世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴

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南の国編

22.お父さんは南の国でも暗躍する③

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「と、時計塔の、裏。今は、そこだ」

 縛られた長身の男は絞り出すようにそれだけを言った。
 路地裏はあれだけ騒がしかったのに、今では呻き声が聞こえるばかり。やれやれ、とアルベルトは手の中のものを放る。

「引き渡しておけ」
「へい」

 結局、男が言い渋った為に、犠牲者を増やす結果となった。二人がアルベルトによってボロボロにされ、男自身も腕を折っている。チンピラ風の一人がなにもされていないのに失神したが、放っておかれている。目を覚ますと喧しいからだろう。
 何を勘違いしたか分からないが、ぎりぎりで死者は出ていない。ほんとうに辛うじて、だけれど。
 デリックはボーマンと共に、スリ軍団を馬車に詰め込む。途中でベンジャミンが手を貸してくれたのであっという間に終わった。ボーマンが急いで馬車を出す。早く騎士団に引き渡して手当させないとまずいことになるからだ。
 馬車を見送っていると、周囲の様子を探っていたアルベルトが口を開く。

「時計塔の位置は」
「近いっすよ。こっから南西の方向っす」

 あっちの道かな、とデリックは指すが、高低差がある上に家屋が密集しているせいで、肝心の塔は見えない。多少遠回りに行かなければならなそうで、アルベルトは舌を打った。
 それは聞こえないふりで、ベンジャミンは資料にあった文字を思い浮かべる。

「時計塔の裏というと——」
「貴金属を扱う店っすね。あそこなら盗品も捌きやすい」
「安直ですなぁ」
「いやまったく」

 隠れ蓑にするには安直だが手っ取り早い。単純に思えるが、もしかすると合理的な組織なのかもしれなかった。

「でかい店なもんで、それなりの警備っす。なんでも魔道具で防犯をしているとか。まあ、旦那様にゃ関係ないっしょ」

 デリックが集めた噂の中には、警備に関する資料があった。なんでも建物全体を覆うような大型のもので、侵入者を防ぐとか、逆に侵入者を逃さないとかいう触れ込みらしい。導入の際にちょっとした話題になったそうだ。

「侵入の妨げにならなきゃいいけど」
「壊してしまえば何の妨げにもならん」
「お、おお……」

 その装置は、とんでもない高額というのも話題になった要因だ。それこそ建物と同等くらいの価格だとかで、そこまでやるなんてよっぽど重要な物を置いているか、悪どい事をしているんじゃないかという話だったのだ。
 その憶測は正しかったわけだ。大きな店は従業員だけでなく、運び込まれた盗品を隠すためのもの。防衛装置は盗品を守る目的で導入されたに違いない。

「すぐに向かわれますか」
「当然だ」

 アルベルトは言うなり歩き出す。ベンジャミンとデリックは足早にその後を追った。とんでもない早足で進むので、追い掛けるのはなかなか大変だった。
 問題の時計塔の裏の店舗までやって来ると、アルベルトは身分を明かし、賓客向けの部屋へ案内させた。が、そこは通り過ぎて更に奥まで進む。
 こういう店の場合、幹部は上階にいるものだった。店員が止めるのを無視し、階段を上がっていく。

