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人肌程度のぬくもりのこと
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浪漫談義
海室
好みのタイプは? 飲酒の席で盛り上がった際や、学校行事の修学旅行の夜の談義で必ず話題に上がる議題である。何のことはない。異性に魅力を感じる点を挙げるだけの話である。
体つき。これは人間の本能的な部分が欲する。より強い子孫を残すためである。丈夫な体を持つ雄は強い種を持つ。雌は強い子を産む。
二次的な面を挙げると、性格、学歴、財力など。これは共同生活を円滑に送るためだ。
概ね筆頭にあがるのはこの程度であるが、掘り返せば枚挙に暇がない。
人間は『恋愛』という単語で生殖本能の欲求を清潔に言い表している。しかしドラゴンはその限りでない。雌雄の番は、専ら生殖が目的なのである。
それゆえ彼らが異性に求めるのは、ひたすらに生物的強さである。そして高知能動物らしく、知性をも求める。分かり易く言うと『体が丈夫で高学歴はドラゴンにもモテる』のである。
*
今宵は雨である。六月の最中、梅雨の到来が憂鬱でならない一頭の雌のドラゴン逢川綾は、こたつテーブルの上の林檎の意匠があしらわれたノートパソコンを前に、万年床の上にて短い脚で胡坐をかいたままため息をついた。
土曜日、時は十九時過ぎ。在宅職の綾はひと仕事終え、夕餉も取り終えて空き時間をゆったりと過ごしていた。入浴は終えたものの、お楽しみの飲酒には取り掛かっていない。この時間に未だ帰宅しない同居人が、素面で帰る可能性を見越して待機しているのである。
「窓さえ開けられれば文句なし」
綾はそう独り言ちて背中の一対の翼を振りかぶり、背後の窓をふり帰る。一階であるもののベランダ状に作られているバルコニーは、腰を下ろした状態では何も見えない。最も、これと言って何もない葛西の街のさらに隅であるここからは、雨の降る住宅街の他何も見えないのであるが。
綾はパソコンに向き直ると、画面に映しだされている一頭の雄のドラゴンの写真をうっとりと眺めた。最近巷で流行している若い歌手の写真だ。
「いい角」
綾はそう言いながら画面越しに写真のドラゴンの角を人差し指でなぞってみた。ドラゴンの異性の判断点は、雌雄問わず角の艶や長さが否応なしに評価されるのだ。
「発情期は過ぎたはずなんだけどなあ」
綾はそう言いながら両足をこたつテーブルの下から引き抜き、自身の頭から生える一対の角を避けて枕に後頭部を乗せた。そして下半身に向けて右手を伸ばした瞬間、玄関の錠前が上がる音が狭い部屋に響いた。
「おかえり」
綾のそんな一言を無言で回避しながら、同居人である榎本武士がゆらりと居間に重い足取りで入ってきた。
*
「晩御飯は?」
「外で食ってきた」
「ああそう。まあ聞いたところで用意はしてなかったけどさ」
武士は上体を起こして、左ひじでそれを支える綾を、こたつテーブルの向こう側から一瞥しながら、部屋の右側にある自身の寝床に叩きつけるように黒い肩掛けバッグを置いた。秋葉原に行くと言っていたため、書籍でも購入したのか鈍い音が短く響いた。
「晩御飯はラーメンだったね? 豚骨の。そんでお酒も少し飲んでる。強いやつ」
「ああ。飲み足りねえや」
武士はそう言いながらベッドに腰を乱暴に下した。そしてボサボサ頭を右手で乱暴にかきむしってみせた。
「あとさ、交尾した。人間の女と」
綾の一言に武士は痙攣を起こしたかのように小さくピクリと動いた。そして黒ぶち眼鏡の向こうから、沈んだ黒瞳を綾に向けた。
「どこまでわかるんだ?」
「射精してないところまで。精液の臭いがしないんだもの」
「ああ、くそ。やっぱり風呂も浴びてくるんだった」
「ドラゴンの嗅覚舐めないで欲しいな。ていうか部屋に蔓延して嗅ぎ飽きた臭い、今更消せるなんて思わない方がいいよ」
綾はそう言いながら自身の枕元に転がっていた丸まったティッシュを武士に投げつけた。ティッシュが足元に着地するのを見て、武士は小さく舌打ちする。
「アキバ行ったって言ったじゃん。あそこフーゾクあったっけ? それともそういう相手ができたとか?」
「んなわけねえだろ。吉原まで行ったんだよ」
あー、近いもんね。と、納得する綾を武士は再び睨みつけた。
「臭いからわからないのは、買った女の容姿と、タケがどういう気の迷いを起こして吉原に行ったかってことと」
綾は体を起こし、座った姿勢で、口吻の先の顎を天井に向けた。
「タケの機嫌が悪い事と射精しなかったことの因果関係」
武士は綾のその一言に舌打ちで返答し、眼鏡をはずしてこたつテーブルに投げた。眼鏡は卓上で弾み、向こう側のフローリングに着地して乾いた音を響かせた。
「お前にわかるかってんだ。勃起と射精はひとセットなんだよ。男もあがりゃしねえ」
「わかんないよ。立てるものも出すものもないんだから」
綾はそう言って大口を開けて欠伸した。
「商売女じゃん。本気になっちゃだめだよ」
「うるせえ。本気じゃねえ!」
「そうやって怒ってるあたり本気だと思うけども」
綾がそう言い終えないうちに、武士の黒革の長財布が飛来し綾の左ほほをかすった。財布は窓に当たり、大き目の音を立ててフローリングに落ちた。
「危ないだろ!」
「うるせえ!」
武士は大声で短く返すと、語気を荒げた綾の元へ大股で接近した。そして綾の両肩をひっつかむと、そのまま万年床へねじ伏せた。普段なら武士に絶対に力負けしない綾のそれなりの巨体がころんと仰向けに布団へ転がる。
「遊女にぶちまけれなかったものをアタシに今ここでぶっかけようっての? やめろって。風呂入った後なんだぞ」
「うるせえ。ばっちくねえんだよ」
「見苦しいんだよ」
綾はそう言い放つと、覆いかぶさっている武士の細い両肩をひっつかんで引き離した。
「いい加減にしろよ」
