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直感
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おかしいと思った。
よく考えたら敵の総人口が敵陣営の一部屋に入るはずはない。
部屋に入りきらなかった者達が二つの通路を通ってここに集まっているのだ。
通路はオグマが封鎖していると思っていた。
なのに敵が湧いて出ている。
何のことはない、通路も扉も二つあったのだ。
だがオグマの封鎖が無駄な事な訳ではない。
オグマの封鎖がないと狭い通路で軍勢に挟み撃ちされてしまうのだ。
しかし通路で戦うのは難しい。
自分が倒した死体が道を塞いでしまうのだ。
これが逃亡戦であれば死体と反対方向に進む事になるが、攻城戦の場合は死体方向・・・死体を乗り越えて先に進まなくてはいけない。
なので相手を倒せば倒すほど、死体が積み上がり進路を塞がれる。
戦士達は訓練を受けており、死体を踏む事に嫌悪感は感じても、慣れてきたので回避する事はない。
だが死体は避けなくても物理的な障害物になる。
また狭い通路で戦う時、戦うのは先頭にいる者と最後尾の者だ。
オグマが追い縋ってくる後続の兵を食い止めている現状では戦っているのは先頭にいるキュクロープスだけた。
行軍は遅々として進まない。
進行方向に敵が現れ行軍の邪魔をするのだ。
しかも戦えるのは先頭にいるものだけだ。
まとめて薙ぎ倒せば時間短縮になるのではないか?・・・などという事を思い付かないマリク達ではない。
マリクは「ほんの少しの可能性でも見つけ、そこから勝ちを拾え」と何度も指導した。
まとめて敵を薙ぎ倒すなんて事は思い付いて真っ先に否定した選択肢だ。
敵の中には女子供が含まれていたのだ。
まとめて薙ぎ倒した敵の中には当然、女子供もいる。
敵を殺しながら、峰打ちで女子供を気絶させる。
面倒くさいかも知れないが一人ひとり相手にしながら戦っていくしかないのだ。
女子供を殺さないのは「正義だから女子供を殺さない」訳ではない。
マリクは日頃から「殺しに正義などは存在しない。
俺達は死んだら地獄へ直行する」と言っていた。
だがマリクは「信念のない殺しは、ただの快楽殺人者と同じだ。
せめて信念のない殺しはするな」と言っていた。
「マリクさんにとっての信念とは何ですか?」マールスは聞いた。
「信念が正しくなくても構わない、それが本人にとって真理ならば。
どんなくだらない事でも構わない。
勘違いでも構わない。
要は『何にも思わずに殺しをするな』って事だよ。
それを出来る存在を潰すために、俺らは『神殺し』なんて因果な稼業をやっているんだ。
俺の信念なんてくだらねーよ?
『女子供を殺さない』だ。
くだらないだろ?
