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呪術者達
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その男は、雅な風を吹かしていた……
それは、繁華街のビルの屋上であった。
しかし、その男の服装は辺りに馴染んではいない。明らかにして不釣合いなのである。
異形と言っていい。
それは、まるで平安時代の官人の様な狩衣に水色の指貫である。
実にそれは異形であった……
その異形な男は端整な美しい顔立ちで階下を眺めている。
口元には血をふくんだような赤い笑み……
その男の背後から女の声がした
「道世様、また人間を見ているの……?」
道世は楽しげにその声へと応えた。
「あぁ、あの子がね、笑いながらも、其の実は啼いているのだ。ふふふ」
「啼いて? 笑いながら、へぇ、おかしな話でありんすねぇ」
「そう、なんて言ったかね? この時代の若い婦女子の特有の極軽い闇なのだ」
「闇でありんすかえ……?」
「あぁ、”病み”とも云う。だがこれが、時折ある種の黒く邪悪なモノを呼びよせる事が稀にある」
「道世様のやうな、邪悪なお方を……?」
「そう言うなよ。私はそれに気付いただけさ」
道世はどこか楽しそうに笑った。それを見て、女の声は呆れた様に言った。
「あんな若い小娘にうつつをぬかしてからに」
道世の背後の女の声が焦れる様に言った。
「青や、あの子を今度の贄にしよう。決めたぞ、私は」
「はぁ……」
道世は嬉々として口元をほころばせながら。着物の裾でそれを隠した。
「行きなさい、青。あの子に贄の証しを……」
すると、道世の背後からブーンという空気を震わせる音が鳴る。
「オン・アビラ・ウン・ケン」
道世は人差し指と中指を合わせると刀印をつくると、それを切った。
道世の背後から、勢いよく何かが飛び放つ!
そしてそれは、空高く何処かへと消え失せていった。
残された道世はその方向を暫く見つめた後、「急急如律令」と呟く。
すると、道世の元に素早くコウモリの群れがやって来て道世を覆うと連れて行ってしまった……
篠田秋美は、今日も放課後、新宿歌舞伎町に来て一人でブラブラと過ごしている。
秋美の父は大手ゼネコングループの会長である。だから、小遣いに困った事がない。金は腐るほどに親が持っていた。
秋美はいつも一人でカラオケに行って、ゲーセンを回り、偶にぶらりと寄った店で買物などしてみたりする。
だが、気持ちが満たされた事は無かった。
いつも空虚であった。
自分の周りに集まって来るのは、何時も自分の金が目当てであった。
少なくとも秋美にはそう感じたのである。
友達などは付き合いだけで、本当の友人などいなかった。
友達と遊びに行くにしろ、支払はいつも自分が期待される。そういった関係性には吐き気がした。結局そういったものでの繋がりしかないのである。
だから秋美は一人で夜の町を歩き回った。
自分は人生の所謂勝ち組であると信じ聞かせた。
周りは皆そんな自分に嫉妬しているのだと言い聞かせ、一人で高校生にしては多過ぎるほどの小遣を使い続けた。
これでいい、自分には友達や仲間などは要らないのである。
秋美はそう自分に言った。
「つまらないな……世の中」
そう言って、秋美はブランド物のシューズで地面を蹴っ飛ばす様に歩いた。
その時、ふと背後にから声を掛けられた。
「いえいえ、そう捨てた物でもありますまい」
青い服をきた女であった。
「え、誰……?」
女は柔らかく笑った。だが、それが底はかとない闇の住人である事は秋美には分かりようもなかった……
「此方へ来れば……楽しいかも、しれますまいよ……ホホホッ!」
女の目は、黒く邪悪な闇が宿っていた。
「ムカデちゃん! ちゃんと制服着てくれよ!!」
春原ゲンジはそう目の前の少女へ言った。
「あーあー、うう」
ムカデちゃんと言われた少女は制服の上着と格闘しながら四苦八苦している。
