2 / 7
2
しおりを挟む
毎回同じようにあまり弾まない会話をして、食事を終わらせた。
「二人で話したいんだけど」
単調直入に言えば、アズル様は笑って僕を別の部屋に案内した。
応接室というには少し広く、私室というにはやや豪華な印象の部屋だった。
「ここ何のための部屋?」
「家族で団らんするための部屋だ」
「あーなるほど」
分かるわけがない。
団らんするためだけにある部屋って結局なんのための部屋だ。家族みんなで好きに使えるよってことか?
大きな屋敷は僕には分からないことが多いが、わざわざ聞くのも面倒だ。
アズル様がソファーに座るのを見届けて、その向かいのソファーに座る。
メイドが酒をどうかと勧めてくるが、丁重に断ってお茶を貰う。
テーブルにそれらが用意されてから、アズル様が人払いをしてくれた。
「今回の婚約の意図はなんですか?」
「その話し方でいくのか?」
質問に質問で返されるのははぐらかしたい理由のためか。
そう思い僕が表情を少し曇らせたからか、アズル様は笑う。
「邪推するな、それくらいには仕事ではないということだろ」
そうだと分かってくれているなら日頃からこの話し方でいかせてほしいものだ。
「お前が無理してタメ口をきくのも可愛いが、それが上辺だけだというのも分かっている」
「だったら尚更婚約などする意味はないですね」
口角だけあげて、アズル様はグラスを回して酒を一口。
グラスをテーブルに置くと、じっと視線が合った。
「婚約だけのつもりじゃないがな、これから正式に段取りして結婚するつもりだ」
「……誰と」
分かっているが、万が一何かのカモフラージュではなかろうかと聞かずにはいられなかった。
その些末な希望はきちんと打ち砕かれた。
「お前以外にいないだろ」
軽口のように言われてため息が出る。
「だからどうして僕なんですか? 貴方なら他にいくらでも相手がいるでしょう」
アズル様は立ち上がり僕の前に来て、僕を囲うようにソファーの背に手をついた。
「俺がお前の虜だからな、諦めろ」
「と、とりこ?」
間近で見つめられ動揺する。
さっきまでの冗談のように行ってくれればこっちもいなせるものを、こんなときだけいつもと違うオーラのある本性を少し覗かせるなんて。
「なんだ、わざわざ訳を知りたいか? そうだな、無理に形だけの嫁になられても困るからな。理由は簡単に言うならお前が俺に惚れないからだ」
「は?」
うっかり素が出て失礼な物言いになってしまうが、それにニヤリと笑うんだからタチが悪い。
「もちろん惚れられたら捨てるとかそんな話ではなく、俺に惚れたお前をどこまでも甘やかしてやりたいからだ」
「甘やかすって」
「好きなんだ」
ああ、これは逃げられない。
アズル様はそのまま近づいてきて、キスをする。
そしてそれが徐々に深くなっていくのを受け入れながら、行き着いた結論がそれだった。
僕に隙があることがバレている。
本当に相手が悪かったんだろう。
我武者羅に逃げれば逃してくれたかもしれないし、僕が本気で傷付くと分かればやめてくれるかもしれない。
アズル様は流石にしないだろうが、抵抗を抑え込んで無理矢理できるくらいには力の差がある。そう、それをしないだろうという信頼もあった。
これが嫌いとかどうしても無理な相手なら僕だってもっといろんな方法でもっともっと以前の段階で完全に拒絶する方法を取った。
いっそ憎らしい相手だったら良かったのに。
全力で逃げられたのに。
僕は受け入れたとも諦めたとも言えない複雑な感情ではあったが、抵抗はしないことにした。
遅かれ早かれだなと思ったから。
好きになったわけでない。好きになるわけでもない。
ただ悲しいかな貴族のサガがこんな末端な僕にもあるがために、ある種の情を持ち合わせてしまっていた。尊敬できる相手とは結婚なんて余裕なのだ。むしろそんな相手であることは喜ばしいことなのだ。
とんだクズ野郎との結婚話だってないことはないんだから。いや、その場合だと僕は全力逃亡なんだった。どっちが良かったのか。
兎に角逃げられないと僕が完全に悟ったことが大事だ。
そうなったなら僕の人生の行く道を方向修正するだけだ。
そもそも僕は仕事に情熱がある方ではない。
安定した収入と、適度な休みがあればいい。
給料以上に働く気はないし、不条理は受け流すし、サボるチャンスも見逃さない。
許容範囲なら身分なんかのシガラミも受け入れる。
最初の努力でその後に楽になる算段がつくなら、多少は頑張りもする。
そしてとてつもなく面倒くさいなら逃げる。
今回の件はすべてを放り投げて逃げるべきものか。
それを見極めるためにやってきたのだが、それは受け入れる余地があったということだ。
アズル様は真実を言わないことはあるが、嘘はつかない。
ミスリードを誘うような言動は貴族には付きものだから、そういうことは当然なのだが、さっきの言葉はストレート過ぎる。
新天地でゼロから始めるのは、この人が嘘つきだったと分かってからでもいいのではないか。
それまでは誰かに好かれる人生を送ってみるのも貴重な体験だ。二度目などないかもしれないのだから、味わってみるのもまた一興だ。
ただ本当に相手が悪かったと体で実感することになる。
ソファーで後ろに手をついて座る僕の足の間にはアズル様がいる。
着崩れた服の間から引きずり出された僕のモノが手や口で緩急織り交ぜて刺激さてれている。
「んっ、……あっ、ヤバい、です」
「悪いが、理性が切れるまで何度でもイくことになると覚悟してくれ」
「っ理性って、あぅっ、あぁー」
「お前が誰にも見せていない姿がみたい」
そんなもんいくらでもあるわ!
