異世界に女子高をつくろう

海星

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プロローグ

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─どうして世界を救ってはくださらないんですか?
「いや、前世で自分を犠牲にして必死で世界を救おうとした結果が寝ている間に暗殺されるって事だろ?別に世界平和なんて誰もが望んでいる事じゃないって事なんだよ。戦争で利益を得る人だって多いって事だ。つーか勇者の出現を喜ばない奴多すぎ。敵には例外なく嫌われてるし、味方の中でも俺を敵視する奴の多さと言ったら…。俺の人気が国王の人気を越えたのがいけなかったんだろうけど、俺が死ぬ瞬間に見た暗殺者アサシンって国王の子飼いの暗殺者でしょ?俺を殺したのって国王だよね?この世界の盟主に必要とされてないって事は『この世界に勇者はいらない』って事なんだよ」
─あなたが勇者として活動しない理由はわかりました。ただ、あなたにも師匠がいるように『勇者には次代の救世主を育てる義務』があるのです。それが前世の記憶がある状態であなたを生まれ変わらせた理由です。
あなたが渋々『救世主を育てる場』に学校を選んだのは理解します。ただ何で女子高なんですか?どうして女子なんですか?
「俺にはやる気がないって言っただろう?万人が望んでない平和には塵ほども興味がない。興味がない事をやらなきゃいけないんだ、モチベーションが必要になるだろ?だったら男子はいない方が良いに決まってるじゃねーか。俺はホモじゃない、女だらけの空間に憧れがある。前世での禁欲的な生活の反動かもしれないけど、俺の女子高に対する憧れははち切れんばかりだ。だから俺は女子高を作る。それ以上の理由もそれ以下の理由もない」
─くだらない事を男らしく宣言されても戸惑ってしまいます。でもあなたの考えは理解しました。ではあなたの女子高作りに我々は力を貸しましょう。王国の敷地内の僻地に土地と金銀を準備しました。この土地はあなたが元々いた世界の尺度で言うと『東京ドーム八千個分』の広さがあります。だから!この土地と金銀でスローライフを送ろうとするのはやめてください!何度も言いますがあなたには『この世界の救世主を育成する義務』があります。そのためなら我々は土地と金銭を提供するし、協力を惜しまない訳です。では来年の4月まで・・・ちょうど一年後くらいまでに学校を設立してください。それでは・・・。

期限を切られてしまった。
意外に俺の事を理解しているのかも知れない。
「今やろうと思ってたのに言われたからやる気がなくなった」って言おうにも、最初から「来年の4月までに開校すればどんなスケジュールでもかまわない」と言われてしまうと間に合わせるしかない。
つーか、重機を使わずに一年間って意外にカツカツのスケジュールなんじゃないの?

つーか「東京ドーム八千個分」ってどんくらいの広さだよ?これってわかりにくいんだよな。
「レモン十個分のビタミンC」って言われたって、レモンがどんくらいビタミンあるかわからないし「酸っぱいんだろうな」とか「体に良いんだろうな」としか思わない。それと同じだ。
「東京ドーム八千個分の広さ」と言われても「あぁ、広いんだろうな」としか思わないし、正直どれくらいの広さなのか想像もつかない。・・・というか、それで想像できる人って果たしているんだろうか?それ以前に「東京ドーム一個分の広さ」を正確に把握してる人っているのかな?ジャイアンツファン?

つーかアイツ誰だよ?勝手に人の頭の中に話しかけてきやがって・・・それで「あなたには救世主としての義務があります」も何もないもんだ。そんな事を言う前に名を名乗れって話だよ。
こっちは十五歳になって前世の事を思い出したばっかりだぜ?
人見知りなんだから突然声かけてくるなよ。
でも不思議なもんで頭の中に聞こえてくる言葉を疑う気にはなれなたった。アレは何だったのだろう?神の声?世界の意思?

