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「新しい玩具と箱」2
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何か善からぬ事に巻き込まれやしないかと、胸一杯の不安を抑え込み兄の住むマンションに向かう。
何処にでも在るようなワンルームの一室に入り、室内には兄と兄の兄貴がそれぞれ彼女付きで迎えてくれた。
やっぱり兄弟やから似てるななんて会話を笑顔で交わす兄の兄貴は、聞いていたとおりの物腰で怖くは無く。
予想していたような見るからに悪人とは違い、少しばかり強面な三十代位の人だった。
挨拶程度の雑談を終えると五人で飯を食いに行き、繁華街をふらつき買い物。
大して金も無い自分は何も買わなかったが、兄は値札も見ずに服や時計を買っていた。
高リスクな職業なりに羽振りが良いのか、兄の長財布には二十万位入っていたが羨ましいとは思えない。
其の分だけ誰かが苦しみ、泣いているのだから。
だからと言って買い物の間も特に目立つ行動が在る訳でも無く、
知らずにすれ違っただけなら誰も売人とは気付かないだろう。
そう考えると都会にはこれだけ沢山の人が居るのだから、
悪意も同じだけ在るような気がして何だか恐ろしく感じた。
マンションに帰ると彼等は仕事の準備を始め、お釣りの札を数えだし計り入れした薬を器用に袋詰めしていく。
お前もコレ位の金を持てるようにならなアカンななんて兄の自慢は馬鹿らしく、無警戒な発言が俺を苛立たせる。
だからと言って何が出来るでも無いのは、言うまでもなかった。
見た目が普通だったので気付きもしなかったが彼等の彼女はヤク中で、関係も薬繋がりな部分が在るといえる。
兄の彼女は今はしていないと言っているが、兄貴の彼女はそうではなく。
自分が居たので多少の警戒をしたのか、無理して我慢をしていたのだろう。
彼等の行動に呼応するように自分の身体にヤクを流し込む姿は痛々しく、とても見てはいられない。
何よりも止められない自分がその場に居る事自体が不安で、関わりたくもなかった。
逃げるように理由を付けては帰り、再び兄に電話したのは数日後。
将来やリスクの事とか罪や因果応報についてとか色々言い過ぎたせいか、
自分の想いの何れが伝わったのかは解らない。
其れでも兄がこのまま続けようとは思っていないと言い、そう判断してくれたのは救いだった。
数日前に組員の葬式に出席するはずだったが、寸前でいざこざが起きたのも切っ掛けになったのだろう。
宣言どおり無事に売人を辞めた兄は再び仕事を探し始め、安心したのも束の間。
今まで金回りの良かった生活が続き狂ってしまった金銭感覚は簡単には戻らず、
そんな状態にも関わらず仕事は一向に見付からなかった。
貯金も使い果たし二日間水しか飲んでいない。
そんな話しを電話で聞いたのは、兄が売人を辞めて四ヵ月後の事だった。
「心配せんでも大丈夫や、水だけでも人は一ヵ月は生きていける」
強がりなのは言うまでもなく。例え生きていけたとしても、其れまでに仕事が見付かる保証なんて全く無い。
兄のプライドが邪魔をしたとしてもどうにかしないと、其れだけは互いに解っていた。
一緒に住んで浮いた家賃分を兄に返した事にする。
そんな自分の提案は兄には損な部分が大きいが、背に腹は代えられぬと兄は了承。
売人を辞めて数ヵ月で彼女と別れていたのも都合が良かった。
受け入れてくれた事は自分の金銭面にも大きく、互いにメリットは在る。
こうして始まった兄と二人の生活は其れなりに順調だった。
予想していたように兄の仕事が簡単には見付からない以外は、特に言い争うでもなく。
何とかなるかもしれない。
そう思っていたのが自分だけだったと知ったのは、母さんからの電話で兄が捕まったと聞いたからだった。
