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領地編
19.突撃! 魔法天文台 〜リリアンの職場訪問〜⑤
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「おいパーカー、お前何をした?」
「どうしてお前が総帥になったんだ。詳しく聞かせろよ」
その日からパーカーの生活は一変した。常に一人だった彼の元にたくさんの魔導士達が押しかけたのだ。
小さな研究室へは大勢入れないし、そもそも塔の端なので、囲まれるのは大半が寮か食堂での事だったが。これまで誰からも相手にされていなかったのに、今では一躍時の人だ。驚くよりもまず戸惑うパーカーに、魔導士達は好き好きに捲し立てる。
「いいや、俺は思ってたぜ。たった一人っきりの研究室で、何年も同じ研究に打ち込むってのは並大抵のもんじゃない。所長か副所長かは知らんが、パーカーを引き立てたんだろう。いや素晴らしい!」
「このタイミングでっていうのが良く分からないけどな。なあパーカー、展示会には間に合うのか? なんなら俺達が手伝うが」
「いやあ。ははは」
薄いお茶を麦酒のように注ぐ魔導士に曖昧に笑い返し、パーカーは目を逸らす。
(すごい変わり様だな……)
今まではパーカーを視界にすら入れていなかったというのにこれだ。
パーカーは別段塔で浮いた存在ではなかったが、親しい間柄の者も特にいなかった。目の前でお茶を注いでいる魔導士は、パーカーが少しの間世話になっていた研究室で話しただけの相手だ。それ以上のやり取りはした覚えがない。なのに昼食時、食堂に入ったパーカーの肩にいきなり腕を回してきたのだ。おめでとう、と言われた時はなんなのか分からなくて目を丸くした。
「引き立てたと言っても、その所長と副所長よりも上って事か。本当になにがあったんだ?」
三人の魔導士に囲まれ、パーカーは本当の事を言うべきかどうか迷った。が、そのままを言っても信じて貰えないだろうし、自分でもどうしてこんな事になったのか分からない。黙っていても好き勝手囀られるだけだ、だったら言える範囲で教えてしまった方がいいだろう。パーカーはそう決めると彼らに向き直す。
「それが、総帥が僕の研究室へ来て……それでその場で、お前が総帥になれ、と」
「マジかよ! 大出世じゃないか」
「それでか。じゃあ今後はパーカーが天文台のトップになって方針を決めるんだな」
「いや、総帥って言っても実質代理なんだ。僕の一存じゃあ決められない……と思う」
「代理? でもとにかくお前の采配次第って事だろ? いいじゃないか」
「おい」
一人がそう言った男を肘で小突いた。パーカーの隣に陣取った魔導士は、それを見て大袈裟に騒ぎ立てる。パーカーが慌てている隙に、二人はこそこそと意見交換を始める。
「なにがあってこうなったか分からないんだぞ。あまり煽てるのは」
「いいから乗っておけって。あのヴァーミリオン公じゃあどうにもならんが、こいつならうまくいけば俺達の手のひらだ。オリバーもエマもそれに対処するのに必死になる」
「……! そうか、そうすればうるさく言われずに済むな」
「そういうわけだ。他の連中もそのつもりさ」
にやりと口角を上げる魔導士の視線を追えば、周囲の魔導士達も似た様な表情でこちらのテーブルの様子を窺っているのが分かった。二人の表情が更に意地の悪いものへと変わったが、パーカーがそれに気付く事はなかった。
「やったじゃないかパーカー」
「素晴らしい。ただの職員でも上に行けるって実証してくれたのか!」
「あははは……」
思わぬ魔導士達からの賞賛。パーカーは頰を引き攣らせつつ、お茶を啜る。
(なんだよ、皆歓迎ムードじゃないか! どうしてお前なんかがって蔑まれると思って、昨夜は眠れなかったってのに……)
そのお陰で目の下の隈がひどいというのに、なぜか魔導士達は好意的な態度でパーカーの元へやって来る。どう考えても異常な人事なのにだ。
初日は面白がっている者半分、遠巻きにしている者半分といった具合だった。それが日を跨ぐと、こうやってパーカーを迎合する者と無関心になる者とに別れた。魔導士というのは大半が世間離れした連中だから、組織がどう変化しようと関係ないと思っているのだろう。そういう者が無関心となり、残りが彼を支持している。あの総帥の代理として、パーカーが立っても問題ないと思っているのだ。
(でも、そうか……僕は歓迎されてる。僕が総帥でも良いってわけだ)
魔導士達が本心からそう思っているとはパーカーも思っていない。打算、邪推、様々な思惑あっての事だろう。けれどもこの事は、一度も注目される事なく過ごしていた彼の自尊心を爆上げしてしまったのだ。
(なら、僕の思った通りにやっても良いってことだよな? なあ?)
ただの一職員でしかなかった自分が総帥代理に抜擢された。その事実は彼の思考を飛躍させ、暴走を招く。
三日目、騒ぎが一通り落ち着く頃、パーカーは所長室を訪れた。ノックも無しにドアを開ければ、驚いた表情のエマと目が合う。
「ああ良かった、君に用があって」
「なんなの? ノックもなしに」
目的の人物が居た事に満足し、パーカーは胸を張ってエマに質問を繰り出す。
「ソレイン、今期の予算は?」
いきなりの訪問、不躾な態度。それからその内容。いちいちがエマの神経を逆撫でた。何よりふんぞり返った姿勢が気に食わない。いつもは微笑みを保ったままのエマの表情が珍しく歪む。
「……それを知ってどうするつもり?」
「僕は総帥代理だぞ? 知っておく権利があるだろ」
「…………」
はあ、とエマは溜め息を溢す。想像以上の増長っぷりだ、たった三日で。
頭痛がする思いで、エマはこめかみを指先で押さえる。
「失礼、総帥代理。今期の予算はすでに分配が決まっています。今知ったところでどうしようも無いと思いますが」
「なに? 知るだけでもだめなのか? 不都合があって、それを隠すつもりじゃないだろうな」
「……はあ」
たったの数分で二度溜め息を吐く事になるとは、とエマは内心で悪態をつく。パーカーという男がこんな人物だとはエマも思っていなかった。まだ若いが普通の青年だと、そう思っていたのに。
とりあえずこんな事に時間を割くのは無駄だと思ったので、仕方なしに書類を纏めた綴りを棚から引っ張り出した。それをパーカーに手渡す。
「これが今期の資料よ」
「どれどれ……」
エマが開いた部分に視線を落としたパーカーは、目を丸くした。
(嘘だろ、全体だとこんな金額なのか!? こ、こんなにあって、毎年僕のところにはあれしかくれないなんて……! 不平等もいいところだ!)