こんな状況以外にもと、言う余裕はもうすでにない。
経験豊富とは言えない、むしろほとんどないと言える僕が冷静でいられるわけがない。
それでも始めのうちは行為を追えていた。
アズル様の手が僕のベストのボタンに掛かり、タイを外され、引き出されたシャツの裾から手が入ってきて皮膚を撫でられる。
抵抗はしないと決めはしたが、刺激に耐性のない僕は顔を背けたり目をつぶったりと反射的にしてしまう。
そうしているとシャツのボタンも全て外され、次はズボンのベルトに手が掛かる。
唇で僕の胸を触りながら、器用にベルトを抜き去り前がくつろげられる。
そして現在だ。
もうその事で情報処理能力は無効化されて、まともな思考はできない。
堪えるなんてことはそもそも無理な話で、アズル様がわざと焦らしたりして追い詰められるままに反応して高め上げられていく。
そして気がつけば下半身の衣類は足から抜き取られ、僕が着るものはシャツ一枚になっている。
アズル様はそもそもタイもしてなかったし、首元も緩められていたから、服装に乱れはない。
それに気がついたが、そこに感情が乗る前に僕はさらに高められ、たぶんわざとじわじわと絶頂を迎えさせられた。
「アッ! あ……っ……ん……ぁ」
いつの間にかソファーの端を両手共握り、体が微かに震えるほどの絶頂を僕が知っていたはずもない。
余韻と言うにはあまりにも強い波が体を襲っているのに、アズル様は僕を抱き上げ歩き出す。
「あっ、ぁ……ど、どこ」
「風呂だ、今日は長くなる」
運ばれている間に体の熱がようやく冷めてきたというのに、当たり前だがそのまま解放されるわけもなかった。
しっかりと準備された風呂場で、僕もしっかりアズル様の手によって準備を整えられた。
その時点でもう十分喘いで、刺激されて、長い夜なのに、アズル様はそこからが始まりだ。
二人ともバスローブ姿ですでにぐったりしている僕をベッドに下ろすと、すぐさまバスローブを脱ぎ僕の片足を自分の肩に乗せる。
風呂場で散々慣らされたそこがアズル様の目の前に晒されるが、恥ずかしがる感情などもうない。
様々な差を実感するばかりだ。
体格の、体力の、経験値の、まだなにか有りそうな気がする。
思考だけでも逃避したくて、そんな事を考えながら意識を逸らしていたらアズル様に気づかれた。
「名前で呼べ」
集中しないようにしているから、アズル様に気を向けるにはうってつけの要求だ。
「……はぁ、ァ、呼んでます」
「様はいらない」
「そんな……ひゃっ、んッッ!!」
「ほらいつまでも終わらないぞ」
体内を動く指が容赦なく責めてきて、その快感に逃げそうになるのを押さえ込まれて許されず、僕は自分で設けていたアズル様との壁を一つだけ壊すことにした。
「アズル、もう終わらせて……」
「いい子だ、覚悟しろよ」
散々弄(もてあそ)ばれたために、彼を受け入れるのに痛みはなかった。
流石の圧迫感はあるが、それ以上に自分でも分かるほど熱を持ちうねるそこが怒張に貫かれると声なき悲鳴が出た。
そしてゆっくりと律動は始まり、理性が切れても許してもらえなかった……。
自分が何を言っているのか理解できないまま口は勝手に動き、体はそれ以上にいうことを聞かず辛いのに何度もビクビクと反応する。
もう射精ではなく、体の芯で絶頂を迎えているせいで連続なんてくらいじゃないほどイキっぱなしな状態にまでなっても、男は容赦してくれない。
「ぁあア! っも、やっ、ひゃぅあぁぁあ、あ、あ、やだぁ」
「……まだイけるだろ」
「むりぃ、やぁあ、おく、奥やだー、あっあっ、はぁうあ、もう、おく、むりぃい」
「体からでいい、俺を絶え間なく欲しろ」
「あぁぁ、なに、ゃ、わかんない、ああっ、アアッ、はあっやあアァ」
ぐりっと最奥を丁寧に突かれては、ゆっくりと引き抜かれ、完全に抜ききる前に止まる。そこで暫く待機されると、何も拓かれるモノがなくなった奥へ続く道が痺れるようにきゅうきゅうとうねり、それさえも気持ちがいいと感じるまでになっているのに、そこをまたアズルのモノが侵入してくると、息は止まり体は痙攣するほど快感を伝える。そして最後まで貫かれたらその刺激で男を締め上げ、体内の質量をまざまざと実感する。
