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魔術講義
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大宣は魔術の基礎を身につけ、自分の得意分野を磨いた。
だが、魔術研究はここからがスタートらしい。
実は大宣は「なんだよ、魔術ってチョロいな」と思い始めていた。
よく考えたら誰も魔術の真理にたどり着いていないのに、大宣のような魔術初心者が魔術を極められる訳がないのだ。
「これから化学研究室での魔術研究を始めます」洋子先輩はみんなに向かって言った。
なんだよ、まだ始まってなかったのか。
厳密に言うと既に魔術の研究は始まっていた。
大宣の行っていたのは先人の修行カリキュラムの一環であった。
だが化学研究室の研究成果と言えば「魔法で物質を化学反応させる事」だったのである。
当たり前だ。
以前、地学研究室の周りをかぎまわっていた時、岩が爆発したのを洋子先輩は見たらしい。
それこそが地学研究室の研究内容の一部なのだ。
これまでに大宣が学んだ内容はどこの魔術を研究している研究室でも身につけられる内容で、言わば「扉を開く行為」なのである。
普通、素養のない者が扉を開くのは大変で、一生かかっても扉を開けない者も多いので大宣と小紫さんがすんなり扉を開いてしまったのが一般的ではないのだが。
研究室でソファに座る3人と講義をする洋子先輩がいた。
「なぜ教授が講義をしないのか?」と最初は思ったが、魔術という物はそういう物だと3人は感じ始めていた。
「教授はここにいるかも知れない。教授がランクの高い隠ぺいの結界を張っていたら教授が隣にいても気付かないかも知れない」と3人は思っていた。
「時がきてそれが必要な事なら、教授に会う事もあるだろう」3人はそう思っていた。
ホワイトボードに洋子先輩が『1+1=』と書いた。
「佐々木君答えは何ですか?」洋子先輩は尋ねる。
「え?『2』じゃないですかね?」何でそんな事を聞くんだろう?と大宣はオドオドとしながら答えた。
「そうですね。
それが普通の答えです。
しかし魔術では場合によってはこれが普通の答えとなります」そう言うとホワイトボードにこのように書いた。
『1+1=5』
「『3はどこから出て来たの?』と皆さんは思ったと思います。
『3はどこかから借りてきた』のです。
『どこから?』『どうやって?』それを手段化するのが化学研究室が目指している魔術です。
例えば・・・」
洋子先輩はテーブルの上に置いてあるクリスタルの灰皿を持ち、窓を開け、窓際に立ち、灰皿に太陽光を当てると・・・
灰皿はレンズのように太陽光を集めると、レーザービームのように外の木に止まっているカラスを照射し焼き殺した。
カラスは地面にフラフラと落ちると紙で出来た札に変わった。
「あの札は東洋魔術でよく用いられる『式神』です。
どこかの研究室がカラスに擬態させて、この研究室を見張っていたのでしょう。
このように借りた力を使って、大きな力を行使する事も出来ます。
一つ注意すべきは『分不相応な大きな力を借りると身を滅ぼす』という事です。
修行で魔力を増やす事で徐々に大きな力を借りられるようになります。
焦りは禁物です」洋子先輩は言った。
「札ってキョンシーのおでこに貼るあのお札ですか?」小紫さんが可愛らしく言うと張りつめていた空気が緩み、誰先となく笑いが漏れた。
「当たらずとも遠からずです。
ですがキョンシーが何故あのようにピョンピョン直立した状態で飛ぶかわかりますか?