綾は布団の上でしりもちをついた状態になっている武士の前で立ち上がり見下した状態を取る。
「男が上がらないとかさ、なんかよくわかんないんだけどさ、少なくともアタシや財布に八つ当たりしてどうにかなるもんでもねえだろ」
電灯を背負う形になっている綾は、顔に陰りができているものの紅の瞳は爛々と漲って見えた。
ドラゴンは感情変化に疎い。高い知能を持ちながら、原始的な生物の側面を捨てきられなかった彼らは喜怒哀楽のうち顕著に表現するのは喜怒がほとんどである。また表情変化にも同様に疎い彼らは、その少ない感情表現すら人間には読み取れないことがほとんどである。
綾は怒らない。彼女はどんなことでも言葉を荒げたりすることはなく、自身が不利になる状況下でも悠然と対応を行ってきた。
武士は綾と数年の付き合いがあり、また共同生活を行っているため彼女の多くを熟知しているつもりだった。しかし露骨な怒りの表現はここまでついぞ見たことがなかった。
故に武士は純粋に恐怖した。初めて綾が自分に向け語気を荒げ、怒った様を見せたためである。
「財布片付けろ。中身取るぞ」
「302円しか入ってないけど……」
「ジュース代にしちまうぞ。早く片付けろ」
思わず軽口を弾んでしまったが、綾もそれに乗っかってくれた。眼だけを漲らせる綾は、存外怒ってはいないのかもしれない。そう思いつつ武士は四つん這いで這って行って、床に転がる財布を拾って綾に向かって苦笑いをしてみせる。
「風呂入れ、風呂!」
綾はそう言うと勢いよく人差し指を立てた右手を玄関側へ振って見せる。ユニットバスは玄関扉の入って右手側、ミニキッチンの向かいにある。
武士は綾の大き目の声に気おされ、ひいと小さく悲鳴を上げると脱兎の如くバスルームへ駆けて行った。かつて単距離走の選手をやっていただけあり、瞬発力は実に大したものだ。そう思いつつ綾はその情けない様を見届けると、ふうと小さくため息をついて万年床に再び腰を下ろした。
「発情期は過ぎたはずなのにな」
綾はそう小さく呟きながら、画面一面に映っていた歌手の写真のウィンドウを閉じた。
梅雨の小雨が、憂鬱にアパートの屋根を叩く音だけが小さく聞こえた。
*
『サイオパレス葛西』は、家賃5万8000円の場末のオンボロアパートだ。無論風呂トイレは一緒くたのユニットバスである。
蒸し暑くなる昨今はもとより、極寒の最中でも湯船に湯を張ることはない。故に入浴と言いつつもシャワーを浴びるだけである。
烏の行水を終えた武士は、仄かに湯気の立つボサボサ頭をガシガシとバスタオルで拭いながら大きくため息をついた。湯浴みの際も、先ほど下着に脚を通した際も、自身のまたぐらにぶら下がる一物は意気地をなくしたように縮こまっていた。本来想定される使い方ができなかったことはもとより、先ほど綾を怒らせてしまったことが下半身の気力を失わせる要因となっていた。
武士は下着のみで居間に戻ってきた。居間の電気は付いていたものの、綾は万年床に突っ伏して静かに寝息を立てていた。
ドラゴンは口吻が突き出ているので枕に顔を埋めることができない。また背中の一対の羽を自重で押しつぶすことになり、頭上の角も不自由なため仰向けに寝る者は少ない。綾もその例に漏れず、両腕で抱きしめた枕に顎を乗せて眠っていた。
いつもならここで綾の肥えた横っ腹に爪先を差し込んでたたき起こし、酒盛りの相手をさせるのだが、今の武士にその気力は湧きあがらなかった。
自身の寝床たるベッドの上に放り投げてあった鞄のチャックを開けると同時に、万年床に転がる綾にふと目線をやった。綾はドラゴンとしてはそう大きくはないものの、立っていれば背丈は190センチほどある。寝そべって尻尾も伸ばしている今、体長として290センチほどはあるだろう。眼鏡をかけていないぼんやりとした視界でもしっかりと視認できる大きさだ。このような巨体で鼾の一つをかいていても不自然はないだろうが、雨音にかき消されんばかりの小さな寝息しか立てていない。雌のドラゴンである以上に、一応は女の子なんだと武士はぼんやりと思った。
鞄から500mlのチューハイの缶を二本取り出す。アルコール度数9%の所謂ストロング系チューハイだ。今夜はともに飲めそうもない。そう思った武士はミニキッチンまで移動し、シンクの隣にある冷蔵庫にそれを仕舞った。
「明日ちゃんと謝ろう」
綾は一度眠りにつくとなかなか目を覚まさない。さらに寝起きの機嫌もあまりよくないときているため、今無理やり彼女を起こすのは得策でない。
こんなつぶさなことですら綾のことを知っているのに、彼女を怒らせてしまった。ふとそう思った武士は、深くため息をつく。
「もうなんか、男だとか射精だとかウンヌン以前の問題じゃねえか」
武士は鞄をベッドから下ろし、放り投げていた肌着を着衣しつつぽつりと言った。
武士は頭上からぶら下がる電灯の紐に手をかけ、二回引いて消灯した。そして静かに自身の寝床に身を横たえ、頭までタオルケットを被った。
六月と言えど梅雨の関東地方は少し肌寒い。武士はタオルケットからはみ出した素足を包むために、両足を折った。
暗闇の一室には二つの寝息が小さく響く。それを上書きするかのように、とめどなく小雨の雨音が小さく響いた。
*
時間はいかほどか、夜もすっかり更けていた。いつもの土曜日ならまだ起床しており、パソコンのキーボードを叩きながら綾と二人して深夜アニメを視聴しているはずの時間だ。故に武士は不意にタオルケットの闇の中で覚醒した。
眠気はない。すっかり冴えてしまった。しかし布団から出ても何もすることはない。部屋に響く雨音が寝る前よりも勢いを増しており、それが武士のやる気をさらに削いだ。
何より、まだ綾は熟睡しているだろう。横でアニメを見ようものなら、寝起きの綾に再び叱られかねない。先ほどの綾の漲った紅い瞳と口角から覗く鋭い牙を思い出し、背筋だけタオルケットから出ているかのように冷たくなった。