それが気持ちよくて、苦しい。
息が上がるような激しい動きではない。それでも絶え間なく喘ぐことで呼吸は乱れ、意識したことのない筋肉が緊張と弛緩を繰り返すせいで体の制御はすっかりできなくなっている。
「も、っっあああ……ゅるして、くださ……ひぃ、はあっあァァ」
「こら、懇願じゃなくおねだりにしろ」
そこまで対等な立場に拘らなくてもいいのに。
そう理解できるまで相当時間が掛かった。寧ろこの状況で理解できたことを誉めてほしいくらいだ。
「おねがい、ぼく、ぁはあ、あっ、……ぼく、もう、壊れちゃうよぉ」
「壊してやりたいくらいなんだがな」
「ゃああ、やだぁ、気持ちいいの、もう、いらなぃ」
「仕方ない、今日は終わってやる」
「ぎゃ」
そのまま僕の記憶は途切れた。
「二人で話したいんだけど」
単調直入に言えば、アズル様は笑って僕を別の部屋に案内した。
応接室というには少し広く、私室というにはやや豪華な印象の部屋だった。
「ここ何のための部屋?」
「家族で団らんするための部屋だ」
「あーなるほど」
分かるわけがない。
団らんするためだけにある部屋って結局なんのための部屋だ。家族みんなで好きに使えるよってことか?
大きな屋敷は僕には分からないことが多いが、わざわざ聞くのも面倒だ。
アズル様がソファーに座るのを見届けて、その向かいのソファーに座る。
メイドが酒をどうかと勧めてくるが、丁重に断ってお茶を貰う。
テーブルにそれらが用意されてから、アズル様が人払いをしてくれた。
「今回の婚約の意図はなんですか?」
「その話し方でいくのか?」
質問に質問で返されるのははぐらかしたい理由のためか。
そう思い僕が表情を少し曇らせたからか、アズル様は笑う。
「邪推するな、それくらいには仕事ではないということだろ」
そうだと分かってくれているなら日頃からこの話し方でいかせてほしいものだ。
「お前が無理してタメ口をきくのも可愛いが、それが上辺だけだというのも分かっている」
「だったら尚更婚約などする意味はないですね」
口角だけあげて、アズル様はグラスを回して酒を一口。
グラスをテーブルに置くと、じっと視線が合った。
「婚約だけのつもりじゃないがな、これから正式に段取りして結婚するつもりだ」
「……誰と」
分かっているが、万が一何かのカモフラージュではなかろうかと聞かずにはいられなかった。
その些末な希望はきちんと打ち砕かれた。
「お前以外にいないだろ」
軽口のように言われてため息が出る。
「だからどうして僕なんですか? 貴方なら他にいくらでも相手がいるでしょう」
アズル様は立ち上がり僕の前に来て、僕を囲うようにソファーの背に手をついた。
「俺がお前の虜だからな、諦めろ」
「と、とりこ?」
間近で見つめられ動揺する。
さっきまでの冗談のように行ってくれればこっちもいなせるものを、こんなときだけいつもと違うオーラのある本性を少し覗かせるなんて。
「なんだ、わざわざ訳を知りたいか? そうだな、無理に形だけの嫁になられても困るからな。理由は簡単に言うならお前が俺に惚れないからだ」
「は?」
うっかり素が出て失礼な物言いになってしまうが、それにニヤリと笑うんだからタチが悪い。
「もちろん惚れられたら捨てるとかそんな話ではなく、俺に惚れたお前をどこまでも甘やかしてやりたいからだ」
「甘やかすって」
「好きなんだ」
ああ、これは逃げられない。
アズル様はそのまま近づいてきて、キスをする。
そしてそれが徐々に深くなっていくのを受け入れながら、行き着いた結論がそれだった。
僕に隙があることがバレている。
本当に相手が悪かったんだろう。
我武者羅に逃げれば逃してくれたかもしれないし、僕が本気で傷付くと分かればやめてくれるかもしれない。
アズル様は流石にしないだろうが、抵抗を抑え込んで無理矢理できるくらいには力の差がある。そう、それをしないだろうという信頼もあった。