ゲンジはその姿に呆れながら携帯の時計に目をやる。
「ヤベェ時間だ! 急げムカデちゃん!」
春原ゲンジは高校一年生、16歳である。少し、とんがった生意気そうな面構えと整髪料でツンツンに尖らせたヘアスタイルが特徴的だ。
学生服の下はハーフパンツを履いて、スケーターの様なスニーカーを履いている。
「プハぁ! ゲンジ、着た。制服、着た!」
ようやく少し大きめな制服を着る事ができた少女は、緩くふわふわで軟らかな絹の様な長い髪をしている。
春原ムカデ、高校一年生のゲンジと同じ16歳である。
ビー玉の様なキラキラの大きな瞳に、ゲンジが映っているのがわかる。
何処かで無垢で危うい美しさを持った少女である。
二人の名字は同じだが、血の繋がりは無い。
ゲンジはムカデちゃんの祖母の養子という複雑な事情がある。
「あーあー!! ガッコウ、ガッコウ!!」
「その前にババァの所に顔出しておかねぇとな」
「ばっちゃ! ばっちゃ!」
言葉が所々辿々しい……
ムカデちゃんは、幼い時に謎の高熱に罹り、この様な状態になってしまった。
学校も保健室登校である。
だが、ムカデちゃんとゲンジの通う学校は特別な学校である。其処ではムカデちゃんはエリート特待生の待遇を受けているのだ。
二人の通う学校は、この国の特別な機関の指揮下に置かれている学校である。
私立、神大高等学校じんだいこうとうがっこう
それは、この国の陰陽寮直下の学校施設である。
だが、ゲンジ達は正確に言えば、陰陽師ではない。
”声聞師しょうもんじ”と言われる古代の民間呪術師の弟子達なのである。
二人はビルの一番上の階へと急いだ。
最上階のフロアに着くと、一部屋だけ扉が違う部屋がある。
設えが豪壮なのだ。
ゲンジは、遠慮無しにその部屋の扉をあけると、突然何か薄い紙のようなものがゲンジに向って飛ばされて来た!
「なっ!?」
鋭い、当たれば皮膚が切り裂かれるほどの速さである。
「クソ!」
それは、所謂、紙で出来た人形ヒトカタと呼ばれる呪術である。
「朝からご挨拶だぜ!!」
ゲンジはそう言うと、次の攻撃に備える。
「……」
部屋の奥からは、試す様な冷たい視線。
「チィ!!」
ゲンジは左を前に半身になると構えた!
人形は次々とゲンジの前に飛んでくる。
「呪拳じゅっけん、一指!」
そう叫ぶと、ゲンジは構えから左手で人差し指を指して飛び放つ人形の中心を次々と撃ち出した!
ゲンジは、次々に紙で出来た人形を落としていく!
一枚。
二枚。
三枚。
しかし、それでも終わらずに次から次へと打ち放たれる人形!
ゲンジは左の指で連続的に紙の中心を的確に狙い定めて撃ち落とす。
ヒトカタは落とされると黒い炎と共に消え失せる。
ゲンジの使うこの呪拳も、このヒトカタを撃ち放つ人物から教えられた呪的攻撃術と言う呪術の一つである。
「ウオリャアア!」
ゲンジの左の人差し指が即射で最後の一枚を突き落した……
「フン、朝の運動としてはこんなものかよ……」
部屋の奥から女の声がした。
「ババァ悪りぃ! ムカデちゃんの所為で遅れた!」
「あうあーッ!!」
ムカデちゃんはゲンジの肩を拳でポカポカ叩いてくる。
「ムカデのせいにするんじゃないよ! ゲンジ!! だが、少し腕を上げたな。前まで数が多くなるとあの攻撃には反応出来なかったのに。まぁ、及第点としよう」
「おかげさんで……」
不貞腐れたようにゲンジが呟いた。
其処にいた女性はとてもムカデの祖母とは思えない見た目であった。
遠目からみても三十代位の若さを保っている。
広い部屋の中央の机に足を乗っけ、高価そうな椅子にふんぞり返っている。
紫の髪の毛を編み込みにして流している。
細みのスタイリッシュなパンツスーツに身を纏い、煙管で煙草の煙を吹かしていた。
その煙管の煙は薄い黒い色であった。
人形の消える時に現れた黒い炎と同じ色である。
その不思議な女は、業界ではヴァルヴァラと呼ばれている名うての呪術師であった。