悩んでいる時間はないな、悩みながらも学校を建設しなきゃならない。
ちょっと待て。これどうやって学校を建設すれば良いんだよ?
もしかして俺一人で大工の真似事をしなきゃいけないんだろうか?
それで一年間で学校作ろうって言うの?重機なんかの文明の利器を使ったって一人で一年間で学校を作るのなんて無理なんじゃないの?頭の中に声が聞こえる。
─どうやって学校を建設するか、あなたの意思を尊重していただけです。人手を雇うも自由、そのための賃金は充分持っているでしょう。何なら建築物を我々で準備してあなたに渡す事だって出来たのです。
しかしそれでは、あなたの望むような学校建設にはならない。
あなたが望むのであれば建築用のゴーレムを数十体あなたに貸しましょう。あなたはゴーレム達に指示をするだけで、ゴーレム達はあなたが思った通りの学校を作りあげます。
「じゃあそれを数百体借りようかな?人手を手配しようにも一番近い都市で手配しなきゃならないんだけど、一番近い都市って王都なんだよね。王都って俺が前世で殺されたところで、トラブルを避けるためにも出来れば近づきたくないんだよね」
─数百体って!数十体ならすぐにお貸しできますけど。
「いや、数百体すぐに貸して欲しい。そうしないと来年の春の開校に間に合わない」
─わ、わかりました。
そう言うとすぐに、数百体のゴーレムが地面から生えてきた。微妙に気色悪い光景だな。
しかし律儀だな・・・普通「数百体」って言ったら二百体を少し越えるくらいを準備するのかと思ったら千体近くを準備したようだ。

「ゴーレム達に指示」と言ってもどうやれば良いのかわからなかったが、統率しているゴーレムの核になっている宝石に掌をかざすだけで、後は俺の思い通りにゴーレム達が作業をしはじめた。
前々世で近所に新設校が出来る時に、「とりあえず生徒を受け入れるプレハブ校舎が出来ていれば良い。完成するのはその後」という形式を取っていた。
とりあえず生徒を受け入れる掘っ立て小屋が出来ていれば学校は作れる。
生徒数百人を放り込める掘っ立て小屋は三日で出来上がった。これで学校としては体裁が整ったのである、あとは「完全完成予定は数十年後」とかそれらしい事を言っておけばそれで良い。

問題がなかったわけではない。僻地に建っており立地が悪かった学校は川が近くに無かった。水道がなく水路が無かった学校では「飲み水がない」という事を意味していた。
井戸をゴーレム達に掘らせたが標高の高い山の麓に位置していたせいか、湧き水が豊富で飲み水に困る事はなくなった。
しかし学校のそばに畑がないのである。つまり衣食住の「食」に問題があるのだ。
畑がないのは「ここが僻地で元々人が住んでいなかった」というのももちろんある。だがそれ以上に「水路がない。川がない」という事が大きい。
もう一つ「交通アクセスが悪い」という問題があった。
つまり「よその街から学校に通う事は出来ないし、学校のそばに住む以外に学校に通う方法はない。だけど学校のそばには畑というか食べ物がなく、学校のそばに住んだら飢えてしまう」のである。
学校のそばで生きていくためには狩猟採集生活をするしかない。
だが狩猟採集生活をしながら学校に通う事は不可能であった。
これは問題だ。学校を作っても通える人がいない。
学校の周りに畑を作る事は簡単だ。だがそこに無いのは「水」と「耕す人」だ。
俺の頭に思いついたのは筑波のような学園都市である。
学園の周りを一つの街にしてしまおう、「耕す人」がいないなら集めれば良いじゃない、という事だ。
だが街作りは学園作りよりも大変だ。何より水がない街はない。飲み水には困らない。だが生活用水は何も飲み水だけではない。
悩んだ末に俺は学園の近くに運河を作る事にした。
「運河を作る」なんて簡単な事ではない。だが逆に重機がないこの世界では数百体ゴーレムを借りている今でないと「運河を作る」事が出来る訳はない。
学園作りはとりあえず掘っ立て小屋を作った事でOKだ。あとはゆっくり作っていけば良い。
あとは学園都市作りである。そのために運河は必要不可欠な物であった。
数百体のゴーレムを総動員して運河作りが行われた。
何か月かかかると思っていたが「ゴーレムは疲れない、眠らない、休まない」という事と「この世界に騒音公害はない」という事もあり、夜を徹した作業の末、二週間で運河は出来上がった。
その後作られた用水路により、学園の周りに畑が作られた。
「耕す人」が現れるまで、畑を耕すのはゴーレムであった。
街育成シミュレーションゲームのように畑を作ったらどこからか人が湧き出てくるわけではないらしい。人はどこからか連れて来なきゃいけない。人を連れてくるのは学校が開校してからでも良いだろう、それまでは畑のおもりはゴーレムにさせておけば良い。
次に着手したのが、街作りと道作りである。
─学園作りは良いのですか?まさかとは思いますがこれで終わりじゃないですよね?
頭の中に焦った声が語りかけてくる。
もちろん掘っ立て小屋を作って終わりにする気はない。だが、街が出来ないと学園作りなんて意味はない。街作りは学園作りよりも優先される。頭の中の声を無視すると俺は路作りを行った。
俺は主要街道に続く路の整備と、街を碁盤の目のように整備した。
何で碁盤の目のように整備するのが良いんだっけ?
知らないけど「平安京を真似しとけば良いや」みたいなノリでそうした。
学園都市にした、という事は「自治しなくちゃいけない」と言う事だ。
役場を作らなくちゃいけない。
学園都市と言う事は市長もいなくちゃいけない。
まぁ、最初は俺が学園長と市長を兼任しよう・・・だけど権力が一人に集中するのは好ましくない。すぐに学園長も市長も誰かに引き継ごう。
・・・つーか、市長も学園長も面倒くさい。
せっかく女だらけの楽園を満喫したいのに、忙しくてそんなヒマがないのでは本末転倒だ。
そして街を警備する兵士が必要だ。どんな平和な街にも衛兵はいる。
街を作るという事は軍事力を持つという事だ。村などは軍事力がないかわりに、攻め込まれた時には村人たちが農具を手に敵に立ち向かわなくてはならない。軍事力がないというのは、いたいけな女生徒に戦わせなくてはならないという事だ。
俺は勇者と呼ばれた男だ。一騎当千とは俺の事だし、一人で何万という軍勢を相手にしても無傷で切り抜ける事が出来る。
だが一国の軍勢が攻めて来た時、街に住んでいる人たち全てを守る事は出来ない。
そして24時間戦う事は出来ない。俺は疲れれば眠る、そして無防備になる。そんな時に俺は前世で殺された。俺が寝ている間、俺と街を守る存在が必要だ。
街には冒険者ギルドを作り、有事に備えさせよう。
だが、どれだけ優秀な人材を集めても数が圧倒的に足りないだろう。
一国の軍勢を相手にするには人数・・・だけではなく火力が足りない。というか人数は街の規模に比例するのでどうする事も出来ないだろう。
だが兵器があれば火力は補う事が出来る。
「しかし必要なのは近代兵器だ。さすがにゴーレム達に近代兵器工場は作れないだろう」と思いながら、ゴーレム達を統率するゴーレムの核に掌をかざしながら思っていると、次の日の朝には建築途中の近代兵器工場と発電所を見る事が出来た。
近代兵器を作るには電気とコンピューターと火薬が必要だ、だからこの世界では近代兵器を作る事が出来ない、そう思っていた。だがゴーレム達はそれすら作り出す事が出来るらしい。俺が考えれば、戦闘機も戦車も作れるらしい。
だが、せっかく作っても戦闘機や戦車は運転出来る人がいない。車の運転は出来るんで戦闘車両はそのうち作ろうとは思うけど、それも近代兵器を作った後だな。
とりあえず兵器工場ではグレネードランチャーとロケットランチャーとスナイパーライフルとバズーカーとマシンガンを量産した。逆にそれしか思いつかなかったというのもある・・・だって何を作れば良いのかわからないんだもん。

