四天王最弱な俺ですが、何故か魔王と勇者に溺愛されて困ってます

才賀ゆう

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【2】四天王最弱な俺、唇を狙われて死にかけました 後編

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 どれ位の時間、気を失っていたのだろうか。
 ――暗闇の中で、ぼんやりと声が聞こえる。

(……アーセル……聞こえるか?)

(アーセル……目を……開けて……)

 重なるように響く、ふたつの声。……この声は、間違いない。俺を巻き込んだ元凶の張本人達だ。
 世界の天秤を握る魔王と勇者が俺なんか一人を奪い合う為に本気で争いをしていて。
 で、俺はなぜか気絶して、今ここに転がってる。意味がわからない。何この茶番。俺何かしたっけ?

 お願い、もう帰らせて。俺、肩書きだけの《なんちゃって四天王》なのに!!

 声だけはちゃんと聞こえるのに、体は鉛のように重くて、瞼すら開かない。
 視界ゼロのまま、勇者と魔王が『お前のせいだ』『いや君だ』と責任を押し付け合う声が延々と続いている。
 俺はもう知らない。帰れないならせめて静かに寝かせてくれ。

「アーセルが目覚めなければ、口付けで目を覚まさせるまで……それが、人間界での古の伝承というものだろう?」

 おいおい待て。何この衝撃の展開。誰もが恐れる魔王が、童話を信じてそれを本気で実行しようとするな。しかもよりによって、今ここで。
      
「もちろん知ってるさ。白雪姫は王子のキスで目覚め、そして永遠に幸せに暮らすんだ。今、アーセルは真実の愛を待ってるはずだよ。決めよう――僕と君、どちらがアーセルにとって『本当の王子』なのか」

 その言葉で、一瞬にして眠気なんか吹き飛んだ。
 頭はもうバッチリ目覚めた。ツッコむ準備もできてる。なのに、体が……指一本、瞼ひとつ、ピクリとも動かない。
 だ、だめだ!!この流れ、絶対にやばいやつだ!!今すぐ逃げなきゃいけないのに、なんで動かないんだ俺の体!?てか回復薬とか持ってないの!?
 俺が心の中で絶叫している間にも、事態はどんどん最悪の方向へ加速していた。
  
「アーセルの唇は先に俺がもらう」
「いや、僕が先だ。第一君は王子じゃなくて魔王だろ」

 なんで!? なんでどっちが先にキスするかみたいな空気になってんの!?俺の意思は!?

「それを言うならお前も王子ではないだろう。偶然聖剣に選ばれただけの、田舎育ちの成り上がり勇者が」
「成り上がりで悪かったな! 少なくとも、血筋だけでその趣味の悪い玉座に座ってるどこかの魔王よりはマシだろ!」

 低レベルな口論のわりに、スケールだけはやたらデカい言い争いが再開されたおかげで、とりあえず俺の唇の純潔が即座に奪われる危機は回避された。
 すぐに魔力と聖剣がまた激突しはじめ、広間の壁が崩れるような音が耳に響く。
 今度は俺、人類と魔族のファーストキス戦争の火種にされてます!?

 しばらく続く戦いの音を、ぼんやり――いや、ガチガチに緊張しながら聞き続けていると、空気が異常に震え始めた。肌がピリつくような、濃密すぎる闇の魔力のざわめき。
 空気ごと圧縮されるようなこの気配……間違いない、ヴァルドの漆黒の魔弾。そして、それが真っ直ぐ俺の方向へ――やばい、来てる、見えないけど絶対こっち来てる!!
 なんでよりによって、今この無抵抗な俺に向けて即死級の魔法が飛んでくるんだよ!?オーバーキルにもほどがあるわ!
 ていうか俺、今唇を奪われるかもってドキドキしてたはずなんだけど!?なんで命まで持ってかれる流れになってんの!?本当に俺のこと好きなの!?
 それとも『手に入らないなら殺してやる』とか思っちゃってたりする!?愛が重いってレベルじゃないぞ!!

「アーセル!!」

 二人の焦った声が重なるように響いた、次の瞬間――
閉ざされた瞼の裏が、一瞬だけ真っ白に弾けるように光った。


 爆音と衝撃――でも、痛みはなかった。
 代わりに感じたのは、妙に近い誰かの体温と、耳元にかかる吐息。息遣いがかすかに震えていて、どこか焦っているようだった。
 やっと、重かった瞼がゆっくりと開いていく。

「……目が覚めて、良かった」

光が差し込んで、最初はぼやけていた視界が少しずつ輪郭を取り戻す。真っ先に映りこんだのは、透き通るような蒼い瞳。
 すぐ側で、ヴァルドの低く唸る様な声が聞こえる。
どうやら彼は、飛んできた魔弾を自らの手で抑え込み、俺を庇ったらしい。

