Last flag

雨実 和兎

文字の大きさ
18 / 32

<宣伝の為の勝ち負け>2

しおりを挟む
ゲートボール応援当日、授業を終えた三人は試合場所の公園に集まっていた。

「ルールが解らないと応援にならないので、プリントアウトしときましたよ」
「こんなん無くても大丈夫!応援は気持ちやって!」

健太はハカセから受け取ったルール表を、パラパラと軽く流し読みして渡し返す。

「さあー、今日も頑張って応援や~!」

気合いを入れる健太とは裏腹に、選手達の雰囲気は和やかで対戦相手と談笑している。

「ワハハ、よくぞ来てくれたね~!今日は負けられないな~」

公園で出会った老人は三人を見つけると、嬉しそうに三人の肩を叩き「皆さん今日は、この子達が応援してくれますからね」とさりげなく選手達に紹介した。

「あら、この子達が応援してくださるの頼もしいわね-」

話し掛けてきたお婆さんに、チビが照れ臭そうな笑顔を返していると「今日は俺達が応援するから勝てるで!」と人怖じしない健太に、選手一同笑顔を浮かべる。

「貴方達はもう高学年?」

優しく微笑むお婆さんにチビが小さく頷く。

「みんな大きいのね~!誰が団長さん?」
「もちろん俺やで!」

健太が両手を挙げてアピールすると「やっぱり!そうだと思ったのよね」とお婆さんの見透かしたような一言で、注目していた一同が再び笑う。

「私達が若い頃は応援団も沢山居たけど、今時の子達では珍しいわね~」

照れ笑いを返すチビに「私は初恋の相手が団長さんだったのよ、身体も声も大きい人だったわ~」とお婆さんは終わらなさそうな身の上話しを始める。

「まだ試合始まらんのかな~?」

お婆さんの話しを聞き流しながら、健太は逸る気持ちを抑えられずにいる。

「さあ-!やるぞ-」

誰かの一声を聞き、健太の表情は一瞬で変わる。

「ヨシッ!俺達もやるぞ!」

三人は練習と同じように立ち並ぶと、ハカセが叩く太鼓の音が響きだす。

「アラッ、お祭りみたいで良いわね」

観客なのか試合が始まっても、お婆さんには一切の緊張感も見られない。
健太は声を出すタイミングに迷っているのか、太鼓の音だけが響いていると「最初はゲートを順番に通過していくらしいですよ」と予想していたかのようにハカセはルールの説明を始める。

「大丈夫やって、気合い入れてただけやから!じゃあ始めるで!」

そう言って健太は笑顔を返すと、いつものように声援を送りだした。
三人が応援している最中も「うちの孫と同じ位の年齢なのに偉いわね~」とお婆さんは身の上話しを止めようとはしない。
かろうじてチビは会釈を返すが、健太とハカセは聞き流している。
そんな状態を何度か繰り返しながらでも試合が進むと、三人の応援するチームは優勢になっていた。

「少し休憩しませんか?」

暑さで疲れたのかハカセが太鼓を地面に下ろすと「そうやな、試合も勝ってるしな」と健太も額の汗を拭いながら、ベンチに腰掛けた。

「暑っち~!気合いだけでは耐えられん暑さやな~」

ジュースをがぶ飲みしながら健太は、Tシャツをばたつかせ風を浴びている。

「団長も暑さ対策したほうが良いですよ」

含ませた水を凍らせたスポーツタオルで、ハカセは涼しそうに顔を拭う。

「ワハハ、三人のおかげで今日は勝てそうだよ」

公園で出会った老人がチームメイトに手柄を自慢すると「良いよな~!そっちは応援してくれてるからな~!」と羨ましそうに対戦相手は三人を見つめる。
照れ臭さそうに礼をするチビとは対象的に、健太は「今日勝ったら俺達の噂が広まって、野球部も応援出来そうやな」と上機嫌で高笑いしている。

「ゲートボールは奥が深いから、まだ解らないですよ」

ハカセは窘めるが、健太の笑い声は留まる気配も無い。

「わし達も応援して貰えたら、もう少しは良い所見せられるけどな~」

相手選手の一人が冗談半分の負け惜しみを口にすると「そうだ、そうだ」と相手選手達は面白がり、事態は一変し始める。
少し休憩するはずだった三人が、周りの様子に困惑していると「だったら両方のチームを応援してくださらない?」と身の上話しをし続けていたお婆さんが、笑顔で三人に提案した。

「どうします団長?せっかく勝ってますけど‥‥」

自分達が応援した時の勝率を気にしてか、乗り気ではなさそうにハカセが聞くと「そんなん頼まれたらやるに決まってるやろ~!」と如何にも団長らしく応える健太に、相手選手達は歓声と拍手で讃える。

「じゃあ応援再開や~!みんな頑張ってや!」

早速立ち上がる健太に続き、二人も慌ただしく立ち位置に並ぶ。

「両チームの更なる健闘を讃えまして~!三々七拍子~!」

再び響く太鼓の音と健太の声援に後押しされた相手チームの選手は「では私達も頑張りますか」と少年のように瞳を輝かしている。
三人の応援が響き続けた30分後、相手チームの猛反撃に試合はひっくり返り結果は相手チームの勝利だった。

「結局こうなるんか~!何か喜べれんな‥‥」

疲れ果てベンチに座る健太の声は、枯れて別人のようになっている。

「いつもどうりの感じですね‥‥」
「勝たんと良い噂にならんからな~」

宣伝の為の勝敗にこだわる、健太とハカセの会話に賛同するようにチビは小さく頷く。

「チクショ~!負けちゃったか~!」

最初に応援していたチームのおじいさん達が、悔しがる言葉を口にすると三人は申し訳なさそうに顔を伏せた。

「やっぱり両方応援は間違いやったかな‥‥」

健太のつぶやきを境に、三人がベンチに座ったまま無言で落ち込んでいると「坊や達今日はありがとうな!おかげで良い試合が出来た」と今さっき試合に負けたばかりの選手から送られた、感謝の言葉に三人は驚き顔で眼を円くした。
感謝の意味が解らず三人が顔を見合わせていると「本当に今日はありがとうな」と他の選手達も、三人に次々とお礼を言い帰り支度を始める。
まるで勝ち負けなんて問題ではなかったかのように、選手達は笑顔で手を振り去って行く。
チビとハカセは戸惑いを隠せず下手な笑顔を返すが「また呼んでくれたら来るで!」と健太は慌てて笑顔で応えた。

「両チーム応援したの、正解だったみたいですね‥‥」

安心したようにハカセは顔を上げ、大きく息を吐く。

「やっぱり!こうなると思ったんや!」

さっき迄落ち込んでいたのが嘘のように、強がる健太に二人は笑顔を返す。
選手達が居なくなり三人だけになった公園に、三人の笑う声が響く。
もう宣伝の為の勝ち負けを、気にしていた事なんて忘れてしまったように。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...