転生?乙女ゲーム?悪役令嬢?そんなの知るか!私は前世の夫を探しに行く。

コロンパン

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お婿の味

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意識を飛ばしたのはものの数分。

「はっ!!!あぶねぇ!!危うく天に召される所だった。」

「おかえり、突然倒れて叫び出したけど、どうした?」

全く動じないデイヴィッドは普通な感じで疑問を口にする。
私の奇行をそのまま受け流す彼は、ああ、また何か言ってるなで済ますのだ。
私に関心が無いのではなく、ワーワー言っているのを取り敢えず気が済むまで静観しようというスタンス。
う~ん、この放置加減、感慨深い。
そして、私も私でその扱いに慣れているものだから、

「いや、お弁当作るとかどんだけ良妻なのよ、しかも私の好物ばかり。ホント女子力高すぎて震えるわ。
お弁当なんていつ厨房で作ったの?」

普通に返す。デイヴィッドはカラリと笑う。

「うん。うろうろしてた時に行き着いて、入ったらジェフさんと会ってさ。
話している内にお弁当を作る流れになった。回鍋肉に凄く興味深々だった。」

いつの間にかジェフさんと知り合っている。しかも仲良くなっている。
それでお弁当に回鍋肉が入っているのか。

「ていうか、回鍋肉とかよくそんな調味料あったよね?」

私はマジマジとお弁当の中身を凝視しながら呟く。

「あー、そりゃあ。俺ハンターだから、色んな所うろちょろしてるし。
知らない所に行ったら、まず食料品と雑貨屋を見るからな~。」

「女子か!」

「そういや、デイヴィッド。行く先々で皿やらコップやら買い漁ってたな。」

「サラダ用とか、肉料理用とか色んな種類の食器が欲しくてな。」

「女子か!」

「変に洒落た皿で料理出してくるもんな。」

「いや~、見た目が華やかだと作るのも楽しくなるだろ?」

「女子か!・・・おい、ちょっと待ちたまえよ。」

デイヴィッドとセイさんの会話に私は同じツッコミしか入れていない。
が、危うく聞き逃す所だった。

デイヴィッドとセイさんは私の顔を首を傾げながら見る。

「え?今までデイヴィッドがご飯作って、セイさんはそれを食べていやがったの?」

ズオッと私の中の禍々しいオーラが沸き上がる。

「ひぃ!!!??え?え?そ、そうだけど、それが何か?」

「ちょ、おま、ころ、・・・。」

すんでの所で、言葉を止める。
そして私は清々しく微笑み、親指を外へ指してセイさんに言う。

「ちょっと、セイさん修行に付き合ってくれまえよ?」

「!!!!!?????」

口をパクパクさせるセイさん。
私は有無を言わさず、セイさんの首根っこを引っ掴み、外へ連れ出そうとする。

セイさんは涙目で、何が何だか分からない混乱顔をデイヴィッドに見せ、助けを求める。

「もうすぐ出るんだから、そんなに時間かけるなよ?」

全く意図を読み取れないデイヴィッドは笑顔で送り出した。
セイさんの顔はきっと絶望に染まっている事だろう。
可哀想に。
だが、私の怒りは消えはせんのだ。

最愛の夫の手作り料理を食べまくったこのセイさんに何らかの八つ当・・・引導を渡してやらねばならぬのだ。





庭にて。

セイさんはガクガクブルブルしながら、私を見ている。
余りの怯えぶりに私の中のゲージがスンと消える。

うん、八つ当たり良くないよね!?
無駄に悪徳を積む事は止めよう。
そう考え、私はセイさんを見て穏やかに微笑む。

穏やかに微笑む。
穏やかに微笑む。
微笑む。

なのにセイさんは体がバイヴレーションの様に震え始める。
穏やかに微笑んでいるんだってば。

少しの間の後、何かの覚悟(恐らく死であるのだろう)をしてセイさんは私に尋ねる。

「ミ、ミリアムさん・・・?一体・・・、いきなり・・・。」

「美味しかったですか?」

「は、え、美味しかった?」

訳が分からないという顔でセイさんは口籠る。
私は構わず続ける。

「デイヴィッドのご飯は美味しかったですか?」

「デ、デイヴィッドの飯?」

以前、彼の手料理を食べていたのは私だけだったのだ。
何とも自己中心的で独占欲剥き出しなのは十分承知だ。
それでも私だけだった。
だからといって別にセイさんをどうこうしようと、そういう事では無い。

