げに美しきその心

コロンパン

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4章

血斑症

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「・・血斑症?」

聞き慣れない病名に、ゴードンはシルヴィアに聞き返す。

「そう、血斑症。名前の通り血のような赤い斑点が身体中に現れる症状。
クザの種子にも似てるから、クザ病とも言われているわ。」

シルヴィアの説明に納得し頷くゴードン。

「初期症状は風邪と同じで、症状が重くなるにつれ、高熱、発熱、嘔吐、更に幻覚が見えるの。
赤い斑点は高熱時にする発現するわ。」

ゴードンはレイフォードの症状が幻覚症状まで進んでいる事で、事態が深刻であると実感する。

「レ、レイフォード様は、もうすでに幻覚症状まで、発症しています。更に進んでしまうと・・。」

シルヴィアは間を置いて口を開く。

「・・・・・症状が進むと呼吸困難に陥り、
・・・最悪の場合は死に至るわ・・。」

ゴードンの顔が青褪める。

「死・・・。」

次の言葉が出てこない。
拳を固く握る。
唇を噛み締める。
主をみすみす死に至らしめてしまうのか、
何も出来ない自分を不甲斐なく思うゴードン。



その拳をそっと包み込む手。
シルヴィアは穏やかに微笑む。

「大丈夫、今なら間に合うわ。最悪な結果にはならないし、私がさせない。」

シルヴィアを見るゴードン。
自信に満ちた顔をしている。
大丈夫だ。
彼女は助けてくれる。
そう確信した。

「取り敢えずお医者様は、ソニアに頼みましょう。
彼女は早馬よりも早いから。」

「お褒めに預かり光栄です。」

背後からソニアが現れる。

「ああ!びっくりした。ソニア、いつの間に。」

「初めから居ました。」

しれっとソニアが言う。

「なら、分かっているわね。お願い。ガイル先生を連れて来て。」

「シルヴィア様の願いならば。」

ソニアはそう言うと、直ぐ様外へ向かう。
ソニアを見送り

「ゴードン、貴方は感染の確率を上げてはいけなし、他の人にも感染させるといけないから、
私が良いというまで部屋に待機していてくれるかしら。」


「畏まりました。レイフォード様を宜しくお願い致します。」

素直に従うゴードン。

「任せて!」

ゴードンを安心させるように大きく胸を張る。
シルヴィアは早足で自分の部屋に入る。
戸棚に置いてある薬品を片っ端から袋に詰め、
その足でレイフォードの部屋の前に着く。

三回ノックをする。
返事は無い。

「・・・・失礼します。」

部屋に入る。
レイフォードの荒い息が聞こえる。
シルヴィアはレイフォードの近くにまで行き、絶句する。


斑点が顔にまで広がっている。
最早それらが広がり、顔全体を血を被った様にレイフォードの顔が真っ赤に染まっている。

「・・・ここまで、なんて・・・。」

赤い斑点はまず足から発現していく。
そこから全身へと広がる。
顔は一番最後に現れる。
レイフォードは顔の全体が赤く変色する程、症状が進行していた。
北東の屋敷から、此方へ帰ってくるまでに悪化したのか、
向こうで暫く放置していたのかは分からないが、
予断を許さない状況だ。
もしかしたら、体の何処かに赤い斑点が怪我の跡の様に残るかもしれない。

だが、命の方が大事だ。

シルヴィアは自分を奮い立たせる為、両頬を二回叩き腕捲りをする。

万が一の場合にと作ったサッシュの実を煎じた薬がこうも早く役に立つとは。




サッシュの実がこの血斑症に有効だと、気づいたのはシルヴィアだった。

5年前、血斑症を最初に発症したのはソニアだ。
北東から来た行商人が、旅の疲れだとビルフォード家へ到着するや否や体調を崩した。
その介抱を行っていたのがソニアで、その行商人が回復し屋敷を去った翌日、

ソニアの体に異変が現れた。

今まで、風邪も引いた事の無かったソニアが、倦怠感を感じた。
しかし、ソニアは疲れているだけだろうと、気にも留めずそのまま仕事を行っていた。

体の倦怠感は増していき、発熱したことにより漸く医者にかかった。

その時には既に斑点は上半身にまで現れていた。

医者にとって、このような病は初見であったため、対処が遅れ遂には斑点は顔にまで及んだ。

丁度今のレイフォードの様に。


シルヴィアは号泣し、自分が何も出来ない事に絶望した。
せめてもとソニアの好きなサッシュの実をお見舞いに持って行き、
食べやすいように、実を磨り潰しソニアの口へ運んだ。


その日の夜。
ソニアの容体が快方に向かっていると報告を受けた。
シルヴィアは狂喜乱舞し、それから毎日ソニアの元へサッシュの実を届けた。

みるみるうちに回復していくソニア。
そして、完治した。

専属医のガイルとの話し合い、サッシュの木に血斑症に対抗する成分が含まれているのだろうという結論に至った。

実は内部からの対抗に、葉や幹は皮膚に浮き出た斑症に、それぞれ有用である。



シルヴィアは実を煎じて粉末にした薬を、水に溶かす。
レイフォードの上半身を起こし、その水を慎重に気管に入らぬよう口に流し込む。

予めサッシュの果汁を浸した葉を、体中が真っ赤に変色している痛ましいレイフォードの体全体に、涙を浮かべながら貼り付けていく。


「・・・・これでよし。本当にサッシュの木をこちらに植えていて良かった。
ビルフォード家へ取りに行ってたら、手遅れになる所だったわ。」


シルヴィアは一息つき、レイフォードの寝台の横へ椅子を持って行き、腰かける。

「これで、症状は緩和していく筈。」

レイフォードの傍で様子を見ることにする。
今夜は寝ずの番になるだろう。






「・・・・・・・さま。」

「旦那様・・?」

レイフォードから、何か発せられる声にシルヴィアは反応する。



「・・・・あさま。」

レイフォードが何かを掴もうと、手を伸ばす。
咄嗟にシルヴィアは、その手を握る。

それに反応して、レイフォードは目を開ける。
だが虚ろで焦点の定まっていないレイフォードの目はシルヴィアと視線が合う事はない。

シルヴィアはどうしたらいいか、分からずじっとレイフォードを見つめる。


しばらくして、レイフォードが口を開く。





「かあさま、ぼくをいつむかえにきてくれるの?」







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