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第一章 不帰の森
襲撃者、或いは守護者(其の一)※R15
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その夜は新月だった。
漆黒に限りなく近い紺碧の天蓋に、輝きを競い合う無数の星々。されど地上を照らすには及ばず、例えば深い森の闇に対しては全くの無力だ。
木々に閉ざされた黒へ抗うは、人の手に拠る火の明かり。そんな小さな希望さえ、陰鬱に垂れかかる枝が今にも押し潰してしまいそうだ。
ただでさえ心細く、這い寄る恐怖を払うにも労力を要する状況。唯一の拠り所であった明かりが突然失われれば、場の混乱が極まるのは必至。
「敵襲!? 魔物かッ!」
狼狽したダミ声が轟き、同時に鞘走りの音と複数の足音が暗中に気配を混ぜかえす。とはいえ、彼らとて何度も死地を潜ってきた猛者たちだ。不慮の事態に惑えば生命を危うくすることも、当然知っている。視界を奪われながらも各々に身を守り、また迎撃の構えを取れるのは経験の賜物だった。
数秒の緊張――からの、ぎぃんと鋭い金属音。微かに爆ぜた火花に一瞬、敵の片鱗が浮き上がる。
打ち合わされる刃と刃、そして不敵な笑みを湛えた口元。相手は人間か、それに近い姿を持つ者らしい。
「異形ではないな。帯剣している」
男が剣を薙ぎ払い、ごうと風が巻いた。相手は身軽に後方へ跳び、そのまま闇に消える。ダミ声の主とは別の低音を聞き、混乱は一旦落ち着きを見せ始めた。剣を持っている――ならば、いくらかは対策も立てやすい。
「だがいずれにせよ、先ずは視界の確保だ。ブレイク、敵は私が対処するから火を頼む」
「わ、わかった」
的確な指示に細く神経質そうな声が応え、すぐさま石を打つ音と火花が辺りに散る。明かりなどすぐに復旧すると、ここにいる誰もが信じて疑わなかった。
が。
「……点かない! なぜだ!」
悲鳴に近い声があがり、全員の意識がそちらへと集中した。石と打ち金は間違いなく打ち合わさっているし、火花も見て分かるほどに爆ぜている。何より、一行の中で最も道具の扱いに長けているこの男がここまでしくじるとは考えられない。
なのに、火口に火が移らないのだ。まるで生まれた火花が燃え上がるのを拒むように、頑なに闇へと消えてゆく。
「くそ、風も無いのに……!」
「おい魔術士! 火起こしとかできねえのかよ!?」
「私は戦闘魔術専門だ」
「チッ、使えねえ!」
焦る声に被さるように、ダミ声が別の誰かを問い質す。それでも思い通りの答えは得られず、ひらめきは悪態へと形を変えた。
瞬間。
再びの斬撃。
正確に反応した先の男が、冷静に小盾で受け流す。初撃で相手の刃渡りが短いことは把握していた。しかしながら反撃はさらりと躱される。男の長剣は重く、素早い敵とは相性が悪い。せめて剣を扱うもう一人が同じように戦えればと期待をかけてみるが、彼は気配に雑味が多い。殺気を読むなどという繊細な技術は、残念ながら持ち合わせていないのだ。
敵が単体なのはまったく、不幸中の幸いだった。
一方でこの一団を襲撃した青年は、想定外の展開に思わず小さな口笛を吹いていた。
焚火に縛られた火精霊を解放して辺りを闇に閉ざし、混乱に乗じて隊長格の奴から順に潰す計画だった。温度を視る目を持つ彼にとっては、造作もなかったはずなのに。
「……思ったよりやるじゃねーの。面倒臭ェ」
言葉とは裏腹に、その口端はずっと吊り上がったままだ。久しぶりの強敵に闘争本能が叫んでいる。正面から戦ってみたい――と。その欲求に抗う理由はないが、実現するにはまず周囲の取り巻きを排除しなければ。
「さて、どいつから片付けるか」
