超科学

海星

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大ちゃん

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 最初、本当に何をして良いのか分からなかった。

 そんな時に役に立ったのが先人の修行カリキュラムだった。

 大宣は洋子先輩の同級生「A.H」さんと同じ修行カリキュラムをとりあえずこなす事にした。

 教授が「A.H」さんに合わせて組んだ修行カリキュラムが大宣には向いていない、という事も考えられる。

 だが、何をして良いか分からず悩んでいる時間というのは「何もしないでボーっとしている時間」と同義であると大宣は思っている。

 高校時代「何を勉強すれば良いのかわからない」と頭を抱えている同級生を見て「とりあえず何か勉強しておけば何もせずに悩んでるよりはマシなのに」と思っていて、同級生を反面教師としていたのだ。

 修行を進めるうちに自分に合った修行方法が見つかるかも知れない。「A.H」さんのように教授にカリキュラムを提示されるかも知れない。

 とりあえず今、何も思い浮かばないうちは「A.H」さんの魔術修行カリキュラムをこなそう、と大宣は思っていた。





 大宣の考え方は他の化学研究室の者達と違っていた。

 魔術師にとって魔術とは全てである。

 その他を犠牲にしても第一に魔術の事を考えるのが普通である。

 もちろん化学研究室の大宣以外の者もそう考えていた。





 だが大宣にとっての第一は「葵ちゃん」である。

 第二は「単位取得」、第三は「無事卒業」第四は「金欠脱出」だ。

 魔術は第六で、第五の「無病息災」の下である。




 他の学生が「研究室に入らないと単位がもらえないし卒業出来ない」と考えているのと同じように大宣も「魔術を修得しないと大学を卒業出来ない」と思っていた。

 つまり大宣の野望は「葵ちゃんとの幸せな結婚生活」であり、魔術はその手段だったのだ。





 だが大宣は葵ちゃんに魔術の話、化学研究室の話をしていない。

 葵ちゃんに内緒話を作る事、これは大宣に罪悪感を抱かせた。

 だが、大宣は葵ちゃんに心配をかけたくなかったのだ。

 葵ちゃんは話を聞いたら「大ちゃんの方が心配だ。大学なんてやめればいい」と言うだろう。

 だが安定収入と幸せな結婚生活のためには「大卒」という肩書はバカにならない。

 ここは胸は痛むが魔術の事は葵ちゃんに秘密にしておこう。

 どうでも良いが最近葵ちゃんに「大ちゃん」と呼ばれるようになった。

 きっかけは本当にくだらない事だった。




 血の繋がらない義理の妹が抜き打ちで下宿先に来た。

 その時にたまたま、久しぶりに葵ちゃんが下宿先に遊びに来ていたのだ。

 「大ちゃん、この人誰?」義理の妹は言った。

 義理の妹と大宣は同じ歳だ。

 歳は同じなのに少し早く生まれただけで「おにいちゃん」と言うのもおかしいだろう。

 ・・・そう言うと義理の妹は大宣の事を「大ちゃん」と呼ぶようになったのだ。

 それを聞いて以来葵ちゃんは「紗季ちゃんは『大ちゃん』って呼んでるのに」とスネた。

 ちなみに「紗季」というのは義理の妹の名だ。

 そんなこんなで葵ちゃんは『大ちゃん』と大宣を呼ぶようになったのだ。





 そして二人は仲があまり良くない。

 よくわからないが張り合っているようだ。

 唯一大宣と交流のある家族である紗季と葵ちゃんは仲良くして欲しい。

 「葵ちゃん、妹と仲良く出来ないの?」と大宣が聞くと・・・

 「妹とは仲良くするわよ。妹とはね」とよくわからない理屈を言って機嫌が悪くなってしまった。

 本当に女心って複雑で面倒くさい。
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