう。レイナードもいらっしゃい。……そこの二人も」
最後の一言だけやけに低い声でそう言うと、フリージアは孫二人を伴って部屋へ引っ込んでいってしまった。
リリアンが居なければ、玄関先なんぞに留まる理由なんてない。アルベルトは後に続こうとするが、ゴットフリートの声がそれを遮った。
「聞いたぞ、ナルマフの小僧がリリアンに不敬を働いたそうじゃないか」
「それが?」
眉間に皺を寄せ、アルベルトは振り返る。ゴットフリートはニヤリと不敵な笑みを浮かべてはいるが、目つきだけは険しい。かつての闘神と呼ばれた頃と遜色の無い鋭さを宿していた。
「生温いと言っとるんだ。国ごと潰しても良かったろ」
その鋭い視線をアルベルトはするりと躱わす。
「兄上に止められた」
「グレンリヒトめ。見た目だけで、腑抜けは変わらんか。甘っちょろいのォ」
腕を組み、ふん、とゴットフリートは鼻を鳴らした。つまらない、というよりは、リリアンに無礼な態度を取った愚か者の住む国を放っている、その事が気に入らないのだろう。
アルベルトだって、出来る事なら潰してしまいたかった。だが、将来、リリアンがその事実を知る可能性がある。そうなればアルベルトは大目玉を食らうし、最悪嫌われるだけでは済まないかもしれない。それだけは避けなければならなかった。だからほどほどに贖罪させて、逆らえない状態にして放置した方がマシだ。あの処分は渋々だったのだ。
そう考えていると、チラッとあの無礼極まりない書状の内容を思い出してしまい、ちょっとイラッとする。アルベルトの眉間に更に皺が寄った。
が、そういえば、という声がして、アルベルトはその顔のまま意識をそちらへ向けた。ゴットフリートは、そのアルベルトの表情は見慣れたものなので、大して反応は示さない。ごくごく普通に会話を続ける。
「アジルテ・ベオの大穴は塞いでいないんだろう。どれ、遊びに行ってみるか」
「その穴を塞ぎに来たんだ。兄上に言われて」
「なんだと? 別に塞がんでいいだろ、そのままで」
「勿論、完全に塞ぐつもりはない」
「ほう?」
アルベルトの言葉に、ゴットフリートは眉を跳ね上げる。
「それはどういう」
「お父様、お祖父様、早く来ないと、おやつをみんな食べてしまいますよ?」
と、そこへ、なかなかやって来ない祖父と父に、リリアンが可愛らしい顔を覗かせた。アジルテ・ベオに穴を開けたのは、リリアンには秘密にしている。余計な不安を感じさせない為だ。だから二人とも途端に話題を変える。
「おおリリアン、こいつの分はどうでもいいから、儂の分は残しておいておくれ!」
「リリアンが私の分を取っておかないわけがないだろう」
と、そう言いながら、二人は足早に扉へ向かった。相手よりも先に部屋に入るためだ。より具体的に言うと、相手よりも早くリリアンの元に辿り着き、おやつを横取りするためである。
高身長を生かし大股に進むゴットフリートと、長い股下を最大限に生かすアルベルト。両者一歩も譲らず横に並んだ。お互いまったく引かない。
我先にと二人で同時に扉に突っ込んだ結果、つっかえた。
「アルベルト、邪魔だ!」
「私のセリフだ」
ガンガンと音を立てぶつかりながら、扉につっかえた状態でなおも相手を排そうとする姿の醜いこと。
「何をしているの、もう」
フリージアは夫と息子を見ると、そうため息を溢した。呆れを全面に湛え、それを隠す事が出来ないくらいには、しょうもない諍いだ。いい大人が何をしているのだか。
幸いなのは、それを見るリリアンが楽しげであることだった。リリアンは仲が良いのね、なんて言っているが、とんでもない。この二人は水と油のように相容れないのだ。が、あえてそれを言う必要もないだろう。フリージアはしょうもない二人は意識の外に締め出して、可愛い孫達とのお茶に集中する事にした。いまだにつっかえている二人は、可愛くもなんともないから忘れてしまっても問題ない。
穏やかな陽光が差す中、フリージアはリリアンとレイナードとのお茶の時間を楽しんだ。ゴンゴンがんがんと、アルベルト達が扉にぶつかる音は、少しばかり煩かったけれど。
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