全体の予算は、パーカーの想像の三倍の金額だった。何度ゼロを数えても、思っていたよりずっと多い。それなのに自分の研究室に割り振られていたのはあれっぽっち。研究室に所属する魔導士が一人だけなのを加味しても、あまりに少ない。
「なあ、これ本当か?」
「本当に決まっているでしょう。言っておくけれど、不正も横流しも横領も無いわよ」
「……ふん」
所長のオリバーもこのエマも、そういう不正には厳しい。多少無茶な開発をしても仕方ないなと追加で予算を調整してくれるが、その予算を着服するような輩には容赦がなかった。ばれれば問答無用で王城へ突き出し、確実に罪を明らかにした。そういう魔導士は彼らの手によって、天文台を永久追放となる。幾人かがそうやって追放されたと聞いた。
だからエマが言ったのは本当の事なのだろう。つまり、予算は全額、正しく分配されている。
パーカーはそう思ったが、ふと違う考えが頭をよぎった。
(いや、ちょっと待て。そもそもこれ、どういう基準で割り振られてるんだ? そこに不正があるんじゃ)
が、そんなのお見通しとばかりに、エマの冷ややかな視線がパーカーを貫く。
「ちなみに、予算取りはおかしくないからね。将来性や重要度から割り振りが決められているの。金額が少ないというのは、つまりそういう事よ」
「僕の研究がしょうもないとでも言うのか!?」
「そうとは言えないというのは、同じ魔導士として所長や私も理解しているつもりよ。けれど、少なくともこれは国に提出しているもの。最終的に陛下が相応だと判断した結果だというのを忘れないようにね」
「なっ……!」
ぎり、とパーカーは拳を握り締める。
エマは、いや国が、これは妥当だと判断しているという事だ。どうして。この研究は、きっと将来国の為になるのに!
パーカーには確信があったのだ。自律式魔導兵器は、必ず大革命を起こすだろうと。なぜなら今現在で自動で動くものは限られているから。ぜんまい式の時計が最たるもので、それ以外で言えば機織り機なんかが挙げられる。それも歯車を使用したもので、動力は人の手によるものだ。なにかしらの動力源が必要になるのは道具としては当然だろう。けれどパーカーが造ろうとしている兵器は魔力というエネルギーさえあれば、その動力源すら不要となる。
つまり、完成した兵器の技術を応用すれば、機織り機が完全自動化出来るようになるのだ。
だからこそパーカーは信じらなかった。この研究が放棄された、その理由が。
満足に動かすには魔力が足りないというだけで諦めるにはあまりに惜しい。国はそれが分かっていないのだろうか。
そしてふとパーカーは気付いた。突然総帥があんな事を言い出した理由は、ひょっとしてこれではないだろうか?
(そうか、総帥は気付いたんだ! この研究の将来性に!)
だとすれば納得出来る。いや、それ以外に納得出来る理由が存在しない。
「僕が総帥代理になった瞬間に、その価値が変わったんだ」
パーカーを総帥代理としてまでも、この研究を進めろ。アルベルトはそう言いたかったのだ! パーカーはそう確信した。
が、エマには理解出来ていないらしい。眉間に皺を寄せ怪訝な顔をしている。
「何を言っているの?」
「前総帥が僕の研究を認めたってことさ!」
「……前、ですって?」
「つまり僕の研究には価値があるんだ! なんたって自律式魔導兵器だぞ? 他国にはあり得ない強力な武器だ。戦争になれば凄まじい威力を発揮する! そうさ、僕の研究は、トゥイリアースの未来を変えるんだ!」
だからそう伝えたというのに、エマが理解した様子は見られなかった。眉間の皺はそのまま、パーカーを睨み付けている。
その視線を笑い飛ばし、ふふんとパーカーは再び胸を張る。
「予算を分配しなおす」
そう言えば意外にもエマはきっぱり言い切る。
「無理よ」
「無理じゃないさ。これは、予定であって決定ではない。そうだろう?」
「各研究室はこれを基準に仕事の予定を組んでいるのよ? それを変えてしまえば納品が出来なくなるものが出てくるわ。無理、無茶よ。副所長として許可出来ないわ!」
「黙れ! 僕は総帥代理だぞ!!」
語気を荒くしたパーカーが叫ぶと、エマの目付きが鋭いものへと変わった。
思わずたじろぐパーカーを彼女はじっと見据えている。そうして静かに口を開いた。
「……そう。そうね、そうだったわね。でもね、ランクリッド・パーカー。目指す所はともかく、あなたの研究への態度は真摯でひたむきで、私も所長もそれを認めていたのよ。……残念だわ。この魔法天文台の汚点とならないよう、せめてそれだけは誓ってちょうだい」
「汚点? 何を言っているんだ。僕はただの魔導士だったところから引き上げられて、この地位に就いたんだぞ! 君も天文台の魔導士の端くれなら分かるだろう、この偉業が!」
「そうなるといいけれど。要件はそれだけ? なら研究室へ戻った方がいいわ。あなたも魔導士なのだから、分かるでしょう?」
「予算は組み直すんだ。いいな」
「…………」
「ソレイン副所長!」
パーカーが念を押せば、エマは顔を上げずに答える。
「……ええ、分かっているわ、パーカー総帥代理」
あなたの望む通りに。そう付け加えた彼女がどんな表情でいたのかは、パーカーには分からなかった。
◆◆◆
そうやって研究費の調整を終えたパーカーは、思う存分それを使った。
「これだけあれば、きっと完成する……!」
手が出せなかった素材を買い漁り、機材も新調し、計算だけで終わっていた魔法陣が発動するかを試す。思った通りの結果が出るものもあったが、大半はうまく起動しなかった。何度計算を見直しても何が悪いのか分からない。
新しく買い直した計算用の紙を何枚無駄にしたか。今もまた書き上げた用紙をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に投げる。ゴミ箱の周りは丸めた紙でいっぱいになっていたが、それを片付ける余裕は今のパーカーには無かった。
足りない素材さえあればうまくいく。パーカーはそう考えていたのだが、なかなか思った通りの結果が出ない。魔導士が集まって研究結果を発表する展示会までもう日が無いというのに、パーカーの研究は完成する気配が見られなかった。
