げに美しきその心

コロンパン

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4章

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「だ、旦那様?」

シルヴィアの呼びかけに反応しない。

「ぼく、ずっとまっているんだよ。かあさまと、とうさまが、むかえにきてくれるの。」

「かあさまがとうさまをつれてくるっていってた。」

「さむいよ、かあさま。おなかもすいた。」

「かあさま、どこにいったの?」


シルヴィアは何も言えず、レイフォードの言葉をずっと聞いていた。
子供の頃の夢を見ていたのだろうか、今も夢だと思っているのだろうか、まるで子供の口振りのレイフォード。

かあさまとは、ダイオンの妻、リズベルの事なのだろうか。

(でも、リズベル様は、子供のレイフォード様を置いて何処かに行くような方では無い。
どういう事?)

いくら考えても分からない。
ただ分かる事は、レイフォードが幼少期の心の傷を負ったままだという事。

「かあさま、どうして?どうして、そんなめをしてるの?」

「ぼく、なにかした?」

「いたい、いたい。いたいよ。」

「・・・・・!!」

レイフォードの手を握るシルヴィアの手が震える。
まさか、まさか

(母親に暴力を振るわれていた?)

愕然としたシルヴィア。
実の母親に受ける暴力はどれほど辛い事か、どれほど心を傷つく事か
周りから愛され育ったシルヴィアは真に分かる事は出来ないだろう。

涙が知らぬ間に頬を伝う。
空いた手でそれを拭う。

(泣いては駄目。泣いては駄目。)

レイフォードを憐むようで自分が泣く事は違うと感じた。
だが、涙が止まらない。
止めようとしたら、更に溢れてくる。

「・・っふ。」

嗚咽が漏れる。

それに反応して、レイフォードの瞳がシルヴィアを捉える。

「だれ?」

シルヴィアは涙声で応える。

「・・・シル、ヴィアです。」

「シルヴィア?しらない。」

まだシルヴィアと出会う前のレイフォードなのだろう。

「将来、貴方の妻になる女です。」

記憶が混同しているレイフォードに合わせる。

「つま?」

「はい。」

「つま、つま、・・・・・・・妻など要らない。」

ぼんやりとした目をしたレイフォードが突然夢から醒めた様に意識を持ち、
鋭くシルヴィアを睨む。

いきなりの事に息を呑むシルヴィア。

「妻など、・・・女など要らない。」

彼は女性を嫌悪しているのだろう。
シルヴィアはそう感じ取れた。

「いつか居なくなる存在など、始めから居ない方がいい。」

胸がズキンと痛む。
要らないと言われた痛みなのか、要らないと言ったレイフォードの顔が悲しく歪んでいるのを見てなのか、
恐らく両方だろう。

だが、此処で引いては駄目だ。
シルヴィアは強い意志を持った目で、レイフォードに伝える。

「いいえ、私は居なくなりません。だ、・・・レイフォード様から離れません。」

レイフォードの目が見開く。
だが、直ぐに目を細める。

「嘘だ。女はすぐ何処かへ行く。離れていく。今もそうだ。俺の周りには誰も居ない。」

つ、とレイフォードの目から流れる涙。
シルヴィアは反射的にレイフォードを胸に抱え込む形で抱きしめる。

「私は貴方の傍に居ます。誰も居ないなんて言わないで・・・。」

シルヴィアの溢れ出る涙が、レイフォードの頬に落ちる。
レイフォードは顔を上げると、シルヴィアは涙で顔を濡らしているが、慈愛に満ちた表情でレイフォードを見つめている。

「貴方が要らないと言っても、私は貴方の妻です。
貴方の傍に居ます。ずっと。・・・ずっと、居たいのです。」

「ずっと・・・?」

レイフォードが呟く。

「ええ、ずっと!」

「離れていかない?」

「離れません!」

「・・・そっか・・・。」

レイフォードは目を閉じる。

「なら、いいな・・・。」





シルヴィアレイフォードを抱きしめたまま、ふと冷静になる。
何て大胆な事してしまったのだ。
どんどん顔は熱くなるのに、冷や汗が背筋を伝った。

(どうしよう・・・。レイフォード様、不快に思われていないかしら・・・。)

そっとレイフォードの顔を窺うと、レイフォードは目を閉じ、眠ってしまったようだ。
安堵の息を漏らし、そっとレイフォードから離れ、
労わる様にゆっくりとレイフォードの体を寝かせる。
布団を掛け、抱きしめた際に剥がれたサッシュの木を貼り直す。


「呼吸も安定しているから、取り敢えずはこのまま様子を見ましょう。」

椅子に座り、レイフォードの乱れた髪を整える。

「さっきの事、少しでもレイフォード様に伝わるといいな・・・。
夢だと思われていそうだけど・・。」

レイフォードの手をもう一度、ぎゅっと握る。

「それでもいい。元気になってくれれば。
皆貴方が元気になられる事を祈っています。
だから、独りでは無いですよ。」



その後、朝を迎えソニアが連れてきたガイルが薬を処方し、レイフォードは快方へと向かった。

ゴードンとケビンにも予防薬を処方し、屋敷内での感染の拡大は防ぐ事が出来た。


シルヴィアはレイフォードの部屋へ毎日赴き、レイフォードの傍から離れなかった。

夜にソニアが引き摺って、自室へ連れ帰らなければ、夜もずっと居ただろう。

そんな生活を一週間続けたお蔭で、シルヴィアも体調を崩し、寝込む羽目になった。

ソニアは呆れた顔で、シルヴィアの看病をし、体調が戻ったのは、レイフォードが完治した二日後だった。














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