しかし発電所が出来た、という事は大きい。
電気の使い道は何も軍事ばかりではない。というか軍事でいかに電気が使われているかなどは俺は知らないが、日常生活の中での電気の使い道はいくらでも思いついた。
所詮はこの世界で最先端の街などと言っても、日本と比べると未開の地と言わざるを得ないと思っていた。
だが電気を使えればそれは一転する。原理など知らなくても、頭に思い浮かべれば、ゴーレム達がそれを形にしてくれる。これ、ゴーレム返さなければ何でも出来るんじゃないの?・・・というか、俺の思い描いた物を作る事が出来るならゴーレム達にさらにハイスペックなゴーレムを作らせよう。
こうして近代都市を作るのではなく、異世界に未来都市を作り始めたのだった。
─この世界どうこうではありません。人間にとって完全なオーバーテクノロジーです。
俺は頭の中に聞こえて来る声を完全に無視した。借りたゴーレムにはもう指示を出していなかったのである。借りたゴーレムよりハイスペックなゴーレムを数万体作り出していたのだ。
─我々と袂を分かつのですか?我々と敵対するのですか?
真剣な声が頭の中に聞こえて来たのでしょうがなく返答する事にした。
「敵対する気はないよ。この世界を救う救世主を作る学校は建設するし、学園都市は作る。だけど育てた後は悠々自適に過ごさせてもらう。そのために作るものに文句があるなら借りたゴーレムは返す。もう使っちゃいないけど」
─あなたに反逆の意図がなければ何をしようと良いんです。いや、人間を超えた事をしようとしているのだから良くはないかもしれませんが・・・。
「『救世主を育てあげる』以外にアンタの意図なんか知らない・・・というかアンタが誰だかもわからないのに『反逆・敵対の意図』と言われてもわからない。もしかしたら俺のやろうとしている事がアンタにとって都合が悪い事かも知れない。・・・とにかく俺はアンタを裏切るつもりはない。だがアンタと将来的に敵対するかどうかはわからない。それに答えて欲しければ『アンタが何者か、何をする気か』を開示すべきだ。でないと答えようがない」
何て答えるかな?と少し楽しみにしていたんだけどそれ以上頭の中に声は聞こえて来なかった、どうやら自分が何者かを言う気はないらしい。

それから俺は街作りに没頭した。
まずは上水道下水道を完備させる事。
下水を処分する施設を作る事。
街全体を電化させる事。
電柱はカッコ悪いので電線を地中に埋めた事。
街の中に地下鉄を配備し、交通網を完備した事。
そして学生寮としてマンションを沢山作った。
これで「学生たちが住むところがない」とは言わせない。

思いつく事は全て行った。
「未来都市と言えば動く歩道だろう」という事で街のあらゆる所に動く歩道を完備したりした。
あとでわかった事だが、エレベーター・エスカレーター・動く歩道などは保守点検に人手と金がかかるのだ。
これ、ゴーレムに保守点検させなかったら維持していけないぞ。

発電は基本的に火力発電である。思いつくものを形に出来るのだから原子力発電でも良いのかも知れない、おそらく原子力発電所を作る事は出来る。だが、何となく「住んでる街の隣に原子力発電所がある」というのは何となくイヤだ・・・という訳で火力発電所が作られた。火力と言っても石油を燃料にしている訳ではない。この世界には「魔法」という便利な物が存在する。この世界では石油やガスなどを使わなくても物を燃やし続ける事が出来る。つまり魔法が燃料の代わりになるのだ。

街が出来上がってくると強烈な違和感を感じた。
これだけの街が俺以外いないゴーストタウンなのだ。
もう一つ街が未来都市であるほど、学園の建物が貧相な掘っ立て小屋である事が目立った。
「学園の建物を作るか、あと街に人を集めるか」
俺は重い腰を上げた。
本当であれば一番にしなきゃいけない事かも知れない。だが、信頼した人に前世で殺されたせいだろうか?俺は人間不信になっていた。だから「人を集める、学校を作る」という事に積極的になれなかったのかもしれない。

