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エピローグ
悪役と奴隷(キャロ視点)
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逆行前の話、キャロ視点です。
エピローグに入りました。
本日三話投稿。
ここまでお付き合いくださった皆様感謝いたします。
残り数話、宜しく御願いします!
それでは、本編どうぞ!
─────────────────
彼女……否、彼を見た時の感想は同情だった。
兄上、カルム殿下の婚約者、メルア・バーナード公子。
公爵家嫡男ではあるが、バーナード公爵家は、政治的理由と、長年王家の血を入れてないため、名ばかりの公爵家として存在している。
そのため、正妃の息子という理由だけで、王位を脅かす可能性のある兄上の嫁ぎ先として決まった。
王家の血を入れたい公爵家と、第二王子に権力を持たせたくない王家の利害が一致した政略結婚。
僕とは別の意味で、彼は兄上に逆らえない。それを兄上も理解しているから、いつだって無理難題を押し付けられていた。
更に可哀想だったのは、バーナード公子が有能だったことであろう。華奢な体に似合い力こそないが、その頭脳は舌を巻くものがあった。
王子妃として教育を受ける傍ら、本来なら兄上の仕事をやり始めたのである。
「メルア様、こちらは殿下の仕事では?」
「えぇ、けれど殿下はお忙しいでしょう? そこまで難しい書類でもありませんし、あ、そこにある書類なのですけれど、殿下に渡してくださる?」
にこりと、綺麗に笑う公子は、声に何処か諦めたような響を含ませる。
当たり前のように令嬢言葉を操り、男性としてはきついだろうドレスを着こなし、ヒールの高い靴ですら問題なく履く。
普通はそれがいかにおかしいのか、同じ男性である僕はわかるはずなのに、あまりにも自然なものだから気付かなかった。
違和感を感じたのはいつだったろうか。学園に入ってからのような気がする。
二人は政略結婚以上の感情は持ち合わせなかった。その状態で学園に入れば、良くないことになるのは明白で。
神の声を聞ける巫女が現れてから、兄上は彼女ばかりに構うようになった。いや、兄上だけではないか。
僕にはその魅力は理解できないが、巫女は庇護欲を煽るらしい。その裏で、苦労する人間がいることを彼らは理解していないのだ。
公子は婚約者として、そして王家の忠臣として、兄上を諌めるどころか、仕事を続けたのである。
王族が学園に入る場合、学業が最優先されるが、多少なりと仕事はある。しかし、巫女ばかりに時間を使っている兄上は、その仕事をしていなかった。
兄上が遊んでいる間、公子が肩代わりしていたのである。
その無理がいつまでも続く訳もなく、兄上に運べと言われた書類を、学園内、王族用執務室へ届けた時、がたん! と部屋の中から音がした。
ゆっくりと扉を開ければ、公子が中で倒れており、書類が一部散乱していた。
「メルア様! 大丈夫ですか!」
「キャロ、心配しなくても大丈夫ですわ、ちょっと目眩がしただけで」
「それは重症って言うんですよっ! なぜ、殿下のためにそこまで!」
愛してるわけでもあるまいに。そう、出かかった言葉を飲み込む。
こんなこと言っても仕方ない。彼だってわかっているのだから。
きっと、苦々しい顔をしていたであろう、僕に向かって、彼は完璧な程の笑顔を作る。
紡がれた言葉は、本来僕ら王族が言わねばならない言葉で。
「誰かがやらないと、困る人がでるでしょう? 殿下だけであればまだ良いでしょうけれど、実際困るのはこの国の民だわ。ゆくゆくは公爵を継ぐにしても、私は今は王子妃ですもの。殿下の代わりを務めるのも仕事でしょう?」
なぜ、彼が兄上の婚約者なのだろう。兄上なんかに関わらなければ苦労せずとも済んだだろうに。
もっと、幸せになる道があるだろうに。
「とにかく休んでください。医務室に行きますよ」
「いや、別に……」
「倒れられたら困ります」
「は、はい」
半ば引き摺るように、公子を医務室に運ぶと、疲れていたのか、規則正しい寝息が聞こえる。
医務室の教師は、渋い顔で僕を見た、何か言いたげなので、首を傾げると、はぁぁぁと深いため息が聞こえる。
「男性が日常的にドレスを着たり、ヒールの高い靴を履いたりすれば、体に負荷がかかります。そこに過労が追加されれば、倒れるのは当たり前です」
淡々と事実を告げるように、教師は言う。
いくら、公爵令息が着るものが、特注品だとしても、男性用ドレスなどというものは存在しない。靴も然り。
華奢だとしても、骨格は男である公子の体には負荷がかかる。
そんなことにも気付かなかったのかと、教師の目は語っていた。
「メルア様……」
貴方はなぜ、そこまで無理をするのですか。その言葉をかける権利は、僕にはない。
ただただ、彼が安息であることを願うしかできないのだ。
エピローグに入りました。
本日三話投稿。
ここまでお付き合いくださった皆様感謝いたします。
残り数話、宜しく御願いします!