散々男の神々を殺した男が女子供を殺さないなんて言うんだから。
魂に貴賎なんてない、貴族も奴隷も、神も人間も、男も女も、大人も子供も・・・て言うのにな」マリクは笑いながらそう答えた。
その時からマリクの弟子たちも女子供を殺す事をやめた。
なので通路で戦う上での非効率に文句を言う者はいない。
だが非効率は戦いだけではない。
積み上がった死体が道を塞いでしまっていた。
時間がかかり過ぎだ。
外にいる人間の軍勢が焦れて敵陣に雪崩れ込んだら、殲滅戦が始まってしまう。
殲滅されるのは神々の軍勢ではない。神族そのものなのだ。
マールスは直感の鋭い男であった。
その直感は外れる事はなく「一つの持って生まれたスキルではないか?」と周囲に言われていた。
マールスはその直感を頼りに神の襲撃を受けた村で唯一生き残った。
マールスは非効率を嫌い、要点を得た質問をするので、弟子の代表としてマリクに質問する事が多かった。
マールスはマリクと大喧嘩した事がある。
マールスはマリクの信念「女子供を殺さない」 を「無意味なだけでなく非効率だ」と非難した。
「俺であればマリク様対策で女と子供の部隊を作ります。
間違いなく足止めにはなりますし、うまくやればマリク様を撃ち取れます。
マリク様の信念はマリク様の首をしめるでしょう。
しかも意味がない。
こんなもん偽善だ!」突然わめきだしたマールスを他の弟子達は止めなかった。
マールスが直感で何かを感じたのだ。
この直感は決して外れる事はない。
この時マールスの直感に従っていたら、オグマは死なずに済んだかも知れない。
結局マリクは折れなかったが、その事に触れるのは弟子達の間ではタブーとなった。
自分達が通ってきた通路から敵が現れるようになった。
ここはオグマが通行止めをしているはずで、敵が現れるという事はオグマの身に何かあったとしか思えない。
ただでさえ時間がかかりすぎなのに、後ろからも敵が現れるようになった。
マールスは何を思ったのか通路の壁を攻撃するとそこに大穴を開けた。
「この大穴をくぐれ!この穴が敵の本丸への近道だ!この穴は俺が立ち塞がって敵を通さない!」マールスは味方達に叫んだ。
「それはお前の直感なのか?」マリクが言う。
「そうです!おまけにここに残るのは俺が良いというのも直感です!」マールスは言った。
「お前の直感なら間違いはないな。
ここはマールスに任せる、死ぬなよ。」マリクは言うと仲間達と共に壁の大穴に消えた。
「あーあ、嘘つくなんて非効率だな。
一本道を外れたって中央にはいけるに決まってるじゃん。
多少は遠回りになるかも知れないけど。
つーか何が『ここには俺が残るのが最も良い』だよ。
全く未来が見えない、真っ暗だ。
どういう事だよ?」マールスは呟いた。
見えるはずがない。マールスに未来などないのだから。
いや、勘の良いマールスはその事をわかっていたのかも知れない。
よく考えたら敵の総人口が敵陣営の一部屋に入るはずはない。
部屋に入りきらなかった者達が二つの通路を通ってここに集まっているのだ。
通路はオグマが封鎖していると思っていた。
なのに敵が湧いて出ている。
何のことはない、通路も扉も二つあったのだ。
だがオグマの封鎖が無駄な事な訳ではない。
オグマの封鎖がないと狭い通路で軍勢に挟み撃ちされてしまうのだ。
しかし通路で戦うのは難しい。
自分が倒した死体が道を塞いでしまうのだ。
これが逃亡戦であれば死体と反対方向に進む事になるが、攻城戦の場合は死体方向・・・死体を乗り越えて先に進まなくてはいけない。
なので相手を倒せば倒すほど、死体が積み上がり進路を塞がれる。
戦士達は訓練を受けており、死体を踏む事に嫌悪感は感じても、慣れてきたので回避する事はない。
だが死体は避けなくても物理的な障害物になる。
また狭い通路で戦う時、戦うのは先頭にいる者と最後尾の者だ。
オグマが追い縋ってくる後続の兵を食い止めている現状では戦っているのは先頭にいるキュクロープスだけた。
行軍は遅々として進まない。
進行方向に敵が現れ行軍の邪魔をするのだ。
しかも戦えるのは先頭にいるものだけだ。
まとめて薙ぎ倒せば時間短縮になるのではないか?・・・などという事を思い付かないマリク達ではない。
マリクは「ほんの少しの可能性でも見つけ、そこから勝ちを拾え」と何度も指導した。
まとめて敵を薙ぎ倒すなんて事は思い付いて真っ先に否定した選択肢だ。
敵の中には女子供が含まれていたのだ。
まとめて薙ぎ倒した敵の中には当然、女子供もいる。
敵を殺しながら、峰打ちで女子供を気絶させる。
面倒くさいかも知れないが一人ひとり相手にしながら戦っていくしかないのだ。
女子供を殺さないのは「正義だから女子供を殺さない」訳ではない。
マリクは日頃から「殺しに正義などは存在しない。
俺達は死んだら地獄へ直行する」と言っていた。
だがマリクは「信念のない殺しは、ただの快楽殺人者と同じだ。
せめて信念のない殺しはするな」と言っていた。
「マリクさんにとっての信念とは何ですか?」マールスは聞いた。
「信念が正しくなくても構わない、それが本人にとって真理ならば。
どんなくだらない事でも構わない。
勘違いでも構わない。
要は『何にも思わずに殺しをするな』って事だよ。
それを出来る存在を潰すために、俺らは『神殺し』なんて因果な稼業をやっているんだ。
俺の信念なんてくだらねーよ?