それもパーカーの焦りを増長させていたが、それ以外の問題が起きて、研究の手を止めるものがあった。それはパーカーの想像には無い類いの問題だった。
「パーカー新総帥! これだけの予算じゃ足りないんだが」
「ウチもだよ! 前より半分以下になって、どうやって同じ数作れっての? 新規の開発も始まるんだ、予定表の通り貰えないと困るよ!」
予算を変更した事による、他研究室からのクレームだ。あの後エマがきちんと手配したようで、予算は全てパーカーの思う通りに配分され直したのだ。
パーカーだって天文台を潰したいわけではない。だからエマの言う、絶対に必要になるという部分は弄らず、割り振りが可能な範囲の全てを自分の研究費用とした。これならば他の魔導士も文句は言わないだろうとそう思っていたのに、あちこちの研究室から魔導士が押しかけてくる。それに対応するのが、何よりもパーカーの負担となっていた。
「勘弁してくれ、僕の研究が進まないじゃないか」
パーカーがそう言えば、魔導士達は決まって顔を歪める。
「それなら予算を寄越せって。予算が足りりゃあ、こんな所まで足を運ばないよ」
「こんな所とは何だよ!」
「塔の端の端だろ。うちの研究室からは遠いんだよ」
「じゃあ来ないでくれ。僕だって忙しいんだ!」
「だから、予算があれば来なくて済むんだ! こっちの都合だって考えてくれ、俺達も暇じゃないんだから」
そういうやり取りを日に何度も行う。魔導士達が言いたい事を言って帰る頃には、パーカーはくたくたになっていた。
その頭で、複雑な魔法陣の再計算を行うのだ。材料があるのに結果が出ないのはこのせいではないかと、パーカーは薄々感じていた。
それに、そう簡単に彼らの要望を通せなかったのが問題だった。研究費はもうすっかり使い切ってしまったのだ。今更彼らに渡せる予算は無い。無いものを渡せと言われてもどうしようもなかった。
でもこのままでは自分の研究に差し支える。仕方なく、パーカーは所長室へと向かった。
「予算の追加、ですか」
「ああ。出来るんだろう?」
「まあ、申請自体は。許可が下りるかは別ですけれど」
常に所長室に居るらしいエマは、パーカーの来訪に眉を顰めていた。それを無視して予算の追加を求めると、今度は一変、呆れたような視線を向けられる。
その態度にムッとするものはあったものの、こういった手続きはエマの行うものなので、パーカーはそれを咎めなかった。
「早くやっておいてくれ」
「あら、私には無理ですよ。総帥代理がご自身で行わないと」
「は? なぜ?」
「お忘れですか? 魔法天文台は国家運営です。国のお金で動いているんですよ、つまりは税金です。それを書類ひとつで動かせるとでも?」
思っていたパーカーは言葉を詰まらせる。
エマはだろうな、とでも言いたげに息を吐いた。呆れられているような心地がして気分が悪くなったが仕方がない。気を取り直して、パーカーは切り出す。
「どうすればいい?」
「申請書を作成するのはお手伝いしますわ、それが私の仕事ですから。ですが、お城へ許可を貰いに行くのは総帥代理がやって下さいね。所長にも私にも、それはできませんから」
「……チッ」
登城には面倒な手続きは無いが、順番待ちの時間がかなり長い。これは一日がかりになるだろうな、とパーカーは舌打ちした。今研究の時間を削られるのは痛手だ。
エマもそれを分かっているのか、ついでとばかりに釘を刺してきた。
「それと……分かっていると思いますが、このまま成果を上げられなければ、あなたの研究室を維持できませんからね」
「なんだって? 僕は総帥代理だぞ」
「それと研究内容とは関係ありません。いいですか、展示会でそれなりの成果を出してください。でなければ来期、あの部屋は別の研究室となります」
「くっ……ま、まあいいさ。出来上がりさえずれば、皆僕の研究を認めるだろうから」
「あら? まだまともに動いていないと聞いているけれど」
「う、うるさいな! いいから申請書の書き方を教えろ!」
怒鳴ればエマは肩を竦める。その後、書類を作っている間もいちいち突っかかってくるものだからパーカーは辟易した。
が、それも研究の為だと思えば耐えられた。完成した申請書と資料を手に王城へ出向くと、意外にもあっさりと通される。都合良くこの日は王太子の補佐官が居て、すぐに対応して貰えたようだった。運が良いと気分を良くしたパーカーだったが、開口一番補佐官は
「受理出来ないな」
と申請を一蹴した。
パーカーはそんな、と声を上げる。
「なっ! ど、どうして」
そのパーカーを、王太子の補佐官——レイナードは冷ややかに見る。
「どうして、とは?」
「予算の追加申請は普通に行われている事でしょう? 申請は問題ないはずだ。それとも書類に不備が?」
「不備は無い。正当な理由があれば当然受理される。けど、今回のは正当な理由とは言えない」
「なぜ!」
パーカーはなおも食い下がる。今後の研究に差し支えるから当然だろう。が、レイナードの方もそういった連中の相手は慣れている。申請書をテーブルに乗せ、とん、と項目を指差す。
「そもそも予算不足の理由がおかしいだろう。自律式魔導兵器というものに使ったから、他の研究で費用が不足しているそうだな」
「その通りです」
「まず、これにそれだけの費用を回してもいいのかどうかは検討したのか?」
「勿論です!」
「その上で不足が出た。であれば、その判断が不適切だったわけだな。それは天文台の落ち度だ。天文台で賄うべきところを、国庫をあてにするのはおかしいだろう」
「それはっ……ですが!」
「それにその自律式魔導兵器というもの、今のトゥイリアースに本当に必要なのか?」
「と、当然です! 貴殿にはお分かりにならないでしょうが、これは我が国に必要な研究なのです! だからこそ予算を投じたわけで」
「今現在、戦争の可能性もないのにか?」
「起きないとは限らないでしょう!?」
パーカーの言葉に、じろりと視線が向けられる。それはレイナードだけでなく、部屋で待機している騎士からも向けられたものだ。
はっとなったパーカーは視線を彷徨わせる。
「……あ、いや、陛下やマクスウェル殿下の治世を疑っているわけではありませんが」
