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私怨
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しばらく敵は前からも後からも来なかった。
マールスのおかげで遠回りをしたとしてもだいぶ距離が稼げた。
しばらくすると前方に敵がチラホラ現れた。
衛兵というヤツだ。
本丸へ続く通路に配置されていて、敵が本丸へ近付く事を防いでいるのだ。
彼らが現れた、という事は道が間違えていなかった事の証明でもある。
しかし彼らはそこそこの強さがあり、大幅なペースダウンになってしまっていた。
そうこうしているうちに後からも敵が現れるようになった。
マールスの身に何かあった・・・など予測する必要もなかった。
人間は凶悪犯にデッド・オア・アライブで懸賞金をかける。
それは人間だけではないようだ。
一人の神が大事そうに抱えている人間の首、これがあるだけで一生遊んで暮らせるようで、時折首を持っている神はニヤついている。
一人の神が持っている首・・・よくみるとその首はよく知っている男の首であった。
「マールス・・・・そっか、あなた殺されたのね・・・。」ヴァルキュリアは呟いた。
マールスもヴァルキュリアも数えきれないほどの神を屠ってきた。
そして神殺しで決して少なくない金銭を得てきた。
今さら首に懸賞金がかけられていた事、首を手にした神がうれしそうにしている事を怒る資格はない。
だが恋人の首を嬉しそうな顔をして撫でまわしているのをヴァルキュリアは見ていられなかった。
「マリク様、私は初めて私怨のために刃を振るいます。良いですね?」ヴァルキュリアは言った。
マリクにそれを否定は出来ない。
マリクの初めての神殺しは育ての親の仇討ちであった。
「怨みで戦う事を否定はしない。
怨みは原動力となり、不可能を可能にする。
それは自分の体験でも明らかだ。
だが怨みは連鎖する。
親を殺された者は仇討ちをし、仇討ちされた者の身内もまた、仇討ちをする。
それは終わることのない怨みの連鎖だ。
だから俺は弟子達に私怨で戦う事を禁じた。
もしお前が私怨で戦うというなら、ここで俺達と袂を別つ事になる。
それでもかまわないか?」マリクは言った。
「かまいません。
私をここに置いて先に進んで下さい。
最期に失礼ながらマリク様に聞きたい事があります。」
「何だ?言ってみろ」
「童貞ですか?」
「あ、あぁ・・・そうだ。
神殺しなんて因果な稼業をやっているせいで、そっちの方面は疎くてな。」
「そんな事はないと思いますよ?
マリク様が童貞なのは稼業のせいではなく鈍感だからです。
テミスの恋心に気付いてあげて下さい。
ホラ、真っ赤にならない。
童貞丸出しですよ?
でもそういった素の部分もテミスに見せてあげて下さい。
私のお節介は以上です」
テミスとはマリクの弟子でヴァルキュリアの親友の少女だ。
道理でヴァルキュリアは七人に選ばれた時
「選ばれた女は私だけですか?