何故、老齢でこの様な若さを保ち得るのかは誰も知らない。
このヴァルヴァラもまた、代々と続く声聞師の末裔である。
この不思議で妖しい女に孤児院から引き取られたのがゲンジである。
そして、この女の死んだ娘の子がムカデちゃんであった。
ゲンジはヴァルヴァラの声聞師の弟子と言う立場でもある。幼い頃からヴァルヴァラに手解きを受けている。
ヴァルヴァラは此処”春原占術堂”の主宰と言う立場で、表の仕事は政治家や財界人の霊的コンサルタントを引き受けている。其処にはその企業や政治家の未来の占いなども含まれている。
その道ではマダム・ヴァルヴァラという謎の占術師で通っている。
「それより、早速だがお前達の放課後に頼みたい事がある」
「へぇ、なんか事件か?」
「まぁね……軽い人捜しさ」
ヴァルヴァラはそう言って煙草の煙を吐いた。
「人捜し?」
「ヒトさがしー!」
ゲンジとムカデちゃんは顔を見合わせて言った。
ヴァルヴァラは一枚の資料を二人へと投げた。
「う~ん、篠田秋美、高校二年生、篠田建設グループ会長の娘、ねぇ……」
其処には新宿歌舞伎町で行方不明になった少女の事が書かれていた。
一週間前から姿を消したらしい。
「今回は、私のクライアントの一人の篠田会長の頼みでね。東京陰陽寮にも話が行っている。ここは私の立場としては連中にデカい顔させたくないって訳さ、お分かり?」
陰陽師と声聞師は歴史的に昔からの対立する関係にあった。
官製呪術士の系譜の陰陽師と、民間呪術士の系譜の声聞師の違いもあるだろう。
「んじゃあ、とりあえず、学校が終わったら歌舞伎町に行って調べてくるわ」
ゲンジは頭の後ろに腕を組みながら言った。
「新宿で困った事があったら、いつもの”耳屋”に行ってみな……何か手がかりは知っているかもね」
そう言うと、ヴァルヴァラは煙草の煙を吐きながら手を振って、部屋からの退出を促した。
無愛想なのは、この女の芯からの性格らしい。
「行ってきます」
「ばっちゃ! 行ってく!」
ヴァルヴァラはムカデちゃんにだけは、にこやかに笑って軽く手を挙げた。
二人はそのまま部屋を出てエレベーターに乗ると、ビルの地下駐車場にあるゲンジの愛機である中古のビッグスクーターに乗った。隣にはヴァルヴァラの所有する高級外車とスポーツカーが停められている。占術士と言うのはどうやら儲かっているらしい。もしかしたらヴァルヴァラのコンサルタント料は滅茶苦茶に法外なのかも知れない……
「ほら、メットちゃんと被れよ、ムカデちゃん!」
「あーあーうー!」
ゲンジはムカデちゃんの頭にデカいフルフェイスのメットを被せる。
「これキライ! キツイ! キライ!」
ムカデちゃんはそう言って、いやいやしながら首を振る。
「しょうがねーなー」
ゲンジは自分用の半キャップをムカデちゃんに被せてあげる。
「よし! 出っぞ!」
「出発! 出発」
キーを回してアクセルを吹かす。
ムカデちゃんが後ろに飛び乗ってゲンジの体にしがみつくと、ゲンジはゆっくりとアクセルを開けてバイクを発進させた。
年式の古いビッグスクーターで街を疾走するゲンジとムカデちゃん。
二人は比較的都心の中心にある神大高等学校じんだいこうとうがっこうへ向かいバイクを走らせている。
「バイク! バイクすき! すき!」
そう言いながら後ろではしゃぐムカデちゃん。
ムカデちゃんは女の子にしては珍らしくバイクや車や飛行機が好きなのだ。ムカデちゃんの部屋は車や飛行機の玩具で一杯になっている。
「ムカデちゃん、大人しくしてろよ! 落ちちゃうぞ」
「やだ! 落ちたくない!」
ゲンジは、バイクを走らせながら行方不明の少女の事を考えていた。
東京陰陽寮が絡んでいるとなれば、これは呪術的怪異と云う案件ケースに間違いは無い。そして春原占術堂にも話が来たとなると、もしかすると厄介な問題に発展する恐れもある……
ゲンジはアクセルを開けると、バイクを学校方面から、新宿歌舞伎町方面へと進路を変えた!