これが嫌いとかどうしても無理な相手なら僕だってもっといろんな方法でもっともっと以前の段階で完全に拒絶する方法を取った。
いっそ憎らしい相手だったら良かったのに。
全力で逃げられたのに。
僕は受け入れたとも諦めたとも言えない複雑な感情ではあったが、抵抗はしないことにした。
遅かれ早かれだなと思ったから。
好きになったわけでない。好きになるわけでもない。
ただ悲しいかな貴族のサガがこんな末端な僕にもあるがために、ある種の情を持ち合わせてしまっていた。尊敬できる相手とは結婚なんて余裕なのだ。むしろそんな相手であることは喜ばしいことなのだ。
とんだクズ野郎との結婚話だってないことはないんだから。いや、その場合だと僕は全力逃亡なんだった。どっちが良かったのか。
兎に角逃げられないと僕が完全に悟ったことが大事だ。
そうなったなら僕の人生の行く道を方向修正するだけだ。
そもそも僕は仕事に情熱がある方ではない。
安定した収入と、適度な休みがあればいい。
給料以上に働く気はないし、不条理は受け流すし、サボるチャンスも見逃さない。
許容範囲なら身分なんかのシガラミも受け入れる。
最初の努力でその後に楽になる算段がつくなら、多少は頑張りもする。
そしてとてつもなく面倒くさいなら逃げる。
今回の件はすべてを放り投げて逃げるべきものか。
それを見極めるためにやってきたのだが、それは受け入れる余地があったということだ。
アズル様は真実を言わないことはあるが、嘘はつかない。
ミスリードを誘うような言動は貴族には付きものだから、そういうことは当然なのだが、さっきの言葉はストレート過ぎる。
新天地でゼロから始めるのは、この人が嘘つきだったと分かってからでもいいのではないか。
それまでは誰かに好かれる人生を送ってみるのも貴重な体験だ。二度目などないかもしれないのだから、味わってみるのもまた一興だ。
ただ本当に相手が悪かったと体で実感することになる。
ソファーで後ろに手をついて座る僕の足の間にはアズル様がいる。
着崩れた服の間から引きずり出された僕のモノが手や口で緩急織り交ぜて刺激さてれている。
「んっ、……あっ、ヤバい、です」
「悪いが、理性が切れるまで何度でもイくことになると覚悟してくれ」
「っ理性って、あぅっ、あぁー」
「お前が誰にも見せていない姿がみたい」
そんなもんいくらでもあるわ!
こんな状況以外にもと、言う余裕はもうすでにない。
経験豊富とは言えない、むしろほとんどないと言える僕が冷静でいられるわけがない。
それでも始めのうちは行為を追えていた。
アズル様の手が僕のベストのボタンに掛かり、タイを外され、引き出されたシャツの裾から手が入ってきて皮膚を撫でられる。
抵抗はしないと決めはしたが、刺激に耐性のない僕は顔を背けたり目をつぶったりと反射的にしてしまう。
そうしているとシャツのボタンも全て外され、次はズボンのベルトに手が掛かる。
唇で僕の胸を触りながら、器用にベルトを抜き去り前がくつろげられる。
そして現在だ。
もうその事で情報処理能力は無効化されて、まともな思考はできない。
堪えるなんてことはそもそも無理な話で、アズル様がわざと焦らしたりして追い詰められるままに反応して高め上げられていく。
そして気がつけば下半身の衣類は足から抜き取られ、僕が着るものはシャツ一枚になっている。
アズル様はそもそもタイもしてなかったし、首元も緩められていたから、服装に乱れはない。
それに気がついたが、そこに感情が乗る前に僕はさらに高められ、たぶんわざとじわじわと絶頂を迎えさせられた。
「アッ! あ……っ……ん……ぁ」
いつの間にかソファーの端を両手共握り、体が微かに震えるほどの絶頂を僕が知っていたはずもない。
余韻と言うにはあまりにも強い波が体を襲っているのに、アズル様は僕を抱き上げ歩き出す。
「あっ、ぁ……ど、どこ」
「風呂だ、今日は長くなる」
運ばれている間に体の熱がようやく冷めてきたというのに、当たり前だがそのまま解放されるわけもなかった。
しっかりと準備された風呂場で、僕もしっかりアズル様の手によって準備を整えられた。