みしり、と、武士の安物のベッドが軋む音がする。続けざまにシーツの衣擦れの音。そして背中に一瞬梅雨の寒さが走ったかと思えば、それを遮るかのように重厚な気配と、仄かなぬくもりが伝わってきた。
「ベッドが壊れちまう」
武士は自分の褥への侵入者を視認せず言った。視力の低い武士が闇の中矯正具なしに周囲を見渡すのは文字通りの暗中模索だ。
「静かに入れば案外大丈夫なもんだよ。最近の安物はドラゴンが乗っかることも想定して作ってる」
壁側を向いて横になる武士の背後から、綾がささやくように言った。
「さっきは悪かった」
「アタシも大きい声出したしね」
武士と綾は同時にふっと息を口から噴き出した。
「思ってたのと違うかったんだよ。その、性行為ってやつはさ。俺はいかんせん童貞の期間が長すぎたから、その、期待値が上がっちまったのかもしれない。そんでイラついて……」
「神格化に近い恐怖を覚えていたのかもね」
綾は武士の傍ににじり寄ってくるのが再び響く衣擦れの音でわかった。
「タケ、こないだの転職のときもそうだったじゃん。わかんないから怯えてるんだよ。で、自分がわかんなくて怖いものだから、神格化してハードル上げて言い訳に使ってる。自己正当化だよ」
「……おっしゃるとおりです」
一息で言い終えた綾に、武士はぐうの音も出ずに小さく肯定した。
「いやせめて射精くらいは……とは思ったんだが」
「イくことがまあ一区切りだもんね。でもタケは勘違いしてるよ。タケが求めてたのは射精の快感じゃないよ」
「いや絶頂だとは思うんだが……」
「タケ言ったじゃん、人間の交尾は高次的なコミュニケーションだって。精液撒くだけなら昆虫にだってできるよ。多分今回アタシわかるよ。こうやって布団に入ってきたのもそのため」
綾はそう言いつつ武士の両肩に自身の両腕を回してきた。女性の腕と呼ぶのがはばかられる、太くたくましい、体毛と同じ白銀の腕だ。彼女は雌のドラゴンだ。
「俺と続きしてくれるのか?」
「ばァか」
背後から綾の使っているシャンプー、といっても武士と同じものだが、の香りが漂ってきて、柄にもなく心臓が早鐘を打ち出した武士の背中に綾は吐き捨てるように言った。
「アタシの操は強い雄のために取っとくつもり」
「なんだ、アヤは処女だったのか」
「アタシらドラゴンは性行為の経験がないことで優劣つけないから何言われても気にしないけどね。まァ、ヴァージンは性病を持っていないある種安全性の指標にはなるかな」
「合理的だこと」
故にアタシは病気はないと付け加える綾に、武士は独り言のように相槌を打った。
「さすがにアタシが腰振ったらこの安物ベッドもオシャカになるだろうしね」
「なんでアヤがリードする前提なんだ」
「できないから射精できてないんでしょ?」
「まだ怒ってる?」
「怒ってないよ」
ふふふと背後で笑う綾の声を聴いて、武士は右手で額を覆った。
ドラゴンは感情表現の起伏が少ない生き物であるが、今夜の綾は怒ったり笑ったりと山の天候よろしく目まぐるしく起伏する。笑うのはいつもの相槌的な反射反応と考えても、実に少女のように気分屋だ。人間の女性だともっと大変なのかなあと武士は瞳を閉じてぼんやり考えてみせる。
「でさ、タケが今求めてるの、アタシはこれだと思うんだよね」
武士が身構える間もなく、両肩にかかった綾の両腕がぐいと引き寄せられた。武士の背中に綾の肥えた腹がぴたりと引っ付く。それと同時に綾の腕が武士の正面で逃げ道を防ぐかのように組まれた。綾に背後から抱きしめられる形となったのだ。
*
「温かいでしょ」
「そうだな」
武士は背中から伝わってくる綾の体温を感じながら、目前で組まれた彼女の両腕に口を埋めた。
オオトカゲ、ハネトカゲ。市中で心無い人間がドラゴンを罵倒する言葉だ。後者に至っては放送コードに引っかかる差別用語認定されている。そう呼ばれており、確かに外見はトカゲのようであるドラゴンだが、鳥類の近縁種が分化進化した末路らしい。そのため体温は恒温で、体には毛が生えている。
ドラゴンが発見されて百年と経っていないためあまり研究は進んでおらず、ひとまず現状ハッキリしていることは『冬でも効率的に動けるように恒温と保温の性質を残して進化したのではないか』と言われているくらいである。
「安心するでしょ」
「もう少し体温が低くて、アヤが毛深くなければ」
衣服の代わりだよ、と、綾は呟く。彼女の生ぬるい吐息が武士の耳元を擽る。若干生臭さがあったため、夕餉は魚類を食べたのだろう。
武士はふと少年の頃自宅で飼っていた一頭の犬を思い出した。両親が結婚した頃に飼い始めた犬で、大型の雑種犬だった。武士が物心ついたころにはすでに老犬になっていた。その老犬を抱きしめたとき、獣臭に交じって仄かな陽光の香りと、心地よいぬくもりを感じたのだ。
「死んだ犬のことを思い出した」
「あー、学生時代話してたね。中学上がった時だっけ? 死んじゃったの」
よく覚えてたな、と、武士はつぶやいた。そもそも、ドラゴンの平熱は38度とやや高く、人類よりも犬や猫に近い。その毛皮も合いあまって、自分と同じシャンプーの匂いさえしなければ犬に抱き寄せられているように錯覚できた。
「遊女と引っ付いたら気持ちよかったでしょ?」
「そりゃね」
「引っ付いたときが一番気持ちよかったでしょ?」
ウーンと武士は綾の腕に口を埋めたまま唸ってみせる。射精を伴わなかったので、行為そのものに快感を見出すことは確かにできない。
「入った実感がなかったもんな」
「そりゃタケの右手と比べたら膣の圧力なんか小さいもんでしょ」
何だかんだ自分の握力は50キロあるからなあとぼんやり思いながら、ふと先日綾がジュースを作るなどと言って右手で林檎を握りつぶしていたのを思い出した。
「そう考えたら地肌に直接伝わる人肌のぬくもりが一番心地よかったかもしれない」
「それだよ、タケが求めていたもの」
綾は武士を抱きしめる力を強くした。武士は思わず小さく唸った。
「ヒトが群れてるところには風は当たらないからね」
「窮屈だが確かに、孤独にはぬくもりが必要だな」
「風呂や布団が心地いのも、人肌のぬくもりがあるからでしょ」
まー経験則の知識だよと綾は付け加える。経験則というより、武士の聞きかじりをまとめただけだろう。
「本物の人肌にはほど遠いかもだけど、まあ適度な近さならアタシでも提供できるよ」
「アヤにしては上出来な慰め言葉じゃん」
「相変わらずヒトの気持ちは複雑怪奇で全くくみ取れないけどね」
アハハと背後で笑う綾の声を聞き流しながら、武士は再び綾の両腕に顔を埋めて瞳を閉じた。
ドラゴンは感受性が著しく低い。故にヒトの気持ちを汲み取れない。しかしその一方で学習能力が高い。度重なる人間の発言から傾向をくみ取り、感受性の欠如を知識量と経験則で補うドラゴンもいるという。綾も、その一端なのだろう。
「俺はなんで吉原なんかに行ったんだろな」
「孤独だったんでしょ?」
「そういうのわかるのアヤに」
「転職してから仕事の話しないし、まあアタシはやめてほしいんだけどさ、大学にも顔出してないみたいじゃん」
武士は閉じていた瞳を開ける。転職して仕事と給金ともに余裕は出た。しかし考えてみれば『ヒト』おろか『アヤ』との会話も無くなっていたように思えた。
「余裕はできたのにな」
「余裕できたからじゃないの? 今までは心も懐具合も体力もいっぱいいっぱいでさ、いろんなものが入り込んで窮屈だったんだよ。他人にもたれかかってしまうのも仕方がない」
「物理的、金銭的余裕が心にゆとりをもたらせたと」
「今回のタケの場合、詰まってたもの全部抜けてゆとりとともに喪失感まででちゃったんだよ」
綾はそう言いながら太い足をもぞもぞと動かした。彼女の同じく太い尻尾が、武士の足の裏を軽く叩いた。
「童貞まで抜けちまって、さらに心に余裕ができちまった」
「できたゆとりに、新しいもの詰めこみなよ」
綾の一言を合図に、ともに出かけた河口湖の温泉や葛西臨海公園の沈む夕日がゆっくりと脳裏をよぎった。
「アヤ、今夜このままで」
「アニメ見ないの? 毎週楽しみにしてたやつじゃん」
「既存のものよりも、新しいものを心に入れたい」
ああ、と綾は小さく呟く。
「アヤを心の中に入れたいんだ」
「タケの心にどの程度の余裕があるか皆目見当もつかないけど、抽象的な部分のアタシは変幻自在だよ。どんな隙間にも入る」
「体と同じく質量も膨大だろうよ」
「全部入りきってなかったわけね」
綾はアハハと笑った。武士もそれにつられてふっと笑った。
ふたりを煽るように屋根を叩いていた雨が、いつの間にやら止んでいた。雨雲も夜が更けて眠くなったのだろうか。それに代わって最寄りの田んぼから蛙の合唱が小さく聞こえてきた。その様は、闇夜のリサイタルだった。
綾の寝息が耳孔を擽る。相変わらず生臭く、生ぬるい吐息だが、その一定のリズムが心地よかった。
背中に伝わってくる綾の体温が心地よい。タオルケットが申し訳程度に捕まえていた武士の体温と混じっているようであった。
武士の頭が睡魔に侵されていく。ゆったりと眠りに落ちていく最中、布団の中で自分と綾の体が溶けてひとつになっていくように錯覚した。
*
「吉原にはドラゴンの遊女もいた」
翌朝、というより既に正午過ぎ。若干遅めの昼食であるカップ焼きそばを啜りながら、武士は言った。綾はその向かいで動かしていた箸を止めて、上目遣いで武士を見る。
「お店の人に聞いたんだけどさ、ドラゴンは春と秋に遊女を買うんだって。人間は無論年がら年中。だから相対的にドラゴンの遊女を買うのは人間が多いんだってさ」
「ドラゴンの発情期、春と秋だからね」
綾はそう言いながら再び箸を動かして焼きそばを啜りだした。
「で、なんでそんな話になるの」
「いやー、なんとなくかな」
武士は箸を置いて、後頭部を右手で掻いてみせた。カップ焼きそばのサイズは綾とおそろいで大盛だ。最近武士の食が太い。
「まどろっこしいね。正直に言ってごらんよ。怒りゃしないんだから」
武士は視線をこたつテーブル上のカップ焼きそばに落とし、観念したかのように息を一つついた。
「アヤって稼ぎいいからさ、本業以外にもそういうことやってんのかなって」
「ばァか。昨日ヴァージンだって言ったじゃん」
「だよなァ。すまん」
武士はそう言いながら、テーブルの中央に置いていた麦茶のピッチャーを取りグラスに注いだ。綾は自分のグラスをそっと武士に差し出した。
「ま、副業はしてるよ。投資だけどね。今はうまくいってるけど崩れたら廓行きかも」
「勘弁してくれよ」
武士は再び焼きそばを啜りだした綾に、グラスに注いだ麦茶を差し出した。
「まどろっこしいったらさ、昨夜のアヤも珍しくまどろっこしかったじゃん」
綾はソースまみれの口吻を半開きにしたまま顔を上げる。そして右手でグラスをひっつかむと、一息に麦茶を飲みほした。
「知れば迷い知らねば迷わぬ恋のみち」
「なんで土方歳三の俳句なの」
綾は口吻をティッシュで拭ってから、口角を上げて牙を覗かせた。牙には焼きそばの青のりが付着していた。
「よくわかんないけど、恋ってのは迷うもんなんだって。要はまどろっこしいもんなんだよ」
「商売女に本気になるなって言ったのはアヤだろ」
武士はいつの間にやらカップ焼きそばを完食し、爪楊枝で歯を梳いていた。
「それとも俺が恋をせねば、と?」
「ま、伴侶を見つけるのは大事なことかもね」
「それともアヤが恋をしているのか……?」
「発情期はもう過ぎたよ」
綾は静かにそう言うと、残りのカップ焼きそばを口に掻きこんだ。
「じゃあなんだってんだ?」
「タケが強いオスになったときに、わかるんじゃないかな……」
綾はそう言ってグラスに麦茶を注ぎながら、小さく曖気を漏らした。
昨夜止んだ雨が再び降りだすことはなかった。本日六月中旬快晴。日光強めの正午過ぎの気温は30度。夏の始まりの号砲が、高らかに鳴り響いたのである。
今年も灼熱の夏がやってくる。青空の下、何かを無くすが、それ以上に何かを得ることのできる、希望の夏が。
fin
海室
好みのタイプは? 飲酒の席で盛り上がった際や、学校行事の修学旅行の夜の談義で必ず話題に上がる議題である。何のことはない。異性に魅力を感じる点を挙げるだけの話である。
体つき。これは人間の本能的な部分が欲する。より強い子孫を残すためである。丈夫な体を持つ雄は強い種を持つ。雌は強い子を産む。
二次的な面を挙げると、性格、学歴、財力など。これは共同生活を円滑に送るためだ。
概ね筆頭にあがるのはこの程度であるが、掘り返せば枚挙に暇がない。
人間は『恋愛』という単語で生殖本能の欲求を清潔に言い表している。しかしドラゴンはその限りでない。雌雄の番は、専ら生殖が目的なのである。
それゆえ彼らが異性に求めるのは、ひたすらに生物的強さである。そして高知能動物らしく、知性をも求める。分かり易く言うと『体が丈夫で高学歴はドラゴンにもモテる』のである。
*
今宵は雨である。六月の最中、梅雨の到来が憂鬱でならない一頭の雌のドラゴン逢川綾は、こたつテーブルの上の林檎の意匠があしらわれたノートパソコンを前に、万年床の上にて短い脚で胡坐をかいたままため息をついた。
土曜日、時は十九時過ぎ。在宅職の綾はひと仕事終え、夕餉も取り終えて空き時間をゆったりと過ごしていた。入浴は終えたものの、お楽しみの飲酒には取り掛かっていない。この時間に未だ帰宅しない同居人が、素面で帰る可能性を見越して待機しているのである。
「窓さえ開けられれば文句なし」
綾はそう独り言ちて背中の一対の翼を振りかぶり、背後の窓をふり帰る。一階であるもののベランダ状に作られているバルコニーは、腰を下ろした状態では何も見えない。最も、これと言って何もない葛西の街のさらに隅であるここからは、雨の降る住宅街の他何も見えないのであるが。
綾はパソコンに向き直ると、画面に映しだされている一頭の雄のドラゴンの写真をうっとりと眺めた。最近巷で流行している若い歌手の写真だ。
「いい角」
綾はそう言いながら画面越しに写真のドラゴンの角を人差し指でなぞってみた。ドラゴンの異性の判断点は、雌雄問わず角の艶や長さが否応なしに評価されるのだ。
「発情期は過ぎたはずなんだけどなあ」
綾はそう言いながら両足をこたつテーブルの下から引き抜き、自身の頭から生える一対の角を避けて枕に後頭部を乗せた。そして下半身に向けて右手を伸ばした瞬間、玄関の錠前が上がる音が狭い部屋に響いた。
「おかえり」
綾のそんな一言を無言で回避しながら、同居人である榎本武士がゆらりと居間に重い足取りで入ってきた。
*
「晩御飯は?」
「外で食ってきた」
「ああそう。まあ聞いたところで用意はしてなかったけどさ」
武士は上体を起こして、左ひじでそれを支える綾を、こたつテーブルの向こう側から一瞥しながら、部屋の右側にある自身の寝床に叩きつけるように黒い肩掛けバッグを置いた。秋葉原に行くと言っていたため、書籍でも購入したのか鈍い音が短く響いた。
「晩御飯はラーメンだったね? 豚骨の。そんでお酒も少し飲んでる。強いやつ」
「ああ。飲み足りねえや」
武士はそう言いながらベッドに腰を乱暴に下した。そしてボサボサ頭を右手で乱暴にかきむしってみせた。
「あとさ、交尾した。人間の女と」
綾の一言に武士は痙攣を起こしたかのように小さくピクリと動いた。そして黒ぶち眼鏡の向こうから、沈んだ黒瞳を綾に向けた。
「どこまでわかるんだ?」
「射精してないところまで。精液の臭いがしないんだもの」
「ああ、くそ。やっぱり風呂も浴びてくるんだった」
「ドラゴンの嗅覚舐めないで欲しいな。ていうか部屋に蔓延して嗅ぎ飽きた臭い、今更消せるなんて思わない方がいいよ」
綾はそう言いながら自身の枕元に転がっていた丸まったティッシュを武士に投げつけた。ティッシュが足元に着地するのを見て、武士は小さく舌打ちする。
「アキバ行ったって言ったじゃん。あそこフーゾクあったっけ? それともそういう相手ができたとか?」
「んなわけねえだろ。吉原まで行ったんだよ」
あー、近いもんね。と、納得する綾を武士は再び睨みつけた。
「臭いからわからないのは、買った女の容姿と、タケがどういう気の迷いを起こして吉原に行ったかってことと」
綾は体を起こし、座った姿勢で、口吻の先の顎を天井に向けた。
「タケの機嫌が悪い事と射精しなかったことの因果関係」
武士は綾のその一言に舌打ちで返答し、眼鏡をはずしてこたつテーブルに投げた。眼鏡は卓上で弾み、向こう側のフローリングに着地して乾いた音を響かせた。
「お前にわかるかってんだ。勃起と射精はひとセットなんだよ。男もあがりゃしねえ」
「わかんないよ。立てるものも出すものもないんだから」
綾はそう言って大口を開けて欠伸した。
「商売女じゃん。本気になっちゃだめだよ」
「うるせえ。本気じゃねえ!」
「そうやって怒ってるあたり本気だと思うけども」
綾がそう言い終えないうちに、武士の黒革の長財布が飛来し綾の左ほほをかすった。財布は窓に当たり、大き目の音を立ててフローリングに落ちた。
「危ないだろ!」
「うるせえ!」
武士は大声で短く返すと、語気を荒げた綾の元へ大股で接近した。そして綾の両肩をひっつかむと、そのまま万年床へねじ伏せた。普段なら武士に絶対に力負けしない綾のそれなりの巨体がころんと仰向けに布団へ転がる。
「遊女にぶちまけれなかったものをアタシに今ここでぶっかけようっての? やめろって。風呂入った後なんだぞ」
「うるせえ。ばっちくねえんだよ」
「見苦しいんだよ」
綾はそう言い放つと、覆いかぶさっている武士の細い両肩をひっつかんで引き離した。
「いい加減にしろよ」
綾は布団の上でしりもちをついた状態になっている武士の前で立ち上がり見下した状態を取る。
「男が上がらないとかさ、なんかよくわかんないんだけどさ、少なくともアタシや財布に八つ当たりしてどうにかなるもんでもねえだろ」
電灯を背負う形になっている綾は、顔に陰りができているものの紅の瞳は爛々と漲って見えた。
ドラゴンは感情変化に疎い。高い知能を持ちながら、原始的な生物の側面を捨てきられなかった彼らは喜怒哀楽のうち顕著に表現するのは喜怒がほとんどである。また表情変化にも同様に疎い彼らは、その少ない感情表現すら人間には読み取れないことがほとんどである。
綾は怒らない。彼女はどんなことでも言葉を荒げたりすることはなく、自身が不利になる状況下でも悠然と対応を行ってきた。
武士は綾と数年の付き合いがあり、また共同生活を行っているため彼女の多くを熟知しているつもりだった。しかし露骨な怒りの表現はここまでついぞ見たことがなかった。
故に武士は純粋に恐怖した。初めて綾が自分に向け語気を荒げ、怒った様を見せたためである。
「財布片付けろ。中身取るぞ」
「302円しか入ってないけど……」
「ジュース代にしちまうぞ。早く片付けろ」
思わず軽口を弾んでしまったが、綾もそれに乗っかってくれた。眼だけを漲らせる綾は、存外怒ってはいないのかもしれない。そう思いつつ武士は四つん這いで這って行って、床に転がる財布を拾って綾に向かって苦笑いをしてみせる。
「風呂入れ、風呂!」
綾はそう言うと勢いよく人差し指を立てた右手を玄関側へ振って見せる。ユニットバスは玄関扉の入って右手側、ミニキッチンの向かいにある。
武士は綾の大き目の声に気おされ、ひいと小さく悲鳴を上げると脱兎の如くバスルームへ駆けて行った。かつて単距離走の選手をやっていただけあり、瞬発力は実に大したものだ。そう思いつつ綾はその情けない様を見届けると、ふうと小さくため息をついて万年床に再び腰を下ろした。
「発情期は過ぎたはずなのにな」
綾はそう小さく呟きながら、画面一面に映っていた歌手の写真のウィンドウを閉じた。
梅雨の小雨が、憂鬱にアパートの屋根を叩く音だけが小さく聞こえた。
*
『サイオパレス葛西』は、家賃5万8000円の場末のオンボロアパートだ。無論風呂トイレは一緒くたのユニットバスである。
蒸し暑くなる昨今はもとより、極寒の最中でも湯船に湯を張ることはない。故に入浴と言いつつもシャワーを浴びるだけである。
烏の行水を終えた武士は、仄かに湯気の立つボサボサ頭をガシガシとバスタオルで拭いながら大きくため息をついた。湯浴みの際も、先ほど下着に脚を通した際も、自身のまたぐらにぶら下がる一物は意気地をなくしたように縮こまっていた。本来想定される使い方ができなかったことはもとより、先ほど綾を怒らせてしまったことが下半身の気力を失わせる要因となっていた。
武士は下着のみで居間に戻ってきた。居間の電気は付いていたものの、綾は万年床に突っ伏して静かに寝息を立てていた。
ドラゴンは口吻が突き出ているので枕に顔を埋めることができない。また背中の一対の羽を自重で押しつぶすことになり、頭上の角も不自由なため仰向けに寝る者は少ない。綾もその例に漏れず、両腕で抱きしめた枕に顎を乗せて眠っていた。
いつもならここで綾の肥えた横っ腹に爪先を差し込んでたたき起こし、酒盛りの相手をさせるのだが、今の武士にその気力は湧きあがらなかった。
自身の寝床たるベッドの上に放り投げてあった鞄のチャックを開けると同時に、万年床に転がる綾にふと目線をやった。綾はドラゴンとしてはそう大きくはないものの、立っていれば背丈は190センチほどある。寝そべって尻尾も伸ばしている今、体長として290センチほどはあるだろう。眼鏡をかけていないぼんやりとした視界でもしっかりと視認できる大きさだ。このような巨体で鼾の一つをかいていても不自然はないだろうが、雨音にかき消されんばかりの小さな寝息しか立てていない。雌のドラゴンである以上に、一応は女の子なんだと武士はぼんやりと思った。
鞄から500mlのチューハイの缶を二本取り出す。アルコール度数9%の所謂ストロング系チューハイだ。今夜はともに飲めそうもない。そう思った武士はミニキッチンまで移動し、シンクの隣にある冷蔵庫にそれを仕舞った。
「明日ちゃんと謝ろう」
綾は一度眠りにつくとなかなか目を覚まさない。さらに寝起きの機嫌もあまりよくないときているため、今無理やり彼女を起こすのは得策でない。
こんなつぶさなことですら綾のことを知っているのに、彼女を怒らせてしまった。ふとそう思った武士は、深くため息をつく。
「もうなんか、男だとか射精だとかウンヌン以前の問題じゃねえか」
武士は鞄をベッドから下ろし、放り投げていた肌着を着衣しつつぽつりと言った。
武士は頭上からぶら下がる電灯の紐に手をかけ、二回引いて消灯した。そして静かに自身の寝床に身を横たえ、頭までタオルケットを被った。
六月と言えど梅雨の関東地方は少し肌寒い。武士はタオルケットからはみ出した素足を包むために、両足を折った。
暗闇の一室には二つの寝息が小さく響く。それを上書きするかのように、とめどなく小雨の雨音が小さく響いた。
*
時間はいかほどか、夜もすっかり更けていた。いつもの土曜日ならまだ起床しており、パソコンのキーボードを叩きながら綾と二人して深夜アニメを視聴しているはずの時間だ。故に武士は不意にタオルケットの闇の中で覚醒した。
眠気はない。すっかり冴えてしまった。しかし布団から出ても何もすることはない。部屋に響く雨音が寝る前よりも勢いを増しており、それが武士のやる気をさらに削いだ。
何より、まだ綾は熟睡しているだろう。横でアニメを見ようものなら、寝起きの綾に再び叱られかねない。先ほどの綾の漲った紅い瞳と口角から覗く鋭い牙を思い出し、背筋だけタオルケットから出ているかのように冷たくなった。
みしり、と、武士の安物のベッドが軋む音がする。続けざまにシーツの衣擦れの音。そして背中に一瞬梅雨の寒さが走ったかと思えば、それを遮るかのように重厚な気配と、仄かなぬくもりが伝わってきた。
「ベッドが壊れちまう」
武士は自分の褥への侵入者を視認せず言った。視力の低い武士が闇の中矯正具なしに周囲を見渡すのは文字通りの暗中模索だ。
「静かに入れば案外大丈夫なもんだよ。最近の安物はドラゴンが乗っかることも想定して作ってる」
壁側を向いて横になる武士の背後から、綾がささやくように言った。
「さっきは悪かった」
「アタシも大きい声出したしね」
武士と綾は同時にふっと息を口から噴き出した。
「思ってたのと違うかったんだよ。その、性行為ってやつはさ。俺はいかんせん童貞の期間が長すぎたから、その、期待値が上がっちまったのかもしれない。そんでイラついて……」
「神格化に近い恐怖を覚えていたのかもね」
綾は武士の傍ににじり寄ってくるのが再び響く衣擦れの音でわかった。
「タケ、こないだの転職のときもそうだったじゃん。わかんないから怯えてるんだよ。で、自分がわかんなくて怖いものだから、神格化してハードル上げて言い訳に使ってる。自己正当化だよ」
「……おっしゃるとおりです」
一息で言い終えた綾に、武士はぐうの音も出ずに小さく肯定した。
「いやせめて射精くらいは……とは思ったんだが」
「イくことがまあ一区切りだもんね。でもタケは勘違いしてるよ。タケが求めてたのは射精の快感じゃないよ」
「いや絶頂だとは思うんだが……」
「タケ言ったじゃん、人間の交尾は高次的なコミュニケーションだって。精液撒くだけなら昆虫にだってできるよ。多分今回アタシわかるよ。こうやって布団に入ってきたのもそのため」
綾はそう言いつつ武士の両肩に自身の両腕を回してきた。女性の腕と呼ぶのがはばかられる、太くたくましい、体毛と同じ白銀の腕だ。彼女は雌のドラゴンだ。
「俺と続きしてくれるのか?」
「ばァか」
背後から綾の使っているシャンプー、といっても武士と同じものだが、の香りが漂ってきて、柄にもなく心臓が早鐘を打ち出した武士の背中に綾は吐き捨てるように言った。
「アタシの操は強い雄のために取っとくつもり」
「なんだ、アヤは処女だったのか」
「アタシらドラゴンは性行為の経験がないことで優劣つけないから何言われても気にしないけどね。まァ、ヴァージンは性病を持っていないある種安全性の指標にはなるかな」
「合理的だこと」
故にアタシは病気はないと付け加える綾に、武士は独り言のように相槌を打った。
「さすがにアタシが腰振ったらこの安物ベッドもオシャカになるだろうしね」
「なんでアヤがリードする前提なんだ」
「できないから射精できてないんでしょ?」
「まだ怒ってる?」
「怒ってないよ」
ふふふと背後で笑う綾の声を聴いて、武士は右手で額を覆った。
ドラゴンは感情表現の起伏が少ない生き物であるが、今夜の綾は怒ったり笑ったりと山の天候よろしく目まぐるしく起伏する。笑うのはいつもの相槌的な反射反応と考えても、実に少女のように気分屋だ。人間の女性だともっと大変なのかなあと武士は瞳を閉じてぼんやり考えてみせる。
「でさ、タケが今求めてるの、アタシはこれだと思うんだよね」
武士が身構える間もなく、両肩にかかった綾の両腕がぐいと引き寄せられた。武士の背中に綾の肥えた腹がぴたりと引っ付く。それと同時に綾の腕が武士の正面で逃げ道を防ぐかのように組まれた。綾に背後から抱きしめられる形となったのだ。
*
「温かいでしょ」
「そうだな」
武士は背中から伝わってくる綾の体温を感じながら、目前で組まれた彼女の両腕に口を埋めた。
オオトカゲ、ハネトカゲ。市中で心無い人間がドラゴンを罵倒する言葉だ。後者に至っては放送コードに引っかかる差別用語認定されている。そう呼ばれており、確かに外見はトカゲのようであるドラゴンだが、鳥類の近縁種が分化進化した末路らしい。そのため体温は恒温で、体には毛が生えている。
ドラゴンが発見されて百年と経っていないためあまり研究は進んでおらず、ひとまず現状ハッキリしていることは『冬でも効率的に動けるように恒温と保温の性質を残して進化したのではないか』と言われているくらいである。
「安心するでしょ」
「もう少し体温が低くて、アヤが毛深くなければ」
衣服の代わりだよ、と、綾は呟く。彼女の生ぬるい吐息が武士の耳元を擽る。若干生臭さがあったため、夕餉は魚類を食べたのだろう。
武士はふと少年の頃自宅で飼っていた一頭の犬を思い出した。両親が結婚した頃に飼い始めた犬で、大型の雑種犬だった。武士が物心ついたころにはすでに老犬になっていた。その老犬を抱きしめたとき、獣臭に交じって仄かな陽光の香りと、心地よいぬくもりを感じたのだ。
「死んだ犬のことを思い出した」
「あー、学生時代話してたね。中学上がった時だっけ? 死んじゃったの」
よく覚えてたな、と、武士はつぶやいた。そもそも、ドラゴンの平熱は38度とやや高く、人類よりも犬や猫に近い。その毛皮も合いあまって、自分と同じシャンプーの匂いさえしなければ犬に抱き寄せられているように錯覚できた。
「遊女と引っ付いたら気持ちよかったでしょ?」
「そりゃね」
「引っ付いたときが一番気持ちよかったでしょ?」
ウーンと武士は綾の腕に口を埋めたまま唸ってみせる。射精を伴わなかったので、行為そのものに快感を見出すことは確かにできない。
「入った実感がなかったもんな」
「そりゃタケの右手と比べたら膣の圧力なんか小さいもんでしょ」
何だかんだ自分の握力は50キロあるからなあとぼんやり思いながら、ふと先日綾がジュースを作るなどと言って右手で林檎を握りつぶしていたのを思い出した。
「そう考えたら地肌に直接伝わる人肌のぬくもりが一番心地よかったかもしれない」
「それだよ、タケが求めていたもの」
綾は武士を抱きしめる力を強くした。武士は思わず小さく唸った。
「ヒトが群れてるところには風は当たらないからね」
「窮屈だが確かに、孤独にはぬくもりが必要だな」
「風呂や布団が心地いのも、人肌のぬくもりがあるからでしょ」
