上 下
121 / 126

絶好のお出掛け日和

しおりを挟む
本日は快晴!!
何て気持ちの良い朝なんだ!!
それもこれも、デイヴィッドとモンスターを狩りに行けるからなんだぜ!!

いやぁ~。
ゲームでモンスターを狩りに行った事はあるが、現実で行く事になろうとは人生とは分からんもんだ。
ゲーム世界での私の狩猟スタイルは遠距離攻撃の補助タイプ。

遠距離武器で対象を眠らせたり、麻痺させたり、罠を仕掛けたりして、バリバリ近接攻撃派の夫に倒して貰ってた。
なので、夫が戦闘不能になると、一目散でその場から離れ、夫の合流まで逃げまくっていた。

要するにチキンだった。

だが、今は違う。

チートゴリラになったのだ。
違った、チート女。

防具を持たずにノーガード戦法をして無駄死にしていたあの頃とは別離した。
身体強化でゴリゴリの脳筋になり、真のノーガード戦法だ。

当初はあのバカ(すっかり忘れていたが、今ふと思い出した神)に並々ならぬ殺意を抱いていたが、今は少し、ほんの少し、爪の垢位は感謝している。
今の夫の強さは分からないが、Sランクのハンターならばきっと彼もあのバカに何かして貰ったのだろう。

セイさんも何とSだったのには驚いた。
その事を正直に言うと、とても傷付いた顔をして、

「ミリアムさんと比べたら、誰だって子供みたいに見えるだろうさ・・・。」

哀愁漂う背中に思わず謝ってしまった。

まぁ、兎に角だ、強い人間が3人。
モンスターを狩りに行く。
だが、慢心はしたら駄目だ。

脳筋と思いきや私は病的なまでの慎重派だ。
常に最悪の事態が起きる事を想定して、戦いは挑まなくてはならない。

身体強化魔法は限界まで磨いて、治癒魔法も全快出来るまでレベルを上げる。
攻撃魔法・・・・、は何故か最初からカンストしていた。
自分の脳筋のせいなのか?バカの嫌味か。

充分過ぎる準備に越したことはない。

安定のアリスからのバナナを頬張りながら、デイヴィッドとセイさんを玄関で待つ。
バナナ食べ過ぎたら、お腹緩くなるんだよな。
モンスター狩る前に私の腹が戦闘不能になるのだけは避けたい。

この美少女がやらかしてしまうなんて、自分でも申し訳ない気持ちになる。
うむ。
一度トイレに行っておこうか・・・。

考えていると。


「早っ!!ミリアム早いな。」

デイヴィッドがのんびりした足取りで奥の通路から歩いてきた。
手に何か持っている。箱?
というか、デイヴィッドの部屋って二階だよな?
何で一階の奥から歩いて来てんだ?

私の胸中を知らずに、デイヴィッドはのほほんとしたまま私に笑いかける。

「そんなスタンバイしててもまだ出発しないから、セイが来るまで応接室で待っていよう。」

ニコニコしているデイヴィッドに緊張感が抜けていく。
てか、もうこの家に順応してるよな。
すげぇわ。尊敬する。

私の実家に初めて来た時もそうだったよな。
多分だけど、彼女の家にしかも親が居るにも関わらず、来て早々に靴下脱いで寛ぎだす彼氏早々居ないと思う。
まぁ、それが私の母親が気に入った要因の一つなんだけどな。
私の母親もちょっと変だったから。(完全に自分を棚に上げている。)

「気を遣われるのは嫌なのよね。蓮君は本当に良い距離で接してくれるから好きだわ~。」

母親の懐に入り込んだ夫。
割烹を営む母親の料理を食べ、どうやって作るのかを尋ねては、作った料理を写真に撮って母親に送っていた。
何、その交流。嫁と姑か。
最終的に料理を教える時、母親は私の目では無く、夫の目を見て話していた。

「アンタに言うより、蓮君に言う方が良いでしょ?どうせアンタ作らないんだから。」

母親のお言葉。全くその通りだったので、無言で頷くだけだった。
まぁ、良いんだけどね?