『女子供を殺さない』だ。
くだらないだろ?
散々男の神々を殺した男が女子供を殺さないなんて言うんだから。
魂に貴賎なんてない、貴族も奴隷も、神も人間も、男も女も、大人も子供も・・・て言うのにな」マリクは笑いながらそう答えた。
その時からマリクの弟子たちも女子供を殺す事をやめた。
なので通路で戦う上での非効率に文句を言う者はいない。
だが非効率は戦いだけではない。
積み上がった死体が道を塞いでしまっていた。
時間がかかり過ぎだ。
外にいる人間の軍勢が焦れて敵陣に雪崩れ込んだら、殲滅戦が始まってしまう。
殲滅されるのは神々の軍勢ではない。神族そのものなのだ。
マールスは直感の鋭い男であった。
その直感は外れる事はなく「一つの持って生まれたスキルではないか?」と周囲に言われていた。
マールスはその直感を頼りに神の襲撃を受けた村で唯一生き残った。
マールスは非効率を嫌い、要点を得た質問をするので、弟子の代表としてマリクに質問する事が多かった。
マールスはマリクと大喧嘩した事がある。
マールスはマリクの信念「女子供を殺さない」 を「無意味なだけでなく非効率だ」と非難した。
「俺であればマリク様対策で女と子供の部隊を作ります。
間違いなく足止めにはなりますし、うまくやればマリク様を撃ち取れます。
マリク様の信念はマリク様の首をしめるでしょう。
しかも意味がない。
こんなもん偽善だ!」突然わめきだしたマールスを他の弟子達は止めなかった。
マールスが直感で何かを感じたのだ。
この直感は決して外れる事はない。
この時マールスの直感に従っていたら、オグマは死なずに済んだかも知れない。
結局マリクは折れなかったが、その事に触れるのは弟子達の間ではタブーとなった。
自分達が通ってきた通路から敵が現れるようになった。
ここはオグマが通行止めをしているはずで、敵が現れるという事はオグマの身に何かあったとしか思えない。
ただでさえ時間がかかりすぎなのに、後ろからも敵が現れるようになった。
マールスは何を思ったのか通路の壁を攻撃するとそこに大穴を開けた。
「この大穴をくぐれ!この穴が敵の本丸への近道だ!この穴は俺が立ち塞がって敵を通さない!」マールスは味方達に叫んだ。
「それはお前の直感なのか?」マリクが言う。
「そうです!おまけにここに残るのは俺が良いというのも直感です!」マールスは言った。
「お前の直感なら間違いはないな。
ここはマールスに任せる、死ぬなよ。」マリクは言うと仲間達と共に壁の大穴に消えた。
「あーあ、嘘つくなんて非効率だな。
一本道を外れたって中央にはいけるに決まってるじゃん。
多少は遠回りになるかも知れないけど。
つーか何が『ここには俺が残るのが最も良い』だよ。
全く未来が見えない、真っ暗だ。
どういう事だよ?」マールスは呟いた。
見えるはずがない。マールスに未来などないのだから。
いや、勘の良いマールスはその事をわかっていたのかも知れない。
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