周囲の態度で、ようやくそれが不敬なものだと理解したのだろう。思わず出てしまったようだが、思慮深い人物では無さそうだと、今の発言でレイナードはパーカーをそう評した。
が、彼の言い分は一理ある。ほんのちょっぴりではあるが。
「お前の言う通り、いつ戦争が起きるかはわからない。それに備える、という意味では確かに有用なんだろう。けどそれは、まともに動いていればの話だ。資料を見る限り、形にすらなっていないようじゃないか」
「それはこれから」
「これから出来るはず。そういうものに割くにしては、予算を取りすぎのように思う」
「くっ……」
「それが分かっていて使ったのなら尚更問題だ。魔法天文台の予算は税金から割り当てられる。国民の為にならないものに彼らの血税を渡すわけにはいかない。申請は受けられない」
「そ、そんな」
はっきりと言うと、レイナードの目の前の人物は分かりやすく青褪める。さもあろう。個人で賄うにはちょっと金額が大きい。貴族でもない彼に、これだけの金額を出すのは難しいだろう。
にしても、とレイナードはそもそもの指摘をする。
「というか、誰だお前は。なぜお前がこれを申請しに?」
そう、レイナードは彼を知らない。魔法天文台に所属している魔導士であるのは間違いないだろう。が、そこのトップはレイナードの父アルベルトで、父ならばこんな申請はまず行わない。行わずとも動かせる金があるからだ。
訝しむレイナードをよそに、彼はすっと姿勢を正した。
「僕は、いえ、私が現在の総帥なので」
「は?」
そうして発せられた言葉はレイナードの思考の、遥か彼方を行くものだった。
「総帥? お前が?」
「ええ、そうですよ」
(父上がまたなにかしたのか……関わりたくないな)
そうだとしたら面倒な気配がする。関わらない方がいい、と直感が訴えてくる。
というか、本当に王太子の補佐官としてこれを受理するわけにはいかなかった。なのでレイナードは当初からの姿勢を崩さず、パーカーの訴えを却下する。
「とにかくだめだ。諦めてくれ」
「あう……」
青年はそれで理解したらしい。がっくりと肩を落とし部屋を出て行った。
(聞き分けは良いんだな)
その背中を視線で追いかけ、レイナードは彼の評価にそう付け加える。が、次の面会相手がすぐに入ってきて、彼の事はそれきりレイナードの意識に上がる事は無かった。
王城から魔法天文台へと戻ったパーカーは、極力誰にも会わないよう道を選びながら所長室へと向かった。追加予算が取れなかったのをエマかオリバーに相談する為だったのだが、あいにくこの時は二人とも不在だった。エマなら居ると思っていたパーカーは、あてが外れて舌打ちをする。
「なんだよ、いないのか。珍しい」
所長室には常に誰かしら居るものだと思っていたのに、と眉を寄せるが、いや、と考えを改めた。今なら誰にも知られずに資料を見るチャンスなのだ。出せと言うとその三倍くらいの小言がエマから返ってくる。それを聞かずに済むならそれに越した事はないと、パーカーはいそいそと棚に向かった。
いつもエマが資料を引っ張り出す辺りを探すと、目的のものはすぐに見つかった。前年の予算についての資料のうち、追加申請した履歴だ。
早速それを棚から出して捲ると、何度か予算を追加していたのが分かった。が、どれもがパーカーが驚くような金額で、今回王城へ申請しようとした額より随分多い。補佐官の様子から金額が多いのも問題なのだと思ったが、どうにも違うように思えてくる。
「というか、今までのこの莫大な追加予算はなんなんだ? 国からのものにしては多いような……」
違和感を覚え資料を続けて見ていく。すると、次にあったのは融資の証明書で、そこには思ってもみなかった家名が書かれていた。
「え!? ヴァーミリオン家……?」
何度かあった予算の追加。その全てがヴァーミリオン家からの融資で賄われていたのだ。
「ま、まさか……前総帥の私財か!?」
そう考えれば合点がいく。エマがあっさり申請書を書かせた理由も、城での申請が通らなかった理由も。
アルベルトに言えば、これだけの金が入るのだ。普段アルベルトは塔に居ないから、使い道を把握しているわけではない。でも言いさえすれば金を出してくれる。だからエマもオリバーも、魔導士達の無茶とも言える要求を通す事が出来たのだ。
天文台の内部で済んでいたから王城は口出ししない。こういう理由でお金が必要になったけど、融資して貰ったのでなんとかなりました。これがその履歴です。そう言って書類さえ出しておけば、城としてはなんの問題も無いのだから当然だろう。
「嘘だろう、この金額……おかしい……ゼロがたくさん……」
それをあのアルベルトという男はやっていたのだ。ぶるりとパーカーは身を震わせる。
魔法天文台で何が行われているか知らないはずなのにという疑問はあるが、何か思惑あっての事だろう。でなければこれだけの金を出すとは考えにくい。
(そう言えば、ヴァーミリオン家はとんでもない資産があるって皆言ってたな……これほどだったなんて)
その段になってようやくパーカーは噂が本当だったのを思い知った。そういう話題に疎い自分であっても耳にした噂だ。という事は、情報に精通した者であればもっと正しく把握しているはず。
そういえば、とパーカーの脳裏に一人の魔導士が浮かんだ。彼は天文台の魔導士にしては珍しく、前総帥を崇拝していた。
彼が言うには、魔法の腕前や魔力量は元より、研究への姿勢そのものが他と一線を画しているそうだ。それがどういう事なのか、パーカーには分からなかった。が、もしかしたら彼はこの事を言っていたのかもしれない。つまり、私財をどれだけでも注ぎ込めるということ。自分の研究だけならともかく、塔全体へこれほどの財を投じる事が出来るのは、間違いなくヴァーミリオン公だけだろうとも彼は言っていた。
そしてはたと気付く。
「と、いうことは……本当にもう、予算は取れない……?」
そのヴァーミリオン公は天文台を去った。パーカーにその座を明け渡して。
「………………」
学者の家に生まれたパーカーには勿論、そんな財産は無い。だからこそ王城へ予算の追加を願い出たのだ。それは無惨にも一蹴されてしまったが。
「どうしよう」
静まり返った所長室で、パーカーは独りごちた。当然、それに答えるものはいなかった。
「どうしてお前が総帥になったんだ。詳しく聞かせろよ」