敵は五体、現在注目しているのは長剣の男だ。探索のために簡略化されているようだが、胸当てや篭手は仕立ての良さそうな金属製のものである。ひと揃いあればさぞ立派な出で立ちに違いない。
剣を持つ者はもう一人いるが、こちらは更に軽装で、得物も反り刃の片手剣だ。先程からがなり立てているのが喧しく、どうにも粗雑な印象を受ける。
別の一人は弓の使い手のようだ。明かりを奪った際にも狼狽えることなく、自分の武器を掴んでサッと身を低くした。おそらく、こういった不慮の事態にも慣れているのだろう。
残りの二人は武器を帯びていない。片方は魔術を使うと言っていたが、戦闘魔術なら発動を見てからでも十分に回避できる自信がある。もう一人は見るからに非戦闘員だ。
「……あいつだな」
闇を貫く彼の目は、てんで見当違いの方向を見ながらも油断なく腰を落とす弓使いの青年を標的と定めた。露払いをするなら、遠隔攻撃の手段を持つ者から消してゆくのが定石。向こうの視界が効かない今が好機だと、襲撃者は足音を忍ばせて獲物の方へと回り込む。
長剣の男がその動きに気付いた様子はない。どうやら殺気に反応していただけで、熱感知のような特殊能力を持つわけでは無さそうだ。そうと分かれば過剰な警戒も不要と、彼の動きも大胆なものになる。
「まずはひと――」
弓使いを間合いに捉えた……と思ったのと、それはほぼ同時だった。
ざらりと耳障りな音がばら撒かれ、彼は抜き身の短剣を手にしたまま大きく後方へと飛びすさる。温度を視る目では、地面に落ちたそれが何なのか咄嗟に判断がつかない。分かるのは、熱を帯びていないことだけだ。
「こ、これで少しは見えるんじゃ……ないかな」
それは、火を起こそうと無駄な奮闘をしていた者の声だった。何をしたのかと視覚をもとに戻せば、地面がぼんやりと発光している。否、無数に散らされた小石が燐光を帯びているのだ。微弱な輝きではあるが、これではもう闇に乗じる手は使えない。
「ち、余計なことを!」
戦いなどには縁の無さそうな者だからと、完全に注意を怠っていた。とはいえ、今更迂闊さを悔いても仕方ない。
このまま弓使いの息の根を止める。
そう判断し、間合いまでの残り数歩を詰めようとして。
「させるかよ!!」
「くッ」
横あいから猪のごとく突きこんできた男を、どうにか体を捻って躱す。鋭い舌打ちと共に対峙する者を見やれば、頼りない光源にぼうと浮きあがる姿が何とも不気味だ。青白い輝きを剣呑に写す刃は、どこか不吉なものにも見える。
「これだけ見えりゃあ十分だ! コソコソ闇討ちなんざしやがって、そんなに俺サマが怖いか!?」
「……るせ。俺ぁ効率重視なんだっつの」
大声で煽るダミ声に、吐き捨てるような低い応え。思うような反応が返ってこないことが不満なのか、髭に埋もれた唇がぐいと歪んだ。
「まあいい。テメェだってのんびりお茶しに来たんじゃねえんだろ? あとは剣で語ろうじゃねえの」
「あぁ。話が早くて助かるぜ」
髭の男が、それこそ語り合うように胸を開いて、だらりと剣を下ろす。余計な力の抜けた姿勢は、却って隙が無い。青年は油断なく短剣を構えるも、攻めあぐねて飛び込めずにいる。
が、敵は目の前の曲剣使いばかりではない。
「っ!」
殺気に反応して横に跳べば、蹴ったばかりの地面を重い一撃が抉る。単騎同士で戦いたいという想いは、残念ながら届かないらしい。強敵と認めたはずの男は、当然のごとく髭面の男に加勢した。
「遊んでいる場合ではないぞ、オゾラ。協力して速やかに片をつける」
「ち……まァいい。こちとら雇われの身だからな。贅沢言ってもいられねえ」
生真面目な直ぐの長剣と、無頼の曲剣。ふたつの剣先が青年へ向けられる。どちらからともなく鋭い呼気が漏れ、全く別種の刃が襲いかかった。