誰か忘れてるんじゃないですか?」と食い下がっていたはずだ。
「忠告は聞いておこう。
俺からもお前に忠告だ。
男は女から童貞を指摘されると死にたくなる、という事を覚えておいて欲しい。
ではこの場はお前に任せて先へ進ませてもらう、死ぬなよ」
そう言うと進行方向にいる敵をまとめて薙ぎ倒した。
本丸からわき出ている敵衛兵に女子供はいないようだ。
という事はまとめて敵を薙ぎ倒せるという事だ。
なので後方からの敵を足止めする者がいればかなり時間短縮が出来る。
衛兵がそこそこの強さなのでそこまでの時間短縮にはならないが。
ヴァルキュリアは通路に陣取り通路の先で見えなくなっていくマリク一行を見ていた。
殿などヴァルキュリア向きの役割ではない。
それはマールスも同様だ。
パワーがない分は手数で補う。
スピードで勝負するためヴァルキュリアもマールスも極限まで軽量化につとめ防具を削っている。
なので相手の一撃が致命傷になってしまう事も有り得るのだ。
戦法の基本はヒットアンドアウェイ
逃げ回りながら『蝶のように舞い、蜂のように刺す』のだ。
だが殿は逃げてはいけない。
その上ヴァルキュリアやマールスは手数で勝負しているので常に動いている。
最初は相手のノロマな攻撃に当たる事はないが、疲労と共に身体は動かなくなり、ミスも増え攻撃を喰らう事もある。
そしてもっとも殿に向かない理由が武器の脆弱さだ。
キュクロープスのように斬馬刀を装備していれば、血のりで多少切れ味が落ちる事はあれど一日振り回していても使えなくなる事はない。
だが、ヴァルキュリアは小刀を両手に装備している。
小刀は血のりで斬れなくなったり、刃こぼれして斬れなくなったり、折れたりしたのでヴァルキュリアは常に三セット予備を持っていた。
人間を斬っても小刀は斬れなくなる。
ましてや神は人間より固い。
小刀はうまく使わないと一度で駄目になる。
マールスの武器は片手剣で何度も敵が使っていた片手剣を奪い取り使っていたが、それでも最後は素手で神と戦っていた。
相手から小刀を奪い取ろうにも、神は小刀をつかわないし、これまで予備を使わなかったのが幸運なくらいだ。
圧倒的に武器が足らない。
でも予備をもっと持っていたら機動力が落ちてしまっただろう。
つまりヴァルキュリアが生き残る可能性はない。
マールスも生き残れない事は覚悟していただろう。
「これは誰かが悪い訳ではありません。
ただの八つ当たりです。
あなた達の不運は『敵が女だった事』です。
口の悪いテュールはこう言っていました。
『ヴァルキュリアは理屈を頭では考えない。
子宮で考えて動く』と。
あなた達は恋人を殺された女のヒステリーに付き合わされるのです。
ではご堪能下さい」
ヴァルキュリアは女子供関係なく目の前に立ち塞がる全てを切り伏せた。
そして武器も尽き、動けなくなった時、取り戻した恋人の頭を抱えながら自爆したという。
マールスのおかげで遠回りをしたとしてもだいぶ距離が稼げた。
しばらくすると前方に敵がチラホラ現れた。
衛兵というヤツだ。
本丸へ続く通路に配置されていて、敵が本丸へ近付く事を防いでいるのだ。
彼らが現れた、という事は道が間違えていなかった事の証明でもある。
しかし彼らはそこそこの強さがあり、大幅なペースダウンになってしまっていた。
そうこうしているうちに後からも敵が現れるようになった。
マールスの身に何かあった・・・など予測する必要もなかった。
人間は凶悪犯にデッド・オア・アライブで懸賞金をかける。
それは人間だけではないようだ。
一人の神が大事そうに抱えている人間の首、これがあるだけで一生遊んで暮らせるようで、時折首を持っている神はニヤついている。
一人の神が持っている首・・・よくみるとその首はよく知っている男の首であった。
「マールス・・・・そっか、あなた殺されたのね・・・。」ヴァルキュリアは呟いた。
マールスもヴァルキュリアも数えきれないほどの神を屠ってきた。
そして神殺しで決して少なくない金銭を得てきた。
今さら首に懸賞金がかけられていた事、首を手にした神がうれしそうにしている事を怒る資格はない。
だが恋人の首を嬉しそうな顔をして撫でまわしているのをヴァルキュリアは見ていられなかった。
「マリク様、私は初めて私怨のために刃を振るいます。良いですね?」ヴァルキュリアは言った。
マリクにそれを否定は出来ない。
マリクの初めての神殺しは育ての親の仇討ちであった。
「怨みで戦う事を否定はしない。
怨みは原動力となり、不可能を可能にする。
それは自分の体験でも明らかだ。
だが怨みは連鎖する。
親を殺された者は仇討ちをし、仇討ちされた者の身内もまた、仇討ちをする。
それは終わることのない怨みの連鎖だ。
だから俺は弟子達に私怨で戦う事を禁じた。
もしお前が私怨で戦うというなら、ここで俺達と袂を別つ事になる。
それでもかまわないか?」マリクは言った。
「かまいません。
私をここに置いて先に進んで下さい。
最期に失礼ながらマリク様に聞きたい事があります。」
「何だ?言ってみろ」
「童貞ですか?」
「あ、あぁ・・・そうだ。
神殺しなんて因果な稼業をやっているせいで、そっちの方面は疎くてな。」
「そんな事はないと思いますよ?
