【完結・R18】鉄道の恐怖

顔立ち

「ほう…。実はあまり、味には期待していませんでしたが、なかなか美味しいですよ…？貴女も熱いうちに食べてみてはどうです…？」

男はナイフとフォークを綺麗に使いながら、エッグベネディクトを器用に切り分けて口に運ぶ。

…ずっと…目の前のこの男に付きまとわれ、近くで監視され…今日はしかも、至近距離に座られた挙句、とんでもない場所を何度もまさぐられた…私はこの、目の前の奇妙な男に間違いなく…痴漢、されたのだ…　

そんな状況で、どんな神経で…エッグベネディクトを美味しいと言いながら思い切り口内に頬張ることが出来るだろう…

「いえ…とりあえず大丈夫です…」私は即座にそう答えた。
さすがに、空腹は少しずつ感じ始めてはいたものの、甘いシロップとミルク入りのアイスコーヒーを飲むことでなんとか紛らわしつつ、合間にこっそりと、男を盗み見る。

短髪の髪に、切れ長の目…鼻梁が高く、彫りが深めの顔立ちで、どちらかというと濃いめの顔と言えるかもしれない。

あんな風に気味の悪い笑みを浮かべながら、奇妙に電車内を動き回ったり、人を尾行したり…そんなおかしな振る舞いさえしなければ、むしろ目を引くような整った顔立ちであることに…今更ながら気付く。

これまで、あまりの恐怖心で、男の顔を冷静に見ることができていなかったのだ…

「ん…私の顔に…何かついていますか…？」男が微笑みながら私に尋ねる。

「いえ…別に…」私はすぐに目を逸らす。

…男の顔立ちが、なんだというのだ…今、そんなことはどうだっていい…
とにかくこの、わけのわからない状況を打開するために…もはや隠すことなく積極的に、この男と腹を割って話さなければ…

…つまり、今度こそ男主導ではなく、こちらから聞いてみようと…
　　　　　　　　　
私はそう、決意した…