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見たい!嗅ぎたい!触りたい!

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「今回の依頼、今まで以上に難航しているらしい。」

「依頼の内容を聞いても?」

私に気を遣ってセイさんが済まなそうな顔で言う。
別にセイさんのせいでは無いのに、そんな顔をしなくてもいいのに。

セイさんは少し間を置いて、言いにくそうに口を開く。

「・・・・エンペラードラゴンの撃退。」

聞いた瞬間、セイさんが吹っ飛ばされる位の鼻息が私の鼻から噴出された。

「ドラゴンだと!!??」

「・・・だから、言いたくなかったんだよ・・・。」

セイさんの力無い呟きは華麗にスルーする。

「何で、それを早く言ってくれなかったんですか!!」

「アンタに言ったら心配すると思・・・「連れて行って下さいよ!!」・・・は?」

あん?
セイさんが何か言っていたが、よく聞こえなかった。

「今何て言ったんだ?」

セイさんが怪訝な顔で私を見る。

「連れて行って下さいよ。」

「駄目だ。」

「何故!?」

「危険だからに決まってるだろ!!」

危険なのは知っているよ!
ドラゴンだからな。

私は引き下がるつもりはない。


「ドラゴンですよ?ドラゴン。」

「ああ、しかもドラゴンの最上位クラスのエンペラーの称号の冠が付いたドラゴンだ。
幾ら、デイヴィッドが心配だからって、アンタを連れて行くわけには。」

「何言ってるんですか。デイヴィッドさんが心配で連れて行けと言ってないです。」

セイさんは何言ってんだこいつという顔で私を見る。
いや、だってドラゴンだぞ?

「空想上のモンスターを間近で見る事が出来るんですよ!?
見たいに決まってるじゃないですか!!
ドラゴンなんて空の王と言われた存在ですよ、私の居た世界では。
見たい!是非とも見たい。
木の陰でもいいから見たい!
匂いも嗅ぎたい。出来る事なら触りたい!」

ドラゴンって爬虫類に分類されるよね?
いやぁ、爬虫類大好きなんだよ~。
蛇とか飼いたかったんだ。
許可得られなかったけど。

私の興奮にドン引きのセイさんが若干、いや大幅に距離を取る。

「ドラゴンに触りたいっていう奴、聞いた事無ぇよ。
第一、それほどの距離に近寄らせてくれねぇし、まず踏みつぶされて終わりだよ。」

やっぱり狂暴なのかぁ。
いやでも敵意を見せなければ、大丈夫じゃない?

ううううう。見たい!どうしても見たい。

「セイさん・・・・。」

必殺!!涙目上目遣い!!
美少女のこの顔に陥落するがいい!!

「そんな顔しても、俺効かないからな。
どれだけデイヴィッドに群がるそんな顔した女相手にしてきたと思ってるんだよ。
しかも、アンタがしても胡散臭さしかねぇ。」

「くそがっ!!」

思わず悪態をついてしまった。
おのれ、セイめ。
変な耐性を付けよって。

私の不穏なオーラを感じ取って、セイさんが更に距離を取る。

「ほら見ろ!アンタ脅迫する方が様になってるよ!」

「うるさいですね。お願いの段階で聞いてくれないから、実力行使するまでです。」

私はセイさんににじり寄る。
両手をワキワキと動かし、セイさんの脇腹目掛け突進する。









「ぎゃははははは!や、ちょ、や、め!
ははは!な、なにしや!はははは!
ば、ばかや、ろ。あは、あはははは!!」

セイさんがヒーヒー涙を流しながら、私の攻撃を受け続ける。
首を縦に振るまで攻撃止めねぇぜ?

「どうですか?連れて行ってくれますか?」

「だ、だめだ!くは、ははははははは!」

強情な男だ。

「いつまで耐えられますかね?」

私はセイさんの靴を魔法で脱がせる。
そして羽の様なふわふわした物を作り出し、セイさんの足の裏へ。


「お、おい、やめろ・・・。足の裏は、足の裏は・・・。」

私はにいいいと笑う。
顔がどんどん青褪めていくセイさん。

そして。






「ぎゃああああああああああ!!」











床に伏すセイさん。
体が小刻みに痙攣している。
うむむ、やり過ぎたかな。

まぁ、聡い皆様には分かりましたでしょうが、私の攻撃は擽りです。
最終的に足の裏を羽で擽り、セイさんはノックダウン。


「あ、アンタ・・・・、ホント・・・最低だな・・・!!」

セイさんは息も絶え絶えに、涙声で言い放つ。

「ありがとう。良い褒め言葉だ。」

凄くエエ顔。エエ声でお礼を言う。

「褒めてねぇ!!!」

ガバッと起き上がり、私を睨みつける。
ほぉ、まだ元気がありそうだな。

「ひいいっ!!」

腕を前にクロスさせ、上半身を守る様に身構えるセイさん。
何、その乙女みたいな恰好。


「そんな怯えなくても。」

私はそこまで鬼では無い。
仕方ない。譲歩するか。

「せめて、遠目からじゃ、駄目ですかね?
必要以上には近寄らないので。」

まだ、床に座り込んでいるセイさんの近くに私も座り込んでお願いする。
セイさんは無言で考え込む。

本当、邪魔しないから、お願いします。
ドラゴン見たいんです。

暫くの後、セイさんは口を開く。

「分かったよ。本当に離れた所からなら、連れていってやるよ。」

イエエエエイ!!!!
イエス!

「ありがとうございます!」

セイさんの手を握り締める。

「ぎゃああえ!!!痛ぇ!!潰れる!!」

おっと、手加減を忘れた。

「申し訳ない。つい。」

「つい、じゃ、ねえ!アンタ、化け物染みた力持ってるんだから、気を付けてくれよ!!」

セイさんは手をフーフー息を吹きかけながら、大声で言う。

「へぇ、すいませーん。」

「うわぁ・・・・。棒読み・・・。」

謝ったもーん。
プイと顔を背ける。

「まぁ、いいよ。取り敢えず、俺も詳しい場所を知らないから、ギルドに一度行く必要がある。」

「了解です。」

私は頷く。



翌日、セイさんとギルドに行く。
でも、デイヴィッドさんの依頼の詳細は教えてくれなかった。
エンペラードラゴンはそれほどに危険であるという。

納得出来るが、納得出来ない。
どうしようもない感情で、受付から動こうとしない私に困り果てたであろう受付のお嬢さんは、
おずおずと一枚の依頼書を私に渡す。

「エンペラーまではいかないのですが、こちらのドラゴンも非常に厄介なドラゴンでして、
ミリアムさんの様なお強いハンターさんなら、大丈夫だと思います。」

私は即答する。

「受けます!」

「おい!ちゃんと内容を見ろよ!」

セイさんが横から依頼書を奪い取る。

「お、おい。これは止めといた方がいいぜ・・・。」

「何故?」

セイさんが険しい表情に変化する。

「エンペラードラゴンよりも厄介だぞ、そのエンシャントドラゴンは・・・。」

んん!?



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