後半年で女子高を作らなくてないけない。
しかし困った事がある。それは「俺が女子高を知らない」という事だ。
悩んだ末に「前々世では大学まで共学に通っていたんだ、それと同じようにしよう」という事になった。
いや、同じにする必要はない。近未来のアニメみたいに空中にタッチパネルが浮かぶような席にしよう。原理は考える必要はない、頭の中に浮かんだ光景をゴーレム達が形にしてくれる。その席は使いづらいかもしれない、でも関係ない。だって「生徒たちが使いづらくても、学園長である俺には関係ない」のだ。カッコ良ければそれで良い。
突貫工事で校舎は作られた。校舎は第一校舎から第八校舎まで作られた。
特に第五校舎は夢の国のシン〇レラ城にしか見えなかった。いや、なんとなく意識はした。だってもっと近未来的な建物にしようと思えば出来ない訳じゃなかったのだから。なんとなく「シンボルタワーになるかな?」と思ったんだけど、周りの校舎がもっと高かったから何か統一感がない感じになってしまった。第四校舎は東京都庁のような建物で、シン〇レラ城の隣に東京都庁が建っているような異様な光景になってしまった。
こんな感じで学校の建物が完成した。他にも必要な物は出てくるだろうけど、あとはその都度作っていけばいいや。

しかし奇妙な状態だ。例えるなら「ゲームハードはあるけどゲームソフトはない」といった感じだ。
無いものを羅列すると
・教師
・生徒
・教材
・制服
・町人
・店
などなど・・・つまり街と学校以外何もない。

町人に店を開いてもらう前に巨大ショッピングモールを作った。
町人にはテナントに店を出してもらおう。
テナント料を格安にして、近隣の町や王都に声をかけ、どうにか店をそろえよう。

これから教師、生徒、町人、商人などを集めるのに必要なのが俺のプレゼンりょくだ。
プレゼンに必要なのはそれだけではなくプレゼンの材料も必要になってくる。
だがそれが無いのだ、具体的に言うと説明する時に制服すらないのだ。
「異世界の学校なんだから制服なんていらないんじゃないの?」と思っていたが、騎士学校にも魔法学校にも制服があるらしい。まして女子高なんて「子供が制服にあこがれる」というのが普通で、「制服がない」なんていうのは問題外らしい。
・・・という訳で、制服を作らなきゃいけなくなった。
俺に制服を作らせるんだ、多少のフェチはしょうがないと思ってもらわなきゃいけない。

何で学年ごとに学年のカラーが割り振られているのだろう?
何でその色は赤・青・緑の三色なんだろう?
他にも沢山色はある訳でその三色じゃなくたって良いじゃないか。
制服を作る時に沢山決めなくちゃいけない事はあったが、最初に悩んだのは学年毎の色であった。
「色分けを赤・青・緑にするのはやめよう。色すら全く新しくするんだ」と思っても、結局思いつかず「ピンク・水色・若草色」の三色になり、「赤・青・緑に白を混ぜただけじゃん」という物になってしまった。
しかもピンクのリボンのイメクラっぽさが半端ではない。やはり「みんながそうしているのにはそうしている理由がある」のだ。「誰もやっていない」わけではなく「先人が『こりゃダメだ』とやらなかった事」を、やろうとしているだけなのだ。
結局学年毎の色は「オレンジ・若草色・紫色」の三色になった。意地でも元の色は使わない、そしてイメクラっぽくない。この二点を満たす色は意外となかったのである。
そして「制服がブレザーが良いか、セーラー服が良いか」一昼夜悩んだ。
そして次の日、急にバカバカしくなりブレザーかセーラー服かは自分で選べるようにした。
そしてネクタイにするかリボンにするか紐リボンにするかは自分で選べるようにした。決まっているのはそれらの色だけ、その色は学年カラーであった。
チェックのスカートを履くか、スカートのすそにフリルを付けるかなどを含めると、組み合わせは何通りもあり「お前何も決めてないだろ!」と言われてもしょうがないのかもしれない。でも考えて欲しい、ゴーレムが縫い上げた制服をあなたは選べるだろうか?「せめてモデルが着ていないと良し悪しがわからない」のではないだろうか?
ゴーレムが次々と持ってくる制服を見て「んなもんわかるか!本人に選ばせるしかないだろう!」と言うしかなかったのである。
結果的にこの自分で制服を選べるシステムは好評となり、結果オーライと言えた。

