【完結 R18】ほかに相手がいるのに

～新しい朝～

武器

「なんですか、その様子…あれ～？もしかして心当たり…ありませんかぁ…？私の見間違いだったのかなぁ…遠目ではありましたが確かに私…お二人を見た気が、したんですけど…　」

「…　え…　」
むしろいっそ、はっきり言ってくれた方がいいような、そんな思いがして、私が口を開こうとした瞬間、

「もうハッキリ言っちゃいますけど～土曜に、杉崎さんと二人でデートしてませんでした？」

「あ… …」

ハッとする…　
やっと、わかった…あの時だ…　思い出した…

緊張のあまり、記憶のかなたに追いやっていたあの夜の、詳細な記憶…

きっと、彼女が見たのは、あの時だ…。

杉崎さんとともに船を降りたあの瞬間の、話だ…
　　
そうだ…

杉崎さんが私の手をとって…まるでエスコートをするかのように船を降りた…　
それから確かすぐに…手は離れたのだけれど…

あの瞬間に…　あの場所の近くのどこかから…細野さんが私たちを驚きつつも見ていたに違いない…

確かに船着き場周辺にはお洒落なカフェやレストランが点在している…
彼女が…近辺に居たとしても全然、おかしくない…

目撃されたのは、あのホテルじゃなく船着き場…　
それなら、ちゃんと…違和感なく、説明できる…。

デートじゃない…　
あくまで、幹事のお礼で貰ったチケットを2人で活用しただけのこと…

石田さん…いや、主任だったか…？
彼らが笑いながら危惧していたことが現実になっただけだ…

あんな場所で社員二人きりでいるところを目撃されたら絶対疑われるだろうと、そう言っていたことを不意に思い出した…。

ただ、そう言えばいい…説明すればいい…

「ああ…　あれはですね……」

私の内心は…  違う… 
確かに、浮かれていた…
あれは間違いなく、私の中では杉崎さんとのデートに違いなかった…

だけど、狡い私は…

両手いっぱいの言い訳の言葉を頭に巡らせ…

あの場面を取り繕うための正当と言える武器を手にして、彼女を見返した…