刃を用いた戦いには、いくつかの型がある。
ひとつは、相手の防御をものともせず叩き斬る剛剣。もはや潰すと表現した方が的確なそれは、重量恃みの無骨な鋼の塊だ。先ほど青年の足元を深く穿ったのは、まさにそういった類の剣だった。
また別のひとつは、生き物のように相手を翻弄する不規則な剣筋だ。上段からの振り下ろしと見せかけ、途中で軌道を変えて襲いかかってくる。正確さには若干劣るものの、手傷を負わせるのが目的なら十分だ。
「……ち、やりづれぇ」
右へ左へと跳ね回りながら、青年が小さく悪態をついた。一瞬、背中に布の塊をぶつけられたような気がしたが、今はそんなことに構っていられない。
彼の持つ剣は短剣にしてはやや大ぶりといえ、長剣に比べればやはり間合いが短い。必然的に奇襲での一撃必殺を狙うことになるが、初手の闇討ちは相手の剣に阻まれた。
かといって彼も、対面での戦闘が特段苦手なわけではない。持ち前の敏捷性と機動力を活かして懐に飛び込み、急所を斬り裂くのが彼の最も得意とする戦い方だ。
「こいつら、なかなかやるな。どっちか片方ならともかく、二人がかりじゃ隙が見えねえ……っと!」
思わず言い訳めいたものを口の中で唱えかけた瞬間、眼前に刃が迫る。咄嗟に身を翻すが、髭の男は彼が想定した以上に優秀な使い手のようだ。胸と左肩の衣服が裂けて、僅かに血が滲んだ。
「おらッ、最初の威勢はどうしたよ!? それともお上品に一対一で勝負してみっか?」
「無駄な挑発はするな。奴が人間とはまだ決まっていない」
「だったらどうだってんだ!?」
顔も分からぬ薄明かりの中、曲剣を振り回して男が吠える。すかさず長剣の男が窘めるが、獰猛な野犬のような男が素直に従うわけもなく。
「こいつが人間じゃなかろうが、叩っ斬っちまえば文句はねえんだろ?」
「その通りだが、油断は」
「ンなもん、すっかよ! 俺ァいつだって――」
要らぬ忠告にがなり返した男が、再び襲撃者へと目を向けた時。
そこには既に誰もおらず、柔らかな青い光が地表に揺らめくばかりであった。
漆黒に限りなく近い紺碧の天蓋に、輝きを競い合う無数の星々。されど地上を照らすには及ばず、例えば深い森の闇に対しては全くの無力だ。
木々に閉ざされた黒へ抗うは、人の手に拠る火の明かり。そんな小さな希望さえ、陰鬱に垂れかかる枝が今にも押し潰してしまいそうだ。
ただでさえ心細く、這い寄る恐怖を払うにも労力を要する状況。唯一の拠り所であった明かりが突然失われれば、場の混乱が極まるのは必至。
「敵襲!? 魔物かッ!」
狼狽したダミ声が轟き、同時に鞘走りの音と複数の足音が暗中に気配を混ぜかえす。とはいえ、彼らとて何度も死地を潜ってきた猛者たちだ。不慮の事態に惑えば生命を危うくすることも、当然知っている。視界を奪われながらも各々に身を守り、また迎撃の構えを取れるのは経験の賜物だった。
数秒の緊張――からの、ぎぃんと鋭い金属音。微かに爆ぜた火花に一瞬、敵の片鱗が浮き上がる。
打ち合わされる刃と刃、そして不敵な笑みを湛えた口元。相手は人間か、それに近い姿を持つ者らしい。
「異形ではないな。帯剣している」
男が剣を薙ぎ払い、ごうと風が巻いた。相手は身軽に後方へ跳び、そのまま闇に消える。ダミ声の主とは別の低音を聞き、混乱は一旦落ち着きを見せ始めた。剣を持っている――ならば、いくらかは対策も立てやすい。
「だがいずれにせよ、先ずは視界の確保だ。ブレイク、敵は私が対処するから火を頼む」
「わ、わかった」
的確な指示に細く神経質そうな声が応え、すぐさま石を打つ音と火花が辺りに散る。明かりなどすぐに復旧すると、ここにいる誰もが信じて疑わなかった。
が。
「……点かない! なぜだ!」