証言台で兄の悲惨な生い立ちを弟が話せば、情状酌量で刑が軽くなるかもしれない。
そう言って母さんは裁判に出てほしいと頼むが、自分には出来ないと断った。
兄が捕まるリスクを冒してまで優先したのは、プライドだったのだろう。
弟の世話になるような生活はしたくないと、選んだ行動の結果なのだから。
これ以上傷付けたくはない。
兄も自分も生き方を選べるような人生ではなかったのかもしれない。
其れでも越えてはいけない一線というのは存在する。
たとえ大金を手に入れようとも。
出所した兄が同じ過ちを冒さないように、借りていたマンションを引き払い。
慣れてきた仕事も辞め、君と一緒に君の地元で暮らす事を決めた。
大した金も無いから結婚するとは言えないのに、二人で一緒に暮らしたい。
そんな無礼な報告を、まだ会った事すら無かった君の祖父母が認めてくれた事が救いだった。
何が正しいかなんて解らない。
自分が決めた事も全て正解とは言い切れないだろう。
其れでも兄が選んだ行動は不正解で、大事な何かを見失っていたとは言える。
其の何かが金や物のように形では表せられないから、時に人は間違うのだろう。
其れが何かは自分にも解らないが、
数日前から君が遺品を片付け始めたのも其の大事な何かに気付いたからかもしれない。
時間を忘れる位に片付けと向き合う君の姿は痛々しく見てはいられないが、
強い覚悟には行動が求められるのだろう。
そんな君の忙しさとは対照的に退屈そうな息子は、パソコンでゲームの動画を見るのが日課になっていた。
小学校で自分だけが持っていないゲームを、買って貰えない理由が自分のせいだと嘆きながら。
見ていた動画がゲームのだと気付いた君は不憫に思い買い与えたが、
その日からゲームに夢中になり自分と走り回るような事はしなくなった。
状況や時代的にも仕方ないなとは思うが、やはり寂しくは感じる。
存在しないはずの霊だから元よりおかしいのだろうが、まるで自分が必要なくなったみたいで。
それこそ君との約束を守り、宿題や歯みがきを素直にするようになっただけでも善しと思うしかない。
もう遊び相手ですらなくなった自分と呼応するように、
部屋中に存在していた自分の荷物も綺麗に片付けられていく。
それらが在る事で悲しくなるのは自分ではないのだから気にならないが、
子供達が理由を聞くかもしれないのは不安だ。
そう思いながらも心の片隅では少し、聞かれるかどうかで自分の存在価値を計ってしまう。
今の自分と同じようにあやふやでちぐはぐな意識の答えは、きっと家族にしか導き出せない。
そんな思いの中、遺品整理のついでだったのだろう。
ずっと使っていない古いおもちゃを君が捨てるよと言うと
「これはお父さんが買ってくれたの」声を揃えて怒る子供達は君から取り返し。
もう何年も触っていないロボットとヌイグルミを抱き抱え、二人は自分の横に座る。
隣りに来たのは偶然だろうが何だか嬉しかった。
「ごめんね」
君が謝ると息子は何事も無かったかのように再びゲームを始め、娘は其のヌイグルミで遊び始めている。
片付けたとはいっても君にも捨てられなかった物は沢山在り、
それらは大して大きくもない箱の中に入れられていた。
あげた本人ですら覚えていないような物も幾つか有り。
初めて君に書いた手紙やプレゼントで買った安い雑貨の小物、その何れもが他人からすればガラクタで。
しまわずに飾っておけばいいのにと思うような物も有るが、君だけにはそう思えないのだろう。
幾ら残したところで自分が帰れない今を思うと、どうせならもっと大きな物をあげれば良かった。
どう詰め込んでも、そんな箱に入らない位に大きくて邪魔な何かを。
たとえ其れが本当の優しさではなくても。
だが其れだけ大きい物を探しあげたとしても、
きっといつかは其れも壊れてしまうだろう。みすぼらしく埃を被り、飾れない程に。
其れでも何か残したかったと思うのは、
其の気持ちや思い出が箱に入れてしまう事なんて出来ないからかもしれない。
何処にでも在るようなワンルームの一室に入り、室内には兄と兄の兄貴がそれぞれ彼女付きで迎えてくれた。
やっぱり兄弟やから似てるななんて会話を笑顔で交わす兄の兄貴は、聞いていたとおりの物腰で怖くは無く。
予想していたような見るからに悪人とは違い、少しばかり強面な三十代位の人だった。
挨拶程度の雑談を終えると五人で飯を食いに行き、繁華街をふらつき買い物。
大して金も無い自分は何も買わなかったが、兄は値札も見ずに服や時計を買っていた。
高リスクな職業なりに羽振りが良いのか、兄の長財布には二十万位入っていたが羨ましいとは思えない。
其の分だけ誰かが苦しみ、泣いているのだから。
だからと言って買い物の間も特に目立つ行動が在る訳でも無く、
知らずにすれ違っただけなら誰も売人とは気付かないだろう。
そう考えると都会にはこれだけ沢山の人が居るのだから、
悪意も同じだけ在るような気がして何だか恐ろしく感じた。
マンションに帰ると彼等は仕事の準備を始め、お釣りの札を数えだし計り入れした薬を器用に袋詰めしていく。
お前もコレ位の金を持てるようにならなアカンななんて兄の自慢は馬鹿らしく、無警戒な発言が俺を苛立たせる。
だからと言って何が出来るでも無いのは、言うまでもなかった。
見た目が普通だったので気付きもしなかったが彼等の彼女はヤク中で、関係も薬繋がりな部分が在るといえる。
兄の彼女は今はしていないと言っているが、兄貴の彼女はそうではなく。
自分が居たので多少の警戒をしたのか、無理して我慢をしていたのだろう。
彼等の行動に呼応するように自分の身体にヤクを流し込む姿は痛々しく、とても見てはいられない。
何よりも止められない自分がその場に居る事自体が不安で、関わりたくもなかった。
逃げるように理由を付けては帰り、再び兄に電話したのは数日後。
将来やリスクの事とか罪や因果応報についてとか色々言い過ぎたせいか、
自分の想いの何れが伝わったのかは解らない。
其れでも兄がこのまま続けようとは思っていないと言い、そう判断してくれたのは救いだった。
数日前に組員の葬式に出席するはずだったが、寸前でいざこざが起きたのも切っ掛けになったのだろう。
宣言どおり無事に売人を辞めた兄は再び仕事を探し始め、安心したのも束の間。
今まで金回りの良かった生活が続き狂ってしまった金銭感覚は簡単には戻らず、
そんな状態にも関わらず仕事は一向に見付からなかった。
貯金も使い果たし二日間水しか飲んでいない。
そんな話しを電話で聞いたのは、兄が売人を辞めて四ヵ月後の事だった。
「心配せんでも大丈夫や、水だけでも人は一ヵ月は生きていける」
強がりなのは言うまでもなく。例え生きていけたとしても、其れまでに仕事が見付かる保証なんて全く無い。
兄のプライドが邪魔をしたとしてもどうにかしないと、其れだけは互いに解っていた。
一緒に住んで浮いた家賃分を兄に返した事にする。
そんな自分の提案は兄には損な部分が大きいが、背に腹は代えられぬと兄は了承。
売人を辞めて数ヵ月で彼女と別れていたのも都合が良かった。
受け入れてくれた事は自分の金銭面にも大きく、互いにメリットは在る。
こうして始まった兄と二人の生活は其れなりに順調だった。
予想していたように兄の仕事が簡単には見付からない以外は、特に言い争うでもなく。
何とかなるかもしれない。
そう思っていたのが自分だけだったと知ったのは、母さんからの電話で兄が捕まったと聞いたからだった。
証言台で兄の悲惨な生い立ちを弟が話せば、情状酌量で刑が軽くなるかもしれない。
