鋼鉄のアレ(仮題)

海星

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人工授精

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この時代、家族関係は希薄だ。
女性は成人後すぐにに出産する。
人工授精で出産する事は義務づけられているのだ。
一人の女性が2人の子供を産む。
従来であれば2人の子供を産んで人口は現状維持だが、それは「男女の子供が産まれてその子供達が将来出産する事になった場合」を考えて、現状維持なのである。
産まれてくる子供が、産み分けで確実に女の子である事、父親が先人の冷凍精子である事を考えると1人子供を産めば、人口は減らない。
2人子供を産むというのは人口を増やさなくてはならないからだし、何で2人なのか?というと、そう急激に人口を増やしても、その増えた人口を養う社会制度が整えられていないからだ。

当然出産義務で出産した者に母性愛などという物は期待されていない。
出産後、二週間は母親に子育て義務はあるが、その後は国家が運営する施設に子供は移され、そこで育てられ教育される。
そこで遺伝子的に優れている子供達は英才教育を受ける。遺伝子的に優れている、と言っても精子が選びたい放題の状況でほぼ全ての子供が遺伝子的に優れているのだが。

だが、何事にも例外はある。
人工授精が当たり前の世の中で、ごく稀に男性との性行為で誕生した子供が存在する。
人工授精に関する法整備や福利厚生は早急に執り行われた。
だが、そうではないレアケースの法整備は行われなかった。

リサは人工授精により産まれたのではない。
人工授精により誕生した子供は産まれて二週間が経つと母親と引き離される。
だがリサは母親と今でも同居している。

この時代、ルームシェアは当たり前となっている。
子供を産んでも家族として生活しない、という事は生活単位が一人になり数限りなく増える、という事だ。誰もが独り暮らしをすると住宅数が足りなくなる。それ以上に人が孤独に慣れた訳ではない。誰もが人恋しくなる。なので独り暮らしする者同士がより集まって共同生活を送るルームシェアが普通になるのだ。
だがリサはそういったルームシェアは経験していない。母親と生活しているので、その機会がなかったのだ。
そしてリサは教育を受けていない。
人工授精で産まれた者に対する英才教育は行われていたが、そうでない者に対する法整備は一切行われていなかったのだ。
リサは子供の頃、字もまともに読めず書けなかった。だが仮想現実世界はネット社会だ、学ぶ気があれば何事でも学ぶ事が出来た。
リサは独学で学び、狭き門である看護師試験を突破する。
苦労していたリサを見て母親は何を思っていたのか?何も思っていなかった。
リサは父親の顔どころか誰が父親なのかも知らない。リサの母親もその事をリサに話した事はなかった。・・・というより、リサの母親に正気の時がほとんどなかったので聞くタイミングがなかったのだ。
リサが小さな時、まだ母親は正気の時が長かった。だがリサが成長するにつれて母親の正気である時間は短くなっていった。
リサは父親の事を母親には聞けなかった。
子供の頃、母親に父親の事を聞くと母親は発狂し、自分の二の腕を食い千切ろうとしたのだ。
それ以来、リサは母親に父親の事は聞いていない。
わかっている事は母親は父親の事を聞かれた時、自分の二の腕を食い千切ろうとする前に父親の事を「あの方」と呼んだ。
母親が敬意を払うのは母親が入信していたカルト教団の幹部だけだ。
父親はカルト教団の幹部の誰かなのだろう。
それを知った時、リサは「父親に会いたい」とは微塵も思わなくなった。

この時代、父親を知らない方が当たり前なのだ。

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