悲鳴に近い声があがり、全員の意識がそちらへと集中した。石と打ち金は間違いなく打ち合わさっているし、火花も見て分かるほどに爆ぜている。何より、一行の中で最も道具の扱いに長けているこの男がここまでしくじるとは考えられない。
なのに、火口に火が移らないのだ。まるで生まれた火花が燃え上がるのを拒むように、頑なに闇へと消えてゆく。
「くそ、風も無いのに……!」
「おい魔術士! 火起こしとかできねえのかよ!?」
「私は戦闘魔術専門だ」
「チッ、使えねえ!」
焦る声に被さるように、ダミ声が別の誰かを問い質す。それでも思い通りの答えは得られず、ひらめきは悪態へと形を変えた。
瞬間。
再びの斬撃。
正確に反応した先の男が、冷静に小盾で受け流す。初撃で相手の刃渡りが短いことは把握していた。しかしながら反撃はさらりと躱される。男の長剣は重く、素早い敵とは相性が悪い。せめて剣を扱うもう一人が同じように戦えればと期待をかけてみるが、彼は気配に雑味が多い。殺気を読むなどという繊細な技術は、残念ながら持ち合わせていないのだ。
敵が単体なのはまったく、不幸中の幸いだった。
一方でこの一団を襲撃した青年は、想定外の展開に思わず小さな口笛を吹いていた。
焚火に縛られた火精霊を解放して辺りを闇に閉ざし、混乱に乗じて隊長格の奴から順に潰す計画だった。温度を視る目を持つ彼にとっては、造作もなかったはずなのに。
「……思ったよりやるじゃねーの。面倒臭ェ」
言葉とは裏腹に、その口端はずっと吊り上がったままだ。久しぶりの強敵に闘争本能が叫んでいる。正面から戦ってみたい――と。その欲求に抗う理由はないが、実現するにはまず周囲の取り巻きを排除しなければ。
「さて、どいつから片付けるか」
敵は五体、現在注目しているのは長剣の男だ。探索のために簡略化されているようだが、胸当てや篭手は仕立ての良さそうな金属製のものである。ひと揃いあればさぞ立派な出で立ちに違いない。
剣を持つ者はもう一人いるが、こちらは更に軽装で、得物も反り刃の片手剣だ。先程からがなり立てているのが喧しく、どうにも粗雑な印象を受ける。
別の一人は弓の使い手のようだ。明かりを奪った際にも狼狽えることなく、自分の武器を掴んでサッと身を低くした。おそらく、こういった不慮の事態にも慣れているのだろう。
残りの二人は武器を帯びていない。片方は魔術を使うと言っていたが、戦闘魔術なら発動を見てからでも十分に回避できる自信がある。もう一人は見るからに非戦闘員だ。
「……あいつだな」
闇を貫く彼の目は、てんで見当違いの方向を見ながらも油断なく腰を落とす弓使いの青年を標的と定めた。露払いをするなら、遠隔攻撃の手段を持つ者から消してゆくのが定石。向こうの視界が効かない今が好機だと、襲撃者は足音を忍ばせて獲物の方へと回り込む。
長剣の男がその動きに気付いた様子はない。どうやら殺気に反応していただけで、熱感知のような特殊能力を持つわけでは無さそうだ。そうと分かれば過剰な警戒も不要と、彼の動きも大胆なものになる。
「まずはひと――」
弓使いを間合いに捉えた……と思ったのと、それはほぼ同時だった。
ざらりと耳障りな音がばら撒かれ、彼は抜き身の短剣を手にしたまま大きく後方へと飛びすさる。温度を視る目では、地面に落ちたそれが何なのか咄嗟に判断がつかない。分かるのは、熱を帯びていないことだけだ。
「こ、これで少しは見えるんじゃ……ないかな」
それは、火を起こそうと無駄な奮闘をしていた者の声だった。何をしたのかと視覚をもとに戻せば、地面がぼんやりと発光している。否、無数に散らされた小石が燐光を帯びているのだ。微弱な輝きではあるが、これではもう闇に乗じる手は使えない。
「ち、余計なことを!」