「お客様、ここから先は従業員以外立ち入り禁止となっております。お戻りください!」
「その従業員に用がある。邪魔だ、どけ」

 立ち塞がる屈強な従業員を、アルベルトは風魔法で吹き飛ばす。

「うわあ!!」

 ごう、と猛烈な風が廊下を駆け抜けていって、途中のドアというドアも派手な音を立てて吹き飛んだ。窓ガラスも枠組みごと粉々になって、家具から何からはちゃめちゃに飛ばされて砕ける。
 まるで嵐の中にいるようだ。砕けた破片が壁に突き刺さっているのが見え、デリックはふるりと身を震わせる。
 あえて言っておこう。マフィア運営とは言え、ここは街でも大きな部類に入る宝石店で、見栄えが大事なのでそれなりの質のものが取り揃えられている。つまり、壁に突き刺さった木片も、元はかなりの品物なわけで。
 それを屑に変えているアルベルトはなんの感慨も湧かないのだろう。ずんずんと廊下を進んでいく。
 廊下の突き当たりは一際重厚な扉だった。さすがにここまで破片は飛んでおらず、扉は無傷だ。……いや、無傷だった。内側から僅かに開かれようとしていた扉を、アルベルトは全力で蹴り飛ばす。
 ばきん、と音を立てて、扉は金具ごと部屋の中に吹き飛んでいった。何かがぶつかるような鈍い音が同時にしたのは、扉を開けようとしていた者が巻き込まれたせいのようだ。床にでかい男が二人、伸びている。

「随分と荒っぽい訪問で」

 その向こう、部屋の奥で、どっかりと椅子に腰掛ける男が言った。男の指には光る指輪がいくつも嵌められている。座る椅子は革張りで、その前の机はねっとりとした照りのある高級品だ。
 背後に部下を置いたこの男こそ、このマフィアのボスに違いない。

「うちのもんが世話になったようだが」

 男は机の上で手を組んでおり、にやりと口の端を持ち上げていた。

「ヴァーミリオン家の当主様がどんな御用だ。ここまで乗り込んでおいて、取り引き……というわけじゃあないだろう?」

 男が片手を上げると部屋のあちこちから殺気が起きた。どこに潜んでいたのか、構成員の男達がアルベルト達を取り囲んでいる。
 入室してすぐ、威嚇しながら退路を塞ぐのはなかなかの手際だ。まあ、ここへ来るまでがかなり騒がしかったせいもあるだろうが。
 とは言えこんなもので圧倒されるアルベルトではない。

「この街に、三日後に娘が観光に来る。お前達は邪魔になるから失せろ」
「は?」

 思わぬ言葉に瞬く男を無視して、アルベルトはその瞬間を脳裏に描いた。
 お出掛け用のドレスを身に纏い、馬車から降りるリリアン。丘の上の街は確かに見応えがある。明るいレンガ色の街、青い空を映す窓ガラス、様々な色の人の群れ。それらを背景にするリリアンは一際輝いている。
 そんなリリアンが、王女の一言で笑った。もちろんアルベルトの空想内での話だが。実際のリリアンと寸分違わぬ笑顔は、アルベルトの視点を介すと輝きが十倍に膨れ上がる。キラキラと光を放つリリアンと、それを飾る歴史ある街並み。

(なんて楽しそうなんだ。美しい、素晴らしい過ぎる……この左からの角度が格別なんだ、リリアンの笑顔は。見慣れない街を堪能するリリアンは最高だな)

 厳ついマフィアの構成員達を前に、うっとりと想いを馳せるアルベルト。急に現れて不穏な発言をしたと思ったらそんな顔をするので、マフィア達は呆然とする。
 それも気にせずアルベルトは空想を広げているが、完璧なはずのその景色に、ぽつぽつとシミが見える。
 ひとつ見えてしまえば簡単に次のシミが見つかる。街中至る所に広がるそれは、目の前のこの連中だ。
 スリや恐喝などといった犯罪をする者ども。人相が悪く、やってる事も姑息で卑劣。それは、完璧なリリアンの居る景色には、どう考えても不要だった。
 不要なものを排除するべく、アルベルトは交渉を始めたわけだ。ただし、簡潔に要求を述べる姿は普段通り。つまり尊大な態度で、ふてぶてしくて、絶対に言う事を聞かせるぞ、という意思が強い。

「リリアンの周りにお前達の様なものが存在しているのが許せん。消えろ」
「え?」
「この街に不要だから消えろと言っている」
「は……?」
「分からんか? 貴様らのような者でもリリアンの素晴らしさは理解できるはずだが……ああそうか、リリアンが高貴すぎて認識できないのか。なるほど、下賤な者は尊いリリアンを見られないのか。それは……お前達の人生に意味はあるのか……?」