「悪りぃムカデちゃん! 俺はやっぱ事件が気になるから、ムカデちゃんはこの辺りでタクシーでも拾ってくれ!」
ゲンジがそう言うと、ムカデちゃんは怒ってゲンジの腰をグングン締めつける
「あーあー!! ムカデも行く!! ムカデもーっ!!」
どうやら一人で行こうとしたゲンジに怒っているらしい。
「いてぇ! いてぇよ! ムカデちゃん!」
「あうあー!! 行くのー!!」
ムカデちゃんがゴネると非常に面倒臭い。
ゲンジはしょうがなく、ムカデちゃんを連れて新宿歌舞伎町へと走った。
それは、繁華街のビルの屋上であった。
しかし、その男の服装は辺りに馴染んではいない。明らかにして不釣合いなのである。
異形と言っていい。
それは、まるで平安時代の官人の様な狩衣に水色の指貫である。
実にそれは異形であった……
その異形な男は端整な美しい顔立ちで階下を眺めている。
口元には血をふくんだような赤い笑み……
その男の背後から女の声がした
「道世様、また人間を見ているの……?」
道世は楽しげにその声へと応えた。
「あぁ、あの子がね、笑いながらも、其の実は啼いているのだ。ふふふ」
「啼いて? 笑いながら、へぇ、おかしな話でありんすねぇ」
「そう、なんて言ったかね? この時代の若い婦女子の特有の極軽い闇なのだ」
「闇でありんすかえ……?」
「あぁ、”病み”とも云う。だがこれが、時折ある種の黒く邪悪なモノを呼びよせる事が稀にある」
「道世様のやうな、邪悪なお方を……?」
「そう言うなよ。私はそれに気付いただけさ」
道世はどこか楽しそうに笑った。それを見て、女の声は呆れた様に言った。
「あんな若い小娘にうつつをぬかしてからに」
道世の背後の女の声が焦れる様に言った。
「青や、あの子を今度の贄にしよう。決めたぞ、私は」
「はぁ……」
道世は嬉々として口元をほころばせながら。着物の裾でそれを隠した。
「行きなさい、青。あの子に贄の証しを……」
すると、道世の背後からブーンという空気を震わせる音が鳴る。
「オン・アビラ・ウン・ケン」
道世は人差し指と中指を合わせると刀印をつくると、それを切った。
道世の背後から、勢いよく何かが飛び放つ!
そしてそれは、空高く何処かへと消え失せていった。
残された道世はその方向を暫く見つめた後、「急急如律令」と呟く。
すると、道世の元に素早くコウモリの群れがやって来て道世を覆うと連れて行ってしまった……
篠田秋美は、今日も放課後、新宿歌舞伎町に来て一人でブラブラと過ごしている。
秋美の父は大手ゼネコングループの会長である。だから、小遣いに困った事がない。金は腐るほどに親が持っていた。
秋美はいつも一人でカラオケに行って、ゲーセンを回り、偶にぶらりと寄った店で買物などしてみたりする。
だが、気持ちが満たされた事は無かった。
いつも空虚であった。
自分の周りに集まって来るのは、何時も自分の金が目当てであった。
少なくとも秋美にはそう感じたのである。
友達などは付き合いだけで、本当の友人などいなかった。
友達と遊びに行くにしろ、支払はいつも自分が期待される。そういった関係性には吐き気がした。結局そういったものでの繋がりしかないのである。
だから秋美は一人で夜の町を歩き回った。
自分は人生の所謂勝ち組であると信じ聞かせた。
周りは皆そんな自分に嫉妬しているのだと言い聞かせ、一人で高校生にしては多過ぎるほどの小遣を使い続けた。
これでいい、自分には友達や仲間などは要らないのである。
秋美はそう自分に言った。
「つまらないな……世の中」
そう言って、秋美はブランド物のシューズで地面を蹴っ飛ばす様に歩いた。
その時、ふと背後にから声を掛けられた。
「いえいえ、そう捨てた物でもありますまい」
青い服をきた女であった。
「え、誰……?」
女は柔らかく笑った。だが、それが底はかとない闇の住人である事は秋美には分かりようもなかった……
「此方へ来れば……楽しいかも、しれますまいよ……ホホホッ!」
女の目は、黒く邪悪な闇が宿っていた。
「ムカデちゃん! ちゃんと制服着てくれよ!!」
春原ゲンジはそう目の前の少女へ言った。
「あーあー、うう」
ムカデちゃんと言われた少女は制服の上着と格闘しながら四苦八苦している。
ゲンジはその姿に呆れながら携帯の時計に目をやる。