彼らは死後硬直で体が固まっているからです。
グールやゾンビが愚鈍であるのと同じ理由です。
ネクロマンシーをコミカルだと思うとこれから先痛い目を見ますよ?」洋子先輩は警告した。
「・・・洋子先輩ッパネエっす!洋子パイセンって呼んでいいですか?」と大宣は感動して言った。
洋子先輩にはよく意味がわからなかったようだし、洋子は貧乳である事が少しコンプレックスだったので「洋子パイ」という呼び方に拒絶反応を示した。
大宣は尊敬の念を口にしただけで、なぜ洋子先輩に睨まれたのか理解出来なかった。
「・・・話を元に戻します。
お金がなくても事業を始める借金を出来る人物がいます。
話術、表現力に優れた者・・・
特殊なスキルを持っている者・・・
恵まれたカリスマ性がある者・・・
人脈がある者・・・
運が良い者・・・
お金を借りる能力が様々あるように、魔術で力を借りる方法も様々です。
色々な者がいますが、『借金を返済する』という宿命から逃れられる者はほとんどいません。
借りた力も必ず返さないといけません。
ただ、少しのお金を借りて大きく儲けた人が返すお金は少しのお金だけです。
少しの力を借りて大魔術を行使しても、返す力は最初に借りた小さな力だけです。
これが理想的な『力を借りるという事』です。
その逆もあります。
大きな力を借りても、行使する魔術の効果は低い・・・よくある事です。
ご利用ご返済は計画的に・・・という事です。」
「今まで練習してきた魔術は体内の魔力でまかなわれていました。
言ってみれば『借金をしなくてもポケットマネーで支払えた』状態です。
ポケットマネーが千円以下の人も、いつも小切手を持ち歩いていて数億円の買い物をその場で出来る人もいます。
ポケットマネーが人によって違うように、体内の魔力量にも個人差はあります。
一千万円の借金で臓器を売らなければならない人もいれば、一千万円がはした金の人もいます。
それは魔術も一緒です。
命を代償にしても大した力を借りれない人もいれば、無尽蔵に大きな力を借りてもなんともない人もいます。
そもそも力なんて借りなくても体内の魔力だけで大魔術が行使出来る者も少数ではありますがいます」洋子先輩は少し顔を伏せながら言った。
「大学の勉強の高校までと違うところ・・・
高校までは『テスト範囲があって参考書などの勉強方法が提示されていた事』で、大学からは『勉強方法や勉強する事柄すらも自分で考えださなきゃいけない事』です。
それはこれまでの魔術修行、これからの魔術修行とよく似ています。
これからの修行方法は自分で考えていかなくてはいけません。
頑張って下さい」洋子先輩の講義は終わった。
・・・頑張れと言われても何をすればいいのかわからん。
だが、魔術研究はここからがスタートらしい。
実は大宣は「なんだよ、魔術ってチョロいな」と思い始めていた。
よく考えたら誰も魔術の真理にたどり着いていないのに、大宣のような魔術初心者が魔術を極められる訳がないのだ。
「これから化学研究室での魔術研究を始めます」洋子先輩はみんなに向かって言った。
なんだよ、まだ始まってなかったのか。
厳密に言うと既に魔術の研究は始まっていた。
大宣の行っていたのは先人の修行カリキュラムの一環であった。
だが化学研究室の研究成果と言えば「魔法で物質を化学反応させる事」だったのである。
当たり前だ。
以前、地学研究室の周りをかぎまわっていた時、岩が爆発したのを洋子先輩は見たらしい。
それこそが地学研究室の研究内容の一部なのだ。
これまでに大宣が学んだ内容はどこの魔術を研究している研究室でも身につけられる内容で、言わば「扉を開く行為」なのである。
普通、素養のない者が扉を開くのは大変で、一生かかっても扉を開けない者も多いので大宣と小紫さんがすんなり扉を開いてしまったのが一般的ではないのだが。
研究室でソファに座る3人と講義をする洋子先輩がいた。
「なぜ教授が講義をしないのか?」と最初は思ったが、魔術という物はそういう物だと3人は感じ始めていた。
「教授はここにいるかも知れない。教授がランクの高い隠ぺいの結界を張っていたら教授が隣にいても気付かないかも知れない」と3人は思っていた。
「時がきてそれが必要な事なら、教授に会う事もあるだろう」3人はそう思っていた。
ホワイトボードに洋子先輩が『1+1=』と書いた。