その日からパーカーの生活は一変した。常に一人だった彼の元にたくさんの魔導士達が押しかけたのだ。
小さな研究室へは大勢入れないし、そもそも塔の端なので、囲まれるのは大半が寮か食堂での事だったが。これまで誰からも相手にされていなかったのに、今では一躍時の人だ。驚くよりもまず戸惑うパーカーに、魔導士達は好き好きに捲し立てる。
「いいや、俺は思ってたぜ。たった一人っきりの研究室で、何年も同じ研究に打ち込むってのは並大抵のもんじゃない。所長か副所長かは知らんが、パーカーを引き立てたんだろう。いや素晴らしい!」
「このタイミングでっていうのが良く分からないけどな。なあパーカー、展示会には間に合うのか? なんなら俺達が手伝うが」
「いやあ。ははは」
薄いお茶を麦酒のように注ぐ魔導士に曖昧に笑い返し、パーカーは目を逸らす。
(すごい変わり様だな……)
今まではパーカーを視界にすら入れていなかったというのにこれだ。
パーカーは別段塔で浮いた存在ではなかったが、親しい間柄の者も特にいなかった。目の前でお茶を注いでいる魔導士は、パーカーが少しの間世話になっていた研究室で話しただけの相手だ。それ以上のやり取りはした覚えがない。なのに昼食時、食堂に入ったパーカーの肩にいきなり腕を回してきたのだ。おめでとう、と言われた時はなんなのか分からなくて目を丸くした。
「引き立てたと言っても、その所長と副所長よりも上って事か。本当になにがあったんだ?」
三人の魔導士に囲まれ、パーカーは本当の事を言うべきかどうか迷った。が、そのままを言っても信じて貰えないだろうし、自分でもどうしてこんな事になったのか分からない。黙っていても好き勝手囀られるだけだ、だったら言える範囲で教えてしまった方がいいだろう。パーカーはそう決めると彼らに向き直す。
「それが、総帥が僕の研究室へ来て……それでその場で、お前が総帥になれ、と」
「マジかよ! 大出世じゃないか」
「それでか。じゃあ今後はパーカーが天文台のトップになって方針を決めるんだな」
「いや、総帥って言っても実質代理なんだ。僕の一存じゃあ決められない……と思う」
「代理? でもとにかくお前の采配次第って事だろ? いいじゃないか」
「おい」
一人がそう言った男を肘で小突いた。パーカーの隣に陣取った魔導士は、それを見て大袈裟に騒ぎ立てる。パーカーが慌てている隙に、二人はこそこそと意見交換を始める。
「なにがあってこうなったか分からないんだぞ。あまり煽てるのは」
「いいから乗っておけって。あのヴァーミリオン公じゃあどうにもならんが、こいつならうまくいけば俺達の手のひらだ。オリバーもエマもそれに対処するのに必死になる」
「……! そうか、そうすればうるさく言われずに済むな」
「そういうわけだ。他の連中もそのつもりさ」
にやりと口角を上げる魔導士の視線を追えば、周囲の魔導士達も似た様な表情でこちらのテーブルの様子を窺っているのが分かった。二人の表情が更に意地の悪いものへと変わったが、パーカーがそれに気付く事はなかった。
「やったじゃないかパーカー」
「素晴らしい。ただの職員でも上に行けるって実証してくれたのか!」
「あははは……」
思わぬ魔導士達からの賞賛。パーカーは頰を引き攣らせつつ、お茶を啜る。
(なんだよ、皆歓迎ムードじゃないか! どうしてお前なんかがって蔑まれると思って、昨夜は眠れなかったってのに……)
そのお陰で目の下の隈がひどいというのに、なぜか魔導士達は好意的な態度でパーカーの元へやって来る。どう考えても異常な人事なのにだ。
初日は面白がっている者半分、遠巻きにしている者半分といった具合だった。それが日を跨ぐと、こうやってパーカーを迎合する者と無関心になる者とに別れた。魔導士というのは大半が世間離れした連中だから、組織がどう変化しようと関係ないと思っているのだろう。そういう者が無関心となり、残りが彼を支持している。あの総帥の代理として、パーカーが立っても問題ないと思っているのだ。
(でも、そうか……僕は歓迎されてる。僕が総帥でも良いってわけだ)
魔導士達が本心からそう思っているとはパーカーも思っていない。打算、邪推、様々な思惑あっての事だろう。けれどもこの事は、一度も注目される事なく過ごしていた彼の自尊心を爆上げしてしまったのだ。
(なら、僕の思った通りにやっても良いってことだよな? なあ?)
ただの一職員でしかなかった自分が総帥代理に抜擢された。その事実は彼の思考を飛躍させ、暴走を招く。
三日目、騒ぎが一通り落ち着く頃、パーカーは所長室を訪れた。ノックも無しにドアを開ければ、驚いた表情のエマと目が合う。
「ああ良かった、君に用があって」
「なんなの? ノックもなしに」
目的の人物が居た事に満足し、パーカーは胸を張ってエマに質問を繰り出す。
「ソレイン、今期の予算は?」
いきなりの訪問、不躾な態度。それからその内容。いちいちがエマの神経を逆撫でた。何よりふんぞり返った姿勢が気に食わない。いつもは微笑みを保ったままのエマの表情が珍しく歪む。
「……それを知ってどうするつもり?」
「僕は総帥代理だぞ? 知っておく権利があるだろ」
「…………」
はあ、とエマは溜め息を溢す。想像以上の増長っぷりだ、たった三日で。
頭痛がする思いで、エマはこめかみを指先で押さえる。
「失礼、総帥代理。今期の予算はすでに分配が決まっています。今知ったところでどうしようも無いと思いますが」
「なに? 知るだけでもだめなのか? 不都合があって、それを隠すつもりじゃないだろうな」
「……はあ」
たったの数分で二度溜め息を吐く事になるとは、とエマは内心で悪態をつく。パーカーという男がこんな人物だとはエマも思っていなかった。まだ若いが普通の青年だと、そう思っていたのに。
とりあえずこんな事に時間を割くのは無駄だと思ったので、仕方なしに書類を纏めた綴りを棚から引っ張り出した。それをパーカーに手渡す。
「これが今期の資料よ」
「どれどれ……」
エマが開いた部分に視線を落としたパーカーは、目を丸くした。
(嘘だろ、全体だとこんな金額なのか!? こ、こんなにあって、毎年僕のところにはあれしかくれないなんて……! 不平等もいいところだ!)