「ヤベェ時間だ! 急げムカデちゃん!」
春原ゲンジは高校一年生、16歳である。少し、とんがった生意気そうな面構えと整髪料でツンツンに尖らせたヘアスタイルが特徴的だ。
学生服の下はハーフパンツを履いて、スケーターの様なスニーカーを履いている。
「プハぁ! ゲンジ、着た。制服、着た!」
ようやく少し大きめな制服を着る事ができた少女は、緩くふわふわで軟らかな絹の様な長い髪をしている。
春原ムカデ、高校一年生のゲンジと同じ16歳である。
ビー玉の様なキラキラの大きな瞳に、ゲンジが映っているのがわかる。
何処かで無垢で危うい美しさを持った少女である。
二人の名字は同じだが、血の繋がりは無い。
ゲンジはムカデちゃんの祖母の養子という複雑な事情がある。
「あーあー!! ガッコウ、ガッコウ!!」
「その前にババァの所に顔出しておかねぇとな」
「ばっちゃ! ばっちゃ!」
言葉が所々辿々しい……
ムカデちゃんは、幼い時に謎の高熱に罹り、この様な状態になってしまった。
学校も保健室登校である。
だが、ムカデちゃんとゲンジの通う学校は特別な学校である。其処ではムカデちゃんはエリート特待生の待遇を受けているのだ。
二人の通う学校は、この国の特別な機関の指揮下に置かれている学校である。
私立、神大高等学校じんだいこうとうがっこう
それは、この国の陰陽寮直下の学校施設である。
だが、ゲンジ達は正確に言えば、陰陽師ではない。
”声聞師しょうもんじ”と言われる古代の民間呪術師の弟子達なのである。
二人はビルの一番上の階へと急いだ。
最上階のフロアに着くと、一部屋だけ扉が違う部屋がある。
設えが豪壮なのだ。
ゲンジは、遠慮無しにその部屋の扉をあけると、突然何か薄い紙のようなものがゲンジに向って飛ばされて来た!
「なっ!?」
鋭い、当たれば皮膚が切り裂かれるほどの速さである。
「クソ!」
それは、所謂、紙で出来た人形ヒトカタと呼ばれる呪術である。
「朝からご挨拶だぜ!!」
ゲンジはそう言うと、次の攻撃に備える。
「……」
部屋の奥からは、試す様な冷たい視線。
「チィ!!」
ゲンジは左を前に半身になると構えた!
人形は次々とゲンジの前に飛んでくる。
「呪拳じゅっけん、一指!」
そう叫ぶと、ゲンジは構えから左手で人差し指を指して飛び放つ人形の中心を次々と撃ち出した!
ゲンジは、次々に紙で出来た人形を落としていく!
一枚。
二枚。
三枚。
しかし、それでも終わらずに次から次へと打ち放たれる人形!
ゲンジは左の指で連続的に紙の中心を的確に狙い定めて撃ち落とす。
ヒトカタは落とされると黒い炎と共に消え失せる。
ゲンジの使うこの呪拳も、このヒトカタを撃ち放つ人物から教えられた呪的攻撃術と言う呪術の一つである。
「ウオリャアア!」
ゲンジの左の人差し指が即射で最後の一枚を突き落した……
「フン、朝の運動としてはこんなものかよ……」
部屋の奥から女の声がした。
「ババァ悪りぃ! ムカデちゃんの所為で遅れた!」
「あうあーッ!!」
ムカデちゃんはゲンジの肩を拳でポカポカ叩いてくる。
「ムカデのせいにするんじゃないよ! ゲンジ!! だが、少し腕を上げたな。前まで数が多くなるとあの攻撃には反応出来なかったのに。まぁ、及第点としよう」
「おかげさんで……」
不貞腐れたようにゲンジが呟いた。
其処にいた女性はとてもムカデの祖母とは思えない見た目であった。
遠目からみても三十代位の若さを保っている。
広い部屋の中央の机に足を乗っけ、高価そうな椅子にふんぞり返っている。
紫の髪の毛を編み込みにして流している。
細みのスタイリッシュなパンツスーツに身を纏い、煙管で煙草の煙を吹かしていた。
その煙管の煙は薄い黒い色であった。
人形の消える時に現れた黒い炎と同じ色である。
その不思議な女は、業界ではヴァルヴァラと呼ばれている名うての呪術師であった。
何故、老齢でこの様な若さを保ち得るのかは誰も知らない。
このヴァルヴァラもまた、代々と続く声聞師の末裔である。
この不思議で妖しい女に孤児院から引き取られたのがゲンジである。
そして、この女の死んだ娘の子がムカデちゃんであった。
ゲンジはヴァルヴァラの声聞師の弟子と言う立場でもある。幼い頃からヴァルヴァラに手解きを受けている。