そう言って母さんは裁判に出てほしいと頼むが、自分には出来ないと断った。
兄が捕まるリスクを冒してまで優先したのは、プライドだったのだろう。
弟の世話になるような生活はしたくないと、選んだ行動の結果なのだから。
これ以上傷付けたくはない。
兄も自分も生き方を選べるような人生ではなかったのかもしれない。
其れでも越えてはいけない一線というのは存在する。
たとえ大金を手に入れようとも。
出所した兄が同じ過ちを冒さないように、借りていたマンションを引き払い。
慣れてきた仕事も辞め、君と一緒に君の地元で暮らす事を決めた。
大した金も無いから結婚するとは言えないのに、二人で一緒に暮らしたい。
そんな無礼な報告を、まだ会った事すら無かった君の祖父母が認めてくれた事が救いだった。
何が正しいかなんて解らない。
自分が決めた事も全て正解とは言い切れないだろう。
其れでも兄が選んだ行動は不正解で、大事な何かを見失っていたとは言える。
其の何かが金や物のように形では表せられないから、時に人は間違うのだろう。
其れが何かは自分にも解らないが、
数日前から君が遺品を片付け始めたのも其の大事な何かに気付いたからかもしれない。
時間を忘れる位に片付けと向き合う君の姿は痛々しく見てはいられないが、
強い覚悟には行動が求められるのだろう。
そんな君の忙しさとは対照的に退屈そうな息子は、パソコンでゲームの動画を見るのが日課になっていた。
小学校で自分だけが持っていないゲームを、買って貰えない理由が自分のせいだと嘆きながら。
見ていた動画がゲームのだと気付いた君は不憫に思い買い与えたが、
その日からゲームに夢中になり自分と走り回るような事はしなくなった。
状況や時代的にも仕方ないなとは思うが、やはり寂しくは感じる。
存在しないはずの霊だから元よりおかしいのだろうが、まるで自分が必要なくなったみたいで。
それこそ君との約束を守り、宿題や歯みがきを素直にするようになっただけでも善しと思うしかない。
もう遊び相手ですらなくなった自分と呼応するように、
部屋中に存在していた自分の荷物も綺麗に片付けられていく。
それらが在る事で悲しくなるのは自分ではないのだから気にならないが、
子供達が理由を聞くかもしれないのは不安だ。
そう思いながらも心の片隅では少し、聞かれるかどうかで自分の存在価値を計ってしまう。
今の自分と同じようにあやふやでちぐはぐな意識の答えは、きっと家族にしか導き出せない。
そんな思いの中、遺品整理のついでだったのだろう。
ずっと使っていない古いおもちゃを君が捨てるよと言うと
「これはお父さんが買ってくれたの」声を揃えて怒る子供達は君から取り返し。
もう何年も触っていないロボットとヌイグルミを抱き抱え、二人は自分の横に座る。
隣りに来たのは偶然だろうが何だか嬉しかった。
「ごめんね」
君が謝ると息子は何事も無かったかのように再びゲームを始め、娘は其のヌイグルミで遊び始めている。
片付けたとはいっても君にも捨てられなかった物は沢山在り、
それらは大して大きくもない箱の中に入れられていた。
あげた本人ですら覚えていないような物も幾つか有り。
初めて君に書いた手紙やプレゼントで買った安い雑貨の小物、その何れもが他人からすればガラクタで。
しまわずに飾っておけばいいのにと思うような物も有るが、君だけにはそう思えないのだろう。
幾ら残したところで自分が帰れない今を思うと、どうせならもっと大きな物をあげれば良かった。
どう詰め込んでも、そんな箱に入らない位に大きくて邪魔な何かを。
たとえ其れが本当の優しさではなくても。
だが其れだけ大きい物を探しあげたとしても、
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