 幹部達もボスも、これには目を丸くする。

「な、何を言っているんだ?」

 突然こき下ろされた直後、憐れまれた。意味が分からない。
 何かの隠語か、と首を傾げるも、それらしいものを聞いた覚えがない。そもそも会った事も人物と、隠語を使って会話するというのも無理な話だ。事前にそういう取り決めがあったわけでもなし。
 なのにアルベルトは言い切る。

「ならば私がお前達に存在価値をくれてやる。消えろ、リリアンの為に」
「……あんた、つまりそれは」

 ふと、ボスの頭にとある噂話がよぎった。まことしやかに囁かれるそれは、トゥイリアース王国のヴァーミリオン公と言えば、常識を逸した親バカだというものだ。それを耳にした時は、親とは少なからずそんなものだと思ったのだが。

「娘が街へ来たがっているんだな?」
「そうだ」
「だが、マフィアが牛耳っているから、危ない」
「そうだ」
「だから娘とやらが安全に散策できるようにマフィアを潰す。そういう事か?」
「その通りだ。分かってるじゃないか」

 目の前の男はふんぞり返っている。椅子に座ったままのマフィアのボスは、こういう事か、と目を瞑った。
 だいたい、金儲けが主体のマフィアにおいて、貴人を狙うのはリスクが大きいから、よほどの理由がなければ狙ったりしない。

「さすがの俺達も、公爵家のお嬢さんを狙ったりしねぇが」
「そういう問題じゃない。お前達のような薄汚い連中がリリアンの行先に存在している事が許せん」
「はっ?」

 ボスは目を丸くする。ここまで正面切ってはっきりとこき下ろされた経験など無い。有り体に言って、驚いて言葉が出なかった。

「てめぇ、さっきから意味の分からねぇ事をごちゃごちゃと!」
「馬鹿、やめろ!」
「うおおおおおお!!」

 が、部下はそうではなかったようだ。止める間もなく、短絡的な一人が叫んで飛び出していく。
 男が拳をぶつけるように指輪同士を打ち付けると、魔力が吹き上がった。アルベルトは眉間に皺を寄せる。
 いい魔石を使っているようで、なかなかの魔力だ。だが魔法が発動する気配は無く、ただ荒々しい魔力が吹き付けてくるだけ。どうやら強い魔力に威圧された相手が動けなくなったところを仕留めるという、単純明快な手口のようだ。単純なだけに効果は大きいだろうが、こんなものはアルベルトには通用しない。

「おおおりゃああっ!」

 男が拳を振り下ろす。それを、アルベルトはぱしんと片手で捌いた。

「えっ」

 ボスの間抜けな声と男の表情がシンクロする。これまで、この一撃を防げた者はいなかったのだ。

「遅い」

 その間抜けな顔に、アルベルトは拳を叩き込んだ。早くけりをつけなければと思っていたせいかかなりの力が籠っていて、ほぼ全力である。

「ぎゃあ!」

 悲鳴を上げた男の体は吹っ飛び、その向こうの壁に大きな穴を空ける。どごぉん、と積まれた石材が粉々に砕け、男と共に穴の向こうへ消えていった。
 それをボスはあんぐりと口を開けて壁の穴を見ている。この部屋は彼が使う部屋だから、特に頑丈に作られているのだ。なのに壁にはぽっかりと大穴。素手で易々とそれを行った男は表情を変えず、暴力を振るう前と変わらない姿勢でいる。それが不気味に感じて恐ろしい。

「うわああ、ドナーッ!」
「なんて非道を!」

 幹部達が穴から下を覗き込んでいる。ここは三階だ、落ちたら無事ではないだろう。

「どっちが非道かねぇ」

 デリックの呟きはもっともだ。慣れない相手に強い魔力を吹き付け、身動きができなくなったところを襲う。卑劣なことこの上ない。よく似た手段をよく見ている気がするが気のせいだろうとデリックは思うことにした。
 一方、マフィアの連中は大いに狼狽えている。幹部達はアルベルトから距離を取るように壁まで下がっているし、ボスは不自然なくらい汗を流していた。それでも弱音を吐いたりしないのは矜持故か。とは言えそれも長く続くものではない。アルベルトは相変わらず凄まじい威圧感をもってボスを睨み付けている。それに耐えられる人間はそういなかった。
 現にボスは痺れを切らしたのか、立ち上がるとバン、と強く机を叩き付ける。