マリク様が童貞なのは稼業のせいではなく鈍感だからです。
テミスの恋心に気付いてあげて下さい。
ホラ、真っ赤にならない。
童貞丸出しですよ?
でもそういった素の部分もテミスに見せてあげて下さい。
私のお節介は以上です」
テミスとはマリクの弟子でヴァルキュリアの親友の少女だ。
道理でヴァルキュリアは七人に選ばれた時
「選ばれた女は私だけですか?
誰か忘れてるんじゃないですか?」と食い下がっていたはずだ。
「忠告は聞いておこう。
俺からもお前に忠告だ。
男は女から童貞を指摘されると死にたくなる、という事を覚えておいて欲しい。
ではこの場はお前に任せて先へ進ませてもらう、死ぬなよ」
そう言うと進行方向にいる敵をまとめて薙ぎ倒した。
本丸からわき出ている敵衛兵に女子供はいないようだ。
という事はまとめて敵を薙ぎ倒せるという事だ。
なので後方からの敵を足止めする者がいればかなり時間短縮が出来る。
衛兵がそこそこの強さなのでそこまでの時間短縮にはならないが。
ヴァルキュリアは通路に陣取り通路の先で見えなくなっていくマリク一行を見ていた。
殿などヴァルキュリア向きの役割ではない。
それはマールスも同様だ。
パワーがない分は手数で補う。
スピードで勝負するためヴァルキュリアもマールスも極限まで軽量化につとめ防具を削っている。
なので相手の一撃が致命傷になってしまう事も有り得るのだ。
戦法の基本はヒットアンドアウェイ
逃げ回りながら『蝶のように舞い、蜂のように刺す』のだ。
だが殿は逃げてはいけない。
その上ヴァルキュリアやマールスは手数で勝負しているので常に動いている。
最初は相手のノロマな攻撃に当たる事はないが、疲労と共に身体は動かなくなり、ミスも増え攻撃を喰らう事もある。
そしてもっとも殿に向かない理由が武器の脆弱さだ。
キュクロープスのように斬馬刀を装備していれば、血のりで多少切れ味が落ちる事はあれど一日振り回していても使えなくなる事はない。
だが、ヴァルキュリアは小刀を両手に装備している。
小刀は血のりで斬れなくなったり、刃こぼれして斬れなくなったり、折れたりしたのでヴァルキュリアは常に三セット予備を持っていた。
人間を斬っても小刀は斬れなくなる。
ましてや神は人間より固い。
小刀はうまく使わないと一度で駄目になる。
マールスの武器は片手剣で何度も敵が使っていた片手剣を奪い取り使っていたが、それでも最後は素手で神と戦っていた。
相手から小刀を奪い取ろうにも、神は小刀をつかわないし、これまで予備を使わなかったのが幸運なくらいだ。
圧倒的に武器が足らない。
でも予備をもっと持っていたら機動力が落ちてしまっただろう。
つまりヴァルキュリアが生き残る可能性はない。
マールスも生き残れない事は覚悟していただろう。
「これは誰かが悪い訳ではありません。
ただの八つ当たりです。
あなた達の不運は『敵が女だった事』です。
口の悪いテュールはこう言っていました。
『ヴァルキュリアは理屈を頭では考えない。
子宮で考えて動く』と。
あなた達は恋人を殺された女のヒステリーに付き合わされるのです。
ではご堪能下さい」
ヴァルキュリアは女子供関係なく目の前に立ち塞がる全てを切り伏せた。
そして武器も尽き、動けなくなった時、取り戻した恋人の頭を抱えながら自爆したという。
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