その時点でもう十分喘いで、刺激されて、長い夜なのに、アズル様はそこからが始まりだ。
二人ともバスローブ姿ですでにぐったりしている僕をベッドに下ろすと、すぐさまバスローブを脱ぎ僕の片足を自分の肩に乗せる。
風呂場で散々慣らされたそこがアズル様の目の前に晒されるが、恥ずかしがる感情などもうない。
様々な差を実感するばかりだ。
体格の、体力の、経験値の、まだなにか有りそうな気がする。
思考だけでも逃避したくて、そんな事を考えながら意識を逸らしていたらアズル様に気づかれた。
「名前で呼べ」
集中しないようにしているから、アズル様に気を向けるにはうってつけの要求だ。
「……はぁ、ァ、呼んでます」
「様はいらない」
「そんな……ひゃっ、んッッ!!」
「ほらいつまでも終わらないぞ」
体内を動く指が容赦なく責めてきて、その快感に逃げそうになるのを押さえ込まれて許されず、僕は自分で設けていたアズル様との壁を一つだけ壊すことにした。
「アズル、もう終わらせて……」
「いい子だ、覚悟しろよ」
散々弄(もてあそ)ばれたために、彼を受け入れるのに痛みはなかった。
流石の圧迫感はあるが、それ以上に自分でも分かるほど熱を持ちうねるそこが怒張に貫かれると声なき悲鳴が出た。
そしてゆっくりと律動は始まり、理性が切れても許してもらえなかった……。
自分が何を言っているのか理解できないまま口は勝手に動き、体はそれ以上にいうことを聞かず辛いのに何度もビクビクと反応する。
もう射精ではなく、体の芯で絶頂を迎えているせいで連続なんてくらいじゃないほどイキっぱなしな状態にまでなっても、男は容赦してくれない。
「ぁあア! っも、やっ、ひゃぅあぁぁあ、あ、あ、やだぁ」
「……まだイけるだろ」
「むりぃ、やぁあ、おく、奥やだー、あっあっ、はぁうあ、もう、おく、むりぃい」
「体からでいい、俺を絶え間なく欲しろ」
「あぁぁ、なに、ゃ、わかんない、ああっ、アアッ、はあっやあアァ」
ぐりっと最奥を丁寧に突かれては、ゆっくりと引き抜かれ、完全に抜ききる前に止まる。そこで暫く待機されると、何も拓かれるモノがなくなった奥へ続く道が痺れるようにきゅうきゅうとうねり、それさえも気持ちがいいと感じるまでになっているのに、そこをまたアズルのモノが侵入してくると、息は止まり体は痙攣するほど快感を伝える。そして最後まで貫かれたらその刺激で男を締め上げ、体内の質量をまざまざと実感する。
それが気持ちよくて、苦しい。
息が上がるような激しい動きではない。それでも絶え間なく喘ぐことで呼吸は乱れ、意識したことのない筋肉が緊張と弛緩を繰り返すせいで体の制御はすっかりできなくなっている。
「も、っっあああ……ゅるして、くださ……ひぃ、はあっあァァ」
「こら、懇願じゃなくおねだりにしろ」
そこまで対等な立場に拘らなくてもいいのに。
そう理解できるまで相当時間が掛かった。寧ろこの状況で理解できたことを誉めてほしいくらいだ。
「おねがい、ぼく、ぁはあ、あっ、……ぼく、もう、壊れちゃうよぉ」
「壊してやりたいくらいなんだがな」
「ゃああ、やだぁ、気持ちいいの、もう、いらなぃ」
「仕方ない、今日は終わってやる」
「ぎゃ」
そのまま僕の記憶は途切れた。
36
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
婚約解消されたネコミミ悪役令息はなぜか王子に溺愛される
日色
BL
大好きな王子に婚約解消されてしまった悪役令息ルジア=アンセルは、ネコミミの呪いをかけられると同時に前世の記憶を思い出した。最後の情けにと両親に与えられた猫カフェで、これからは猫とまったり生きていくことに決めた……はずなのに! なぜか婚約解消したはずの王子レオンが押しかけてきて!?
『悪役令息溺愛アンソロジー』に寄稿したお話です。全11話になる予定です。
*ムーンライトノベルズにも投稿しています。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる