超科学

海星

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葵ちゃん

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 「大学生活どう?楽しい?」久々に大宣の部屋を訪れた葵ちゃんが朝食の後片付けをしながら言う。

 「う~ん、そんなに楽しくないかな?」大宣は洗われた食器を拭きながら言う。

 「え!?大学生活楽しくないの?どうして!?」葵ちゃんは驚いたように問う。

 「だって大学には葵ちゃんがいないから」そういうと大宣は葵ちゃんを抱き寄せキスをした。

 この傍から見ると「殺したい。このバカップル」と思う二人は順調に交際期間を重ねていた。







 大宣はまだ化学研究室の事を葵ちゃんに話していない。

 というか「命のやりとりをしている」という事を葵ちゃんに言う気はない。

 「心配させたくない」と言う気持ちと「知ったら巻き込んでしまう」という気持ちで「葵ちゃんは魔術の事は知るべきではない」という気持ちは変わらないどころか強くなっていったからだ。









 大宣が大学生活をエンジョイ出来ないもう一つの理由が理系科目であった。

 本当に大宣は数字が苦手だ。

 それは菅原さんがふざけて出した算数の問題を大宣が間違えた事で明らかになった。

 「『4+8÷2=』大宣君がいくら数字が苦手でもこれはわかるでしょ?」クスクスと笑いながら菅原さんが言う。

 「さすがにわかるよ。

 答えは『6』でしょ?」と大宣。

 「・・・大宣君、もしかして『四則演算の順序』って知らない?

 これ小学校で学んだはずだけど・・・」その場にいる少女達がドン引きした。

 





 これが大宣が実戦の中で修行をしているもう一つの理由だ。

 他の研究室のメンバーは余った時間を魔術の修行にあてていてそれに洋子先輩が付き合っている。

 だが大宣は「時間が余っているなら理数系科目の勉強をしろ。

 じゃないと卒業出来ないぞ!」と最低限以外の修行を洋子先輩に禁じられたのだ。

 なので大宣は「AH」さんの修行カリキュラム以外はこなしていない。

 洋子先輩は意地悪をしている訳ではなく「この子がすべきは修行よりも理数系の勉強、この子は実戦で鍛えよう」としょうがなく決めたのだ。






 なので大宣にとって大学生活と言えば苦手科目の勉強であり、楽しみなどはなかったのだ。

 



 大宣にとって癒しの時間は葵ちゃんが自分の部屋に来てくれる時だけであった。

 大宣は葵ちゃんが来る日を指折り数えて待っていた。






 その日は葵ちゃんが大宣の部屋へきてくれる日だった。

 おかしい。

 葵ちゃんが来るのは学校に行く前の早い時間のはずだ。

 出来るだけ長い時間一緒にいるようにまだ日が出ないうちに葵ちゃんは大宣の部屋へ来る。

 長い時間を共に過ごしたいのは葵ちゃんだけではなく大宣も同じなので大宣が起きて待っていると葵ちゃんがすごく悲しそうな顔をしたので、タヌキ寝入りをして葵ちゃんに起こされるフリをする事に大宣はした。

 だがその日は待てど暮らせど葵ちゃんが来ない。

 一時間ほど待った。

 しかし「早く来い」とせかす気持ちは全くなかったが「どうしたんだろう・・・もしかして事故とか!?」という心配する気持ちが膨らんできて葵ちゃんのスマホを鳴らしてしまった。


 葵ちゃんはスマホを取るスピードが速い。

 音楽を変えていて大宣がスマホを鳴らした時だけわかるようで、スマホを鳴らすと瞬時に葵ちゃんは電話に出る。

 今回も大宣がスマホを鳴らすと条件反射のような早さで葵ちゃんはスマホを取った。




 だがそこからがいつもの葵ちゃんではなかった。




 「もしもし?葵ちゃん?」

 「・・・・・・・・」

 「もしもし?どうかしたの?」

 「・・・・・・・・」

 「なんかあったの?もしもし?もしもし?」

 「・・・・・・・・」

 スマホは切れ、二度と繋がらなかった。





 この日から葵ちゃんは行方不明になった。

 自分の母親が幼い頃行方不明になり、その後消息がいまだにわからない身としては楽観的な気持ちにはなれない。

 

