5 / 9
天涯孤独
しおりを挟む
七人は鬼神の如き働きであった。
だがそれはマリクの思惑とは違っていた。
七人で敵軍勢を全滅させたいのではない。
敵も味方も被害を最小限にするために七人で敵本丸に乗り込もうとしたのだ。
「このままではいけない。敵軍勢を突っ切り、敵大将本丸を目指そう」マリクは言った。
それに対して文句を言う者はいなかった。
しかし軍勢を突っ切るという事は後から軍勢が追い縋らないようにその場に軍勢を釘付けにする殿を誰かがつとめなくてはいけない。
殿と一口に言っても、一人で全ての神族を足止めしなくてはならない。
全ての神族から逃げ回れば良いのであれば、一人でもマリクに選ばれた神殺しであれば問題なく生き残れるだろう。
だが殿が逃げてはいけない。
殿の役目は敵を引き付ける事だ。
古来、殿とは死ぬ事を覚悟しながらつとめる者であった。
「俺が殿をつとめる。皆は本丸へ急いでくれ」マリクの弟子、オグマが言った。
オグマは五年前に一族郎党、妻子が神々に皆殺しになり、天涯孤独であった。
「誰かが死ぬよりも、自分が死んだほうが悲しむ人が少ないだろう」オグマは思っていた。
マリクはオグマの気持ちがわかっていた。
「俺を弟子入りさせて下さい!お願いします!」オグマはマリクに深々と頭を下げた。
「自殺志願者を弟子入りさせるつもりはない。帰ってくれ」マリクはオグマを追い返そうとした。
だがオグマは諦めず弟子入りを志願し続けた。
根負けしたマリクはオグマに聞いた。
「アンタが神殺しになりたいっていう情熱はどこから来るんだ?アンタが守りたかったはずの人々は既にこの世にはいないんだろう?」
「守るべき存在は何も家族だけではありません。俺と同じ思いをする者を減らすためにも俺は神殺しになりたいんです」オグマは答えた。
「復讐のために神殺しになりたい者は後をたたない。だが『自分と同じ悲しさを他の人が感じないように』という理由で神殺しになりたい者はアンタだけだ。神殺しの修行は厳しいがやれるか?」
これがマリクとオグマの出合いであった。
マリクとオグマは同い年で天涯孤独という身の上も同じだったので、気が合い一緒にいる事が多かった。
「前にも言ったが俺は自殺志願を認めない。必ず生き残れよ」マリクはオグマに言った。
「相変わらず難しい事を言うなあ・・・まあ死なないように心掛けるけど」マリクに敬語を使わないのはオグマだけだったが、その事でマリクが文句を言った事はない。
マリクとオグマは友人のようで兄弟のようでもあった。
敵陣を切り裂き、敵本陣を目指す一行が扉に消える。
そして扉の前にはオグマが残った。
「これより先にはこのオグマが行かせない!通りたければ俺が相手になろう!」オグマは大見得を切るように扉の前に立ち塞がり叫んだ。
「しかし・・・やりにくいったらないな」オグマは呟いた。
オグマは女子供には攻撃しない。
だが、神々の軍勢の中には女子供が多数含まれていたのだ。
なのでオグマは女子供が攻撃してくるたびに剣圧で遠くに女子供を吹き飛ばしていた。
だが吹き飛ばした相手が再び攻撃を仕掛けてきたため、だんだん吹き飛ばす回数が増えていきまともに戦闘が出来ない状態が続いた。
だがオグマがまともに戦闘が出来なくても、神々の軍勢はオグマに対して攻撃をしかけてくる・・・オグマにとって、やりにくいことこの上なかった。
しかしオグマは殿の役割を何とかこなし、扉から先に誰も通さなかった。
「俺もやりゃ出来るもんだな。もしかしたら生き残る事が出来るかも・・・」オグマは呟いた。
その時一人の神族の少女がフラフラと目の前に来た。
その少女にかまわず神々は攻撃をしかけてくる。
オグマはその少女が一瞬、死んだ自分の娘に見えた。
その少女は死んだ娘には全く似ていない。似ていないし、死んだ娘が成長していたら少女くらいの年頃な訳がない。
そもそも神族は長寿で歳をとりにくい。
少女はこう見えてオグマより歳上のはずだ。
オグマにとって少女が死んだ娘に見えたのは気の迷いだ。
オグマは少女を背中に匿った。
おかしい。
腹が燃えるように熱い。
見ると銀色の刃が腹からはえている。
口の中が鉄の味がすると思っていると、どうやら口から血をタレ流しているようだ。
背中の方を見ると、どうやら少女がオグマの背中から腹にかけて剣を串刺しにしたようだ。
あーあ、焼きが回ったな。
神相手に仏心なんて出すんじゃなかった。
今腹の剣を抜いたら出血多量で意識を失っちまう。
このままもう少し足止めするしかないか。
どれだけもつかな?
5分くらいは足止め出来るかな?