まー経験則の知識だよと綾は付け加える。経験則というより、武士の聞きかじりをまとめただけだろう。
「本物の人肌にはほど遠いかもだけど、まあ適度な近さならアタシでも提供できるよ」
「アヤにしては上出来な慰め言葉じゃん」
「相変わらずヒトの気持ちは複雑怪奇で全くくみ取れないけどね」
アハハと背後で笑う綾の声を聞き流しながら、武士は再び綾の両腕に顔を埋めて瞳を閉じた。
ドラゴンは感受性が著しく低い。故にヒトの気持ちを汲み取れない。しかしその一方で学習能力が高い。度重なる人間の発言から傾向をくみ取り、感受性の欠如を知識量と経験則で補うドラゴンもいるという。綾も、その一端なのだろう。
「俺はなんで吉原なんかに行ったんだろな」
「孤独だったんでしょ?」
「そういうのわかるのアヤに」
「転職してから仕事の話しないし、まあアタシはやめてほしいんだけどさ、大学にも顔出してないみたいじゃん」
武士は閉じていた瞳を開ける。転職して仕事と給金ともに余裕は出た。しかし考えてみれば『ヒト』おろか『アヤ』との会話も無くなっていたように思えた。
「余裕はできたのにな」
「余裕できたからじゃないの? 今までは心も懐具合も体力もいっぱいいっぱいでさ、いろんなものが入り込んで窮屈だったんだよ。他人にもたれかかってしまうのも仕方がない」
「物理的、金銭的余裕が心にゆとりをもたらせたと」
「今回のタケの場合、詰まってたもの全部抜けてゆとりとともに喪失感まででちゃったんだよ」
綾はそう言いながら太い足をもぞもぞと動かした。彼女の同じく太い尻尾が、武士の足の裏を軽く叩いた。
「童貞まで抜けちまって、さらに心に余裕ができちまった」
「できたゆとりに、新しいもの詰めこみなよ」
綾の一言を合図に、ともに出かけた河口湖の温泉や葛西臨海公園の沈む夕日がゆっくりと脳裏をよぎった。
「アヤ、今夜このままで」
「アニメ見ないの? 毎週楽しみにしてたやつじゃん」
「既存のものよりも、新しいものを心に入れたい」
ああ、と綾は小さく呟く。
「アヤを心の中に入れたいんだ」
「タケの心にどの程度の余裕があるか皆目見当もつかないけど、抽象的な部分のアタシは変幻自在だよ。どんな隙間にも入る」
「体と同じく質量も膨大だろうよ」
「全部入りきってなかったわけね」
綾はアハハと笑った。武士もそれにつられてふっと笑った。
ふたりを煽るように屋根を叩いていた雨が、いつの間にやら止んでいた。雨雲も夜が更けて眠くなったのだろうか。それに代わって最寄りの田んぼから蛙の合唱が小さく聞こえてきた。その様は、闇夜のリサイタルだった。
綾の寝息が耳孔を擽る。相変わらず生臭く、生ぬるい吐息だが、その一定のリズムが心地よかった。
背中に伝わってくる綾の体温が心地よい。タオルケットが申し訳程度に捕まえていた武士の体温と混じっているようであった。
武士の頭が睡魔に侵されていく。ゆったりと眠りに落ちていく最中、布団の中で自分と綾の体が溶けてひとつになっていくように錯覚した。
*
「吉原にはドラゴンの遊女もいた」
翌朝、というより既に正午過ぎ。若干遅めの昼食であるカップ焼きそばを啜りながら、武士は言った。綾はその向かいで動かしていた箸を止めて、上目遣いで武士を見る。
「お店の人に聞いたんだけどさ、ドラゴンは春と秋に遊女を買うんだって。人間は無論年がら年中。だから相対的にドラゴンの遊女を買うのは人間が多いんだってさ」
「ドラゴンの発情期、春と秋だからね」
綾はそう言いながら再び箸を動かして焼きそばを啜りだした。
「で、なんでそんな話になるの」
「いやー、なんとなくかな」
武士は箸を置いて、後頭部を右手で掻いてみせた。カップ焼きそばのサイズは綾とおそろいで大盛だ。最近武士の食が太い。
「まどろっこしいね。正直に言ってごらんよ。怒りゃしないんだから」
武士は視線をこたつテーブル上のカップ焼きそばに落とし、観念したかのように息を一つついた。
「アヤって稼ぎいいからさ、本業以外にもそういうことやってんのかなって」
「ばァか。昨日ヴァージンだって言ったじゃん」
「だよなァ。すまん」
武士はそう言いながら、テーブルの中央に置いていた麦茶のピッチャーを取りグラスに注いだ。綾は自分のグラスをそっと武士に差し出した。
「ま、副業はしてるよ。投資だけどね。今はうまくいってるけど崩れたら廓行きかも」
「勘弁してくれよ」
武士は再び焼きそばを啜りだした綾に、グラスに注いだ麦茶を差し出した。
「まどろっこしいったらさ、昨夜のアヤも珍しくまどろっこしかったじゃん」
綾はソースまみれの口吻を半開きにしたまま顔を上げる。そして右手でグラスをひっつかむと、一息に麦茶を飲みほした。
「知れば迷い知らねば迷わぬ恋のみち」
「なんで土方歳三の俳句なの」
綾は口吻をティッシュで拭ってから、口角を上げて牙を覗かせた。牙には焼きそばの青のりが付着していた。
「よくわかんないけど、恋ってのは迷うもんなんだって。要はまどろっこしいもんなんだよ」
「商売女に本気になるなって言ったのはアヤだろ」
武士はいつの間にやらカップ焼きそばを完食し、爪楊枝で歯を梳いていた。
「それとも俺が恋をせねば、と?」
「ま、伴侶を見つけるのは大事なことかもね」
「それともアヤが恋をしているのか……?」
「発情期はもう過ぎたよ」
綾は静かにそう言うと、残りのカップ焼きそばを口に掻きこんだ。
「じゃあなんだってんだ?」
「タケが強いオスになったときに、わかるんじゃないかな……」
綾はそう言ってグラスに麦茶を注ぎながら、小さく曖気を漏らした。
昨夜止んだ雨が再び降りだすことはなかった。本日六月中旬快晴。日光強めの正午過ぎの気温は30度。夏の始まりの号砲が、高らかに鳴り響いたのである。
今年も灼熱の夏がやってくる。青空の下、何かを無くすが、それ以上に何かを得ることのできる、希望の夏が。
fin
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