処刑され逆行した悪役は悪人になる

白雪慧流

文字の大きさ
117 / 120
エピローグ

悪役と奴隷(キャロ視点)

しおりを挟む
逆行前の話、キャロ視点です。
エピローグに入りました。
本日三話投稿。

ここまでお付き合いくださった皆様感謝いたします。
残り数話、宜しく御願いします!
それでは、本編どうぞ!

─────────────────


 彼女……否、彼を見た時の感想は同情だった。
 兄上、カルム殿下の婚約者、メルア・バーナード公子。

 公爵家嫡男ではあるが、バーナード公爵家は、政治的理由と、長年王家の血を入れてないため、名ばかりの公爵家として存在している。
 そのため、正妃の息子という理由だけで、王位を脅かす可能性のある兄上の嫁ぎ先として決まった。

 王家の血を入れたい公爵家と、第二王子に権力を持たせたくない王家の利害が一致した政略結婚。
 僕とは別の意味で、彼は兄上に逆らえない。それを兄上も理解しているから、いつだって無理難題を押し付けられていた。

 更に可哀想だったのは、バーナード公子が有能だったことであろう。華奢な体に似合い力こそないが、その頭脳は舌を巻くものがあった。
 王子妃として教育を受ける傍ら、本来なら兄上の仕事をやり始めたのである。

「メルア様、こちらは殿下の仕事では?」
「えぇ、けれど殿下はお忙しいでしょう? そこまで難しい書類でもありませんし、あ、そこにある書類なのですけれど、殿下に渡してくださる?」

 にこりと、綺麗に笑う公子は、声に何処か諦めたような響を含ませる。
 当たり前のように令嬢言葉を操り、男性としてはきついだろうドレスを着こなし、ヒールの高い靴ですら問題なく履く。

 普通はそれがいかにおかしいのか、同じ男性である僕はわかるはずなのに、あまりにも自然なものだから気付かなかった。
 違和感を感じたのはいつだったろうか。学園に入ってからのような気がする。

 二人は政略結婚以上の感情は持ち合わせなかった。その状態で学園に入れば、良くないことになるのは明白で。
 神の声を聞ける巫女が現れてから、兄上は彼女ばかりに構うようになった。いや、兄上だけではないか。

 僕にはその魅力は理解できないが、巫女は庇護欲を煽るらしい。その裏で、苦労する人間がいることを彼らは理解していないのだ。
 公子は婚約者として、そして王家の忠臣として、兄上を諌めるどころか、仕事を続けたのである。

 王族が学園に入る場合、学業が最優先されるが、多少なりと仕事はある。しかし、巫女ばかりに時間を使っている兄上は、その仕事をしていなかった。
 兄上が遊んでいる間、公子が肩代わりしていたのである。

 その無理がいつまでも続く訳もなく、兄上に運べと言われた書類を、学園内、王族用執務室へ届けた時、がたん! と部屋の中から音がした。
 ゆっくりと扉を開ければ、公子が中で倒れており、書類が一部散乱していた。

「メルア様! 大丈夫ですか!」
「キャロ、心配しなくても大丈夫ですわ、ちょっと目眩がしただけで」
「それは重症って言うんですよっ! なぜ、殿下のためにそこまで!」

 愛してるわけでもあるまいに。そう、出かかった言葉を飲み込む。
 こんなこと言っても仕方ない。彼だってわかっているのだから。

 きっと、苦々しい顔をしていたであろう、僕に向かって、彼は完璧な程の笑顔を作る。
 紡がれた言葉は、本来僕ら王族が言わねばならない言葉で。

「誰かがやらないと、困る人がでるでしょう? 殿下だけであればまだ良いでしょうけれど、実際困るのはこの国の民だわ。ゆくゆくは公爵を継ぐにしても、私は今は王子妃ですもの。殿下の代わりを務めるのも仕事でしょう?」

 なぜ、彼が兄上の婚約者なのだろう。兄上なんかに関わらなければ苦労せずとも済んだだろうに。
 もっと、幸せになる道があるだろうに。

「とにかく休んでください。医務室に行きますよ」
「いや、別に……」
「倒れられたら困ります」
「は、はい」

 半ば引き摺るように、公子を医務室に運ぶと、疲れていたのか、規則正しい寝息が聞こえる。
 医務室の教師は、渋い顔で僕を見た、何か言いたげなので、首を傾げると、はぁぁぁと深いため息が聞こえる。

「男性が日常的にドレスを着たり、ヒールの高い靴を履いたりすれば、体に負荷がかかります。そこに過労が追加されれば、倒れるのは当たり前です」

 淡々と事実を告げるように、教師は言う。
 いくら、公爵令息が着るものが、特注品だとしても、男性用ドレスなどというものは存在しない。靴も然り。
 華奢だとしても、骨格は男である公子の体には負荷がかかる。
 そんなことにも気付かなかったのかと、教師の目は語っていた。

「メルア様……」

 貴方はなぜ、そこまで無理をするのですか。その言葉をかける権利は、僕にはない。
 ただただ、彼が安息であることを願うしかできないのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...