超科学

犬猿

    「人体は機械。

    脳はコンピューター

    心臓はエンジン

    食事は燃料である」

    そのように言う科学者がいる。

    そういう意味ではネクロマンシーは最も科学に近いのかも知れない。

    何せネクロマンシーの考え方は「エンジンを代用出来て、燃料さえあれば一度動かなくなった機械だってもう一度動かす事が出来る」というものだからだ。

    もっともネクロマンサーにとって一度動かなくなった機械とは死体の事であるし、燃料とは生きた人間の生肉の事であるが。

    そしてエンジンとしての心臓の代用をするのがネクロマンサーの使う魔術である。

    この趣味の悪い魔術の歴史は古く、古代ギリシャでは死体を使った占いが一般化していたという。

    日本においても「口寄せ」が最古の日本のネクロマンシーであると言われている。

    注意すべきは「蘇生魔術」と「ネクロマンシー」の違いである。

    死体の生前の魂を宿す事を「蘇生」

    低級精霊や低級悪魔を宿す事を「ネクロマンシー」と言った。

    ネクロマンシーは学者、賢者にも忌み嫌われる事が多かった。

    哲学者として知られるイアンブリコスはネクロマンシーを「下衆で外道な下法である」と厳しく弾劾した。

    ネクロマンシーは「黒魔術」と呼ばれる事が多かった。



    機械工学研究室・・・一見メカニカルで先進技術を学んでいそうな研究室だが、裏では古来からのネクロマンシーを学んでいる研究室だ。

    洋子先輩は機械工学研究室がネクロマンシーを研究している事を昔から疑っていたが、菅原さんにダウジングさせ疑いは確信に変わった。

    洋子先輩は機械工学研究室の全てを生理的に嫌っていた。

    そこにいる人々、

    そこにいる人々の陰気な性格、

    そこにいる人々の話し方、

    そこにいる人々の卑屈な笑い方、

    ネクロマンシーという研究内容、

    とにかく全てが嫌いだった。

    そして生理的な部分ではなく、魔術に対する取り組み方も気に食わなかった。

    洋子先輩は常々「このままではいけない。魔術は新しい何かにとってかわられる」と思っていた。

    だが機械工学研究室の連中は改善策、新しい変化を嫌った。

    しかも洋子先輩は「黒魔術が魔術のイメージを落としている」「黒魔術のせいで『魔女狩り』なんて思想が生まれた」と思っており、イメージ改善を行うどころか、死体を求め暗躍し悪い噂が絶えない機械工学研究室の事を「死ねば良い」と思っていた。

    機械工学研究室は化学研究室の事を「伝統ある魔術を変質させようとする輩ども」と思っており、両者はまさに一触即発であった。