ヴァルヴァラは此処”春原占術堂”の主宰と言う立場で、表の仕事は政治家や財界人の霊的コンサルタントを引き受けている。其処にはその企業や政治家の未来の占いなども含まれている。
その道ではマダム・ヴァルヴァラという謎の占術師で通っている。
「それより、早速だがお前達の放課後に頼みたい事がある」
「へぇ、なんか事件か?」
「まぁね……軽い人捜しさ」
ヴァルヴァラはそう言って煙草の煙を吐いた。
「人捜し?」
「ヒトさがしー!」
ゲンジとムカデちゃんは顔を見合わせて言った。
ヴァルヴァラは一枚の資料を二人へと投げた。
「う~ん、篠田秋美、高校二年生、篠田建設グループ会長の娘、ねぇ……」
其処には新宿歌舞伎町で行方不明になった少女の事が書かれていた。
一週間前から姿を消したらしい。
「今回は、私のクライアントの一人の篠田会長の頼みでね。東京陰陽寮にも話が行っている。ここは私の立場としては連中にデカい顔させたくないって訳さ、お分かり?」
陰陽師と声聞師は歴史的に昔からの対立する関係にあった。
官製呪術士の系譜の陰陽師と、民間呪術士の系譜の声聞師の違いもあるだろう。
「んじゃあ、とりあえず、学校が終わったら歌舞伎町に行って調べてくるわ」
ゲンジは頭の後ろに腕を組みながら言った。
「新宿で困った事があったら、いつもの”耳屋”に行ってみな……何か手がかりは知っているかもね」
そう言うと、ヴァルヴァラは煙草の煙を吐きながら手を振って、部屋からの退出を促した。
無愛想なのは、この女の芯からの性格らしい。
「行ってきます」
「ばっちゃ! 行ってく!」
ヴァルヴァラはムカデちゃんにだけは、にこやかに笑って軽く手を挙げた。
二人はそのまま部屋を出てエレベーターに乗ると、ビルの地下駐車場にあるゲンジの愛機である中古のビッグスクーターに乗った。隣にはヴァルヴァラの所有する高級外車とスポーツカーが停められている。占術士と言うのはどうやら儲かっているらしい。もしかしたらヴァルヴァラのコンサルタント料は滅茶苦茶に法外なのかも知れない……
「ほら、メットちゃんと被れよ、ムカデちゃん!」
「あーあーうー!」
ゲンジはムカデちゃんの頭にデカいフルフェイスのメットを被せる。
「これキライ! キツイ! キライ!」
ムカデちゃんはそう言って、いやいやしながら首を振る。
「しょうがねーなー」
ゲンジは自分用の半キャップをムカデちゃんに被せてあげる。
「よし! 出っぞ!」
「出発! 出発」
キーを回してアクセルを吹かす。
ムカデちゃんが後ろに飛び乗ってゲンジの体にしがみつくと、ゲンジはゆっくりとアクセルを開けてバイクを発進させた。
年式の古いビッグスクーターで街を疾走するゲンジとムカデちゃん。
二人は比較的都心の中心にある神大高等学校じんだいこうとうがっこうへ向かいバイクを走らせている。
「バイク! バイクすき! すき!」
そう言いながら後ろではしゃぐムカデちゃん。
ムカデちゃんは女の子にしては珍らしくバイクや車や飛行機が好きなのだ。ムカデちゃんの部屋は車や飛行機の玩具で一杯になっている。
「ムカデちゃん、大人しくしてろよ! 落ちちゃうぞ」
「やだ! 落ちたくない!」
ゲンジは、バイクを走らせながら行方不明の少女の事を考えていた。
東京陰陽寮が絡んでいるとなれば、これは呪術的怪異と云う案件ケースに間違いは無い。そして春原占術堂にも話が来たとなると、もしかすると厄介な問題に発展する恐れもある……
ゲンジはアクセルを開けると、バイクを学校方面から、新宿歌舞伎町方面へと進路を変えた!
「悪りぃムカデちゃん! 俺はやっぱ事件が気になるから、ムカデちゃんはこの辺りでタクシーでも拾ってくれ!」
ゲンジがそう言うと、ムカデちゃんは怒ってゲンジの腰をグングン締めつける
「あーあー!! ムカデも行く!! ムカデもーっ!!」
どうやら一人で行こうとしたゲンジに怒っているらしい。
「いてぇ! いてぇよ! ムカデちゃん!」
「あうあー!! 行くのー!!」
ムカデちゃんがゴネると非常に面倒臭い。
ゲンジはしょうがなく、ムカデちゃんを連れて新宿歌舞伎町へと走った。
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