全体の予算は、パーカーの想像の三倍の金額だった。何度ゼロを数えても、思っていたよりずっと多い。それなのに自分の研究室に割り振られていたのはあれっぽっち。研究室に所属する魔導士が一人だけなのを加味しても、あまりに少ない。
「なあ、これ本当か?」
「本当に決まっているでしょう。言っておくけれど、不正も横流しも横領も無いわよ」
「……ふん」
所長のオリバーもこのエマも、そういう不正には厳しい。多少無茶な開発をしても仕方ないなと追加で予算を調整してくれるが、その予算を着服するような輩には容赦がなかった。ばれれば問答無用で王城へ突き出し、確実に罪を明らかにした。そういう魔導士は彼らの手によって、天文台を永久追放となる。幾人かがそうやって追放されたと聞いた。
だからエマが言ったのは本当の事なのだろう。つまり、予算は全額、正しく分配されている。
パーカーはそう思ったが、ふと違う考えが頭をよぎった。
(いや、ちょっと待て。そもそもこれ、どういう基準で割り振られてるんだ? そこに不正があるんじゃ)
が、そんなのお見通しとばかりに、エマの冷ややかな視線がパーカーを貫く。
「ちなみに、予算取りはおかしくないからね。将来性や重要度から割り振りが決められているの。金額が少ないというのは、つまりそういう事よ」
「僕の研究がしょうもないとでも言うのか!?」
「そうとは言えないというのは、同じ魔導士として所長や私も理解しているつもりよ。けれど、少なくともこれは国に提出しているもの。最終的に陛下が相応だと判断した結果だというのを忘れないようにね」
「なっ……!」
ぎり、とパーカーは拳を握り締める。
エマは、いや国が、これは妥当だと判断しているという事だ。どうして。この研究は、きっと将来国の為になるのに!
パーカーには確信があったのだ。自律式魔導兵器は、必ず大革命を起こすだろうと。なぜなら今現在で自動で動くものは限られているから。ぜんまい式の時計が最たるもので、それ以外で言えば機織り機なんかが挙げられる。それも歯車を使用したもので、動力は人の手によるものだ。なにかしらの動力源が必要になるのは道具としては当然だろう。けれどパーカーが造ろうとしている兵器は魔力というエネルギーさえあれば、その動力源すら不要となる。
つまり、完成した兵器の技術を応用すれば、機織り機が完全自動化出来るようになるのだ。
だからこそパーカーは信じらなかった。この研究が放棄された、その理由が。
満足に動かすには魔力が足りないというだけで諦めるにはあまりに惜しい。国はそれが分かっていないのだろうか。
そしてふとパーカーは気付いた。突然総帥があんな事を言い出した理由は、ひょっとしてこれではないだろうか?
(そうか、総帥は気付いたんだ! この研究の将来性に!)
だとすれば納得出来る。いや、それ以外に納得出来る理由が存在しない。
「僕が総帥代理になった瞬間に、その価値が変わったんだ」
パーカーを総帥代理としてまでも、この研究を進めろ。アルベルトはそう言いたかったのだ! パーカーはそう確信した。
が、エマには理解出来ていないらしい。眉間に皺を寄せ怪訝な顔をしている。
「何を言っているの?」
「前総帥が僕の研究を認めたってことさ!」
「……前、ですって?」
「つまり僕の研究には価値があるんだ! なんたって自律式魔導兵器だぞ? 他国にはあり得ない強力な武器だ。戦争になれば凄まじい威力を発揮する! そうさ、僕の研究は、トゥイリアースの未来を変えるんだ!」
だからそう伝えたというのに、エマが理解した様子は見られなかった。眉間の皺はそのまま、パーカーを睨み付けている。
その視線を笑い飛ばし、ふふんとパーカーは再び胸を張る。
「予算を分配しなおす」
そう言えば意外にもエマはきっぱり言い切る。
「無理よ」
「無理じゃないさ。これは、予定であって決定ではない。そうだろう?」
「各研究室はこれを基準に仕事の予定を組んでいるのよ? それを変えてしまえば納品が出来なくなるものが出てくるわ。無理、無茶よ。副所長として許可出来ないわ!」
「黙れ! 僕は総帥代理だぞ!!」
語気を荒くしたパーカーが叫ぶと、エマの目付きが鋭いものへと変わった。
思わずたじろぐパーカーを彼女はじっと見据えている。そうして静かに口を開いた。
「……そう。そうね、そうだったわね。でもね、ランクリッド・パーカー。目指す所はともかく、あなたの研究への態度は真摯でひたむきで、私も所長もそれを認めていたのよ。……残念だわ。この魔法天文台の汚点とならないよう、せめてそれだけは誓ってちょうだい」
「汚点? 何を言っているんだ。僕はただの魔導士だったところから引き上げられて、この地位に就いたんだぞ! 君も天文台の魔導士の端くれなら分かるだろう、この偉業が!」
「そうなるといいけれど。要件はそれだけ? なら研究室へ戻った方がいいわ。あなたも魔導士なのだから、分かるでしょう?」
「予算は組み直すんだ。いいな」
「…………」
「ソレイン副所長!」
パーカーが念を押せば、エマは顔を上げずに答える。
「……ええ、分かっているわ、パーカー総帥代理」
あなたの望む通りに。そう付け加えた彼女がどんな表情でいたのかは、パーカーには分からなかった。
◆◆◆
そうやって研究費の調整を終えたパーカーは、思う存分それを使った。
「これだけあれば、きっと完成する……!」
手が出せなかった素材を買い漁り、機材も新調し、計算だけで終わっていた魔法陣が発動するかを試す。思った通りの結果が出るものもあったが、大半はうまく起動しなかった。何度計算を見直しても何が悪いのか分からない。
新しく買い直した計算用の紙を何枚無駄にしたか。今もまた書き上げた用紙をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に投げる。ゴミ箱の周りは丸めた紙でいっぱいになっていたが、それを片付ける余裕は今のパーカーには無かった。
足りない素材さえあればうまくいく。パーカーはそう考えていたのだが、なかなか思った通りの結果が出ない。魔導士が集まって研究結果を発表する展示会までもう日が無いというのに、パーカーの研究は完成する気配が見られなかった。