「アーセル、大丈夫か? どこか怪我は――」
「おい勇者、顔が近すぎるぞ。アーセルから離れろ」
「僕は彼を庇おうとしてただけだ。君こそ、自分の魔法で彼を危険に晒したこと、忘れてないよね?」

 ようやく体が動くようになったのに気づいた俺は、覆いかぶさってたシリウスを乱暴に押しのけ、勢いのまま立ち上がった。

「……はぁ、はぁ……もう無理……静かに生きていたいだけなのに……なんで、なんでこんな目に……」

 声が震える。頭の中もまだぐるぐるしてる。でももう我慢の限界だ。

 「いい加減にしろこのアホ魔王と勇者!!毎回俺を呼び出しては、俺の意思ガン無視で奪い合って!!今回に至っては唇どころか命ごと持っていこうとしてたよね!?」

 あまりの剣幕に、二人が揃って動きを止める。その隙を逃さず、俺は全力で叫んだ。

「実家に帰らせていただきますッ!!」

 崩壊しかけた広間を突っ切り、廊下を疾走する俺。
もう足はガクガク。でも立ち止まったら終わる気しかしない。

「アーセル! 待ってくれ!」
「まずは話を! 君の気持ちを聞かせてくれ!」

 聞くだけで済まないの、俺もう知ってるから!!
 階段を駆け下り、目指すは自室。そう、唯一の脱出ルート――転移魔道具。それがあれば、少なくとも今日の命と尊厳は守れる。
 迫る足音と喧騒に焦りながら、自室の扉を乱暴に開け放つ。すぐさま壁に飾られた薄緑のガラス製魔道具へと手を伸ばした。急げ――今すぐ発動してくれ!!
 魔力を込めた瞬間、ガラスが淡く輝き、空間が波打つように揺れる。柔らかな光に包まれながら、俺の身体はその場からふっと消えた。



 次に目を開けたとき、そこには見慣れた天井があった。
翠風の館――東方の地に建てられた俺の拠点。その自室のベッドの上に、俺は無造作に寝転がっていた。

「……間に合った……」

《館》とは言いつつも、実際は魔王から東の地の管理を任された際に建てられた、立派すぎる城だ。本当の実家ってわけじゃないけど、少なくとも魔王城よりはるかに平和に過ごせる。俺のお気に入りの避難場所。
 
 魔王も、勇者も、すぐにはここまで来られない。俺の部屋にある転移魔道具は、俺専用で俺にしか反応しない仕様だ。二人がどう足掻いても使用は不可能。ここは完全なるセーフゾーン。俺にとっての、最後の楽園だ。
 俺はよろよろと立ち上がり、窓を開けて深呼吸した。

「ただいま、平和な日常……」

 ああ、この空気、この静けさ。俺が管理を任されている東方の地は、他の四天王の領地と違って、自然豊かで穏やかな場所だ。
 王国と帝国の境界近くにこの城――翠風の館は建っていて、名目上は「不正な越境者を監視する」ために置かれているけど……正直言って、誰も来ない。
 そもそも国境には険しい山脈と、両国から張られた高度な魔法防壁があるんだから、好き好んでここを越えようなんて命知らず、見たことない。
 なのに俺のこと、魔族の間では“翠風の監視者”とか呼んで、何かすごい存在みたいに恐れてるらしい。……まーじで何もしてないんだけどな。
 気持ちを切り替えるために、俺は庭へ出た。
何も考えずに草をむしる。それが今の俺にとって最も効果的な癒しだ。一本抜くごとに、小さくつぶやく。

「お前は……水滴でキラキラしてるから聖剣ブレードリーフ。雑草のくせに光属性すぎるその名前、はいさようなら」
「そしてこいつは……風で揺れる姿から黒マントモドキ。お、きれいに抜けた」

 平凡な日常って、こういう時間の積み重ねのことを言うんだと思う。俺はただ、穏やかに、静かに暮らしたいだけなんだよ――本気で。
 だけど。

「黒マントモドキは、抜かれるたびに根を深く張る。俺自身も、そういう存在だ」

 えっ、今なんか草が喋りませんでした?

 「聖剣ブレードリーフか。アーセルにそう呼ばれたなら、改名しようかな。ふふ、きっと剣も喜ぶよ」
「……うそだろ……」
 
 恐る恐る振り向けば、そこには雑草よりしつこい存在、魔王と勇者が当然のように並んで立っていた。

「うわあああああああああ!!?」
 お前らどこから生えてきた!?堂々としてんじゃねーよ!!思わず草を放り投げ、俺は全力で逃げ出した。
 静かな日常? 穏やかな暮らし?
 そんなもの、俺の辞書には載っていないらしい。
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