「これより死地に入る。地獄に道連れにされたい奴はかかって来い!」オグマは叫んだ。
今まで遠巻きに見ていて中々攻撃してこなかった神々はオグマの腹に剣が刺さり瀕死なのを見て、オグマに殺到した。
オグマが剣を一振りすると、神々の首がいくつも飛ぶ。
もうオグマは目が見えていない。
「女子供は殺さない」というのをポリシーとしていたが首を落とした神々の中に女子供がいるかも知れない。
「どうやらこれまでみたいだな。もう立っていられねーや。・・・でも倒れる前に・・・と」
オグマは倒れる前に剣を横に薙いだ。
するとオグマの周りの神々の首が次々に飛んだ。
・・・が、それがオグマの最期だった。
オグマは前のめりに倒れると二度と動く事はなかった。
だがそれはマリクの思惑とは違っていた。
七人で敵軍勢を全滅させたいのではない。
敵も味方も被害を最小限にするために七人で敵本丸に乗り込もうとしたのだ。
「このままではいけない。敵軍勢を突っ切り、敵大将本丸を目指そう」マリクは言った。
それに対して文句を言う者はいなかった。
しかし軍勢を突っ切るという事は後から軍勢が追い縋らないようにその場に軍勢を釘付けにする殿を誰かがつとめなくてはいけない。
殿と一口に言っても、一人で全ての神族を足止めしなくてはならない。
全ての神族から逃げ回れば良いのであれば、一人でもマリクに選ばれた神殺しであれば問題なく生き残れるだろう。
だが殿が逃げてはいけない。
殿の役目は敵を引き付ける事だ。
古来、殿とは死ぬ事を覚悟しながらつとめる者であった。
「俺が殿をつとめる。皆は本丸へ急いでくれ」マリクの弟子、オグマが言った。
オグマは五年前に一族郎党、妻子が神々に皆殺しになり、天涯孤独であった。
「誰かが死ぬよりも、自分が死んだほうが悲しむ人が少ないだろう」オグマは思っていた。
マリクはオグマの気持ちがわかっていた。
「俺を弟子入りさせて下さい!お願いします!」オグマはマリクに深々と頭を下げた。
「自殺志願者を弟子入りさせるつもりはない。帰ってくれ」マリクはオグマを追い返そうとした。
だがオグマは諦めず弟子入りを志願し続けた。
根負けしたマリクはオグマに聞いた。
「アンタが神殺しになりたいっていう情熱はどこから来るんだ?アンタが守りたかったはずの人々は既にこの世にはいないんだろう?」
「守るべき存在は何も家族だけではありません。俺と同じ思いをする者を減らすためにも俺は神殺しになりたいんです」オグマは答えた。
「復讐のために神殺しになりたい者は後をたたない。だが『自分と同じ悲しさを他の人が感じないように』という理由で神殺しになりたい者はアンタだけだ。神殺しの修行は厳しいがやれるか?」
これがマリクとオグマの出合いであった。
マリクとオグマは同い年で天涯孤独という身の上も同じだったので、気が合い一緒にいる事が多かった。
「前にも言ったが俺は自殺志願を認めない。必ず生き残れよ」マリクはオグマに言った。
「相変わらず難しい事を言うなあ・・・まあ死なないように心掛けるけど」マリクに敬語を使わないのはオグマだけだったが、その事でマリクが文句を言った事はない。
マリクとオグマは友人のようで兄弟のようでもあった。
敵陣を切り裂き、敵本陣を目指す一行が扉に消える。
そして扉の前にはオグマが残った。
「これより先にはこのオグマが行かせない!通りたければ俺が相手になろう!」オグマは大見得を切るように扉の前に立ち塞がり叫んだ。
「しかし・・・やりにくいったらないな」オグマは呟いた。
オグマは女子供には攻撃しない。
だが、神々の軍勢の中には女子供が多数含まれていたのだ。
なのでオグマは女子供が攻撃してくるたびに剣圧で遠くに女子供を吹き飛ばしていた。
だが吹き飛ばした相手が再び攻撃を仕掛けてきたため、だんだん吹き飛ばす回数が増えていきまともに戦闘が出来ない状態が続いた。
だがオグマがまともに戦闘が出来なくても、神々の軍勢はオグマに対して攻撃をしかけてくる・・・オグマにとって、やりにくいことこの上なかった。
しかしオグマは殿の役割を何とかこなし、扉から先に誰も通さなかった。
「俺もやりゃ出来るもんだな。もしかしたら生き残る事が出来るかも・・・」オグマは呟いた。
その時一人の神族の少女がフラフラと目の前に来た。
その少女にかまわず神々は攻撃をしかけてくる。
オグマはその少女が一瞬、死んだ自分の娘に見えた。
その少女は死んだ娘には全く似ていない。似ていないし、死んだ娘が成長していたら少女くらいの年頃な訳がない。
そもそも神族は長寿で歳をとりにくい。
少女はこう見えてオグマより歳上のはずだ。
オグマにとって少女が死んだ娘に見えたのは気の迷いだ。
オグマは少女を背中に匿った。
おかしい。
腹が燃えるように熱い。
見ると銀色の刃が腹からはえている。
口の中が鉄の味がすると思っていると、どうやら口から血をタレ流しているようだ。
背中の方を見ると、どうやら少女がオグマの背中から腹にかけて剣を串刺しにしたようだ。
あーあ、焼きが回ったな。
神相手に仏心なんて出すんじゃなかった。
今腹の剣を抜いたら出血多量で意識を失っちまう。
このままもう少し足止めするしかないか。
どれだけもつかな?
5分くらいは足止め出来るかな?
「これより死地に入る。地獄に道連れにされたい奴はかかって来い!」オグマは叫んだ。
今まで遠巻きに見ていて中々攻撃してこなかった神々はオグマの腹に剣が刺さり瀕死なのを見て、オグマに殺到した。
オグマが剣を一振りすると、神々の首がいくつも飛ぶ。
もうオグマは目が見えていない。
「女子供は殺さない」というのをポリシーとしていたが首を落とした神々の中に女子供がいるかも知れない。
「どうやらこれまでみたいだな。もう立っていられねーや。・・・でも倒れる前に・・・と」
オグマは倒れる前に剣を横に薙いだ。
するとオグマの周りの神々の首が次々に飛んだ。
・・・が、それがオグマの最期だった。
オグマは前のめりに倒れると二度と動く事はなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる