【完結 R18】ほかに相手がいるのに

〜四人〜

邪推

…お前も風呂に入ったのか…

あえて、その場で聞いてくる拓海に…拓海の質問自体に少し面食らいながらも、私は証人になりきり、口を開く。

「うん。私も入ったよ。でも、私はいくつもあった露天風呂のうち一つだけね。いくつも入るとのぼせそうだったから、一番景色の良さそうな露天風呂を狙ってピンポイントに…。お風呂、すごく素敵だった。」

この答えに、嘘はひとつもない。

私と杉崎さんは本当にそれぞれに露天風呂を楽しんだ。
これは紛れもない事実だから隠す必要もないし、むしろ変に隠した方が怪しい…。

「へえ～　おまえも入ったんだ。じゃ…浴衣姿で二人で個室で食事を楽しんだってわけ…なんかちょっと…いやらしいシチュエーションだな…」

お酒が入って酔い始めたのか、拓海が珍しくイヤな感じで、突っかかってくる。

私はいたって冷静に見えるように、ゆっくりと返答する。

「ううん、私はすぐに服を着たよ、さすがに浴衣は恥ずかしいし。杉崎さんは気にしていたけど、浴衣のままでいいですよって私が言ったの。さすがにいくつもお風呂に入ってたら、洋服は暑いかなって…

…っていうか、拓海…さっきから変な風に言うのやめてよ。別に私と杉崎さんがそこでやましいことをしたわけじゃないのに、すごくイヤな感じだよ…職場で下見に行ける人が他に誰もいなくて、私も時間があったから、ご一緒しただけなのに…。拓海のおかしな言い方や勘繰りのせいで、林さんだって気にしちゃうでしょう…そんなに酔っちゃったの…？」

私はそこまで言って、やっと林さんの方を見る。
「すみません…杉崎さん、林さん…せっかくのお二人のお食事の時間に、拓海のせいでご不快な気持ちにさせてしまって…」私は小さく頭を下げる。

林さんは答える。
「ううん、私は全然。ただ…下見の件は聞いてなかったから、本当はちょっと驚いたけど…でもまあ、私も土日忙しくしてて修哉さんに連絡してなかったから、人のこと言えないか…ふふ、でも二人はお疲れ様だったね。」

…もしかしたらとは思ってはいたが、杉崎さんは林さんに土日の下見のことを話していなかったようだ…。

それでも、林さんは取り乱すわけでもなく、始終大人な対応だった。
子供のように、根掘り葉掘り聞いてきて、おかしな邪推をする拓海とは大違いだ…。

でも本当のところ、私と杉崎さんには、お互いの裸を見てしまったという秘密がある…
拓海の邪推はあたらずとも遠からず…なのかもしれないが、私は疑われないように却って強気に出てしまった…

とにかく、次回からは絶対に相席は避けよう…私は今回、心からそう思った。

ちょっと今、大事な話で取り込んでいて…とかなんとか適当に理由を作って、この4人での相席のシチュエーションは作らないようにしよう…相席したって色々と気を遣い、それぞれの言論がいちいち気になり全く楽しめない…もう絶対、次回からは断ろう…。

私はそう決意して、その、気遣いが絶えない飲み会の場を、なんとかやり過ごした。