この頃「勇者の生まれ変わりが山の中で何かを始めたらしい」と噂になった。
かつての仲間たちが真偽を調べに、学園都市を訪れた。
当時俺は「勇者はロリコン」と言われていた。というのも、勇者パーティが13~15歳の少女で構成されていたからだ。ハッキリ言おう。俺はロリが好きな訳ではない。ロリも好きなだけだ。
あんまり年齢を重ねていないほうが、誰かに訓練されていないだけ戦闘訓練がしやすい。若い少女を選んだ理由はそれだけだ。じゃあなぜ誤解を解かなかったのか?完全な誤解ではなかったからだ。
なぜパーティに少年はおらず、少女ばかりだったのか?んなもん、野郎がいたってつまんないからに決まってるじゃねーか。ハーレムに男が必要な訳ないだろう?まあ旅と修行に明け暮れて、何も出来なかったんだけど。

当時美少女集団であった彼女たちは30前後の妙齢の美女になっていた。
まあ魔法使いのサラはエルフで見た目そのままだったのだが。
俺はパーティメンバーを完全に見た目で選んだ。
「別に才能が無くったって血反吐を吐くくらい努力すりゃ魔王くらいは倒せる」そう言い続けて俺は美少女たちをスパルタ教育した。彼女たちは才能はなかったが、努力の甲斐あって魔王を殺すくらいの実力は身につけた。

生まれ変わった俺に当時の面影はない。
「本当にケイなんですか?」当時最年少の13歳だった僧侶が言う。
ケイというのは前世での俺の名前だ。
「前世ではケイと呼ばれていたけどな、その事を思い出したのは半年も前じゃない。今はダンと呼ばれている、エマは好きに呼んでくれれば良い」
エマというのはこの僧侶の名だ。名前を呼ばれ俺が勇者だと確信したらしい。そうでないと困る、ここに来た行商人に金を握らせ噂を流してもらい、かつてのパーティメンバーをここに呼び寄せた意味がなくなってしまう。
「噂を流してお前らにここに来てもらったのには訳がある。俺はここに学園都市を作ろうとしている。そこでお前たちに学園の教師をしてもらいたい」俺はかつてのパーティメンバーたちに言った。
「自分の半分しか生きてないガキに『お前』って言われるのは正直複雑だね。だけど私はこの話受けようと思う、かつてのパーティで何かやろうと思って王都を出て来たんだ。王都に戻って何かするつもりはないし」褐色に日焼けした戦士の女は言った。
「ありがとうジュリア」俺は頭を下げた。かつてジュリアは子供扱いされるのを本当に嫌がった。そんなジュリアに子供扱いされるのは、こちらこそ正直複雑だが今の俺はガキだししょうがない。
サラは元々「人間だらけの王都では暮らしにくい」と言っていた。パーティメンバーが王都を離れるなら王都にいる理由がない、何も言わなくてもここに来る気のようだ。
問題はエマだ。エマは司祭として王都での仕事や立場がある。
エマだってパーティメンバーの一員だ。仲間と一緒にここに移り住みたい。
だが立場的にも自分の希望を通す訳にはいかない。
ここに来るためには誰かに背中を押してもらわなければいけない。
「この学園都市には教会がない。エマには教師だけでなく教会作りにも協力して欲しいんだが」
俺はエマにハッキリと「お前が必要だ」と告げた。
エマははにかみながら、「私が必要なら」と了承した。

こうして学園都市に俺を含めて四人の教師が誕生した。
「教材は各自が教えやすいように自分で準備して良い」というと、「それは助かる」とばかりにパーティメンバーたちは教材を自分で準備し始めた。本当は学校サイドで教材を準備しなくちゃいけないという事は「俺が教材を用意しなくちゃいけない」という事で面倒臭かっただけなのだが、実際に授業をする教師が「自分で教材を準備したい」というのを妨害する必要はないだろう。

かつてのパーティメンバーが仲間になったという事は「王都に命懸けで行かなくて良くなった」という事を意味していた。俺の代わりにパーティメンバーが王都に行けば良いのだ。
しかも俺が「勇者の生まれ変わりだ」などと言うよりも、勇者パーティのメンバーが「あそこには勇者の生まれ変わりがいる」と言ったほうが信じられる。

だが「あそこで勇者の生まれ変わりが学園都市を作ろうとしている」という噂を快く思わない人物が存在する。
勇者を暗殺した国王である。
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