ただ、デイヴィッドの料理がセイさんにはどうだったのか、それが聞きたいのだ。

「デイヴィッドの料理は美味しかったのかどうかを聞いてるだけです。
セイさんを摩り下ろすとかそう言うのは考えていないので正直に答えて下さい。
美味しくなくても別に磨り潰す事はしないので安心して下さい。」

「どんだけ摩りまくりたいんだよ!!それ半分脅しに聞こえるのは俺だけか!?」

「何を言っているのやら。私は純粋な気持ちでデイヴィッドの料理の感想を聞きたいだけですよ。他意はありません。」

今までの自分の行いでセイさんがすっかり疑心暗鬼になってしまった。
よくない、よくない。
私はまた穏やかに微笑む。

いちいち体が跳ねるセイさんに、もうそろそろ傷付いても誰も文句は言わないと思う。

「デイヴィッドの料理、私凄く好きだったんです。
でも、前世で私以外は彼の料理を食べる人が居なかったから、その美味しさを誰に伝えるまでもなく、死んでしまったんで。
セイさんはこの世界でデイヴィッドの料理を食べていたのでしょう?
だから感想を聞きたいなぁ、と本当にただそれだけです。」

少し気恥ずかしい。
欲目で美味しいと感じていたのか、他者も認める美味しさなのかそれが少し気になった。

やっと私に殺意が無いと理解してくれたのか、落ち着きを取り戻したセイさんは空を見つめる。

「そうだなぁ・・・。アイツの飯は・・・何て言ったらいんだろうな。
・・・・何か、斬新、だな。」

「斬新?」

私は首を傾げた。

「今なら異世界の人間で片付くんだろうが、それまで食べていた飯と全然違う味付けだったから、斬新、新鮮だったな。それが最初に感じた事だな。」

なるほど。
そういやこの家で食べている料理、西洋風な物が多かったな。

「デイヴィッドも言ってたけど、新しい場所に来たらすぐ食材を見に行って、よく分からん粉とか買って来てた。」

良く分からん粉とか、一歩間違えたら大変マズい代物では?
まぁ、確実に調味料なんだけど。

「新鮮だったけど、」

「だったけど?」

意味ありげに溜めるのは止めてくれ。
私は早く言えと目で促す。
セイさんは私の様子に少し吹き出して言う。

「俺は好きな味だぜ、少なくとも俺はな。
斬新だったけど、普通にうまかったし。こんなやつ食いたいって言ったら、大概は作ってくれたしな。
聞いても無いのに、どんな味付けをしたとかを言ってきた時は、流石に分からなかったが。」

「ああ、セイさんにも聞いたんですか。」

作ってくれたご飯を食べていると、今回はこの調味料を入れてみたけど、どうかな?彼によく聞かれた。
私は美味しいか美味しくないかの差でしか分からない人間で、いつも美味しいよとしか答える事が出来なかった。
もう少しちゃんと答えれば良かったと今更ながらに後悔した。

「色んな調味料を試したいんだよ。でもミリアムもセイも美味しいしか言わないんだもんなぁ。」

後ろからゆったりとしたデイヴィッドの声が聞こえた。
私とセイさんが振り返る。

「何だ、修行するって言ってたのに、話してるだけじゃないか。」

「まぁ、嘘だけどね。」

「嘘かよ。」

悪びれなく言う私にデイヴィッドは笑う。

「そろそろ出発しようかと思ったんだけど、行けるか?」

「うん。行こう。」

セイさんは美味しいと言った。
それで私は満足だった。
デイヴィッドのお弁当箱を抱えて私達は歩き出した。



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