「ふ、ふん。ここまでされて引き下がれるか! まだまだこちらには魔道具がたんまりあるんだ!」

 机に仕込んであるスイッチを押し込むと部屋中の仕掛けが作動する。壁の装飾ががぱっと外れ、柱が扉のように前半分が開く。その中には様々な魔道具が納められていた。
 カーテンで仕切られた隣の部屋から構成員が雪崩れ込み、幹部達と共に魔道具を手に取る。

「おーおー、こりゃあなかなか」

 銃口を向けられたデリックは周囲を見回す。それなりに場数を踏んでいる彼からしてもなかなかの光景だった。
 魔道具はほとんどが魔法銃だ。中には魔導士の姿もあった。魔法による一斉射撃で片付けるつもりのようだ。狭い室内で大丈夫なのかと思ったが、それも対策があったようだ。絨毯の下が淡く光り障壁が現れる。床に防御の魔法陣でも仕込んでいるのだろう。障壁はアルベルト達を取り囲むように展開されている。これによって侵入者だけを魔法で撃とうという意図のようだ。

「くらえ!!」

 自身も銃を構えるボスの号令で、一斉に銃口が光った。
 次の瞬間、銃を握る手元で爆発が起きる。

「んなっ!?」

 ボン、と爆発によって銃が自壊していく。どの銃もだ。
 うわあ、とか、ぎゃあ、という悲鳴に、爆風で部品があちこちへ四散し壁や床にぶつかる音が混じる。手を押さえ銃の残骸を取り落としているのは爆発で負傷したからだ。
 魔導士までもが杖を離し床に伏せている。完全に伸びている彼らの傍らの杖は、先端の魔石が粉々に砕けていた。自らも手の中を火傷したボスは、それを見てようやく何が起きたのか理解した。
 魔法銃と、それから杖に使われている魔石。それを暴発させられたのだ。そうでなければ、先日点検をした際になんの問題も検出されなかった魔道具が一斉に壊れるだなんてあり得ない。
 魔石の魔力を利用して爆発させるというのは魔導の基礎で、魔石の扱いを間違うと起きるものだ。それが起きないように制御、調整されたのが魔道具であり、安全に使えるようにしたもの。動力となる魔石が暴発する事はない。
 だが、魔石はただの動力だ。外部から魔力を操作されてしまえば制御もなにもない。
 大勢に囲まれる男は、立ち昇らせた魔力を周囲に振り撒いていた。
 よく見れば一斉砲火から射撃者を守る為の防壁も、別物に変化させられているようだった。外側からの魔力は通し、内側に魔法が反射するものだったのに、中には何の異変も起きていない。なのに外側は焼け焦げたり色々な破片が落ちている。

「こんなおもちゃが通用するとでも?」

 そして響く低い声。

「ひ、ひぃっ!」

 その段になってボスは「ヴァーミリオン公」についてのもう一つの噂を思い出した。彼は、大陸一の魔法使いであるという噂だ。
 それは本当だった。彼の噂は、そのどれもが評判通りのものだったのだ。
 手が爛れているのも忘れ、立場の逆転したマフィア達はあまりの迫力に後退る。
 それらにふんと鼻を鳴らし、アルベルトは床の魔法陣を停止させた。音もなく障壁が消える。それに遮られていた銃の残骸が動いて、カランと音を立てた。
 銃口を向けられたアルベルトは、魔石の気配だけで総数を把握した。そして引き金が引かれる瞬間、遠隔で魔石に自身の魔力を流し込み、許容範囲を超えさせる。それをきっかけに、内包する魔力が誘発して爆発が起きた。
 それを防ぐのに床の魔法陣を利用したのは、愚か者共を圧倒する為だ。絨毯の下の床を魔力で削り、魔力の反射範囲を魔法陣の内側から外側になるよう書き換える。その上で爆発を起こせばこちらは無傷、あちらは全滅。指一本動かさずにそれを行えば恐れて当然だろう。
 そこへ加えて、アルベルトは表情の無いまま魔力を立ち昇らせる。この連中にまったく関心の無いアルベルトの魔力は冷え切っていて、実際それは心身を凍えさせるもので、全身に正面から浴びせられたマフィア達は凍りついたように身動きが取れなくなった。
 ボスも同様で、後ろへ退がろうとしても足が動かない。
 アルベルトは睨み付けたままボスへと近付いた。