「ミリアム?」

また過去へトリップしていたので、デイヴィッドに呼び戻された。

「昔を思い出してた。」

「うん?」

私は少し俯く。

「ママンの料理の作り方を聞いてよく作ってくれてたなぁと思って。」

「ああ。だってミリアムお母さん大好きだっただろ。外食した時とか、この料理お母さんの方が美味しいとか言ってたしな。中々実家に帰れないから、お母さんのご飯食べたいかなと思ってな。」

昔を懐かしむ様な声でデイヴィッドは言う。
その声は蓮では無いけれど、私の耳には蓮であると認識する。
ああ、蓮だ。此処に蓮が居るんだ。
今一度その事実を噛み締め、私は目頭が熱くなる。

優しくて穏やかな声に涙が出そうになるのを堪える。
それを誤魔化す様に話を変える。

「奥から歩いていたけど、何してたの?部屋って二階だよね?」

「おお。家を散策してた。こんな広い家初めてだから、楽しくなって色々歩き回ってたんだよ。」

「ああ、そうか。家好きだもんね。」

他人様の家を見るのが大好きなのもそのまま。
デイヴィッドは二カッと大きく歯を見せて笑う。

「凄いよな!部屋沢山あり過ぎて全部廻り切れなかったぞ。それに沢山人も働いてるしな!あ、そうそう。その時にこれをな・・・。」

デイヴィッドは手に持った箱を私の前に出してきた。
そうそう、その箱、気になってたんだ。
デイヴィッドが説明する前にセイさんが降りて来た。

「二人共、早いな。出発まだかかるぞ。」

「おお、セイ。おはよう。」

デイヴィッドはセイさんの方へ向く。
箱。箱の中身を教えてくれ。

「ん?デイヴィッド、何持ってんだ?」

セイさんも気になってくれた。
良かった。
デイヴィッドも、そうだったと私にその箱を手渡す。

「はい。」

ん?貰って良いの?

手渡された箱を開けると、そこには、・・・そこにはなんと。

「ほ、回鍋肉・・・。」

「回鍋肉風の炒め物ね。ミリアム好きだっただろ?一応お弁当に入れようかと思って、作ってみた。」

私は直立不動のまま床に倒れた。
咄嗟に掛けた強化魔法のお蔭で後頭部が割れずに済んだ。

「ちょっ!!!ミリアムさん!?だ、大丈夫か!!??」

バターン!!と倒れたものだから、セイさんが慌てふためいている。

「おお!凄い!倒れてるのに、お弁当箱をしっかり死守してるなんて、流石ミリアムだな!」

その横で全く動じる事の無いデイヴィッド。
セイさんはそのデイヴィッドに詰め寄る形で捲し立てる。

「え!?いや!?違うよな!?今そんな事言う状況じゃないよな!?デイヴィッド!お前、ミリアムさんが倒れたんだぞ!心配するとかしろよ!幾ら魔王だからって、思いっきり頭打ってるじゃないか!」

当然の様に魔王って呼んでるよな。

「あ!そうか。ミリアム?大丈夫か?」

セイさんに言われて漸く私の顔の横に跪く。


「あ、あ、あ、」

私は声が出ない。

「ほらみろ!頭打っておかしくなってるじゃないか!どうすんだ!?これ以上おかしくなるとか、俺こええよ!!」

セイさんは相変わらずパニックでわーわー言っている。
五月蝿いな!おかしくなってねぇわ!

「あ、回鍋肉の他にミリアムが好きだっただし巻き卵と、マカロニサラダみたいなのも作ってみた。
あとは、ミリアムと言ったら芋だよな?
ジャガイモみたいなやつを細切りにして炒めたのもあるから、多分気に入ると思う。」

心配もそこそこデイヴィッドはお弁当の中身の説明をしてきた。
追い討ちかけてきた!
死ぬ!!死んでしまう!!

デイヴィッドがさらりと言うそのお弁当のレパートリーにもう私は完全にノックアウトだ。

「あ、あ、圧倒的女子力!!!!」

それだけ言って私は意識を失った。
嬉しすぎて意識を飛ばすってあるんですね。

しおりを挟む

処理中です...