戦いなどには縁の無さそうな者だからと、完全に注意を怠っていた。とはいえ、今更迂闊さを悔いても仕方ない。
このまま弓使いの息の根を止める。
そう判断し、間合いまでの残り数歩を詰めようとして。
「させるかよ!!」
「くッ」
横あいから猪のごとく突きこんできた男を、どうにか体を捻って躱す。鋭い舌打ちと共に対峙する者を見やれば、頼りない光源にぼうと浮きあがる姿が何とも不気味だ。青白い輝きを剣呑に写す刃は、どこか不吉なものにも見える。
「これだけ見えりゃあ十分だ! コソコソ闇討ちなんざしやがって、そんなに俺サマが怖いか!?」
「……るせ。俺ぁ効率重視なんだっつの」
大声で煽るダミ声に、吐き捨てるような低い応え。思うような反応が返ってこないことが不満なのか、髭に埋もれた唇がぐいと歪んだ。
「まあいい。テメェだってのんびりお茶しに来たんじゃねえんだろ? あとは剣で語ろうじゃねえの」
「あぁ。話が早くて助かるぜ」
髭の男が、それこそ語り合うように胸を開いて、だらりと剣を下ろす。余計な力の抜けた姿勢は、却って隙が無い。青年は油断なく短剣を構えるも、攻めあぐねて飛び込めずにいる。
が、敵は目の前の曲剣使いばかりではない。
「っ!」
殺気に反応して横に跳べば、蹴ったばかりの地面を重い一撃が抉る。単騎同士で戦いたいという想いは、残念ながら届かないらしい。強敵と認めたはずの男は、当然のごとく髭面の男に加勢した。
「遊んでいる場合ではないぞ、オゾラ。協力して速やかに片をつける」
「ち……まァいい。こちとら雇われの身だからな。贅沢言ってもいられねえ」
生真面目な直ぐの長剣と、無頼の曲剣。ふたつの剣先が青年へ向けられる。どちらからともなく鋭い呼気が漏れ、全く別種の刃が襲いかかった。
刃を用いた戦いには、いくつかの型がある。
ひとつは、相手の防御をものともせず叩き斬る剛剣。もはや潰すと表現した方が的確なそれは、重量恃みの無骨な鋼の塊だ。先ほど青年の足元を深く穿ったのは、まさにそういった類の剣だった。
また別のひとつは、生き物のように相手を翻弄する不規則な剣筋だ。上段からの振り下ろしと見せかけ、途中で軌道を変えて襲いかかってくる。正確さには若干劣るものの、手傷を負わせるのが目的なら十分だ。
「……ち、やりづれぇ」
右へ左へと跳ね回りながら、青年が小さく悪態をついた。一瞬、背中に布の塊をぶつけられたような気がしたが、今はそんなことに構っていられない。
彼の持つ剣は短剣にしてはやや大ぶりといえ、長剣に比べればやはり間合いが短い。必然的に奇襲での一撃必殺を狙うことになるが、初手の闇討ちは相手の剣に阻まれた。
かといって彼も、対面での戦闘が特段苦手なわけではない。持ち前の敏捷性と機動力を活かして懐に飛び込み、急所を斬り裂くのが彼の最も得意とする戦い方だ。
「こいつら、なかなかやるな。どっちか片方ならともかく、二人がかりじゃ隙が見えねえ……っと!」
思わず言い訳めいたものを口の中で唱えかけた瞬間、眼前に刃が迫る。咄嗟に身を翻すが、髭の男は彼が想定した以上に優秀な使い手のようだ。胸と左肩の衣服が裂けて、僅かに血が滲んだ。
「おらッ、最初の威勢はどうしたよ!? それともお上品に一対一で勝負してみっか?」
「無駄な挑発はするな。奴が人間とはまだ決まっていない」
「だったらどうだってんだ!?」
顔も分からぬ薄明かりの中、曲剣を振り回して男が吠える。すかさず長剣の男が窘めるが、獰猛な野犬のような男が素直に従うわけもなく。
「こいつが人間じゃなかろうが、叩っ斬っちまえば文句はねえんだろ?」
「その通りだが、油断は」
「ンなもん、すっかよ! 俺ァいつだって――」
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