「く、このぉっ!」

 だがボスもこのままで済ませるわけにいかない。修羅場をくぐり抜けていたのは彼もで、咄嗟に隠し持っていた魔道具を翳したのだ。
 胸の内ポケットから取り出したのは万年筆。その先の赤い石が光り、熱が生じる。炎を発生させる魔道具だ。ごう、と火球がアルベルトへ向かって飛んで行く。が、アルベルトはそれを、ぺしっと手の甲で打ち払った。

「なっ!?」

 火球はさっき空いた穴に向かって飛んでいって、見えなくなってしまった。
 素手で魔法を払う様子を初めて見たマフィア達は震え上がる。同じように震えるボスへ向かって、アルベルトは右手を翳した。

「うああああ!」

 右手に集中した魔力は瞬く間に業火となりボスに襲い掛かかる。ごおお、と音を立てる炎はさっきの火球とはまるで威力が違う。あっという間に室内の温度を上げ、周囲を焼く勢いだ。
 だが、そんな炎を吹き付けられても、ボスは生き延びていた。彼の手に多く嵌められている指輪、これひとつひとつが防御の魔道具で、炎魔法に反応して防御壁を展開していたのだ。
 指輪を中心に、彼の体を覆うくらいの淡い光が守っているが、すぐにパキンという乾いた音が鳴り響く。

「ひっ」
「うわぁ! ぼ、ボス!!」

 部下が悲鳴を上げ、ボスに近付こうとするが、あまりの熱にすぐにそれも引っ込む。非常用の消火装置を、という声も聞こえるが、間に合うかどうか。炎は段々と勢いを増して、それに連れて熱も上がっていく。
 どうする事もできず、じりじりと後退る中、またパキンと乾いた音がした。幹部の一人がさすがに叫ぶ。

「ボスぅーーーーッ!!」

 その音は防御壁が破られる音だったのだ。

「ぐ、うぐっ……!」

 辛うじて聞こえるボスの声は、炎に巻かれて掻き消されてしまう。
 それを無感動で眺めるアルベルト。なんという事はない。炎魔法を使われたので、アルベルトも炎で反撃しただけだ。
 ちょうどいいし、このまま威嚇を続けるつもりである。相手は防御用の魔道具を持っているから容赦は不要だなと、少しずつ出力を上げる事にした。そうした方が、この手合いは屈服する場合が多い。

「ん? あっ」

 パキパキと音が続く中、徐々に威力を強め炎を出していたのだが、ふととある事に気付いたアルベルトは魔力を抑えて攻撃を中断した。
 アルベルトの炎魔法が収まり、ボスの姿が数分ぶりに露わになる。そこにあったのは、実に無惨なものだった。

「なんだ。見せびらかしているからもっと強いものだと思ったが」
「うわあああ、ボスーー!」
「なんてこった……!」

 結構耐えるから、もう少し脅かすつもりで魔法を継続していたのだが。気付かないうちに最後の魔道具が壊れていたようで、ボスを火炙りにしてしまっていた。
 彼の持つ魔道具は炎を遮断していたが、熱を防げるような高等なものではなかったらしい。蒸された上に炙られたボスは無傷というわけにはいかなかった。黒焦げになった衣類は用を成さず、ぴっちり整っていた髪は頭部に残っていない。あれだけ華美に見えた装飾品も変色し、肌に残る火傷の原因となってしまっている。

「無駄に抵抗すっから……」

 デリックの呟きは、残念ながら嘆くマフィア達の耳には届かなかった。
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