「佐々木君答えは何ですか?」洋子先輩は尋ねる。
「え?『2』じゃないですかね?」何でそんな事を聞くんだろう?と大宣はオドオドとしながら答えた。
「そうですね。
それが普通の答えです。
しかし魔術では場合によってはこれが普通の答えとなります」そう言うとホワイトボードにこのように書いた。
『1+1=5』
「『3はどこから出て来たの?』と皆さんは思ったと思います。
『3はどこかから借りてきた』のです。
『どこから?』『どうやって?』それを手段化するのが化学研究室が目指している魔術です。
例えば・・・」
洋子先輩はテーブルの上に置いてあるクリスタルの灰皿を持ち、窓を開け、窓際に立ち、灰皿に太陽光を当てると・・・
灰皿はレンズのように太陽光を集めると、レーザービームのように外の木に止まっているカラスを照射し焼き殺した。
カラスは地面にフラフラと落ちると紙で出来た札に変わった。
「あの札は東洋魔術でよく用いられる『式神』です。
どこかの研究室がカラスに擬態させて、この研究室を見張っていたのでしょう。
このように借りた力を使って、大きな力を行使する事も出来ます。
一つ注意すべきは『分不相応な大きな力を借りると身を滅ぼす』という事です。
修行で魔力を増やす事で徐々に大きな力を借りられるようになります。
焦りは禁物です」洋子先輩は言った。
「札ってキョンシーのおでこに貼るあのお札ですか?」小紫さんが可愛らしく言うと張りつめていた空気が緩み、誰先となく笑いが漏れた。
「当たらずとも遠からずです。
ですがキョンシーが何故あのようにピョンピョン直立した状態で飛ぶかわかりますか?
彼らは死後硬直で体が固まっているからです。
グールやゾンビが愚鈍であるのと同じ理由です。
ネクロマンシーをコミカルだと思うとこれから先痛い目を見ますよ?」洋子先輩は警告した。
「・・・洋子先輩ッパネエっす!洋子パイセンって呼んでいいですか?」と大宣は感動して言った。
洋子先輩にはよく意味がわからなかったようだし、洋子は貧乳である事が少しコンプレックスだったので「洋子パイ」という呼び方に拒絶反応を示した。
大宣は尊敬の念を口にしただけで、なぜ洋子先輩に睨まれたのか理解出来なかった。
「・・・話を元に戻します。
お金がなくても事業を始める借金を出来る人物がいます。
話術、表現力に優れた者・・・
特殊なスキルを持っている者・・・
恵まれたカリスマ性がある者・・・
人脈がある者・・・
運が良い者・・・
お金を借りる能力が様々あるように、魔術で力を借りる方法も様々です。
色々な者がいますが、『借金を返済する』という宿命から逃れられる者はほとんどいません。
借りた力も必ず返さないといけません。
ただ、少しのお金を借りて大きく儲けた人が返すお金は少しのお金だけです。
少しの力を借りて大魔術を行使しても、返す力は最初に借りた小さな力だけです。
これが理想的な『力を借りるという事』です。
その逆もあります。
大きな力を借りても、行使する魔術の効果は低い・・・よくある事です。
ご利用ご返済は計画的に・・・という事です。」
「今まで練習してきた魔術は体内の魔力でまかなわれていました。
言ってみれば『借金をしなくてもポケットマネーで支払えた』状態です。
ポケットマネーが千円以下の人も、いつも小切手を持ち歩いていて数億円の買い物をその場で出来る人もいます。
ポケットマネーが人によって違うように、体内の魔力量にも個人差はあります。
一千万円の借金で臓器を売らなければならない人もいれば、一千万円がはした金の人もいます。
それは魔術も一緒です。
命を代償にしても大した力を借りれない人もいれば、無尽蔵に大きな力を借りてもなんともない人もいます。
そもそも力なんて借りなくても体内の魔力だけで大魔術が行使出来る者も少数ではありますがいます」洋子先輩は少し顔を伏せながら言った。
「大学の勉強の高校までと違うところ・・・
高校までは『テスト範囲があって参考書などの勉強方法が提示されていた事』で、大学からは『勉強方法や勉強する事柄すらも自分で考えださなきゃいけない事』です。
それはこれまでの魔術修行、これからの魔術修行とよく似ています。
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