神の殺し方

海星

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論理

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    後方で爆発音が聞こえた。

    何があったかはわからないが後方から火の手が上がっているのが窓から見える。

    鎮火作業が終わるまで追っ手は来ないだろう。

    今のうちに先に進んでおく必要がある。

    本当に神々は集団行動が苦手らしい。

    集団で効率良く鎮火すれば、こんな石造りの建物での鎮火作業に時間がかかるはずもない。

    なかなか鎮火できないどころか、少し燃え広がってみえるのは誰かがイニシアチブをとって鎮火作業が行われていない事の証明だ。

    これは神々の徹底した個人主義のせいだ。

    個人主義が良い場合と悪い場合がある。

    団体行動が必要な場面では個人主義は邪魔になる、鎮火作業がなかなか進まない現状を見てもそれは明らかだろう。






    神族に人質外交は出来ない。

    神族は人質交換に応じない。

    「人質にとられたのは、人質にとられたヤツが悪い。

    人質にとられたヤツは己の愚鈍さを恥ながら自ら命を絶つべきだ」とは神々の言い分だが、人質になった者の媚び諂うような命乞いを見ると武士道をポリシーにしているようには思えない。

    「他人の事はどうでも良い。

    自分が何より可愛い」それだけだ。

    そもそも神々は人質は取らないで捕らえた人間を皆殺しにする。

    そして人質解放の交換条件に一切応じない。

    それどころか、交渉に来た人間の使者を切り殺すほどだ。

    なので人々は捕らえた神族の人質の扱いに困ってしまった。

     無条件に人質を解放しても、外交上良い事は何も無い。

    それどころか「徹底的に戦うより捕らえられ人質になった方が無事に帰還できる可能性が高い」などと言い出す始末だ。

     「人質になると死んだ方がマシだと思えるような屈辱感を味あわされる」と思わせないと、降伏し人質になり無条件解放され、もう一度兵士として人間と戦い、追い詰められそうになると降伏する・・・を繰り返す者達があらわれはじめた。

     こうして苦肉の策として「捕らえた神族を奴隷にする」という事が始まった。

     マリクはこの奴隷政策に反対した。

     マリクは邪神に「敵を敬え」と厳しく言われていた。

     「敬わないからこそ虐殺などというマネが出来るのだ」と。

     「敬った相手を奴隷になど出来るはずもない」とマリクは主張した。

    しかしこの『神族奴隷政策』が思いの外効果をあげる。

     余程人間の奴隷になる事が屈辱なのだろう。

    『神族奴隷政策』が実行された後、神々に悲愴感が漂うようになった。

     「奴隷にならなくて良いのなら」と聞いてもいない秘密を神々はペラペラと語りだした。

     なので、マリク一行は初めて来た敵陣の造りをある程度把握していた。

    最も近道からは外れてしまっていたが、だいたいの位置は把握していたので道が半ばまで来ていた事はわかっていた。

     この付近には兵士、しかもおさを護る上級兵士の詰所があるはずだ。

     激戦は必至だ。なのに・・・
     
    しかし静かだ。

     静かすぎる。

    後続の追っ手はしばらくないとして、なぜ前からも敵が現れないのか。

    道を一本外れたから敵がこちらを見失っているのか?

    有り得ない。

    すでに見つかっているはずだ。

    「まるで罠に招き入れられているようだ」マリクは思った。

    だが神族は策を練らない、と言われている。

    実際に「人間相手に策を練るのは恥だ」と神々は思っていた。

   一行は部屋へ入った。

    円形の闘技場のような部屋だ。

    マリクは叫んだ。

    「走り抜けろ!この部屋から出るんだ!これは罠だ!」

    神が罠を仕掛けるなどという事は前代未聞だった。

    だが、マリクの百戦錬磨の経験からくる勘が「逃げろ!これは罠だ!」と警鐘を鳴らす。

    円形の部屋の壁には全方向に沢山の扉が付いている。

    その全ての扉から神々の上級兵士が現れる。

    「チッ囲まれたか!」マリクは舌打ちをする。

    「慌てて浮き足立ってはいけません。

     神々の個人主義は急には変わりません。

     この中にこの集団を指揮している者がいます。

     ソイツを倒せばコイツらは所詮、烏合の衆です。

     集団は瓦解します。」この冷静な声はアーレスだ。

     マリクの弟子で作戦担当でもある若者だ。

     元は学者志望という変わり種で「自分の頭脳を活かす場所を探していた」とマリク門弟となった。

     論理的でない事を嫌い、直感で行動するマールスとしばしば衝突した。

      「しかしどうやってこの中から統率しているヤツを探すんだ?」マリクはアーレスに聞いた。

     「私に策があります。

     マリク様達はこの囲みを突破して先を急いで下さい。」アーレスは続けた。

     「この囲みは厚くありません。

     人数に限りがありますからね。

     だってこの部屋にくるまで誰も配置されていませんでした。

     配置しなかったのではありません。

     人が足りなくて配置出来なかったのです。

     この部屋で勝負をしかけたのです。

     しかしこれは愚策です。

     私であれば進行方向の通路に兵士を配置します。

     なぜならこの部屋で勝負をしかけても、私がマリク様達を突破させてしまいますからね。

     この部屋を突破された時点で相手の負けです。

     『策師、策に溺れる』なんともマヌケな話です」

     アーレスはこの部屋にいる、この策を練った者を挑発した。

     神族は基本的に個人主義だ。

     多少頭が回れば策は練るだろうが、挑発され頭に血がのぼれば本性をあらわす。

     「マリク一行を先に進ませるべきではない」

      という損得勘定より、

     「人間にバカにされた」

     と思えばマリク一行を先に行かせて、アーレスを確実に殺すだろう。

     それこそがアーレスの狙いだ。

     正直、これは時間との勝負だ。

     人間の勝利は揺るがない。

     だが、時間がかかりすぎれば焦れて人間の軍勢が突撃する。

     そうすれば凄惨な殲滅戦が展開され、神族は滅亡するだろう。

     アーレスは思った。

     「ここで足止めされ時間を食う訳にはいかない。自分が犠牲になりマリク様達を先に進ませよう」と。
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