それでは、本編どうぞ!
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彼女……否、彼を見た時の感想は同情だった。
兄上、カルム殿下の婚約者、メルア・バーナード公子。
公爵家嫡男ではあるが、バーナード公爵家は、政治的理由と、長年王家の血を入れてないため、名ばかりの公爵家として存在している。
そのため、正妃の息子という理由だけで、王位を脅かす可能性のある兄上の嫁ぎ先として決まった。
王家の血を入れたい公爵家と、第二王子に権力を持たせたくない王家の利害が一致した政略結婚。
僕とは別の意味で、彼は兄上に逆らえない。それを兄上も理解しているから、いつだって無理難題を押し付けられていた。
更に可哀想だったのは、バーナード公子が有能だったことであろう。華奢な体に似合い力こそないが、その頭脳は舌を巻くものがあった。
王子妃として教育を受ける傍ら、本来なら兄上の仕事をやり始めたのである。
「メルア様、こちらは殿下の仕事では?」
「えぇ、けれど殿下はお忙しいでしょう? そこまで難しい書類でもありませんし、あ、そこにある書類なのですけれど、殿下に渡してくださる?」
にこりと、綺麗に笑う公子は、声に何処か諦めたような響を含ませる。
当たり前のように令嬢言葉を操り、男性としてはきついだろうドレスを着こなし、ヒールの高い靴ですら問題なく履く。
普通はそれがいかにおかしいのか、同じ男性である僕はわかるはずなのに、あまりにも自然なものだから気付かなかった。
違和感を感じたのはいつだったろうか。学園に入ってからのような気がする。
二人は政略結婚以上の感情は持ち合わせなかった。その状態で学園に入れば、良くないことになるのは明白で。
神の声を聞ける巫女が現れてから、兄上は彼女ばかりに構うようになった。いや、兄上だけではないか。
僕にはその魅力は理解できないが、巫女は庇護欲を煽るらしい。その裏で、苦労する人間がいることを彼らは理解していないのだ。
公子は婚約者として、そして王家の忠臣として、兄上を諌めるどころか、仕事を続けたのである。
王族が学園に入る場合、学業が最優先されるが、多少なりと仕事はある。しかし、巫女ばかりに時間を使っている兄上は、その仕事をしていなかった。
兄上が遊んでいる間、公子が肩代わりしていたのである。
その無理がいつまでも続く訳もなく、兄上に運べと言われた書類を、学園内、王族用執務室へ届けた時、がたん! と部屋の中から音がした。
ゆっくりと扉を開ければ、公子が中で倒れており、書類が一部散乱していた。
「メルア様! 大丈夫ですか!」
「キャロ、心配しなくても大丈夫ですわ、ちょっと目眩がしただけで」
「それは重症って言うんですよっ! なぜ、殿下のためにそこまで!」
愛してるわけでもあるまいに。そう、出かかった言葉を飲み込む。
こんなこと言っても仕方ない。彼だってわかっているのだから。
きっと、苦々しい顔をしていたであろう、僕に向かって、彼は完璧な程の笑顔を作る。
紡がれた言葉は、本来僕ら王族が言わねばならない言葉で。
「誰かがやらないと、困る人がでるでしょう? 殿下だけであればまだ良いでしょうけれど、実際困るのはこの国の民だわ。ゆくゆくは公爵を継ぐにしても、私は今は王子妃ですもの。殿下の代わりを務めるのも仕事でしょう?」
なぜ、彼が兄上の婚約者なのだろう。兄上なんかに関わらなければ苦労せずとも済んだだろうに。
もっと、幸せになる道があるだろうに。
「とにかく休んでください。医務室に行きますよ」
「いや、別に……」
「倒れられたら困ります」
「は、はい」
半ば引き摺るように、公子を医務室に運ぶと、疲れていたのか、規則正しい寝息が聞こえる。
医務室の教師は、渋い顔で僕を見た、何か言いたげなので、首を傾げると、はぁぁぁと深いため息が聞こえる。
「男性が日常的にドレスを着たり、ヒールの高い靴を履いたりすれば、体に負荷がかかります。そこに過労が追加されれば、倒れるのは当たり前です」
淡々と事実を告げるように、教師は言う。
いくら、公爵令息が着るものが、特注品だとしても、男性用ドレスなどというものは存在しない。靴も然り。
華奢だとしても、骨格は男である公子の体には負荷がかかる。
そんなことにも気付かなかったのかと、教師の目は語っていた。
「メルア様……」
貴方はなぜ、そこまで無理をするのですか。その言葉をかける権利は、僕にはない。
ただただ、彼が安息であることを願うしかできないのだ。
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