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仮想現実
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看護師は嫌な顔をした。
後でわかったことだが、現実の知り合いと『仮想現実』の中では会わないらしい。
現実では根暗な者が仮想現実のコミュニティでは朗らかなひょうきん者であったりするらしい。
看護師は現実社会で知り合ってしまった俺と一緒に仮想現実に入りたくはない、と思っていたのだ。しかも俺は仮にも珍しい彼女の異性だ、見られたくない彼女の願望だって仮想現実のコミュニティにはあるだろう。
現実社会で我慢している者ほど仮想現実のコミュニティでは快楽主義者である事が多い。というか政府は「現実では我慢する代わりに快楽を仮想現実で味わう事」を推奨していたのでそれは決して間違いではないのだが。
しかも現実社会で労働をし、他の者と比べ仮想現実のコミュニティにいる時間が短い彼女は仮想現実のコミュニティにいる間ははっちゃけていた。そんな自分を俺に見られたくなかったのだ。
そういえば彼女は俺に自己紹介をしなかった。彼女は俺の事を前もって知っていたようだが、彼女が自己紹介しなかったのは「現実社会で知り合いは作りたくない」という気持ちのあらわれだろう。この時代の人間全てがそうなのか、彼女が特別なのか、それは何も知らない俺には判断出来ない。
俺はこの時代の事を何も知らない。
俺には知りたい事がもっとあった。例えば「戦争が終わったのは30年前だろう?その後生まれた者達は男性と女性は半々のはずだ。なのに何故極端に男性が少ない?」などなどだ。
実はこの時代に発展したものは「コールドスリープ」や「人工授精」だけではない。
「男女産み分け」が科学技術として確立されていたのだ。
冷凍精液のストックは腐るほどある。
つまり滅亡しかけた人類を増やすには女性を増やさなくてはならない。
男性が増える事は資源を消費する者を増やす事で人類滅亡を加速させる事である。
男性は最小限しか必要でないのだ。
そして社会は女性が動かしていた。
軍部は男性を中心に結成されていた。
男性が持つ攻撃性は地球を滅ぼすと思われていた。
「もう現実社会では軍事力はあまり必要ではない」と思われていたのだ。
そして生まれた数少ない男性は軍部に追いやられた。体のいい厄介払いである。邪馬台国が卑弥呼を王に据えた理由は「男性を王にすると争いが絶えなかったから」だ。「男性が動かす社会では戦争が絶えない。そして今度戦争が起きれば人類は滅亡してしまう」と女性達は思っていた。
女性看護師は俺の案内役を命じられた。
そして「彼が行きたがる所へ可能な限り案内するように」と上司に命令されていた。
彼女は嫌々、俺を仮想現実へと案内する事にしたらしい。
俺と彼女は病院へと向かった。
病院は彼女の勤務先であり、俺がコールドスリープから目覚めたところでもあった。
病院は廃墟の中には不釣り合いな近代的な建築物であった。
病院が爆撃を免れたのは偶然ではない。
病院はコールドスリープの研究施設でもあった。
当時、滅亡しかけていた人類を救うのはコールドスリープの技術だと思われていた。地球を捨てテラフォーミングするにしても他の惑星に到着するまでコールドスリープしなくては他の惑星に到着する前に寿命を迎えてしまう。第二次大戦の最中、文化財など「ここには爆撃しないようにしよう」と決められていた施設が複数あったという。
第三次大戦でも「コールドスリープの研究施設には爆撃しないようにしよう」と決められていたらしい。お陰で研究施設の中で眠っていた俺は爆撃を免れて今でも存在しているわけだが。
病院には入院設備があり、ある程度の数のベッドがある。そして元々俺がいた時代にはなかったフルフェイスのヘルメットのようなヘッドセットがベッド脇に備え付けられている。
「この時代にはベッド脇には必ずこういったヘッドセットが備え付けられているんですけどね、まだあなたはこの時代で目を醒ましたばっかりで、寝る場所どころか住む場所も決まってないんで病院のベッドを借りましょう。それに二人で仮想現実世界に飛び込む事は珍しいです。二つベッドとヘッドセットが並んでいる設備などと言ったら病院以外に思い浮かびません」看護師は抑揚なく言った、相当気乗りがしないらしい。
「では仮想現実世界のどこに飛び込むのか二人で座標を合わせましょう。二人で全く違うところに飛び込んで、仮想現実世界で会えなくても意味がありませんから」
後で考えてみたら彼女の仮想現実世界の家で待ち合わせをすれば間違いはなかった。
だけど彼女が仮想現実世界でのプライベートに俺を踏み込ませたくなかったんだと思う。
初めて仮想現実世界に行くヤツに「この座標で待ち合わせね」なんて言うのは随分と不親切な話だった。だがこの時の俺は「こういうモノなんだ」と思っていたし、一生懸命座標について理解しようとつとめていた。
俺と彼女は隣同士のベッドに横になり、ヘッドセットを付けた。
すると一瞬真っ暗になったがすぐに明るくなり、数値を打ち込む画面になった。
「数値を打ち込むって言っても、キーボードもないのにどうやって打ち込むんだ?そもそもこの数値って何なんだ?」と独り言を言うと・・・『座標を打ち込んで下さい。あなたの言葉を発すれば、その通りに座標が打ち込まれます』と頭の中に電子音声が流れた。
俺は彼女に言われた通りの座標を口にした。
『その座標には他人の家が建っています。他人の家には許可なく入れません。最寄りの路上を案内します。飛び込みますか?』電子音声は言った。
は?座標が間違ってたのか?打ち込んだ座標に案内出来ないから、その近くまで案内する・・・まるでカーナビみたいだな。とにかく何も知らない俺は飛び込むしか方法はない。
「あぁ、ありがとう。よろしく頼む」後から聞いたのだが、電子音声は仮想現実世界のシステムで、お礼とかはなくても良いらしい。そんな事は知らなかったんだししょうがない。
俺が電子音声の言う事に了承すると、視界が変わり路上に出た。
スゲーな、これが仮想現実世界か。現実社会と区別がつかないじゃねーか。
そこにはナース服ではなく私服の看護師がいた。
「指定された座標に行こうとしたら『そこには他人の家がある』って言われていけなかった。だからその近くに飛び込んだ」何で俺は彼女に遅れた言い訳のような事を言ってるのか?
「知ってるわよ。私も同じ事言われたし。座標なんて適当に言っただけだしね」彼女は悪びれずに言った。
この娘、こんな言葉づかいだったっけ?
そもそもタメ口だったっけ?敬語じゃなかったっけ?
後でわかったことだが、現実の知り合いと『仮想現実』の中では会わないらしい。
現実では根暗な者が仮想現実のコミュニティでは朗らかなひょうきん者であったりするらしい。
看護師は現実社会で知り合ってしまった俺と一緒に仮想現実に入りたくはない、と思っていたのだ。しかも俺は仮にも珍しい彼女の異性だ、見られたくない彼女の願望だって仮想現実のコミュニティにはあるだろう。
現実社会で我慢している者ほど仮想現実のコミュニティでは快楽主義者である事が多い。というか政府は「現実では我慢する代わりに快楽を仮想現実で味わう事」を推奨していたのでそれは決して間違いではないのだが。
しかも現実社会で労働をし、他の者と比べ仮想現実のコミュニティにいる時間が短い彼女は仮想現実のコミュニティにいる間ははっちゃけていた。そんな自分を俺に見られたくなかったのだ。
そういえば彼女は俺に自己紹介をしなかった。彼女は俺の事を前もって知っていたようだが、彼女が自己紹介しなかったのは「現実社会で知り合いは作りたくない」という気持ちのあらわれだろう。この時代の人間全てがそうなのか、彼女が特別なのか、それは何も知らない俺には判断出来ない。
俺はこの時代の事を何も知らない。
俺には知りたい事がもっとあった。例えば「戦争が終わったのは30年前だろう?その後生まれた者達は男性と女性は半々のはずだ。なのに何故極端に男性が少ない?」などなどだ。
実はこの時代に発展したものは「コールドスリープ」や「人工授精」だけではない。
「男女産み分け」が科学技術として確立されていたのだ。
冷凍精液のストックは腐るほどある。
つまり滅亡しかけた人類を増やすには女性を増やさなくてはならない。
男性が増える事は資源を消費する者を増やす事で人類滅亡を加速させる事である。
男性は最小限しか必要でないのだ。
そして社会は女性が動かしていた。
軍部は男性を中心に結成されていた。
男性が持つ攻撃性は地球を滅ぼすと思われていた。
「もう現実社会では軍事力はあまり必要ではない」と思われていたのだ。
そして生まれた数少ない男性は軍部に追いやられた。体のいい厄介払いである。邪馬台国が卑弥呼を王に据えた理由は「男性を王にすると争いが絶えなかったから」だ。「男性が動かす社会では戦争が絶えない。そして今度戦争が起きれば人類は滅亡してしまう」と女性達は思っていた。
女性看護師は俺の案内役を命じられた。
そして「彼が行きたがる所へ可能な限り案内するように」と上司に命令されていた。
彼女は嫌々、俺を仮想現実へと案内する事にしたらしい。
俺と彼女は病院へと向かった。
病院は彼女の勤務先であり、俺がコールドスリープから目覚めたところでもあった。
病院は廃墟の中には不釣り合いな近代的な建築物であった。
病院が爆撃を免れたのは偶然ではない。
病院はコールドスリープの研究施設でもあった。
当時、滅亡しかけていた人類を救うのはコールドスリープの技術だと思われていた。地球を捨てテラフォーミングするにしても他の惑星に到着するまでコールドスリープしなくては他の惑星に到着する前に寿命を迎えてしまう。第二次大戦の最中、文化財など「ここには爆撃しないようにしよう」と決められていた施設が複数あったという。
第三次大戦でも「コールドスリープの研究施設には爆撃しないようにしよう」と決められていたらしい。お陰で研究施設の中で眠っていた俺は爆撃を免れて今でも存在しているわけだが。
病院には入院設備があり、ある程度の数のベッドがある。そして元々俺がいた時代にはなかったフルフェイスのヘルメットのようなヘッドセットがベッド脇に備え付けられている。
「この時代にはベッド脇には必ずこういったヘッドセットが備え付けられているんですけどね、まだあなたはこの時代で目を醒ましたばっかりで、寝る場所どころか住む場所も決まってないんで病院のベッドを借りましょう。それに二人で仮想現実世界に飛び込む事は珍しいです。二つベッドとヘッドセットが並んでいる設備などと言ったら病院以外に思い浮かびません」看護師は抑揚なく言った、相当気乗りがしないらしい。
「では仮想現実世界のどこに飛び込むのか二人で座標を合わせましょう。二人で全く違うところに飛び込んで、仮想現実世界で会えなくても意味がありませんから」
後で考えてみたら彼女の仮想現実世界の家で待ち合わせをすれば間違いはなかった。
だけど彼女が仮想現実世界でのプライベートに俺を踏み込ませたくなかったんだと思う。
初めて仮想現実世界に行くヤツに「この座標で待ち合わせね」なんて言うのは随分と不親切な話だった。だがこの時の俺は「こういうモノなんだ」と思っていたし、一生懸命座標について理解しようとつとめていた。
俺と彼女は隣同士のベッドに横になり、ヘッドセットを付けた。
すると一瞬真っ暗になったがすぐに明るくなり、数値を打ち込む画面になった。
「数値を打ち込むって言っても、キーボードもないのにどうやって打ち込むんだ?そもそもこの数値って何なんだ?」と独り言を言うと・・・『座標を打ち込んで下さい。あなたの言葉を発すれば、その通りに座標が打ち込まれます』と頭の中に電子音声が流れた。
俺は彼女に言われた通りの座標を口にした。
『その座標には他人の家が建っています。他人の家には許可なく入れません。最寄りの路上を案内します。飛び込みますか?』電子音声は言った。
は?座標が間違ってたのか?打ち込んだ座標に案内出来ないから、その近くまで案内する・・・まるでカーナビみたいだな。とにかく何も知らない俺は飛び込むしか方法はない。
「あぁ、ありがとう。よろしく頼む」後から聞いたのだが、電子音声は仮想現実世界のシステムで、お礼とかはなくても良いらしい。そんな事は知らなかったんだししょうがない。
俺が電子音声の言う事に了承すると、視界が変わり路上に出た。
スゲーな、これが仮想現実世界か。現実社会と区別がつかないじゃねーか。
そこにはナース服ではなく私服の看護師がいた。
「指定された座標に行こうとしたら『そこには他人の家がある』って言われていけなかった。だからその近くに飛び込んだ」何で俺は彼女に遅れた言い訳のような事を言ってるのか?
「知ってるわよ。私も同じ事言われたし。座標なんて適当に言っただけだしね」彼女は悪びれずに言った。
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