それもパーカーの焦りを増長させていたが、それ以外の問題が起きて、研究の手を止めるものがあった。それはパーカーの想像には無い類いの問題だった。
「パーカー新総帥! これだけの予算じゃ足りないんだが」
「ウチもだよ! 前より半分以下になって、どうやって同じ数作れっての? 新規の開発も始まるんだ、予定表の通り貰えないと困るよ!」
予算を変更した事による、他研究室からのクレームだ。あの後エマがきちんと手配したようで、予算は全てパーカーの思う通りに配分され直したのだ。
パーカーだって天文台を潰したいわけではない。だからエマの言う、絶対に必要になるという部分は弄らず、割り振りが可能な範囲の全てを自分の研究費用とした。これならば他の魔導士も文句は言わないだろうとそう思っていたのに、あちこちの研究室から魔導士が押しかけてくる。それに対応するのが、何よりもパーカーの負担となっていた。
「勘弁してくれ、僕の研究が進まないじゃないか」
パーカーがそう言えば、魔導士達は決まって顔を歪める。
「それなら予算を寄越せって。予算が足りりゃあ、こんな所まで足を運ばないよ」
「こんな所とは何だよ!」
「塔の端の端だろ。うちの研究室からは遠いんだよ」
「じゃあ来ないでくれ。僕だって忙しいんだ!」
「だから、予算があれば来なくて済むんだ! こっちの都合だって考えてくれ、俺達も暇じゃないんだから」
そういうやり取りを日に何度も行う。魔導士達が言いたい事を言って帰る頃には、パーカーはくたくたになっていた。
その頭で、複雑な魔法陣の再計算を行うのだ。材料があるのに結果が出ないのはこのせいではないかと、パーカーは薄々感じていた。
それに、そう簡単に彼らの要望を通せなかったのが問題だった。研究費はもうすっかり使い切ってしまったのだ。今更彼らに渡せる予算は無い。無いものを渡せと言われてもどうしようもなかった。
でもこのままでは自分の研究に差し支える。仕方なく、パーカーは所長室へと向かった。
「予算の追加、ですか」
「ああ。出来るんだろう?」
「まあ、申請自体は。許可が下りるかは別ですけれど」
常に所長室に居るらしいエマは、パーカーの来訪に眉を顰めていた。それを無視して予算の追加を求めると、今度は一変、呆れたような視線を向けられる。
その態度にムッとするものはあったものの、こういった手続きはエマの行うものなので、パーカーはそれを咎めなかった。
「早くやっておいてくれ」
「あら、私には無理ですよ。総帥代理がご自身で行わないと」
「は? なぜ?」
「お忘れですか? 魔法天文台は国家運営です。国のお金で動いているんですよ、つまりは税金です。それを書類ひとつで動かせるとでも?」
思っていたパーカーは言葉を詰まらせる。
エマはだろうな、とでも言いたげに息を吐いた。呆れられているような心地がして気分が悪くなったが仕方がない。気を取り直して、パーカーは切り出す。
「どうすればいい?」
「申請書を作成するのはお手伝いしますわ、それが私の仕事ですから。ですが、お城へ許可を貰いに行くのは総帥代理がやって下さいね。所長にも私にも、それはできませんから」
「……チッ」
登城には面倒な手続きは無いが、順番待ちの時間がかなり長い。これは一日がかりになるだろうな、とパーカーは舌打ちした。今研究の時間を削られるのは痛手だ。
エマもそれを分かっているのか、ついでとばかりに釘を刺してきた。
「それと……分かっていると思いますが、このまま成果を上げられなければ、あなたの研究室を維持できませんからね」
「なんだって? 僕は総帥代理だぞ」
「それと研究内容とは関係ありません。いいですか、展示会でそれなりの成果を出してください。でなければ来期、あの部屋は別の研究室となります」
「くっ……ま、まあいいさ。出来上がりさえずれば、皆僕の研究を認めるだろうから」
「あら? まだまともに動いていないと聞いているけれど」
「う、うるさいな! いいから申請書の書き方を教えろ!」
怒鳴ればエマは肩を竦める。その後、書類を作っている間もいちいち突っかかってくるものだからパーカーは辟易した。
が、それも研究の為だと思えば耐えられた。完成した申請書と資料を手に王城へ出向くと、意外にもあっさりと通される。都合良くこの日は王太子の補佐官が居て、すぐに対応して貰えたようだった。運が良いと気分を良くしたパーカーだったが、開口一番補佐官は
「受理出来ないな」
と申請を一蹴した。
パーカーはそんな、と声を上げる。
「なっ! ど、どうして」
そのパーカーを、王太子の補佐官——レイナードは冷ややかに見る。
「どうして、とは?」
「予算の追加申請は普通に行われている事でしょう? 申請は問題ないはずだ。それとも書類に不備が?」
「不備は無い。正当な理由があれば当然受理される。けど、今回のは正当な理由とは言えない」
「なぜ!」
パーカーはなおも食い下がる。今後の研究に差し支えるから当然だろう。が、レイナードの方もそういった連中の相手は慣れている。申請書をテーブルに乗せ、とん、と項目を指差す。
「そもそも予算不足の理由がおかしいだろう。自律式魔導兵器というものに使ったから、他の研究で費用が不足しているそうだな」
「その通りです」
「まず、これにそれだけの費用を回してもいいのかどうかは検討したのか?」
「勿論です!」
「その上で不足が出た。であれば、その判断が不適切だったわけだな。それは天文台の落ち度だ。天文台で賄うべきところを、国庫をあてにするのはおかしいだろう」
「それはっ……ですが!」
「それにその自律式魔導兵器というもの、今のトゥイリアースに本当に必要なのか?」
「と、当然です! 貴殿にはお分かりにならないでしょうが、これは我が国に必要な研究なのです! だからこそ予算を投じたわけで」
「今現在、戦争の可能性もないのにか?」
「起きないとは限らないでしょう!?」
パーカーの言葉に、じろりと視線が向けられる。それはレイナードだけでなく、部屋で待機している騎士からも向けられたものだ。
はっとなったパーカーは視線を彷徨わせる。
「……あ、いや、陛下やマクスウェル殿下の治世を疑っているわけではありませんが」
周囲の態度で、ようやくそれが不敬なものだと理解したのだろう。思わず出てしまったようだが、思慮深い人物では無さそうだと、今の発言でレイナードはパーカーをそう評した。
が、彼の言い分は一理ある。ほんのちょっぴりではあるが。
「お前の言う通り、いつ戦争が起きるかはわからない。それに備える、という意味では確かに有用なんだろう。けどそれは、まともに動いていればの話だ。資料を見る限り、形にすらなっていないようじゃないか」
「それはこれから」
「これから出来るはず。そういうものに割くにしては、予算を取りすぎのように思う」
「くっ……」
「それが分かっていて使ったのなら尚更問題だ。魔法天文台の予算は税金から割り当てられる。国民の為にならないものに彼らの血税を渡すわけにはいかない。申請は受けられない」
「そ、そんな」
はっきりと言うと、レイナードの目の前の人物は分かりやすく青褪める。さもあろう。個人で賄うにはちょっと金額が大きい。貴族でもない彼に、これだけの金額を出すのは難しいだろう。
にしても、とレイナードはそもそもの指摘をする。
「というか、誰だお前は。なぜお前がこれを申請しに?」
そう、レイナードは彼を知らない。魔法天文台に所属している魔導士であるのは間違いないだろう。が、そこのトップはレイナードの父アルベルトで、父ならばこんな申請はまず行わない。行わずとも動かせる金があるからだ。
訝しむレイナードをよそに、彼はすっと姿勢を正した。
「僕は、いえ、私が現在の総帥なので」
「は?」
そうして発せられた言葉はレイナードの思考の、遥か彼方を行くものだった。
「総帥? お前が?」
「ええ、そうですよ」
(父上がまたなにかしたのか……関わりたくないな)
そうだとしたら面倒な気配がする。関わらない方がいい、と直感が訴えてくる。
というか、本当に王太子の補佐官としてこれを受理するわけにはいかなかった。なのでレイナードは当初からの姿勢を崩さず、パーカーの訴えを却下する。
「とにかくだめだ。諦めてくれ」
「あう……」
青年はそれで理解したらしい。がっくりと肩を落とし部屋を出て行った。
(聞き分けは良いんだな)
その背中を視線で追いかけ、レイナードは彼の評価にそう付け加える。が、次の面会相手がすぐに入ってきて、彼の事はそれきりレイナードの意識に上がる事は無かった。
王城から魔法天文台へと戻ったパーカーは、極力誰にも会わないよう道を選びながら所長室へと向かった。追加予算が取れなかったのをエマかオリバーに相談する為だったのだが、あいにくこの時は二人とも不在だった。エマなら居ると思っていたパーカーは、あてが外れて舌打ちをする。
「なんだよ、いないのか。珍しい」
所長室には常に誰かしら居るものだと思っていたのに、と眉を寄せるが、いや、と考えを改めた。今なら誰にも知られずに資料を見るチャンスなのだ。出せと言うとその三倍くらいの小言がエマから返ってくる。それを聞かずに済むならそれに越した事はないと、パーカーはいそいそと棚に向かった。
いつもエマが資料を引っ張り出す辺りを探すと、目的のものはすぐに見つかった。前年の予算についての資料のうち、追加申請した履歴だ。
早速それを棚から出して捲ると、何度か予算を追加していたのが分かった。が、どれもがパーカーが驚くような金額で、今回王城へ申請しようとした額より随分多い。補佐官の様子から金額が多いのも問題なのだと思ったが、どうにも違うように思えてくる。
「というか、今までのこの莫大な追加予算はなんなんだ? 国からのものにしては多いような……」
違和感を覚え資料を続けて見ていく。すると、次にあったのは融資の証明書で、そこには思ってもみなかった家名が書かれていた。
「え!? ヴァーミリオン家……?」
何度かあった予算の追加。その全てがヴァーミリオン家からの融資で賄われていたのだ。
「ま、まさか……前総帥の私財か!?」
そう考えれば合点がいく。エマがあっさり申請書を書かせた理由も、城での申請が通らなかった理由も。
アルベルトに言えば、これだけの金が入るのだ。普段アルベルトは塔に居ないから、使い道を把握しているわけではない。でも言いさえすれば金を出してくれる。だからエマもオリバーも、魔導士達の無茶とも言える要求を通す事が出来たのだ。
天文台の内部で済んでいたから王城は口出ししない。こういう理由でお金が必要になったけど、融資して貰ったのでなんとかなりました。これがその履歴です。そう言って書類さえ出しておけば、城としてはなんの問題も無いのだから当然だろう。
「嘘だろう、この金額……おかしい……ゼロがたくさん……」
それをあのアルベルトという男はやっていたのだ。ぶるりとパーカーは身を震わせる。
魔法天文台で何が行われているか知らないはずなのにという疑問はあるが、何か思惑あっての事だろう。でなければこれだけの金を出すとは考えにくい。
(そう言えば、ヴァーミリオン家はとんでもない資産があるって皆言ってたな……これほどだったなんて)
その段になってようやくパーカーは噂が本当だったのを思い知った。そういう話題に疎い自分であっても耳にした噂だ。という事は、情報に精通した者であればもっと正しく把握しているはず。
そういえば、とパーカーの脳裏に一人の魔導士が浮かんだ。彼は天文台の魔導士にしては珍しく、前総帥を崇拝していた。
彼が言うには、魔法の腕前や魔力量は元より、研究への姿勢そのものが他と一線を画しているそうだ。それがどういう事なのか、パーカーには分からなかった。が、もしかしたら彼はこの事を言っていたのかもしれない。つまり、私財をどれだけでも注ぎ込めるということ。自分の研究だけならともかく、塔全体へこれほどの財を投じる事が出来るのは、間違いなくヴァーミリオン公だけだろうとも彼は言っていた。
そしてはたと気付く。
「と、いうことは……本当にもう、予算は取れない……?」
そのヴァーミリオン公は天文台を去った。パーカーにその座を明け渡して。
「………………」
学者の家に生まれたパーカーには勿論、そんな財産は無い。だからこそ王城へ予算の追加を願い出たのだ。それは無惨にも一蹴されてしまったが。
「どうしよう」
静まり返った所長室で、パーカーは独りごちた。当然、それに答えるものはいなかった。
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