 
 正直どうして良いのかわからなかった。

 葵ちゃんの家族は崩壊していて母親とは何年も話していないらしい。

 今回の行方不明の件で家に連絡しても女中のような人が「奥様に連絡しておく」というだけで全く慌てる様子もない。



 「家族に葵ちゃん捜索する意思がないなら俺が探すしかないんじゃないか?」と大宣は思った。



 一つだけ手掛かりがある。

 スマホに電話した時に聞こえた柱時計の時報の音だ。

 あの音には聞き覚えがある。

 化学研究室に置いてある柱時計の時報の音だ。

 葵ちゃんは失踪前に化学研究室に何故かいたことになる。




 疑問に思い始めるとわからない事だらけだ。

 葵ちゃんはどうやって化学研究室を大宣に紹介したのだろうか?

 あの研究室の事はあの大学に通っている生徒ですら、気にならない結界が張られている。

 葵ちゃんが失踪した後、今まで気にしないようにしてきたわからない事が次々と気になりはじめる。

 間違いなく疑問の多くに関わっている人物が一人いる。

 洋子先輩だ。

 なぜ葵ちゃんは化学研究室にアプローチ出来たのか?

 なぜ葵ちゃんは洋子先輩に俺を紹介出来たのか?

 「勘が良い佐々木君は化学研究室向きだ」と洋子先輩に葵ちゃんは俺を売り込んだ。

 まるで葵ちゃんは化学研究室で魔術が研究されている事を知っていたようだ。

    それに葵ちゃんはどんな料理にも少量のアボカドを入れる。

    隠し味かと思って気にしなかったが、料理に少量アボカドを入れるのは魔術師の習性だ。

    アボカドは人間以外には猛毒だ。

    ペットにアボカドを食べさせると泡を吹いて死ぬ。

   相手が人間かどうか確かめるのはアボカドを食べさせるのが一番手っ取り早い。

    人間のフリをした闇の眷属をあぶりだすには、アボカドを食べさせるのが早い・・・という考えから古くから魔術師の作る食事にはアボカドが入る事が多いのだ。



 僕は洋子先輩を訪ねて行った。



 「洋子先輩、早坂葵という女性をご存知ですか?」大宣はストレートに聞いた。

 「早坂葵・・・この研究室にいた私の同級生よ。そしてこの研究室の早坂教授の娘でもある」洋子先輩は答えた。

 「彼女は研究途中に記憶を失ったの。

 記憶は別の魔術師に奪われたとも自分で記憶を閉ざしたとも言われたわ。

 そして彼女は研究の道を行かず教職者になったという訳。

 彼女の西洋魔術の歴史に関する知識は大したものだったわ。

 魔術に関する記憶を失った後も西洋の歴史などの知識をいかして世界史の教師になったらしいわね。

 記憶を失ったと言ってもなくなったのは研究内容に関する記憶だけで、私の事や魔術について研究していた事などの記憶は残っていたのよ。

 だから彼女は『魔術の存在を知っている一般人になった』と言ったところかしら?」洋子先輩は言った。

 なるほど、これで謎の多くが繋がった。

 「葵ちゃんは失踪しました。心当たりはありますか?」

 「早坂さんに関して、私が仮説を立てた時、早坂教授・・・つまり早坂さんのお母さまが烈火の如く怒ったわ。

 私はいまだにあの仮説が正しかったから、早坂教授は血相を変えたと思っているわ」

 「どんな仮説ですか?」

 「早坂さんは記憶を失ったのではない。記憶に何者かによって鍵をかけられた」

 「葵ちゃんの記憶に鍵をかけたのは一体誰なんですか?」

 「・・・おそらく早坂教授よ。

 その記憶を失った件と今回の失踪が繋がっているなら今回の失踪の犯人も早坂さんから記憶を奪ったのも早川教授だと思って間違いないわ。」

 「どこにいるか、思い当たる節はありますか?」

 「早坂教授ならきっと研究室にいるわ。早坂さんがどこにいるかはちょっとわからないけど」

 「は?研究室?何度も研究室行きましたよ?早坂教授はいませんでしたよ?」

 「私に見当識を騙す魔術を教えたのは早坂教授よ?彼女も私と同じように姿を消しているに決まっているじゃない」
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