うちの座敷童さんがセマ逃げするんだけど、どうすればいい?

ネコノミ

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あたしとアニメ

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『この世にはびこる悪は許さない! 魔法少女、マジカルみいな参上!』
「先週は悪の手先に洗脳されたみいなが仲間を1人、あやめてしまったんだ。そこで我に返ったみいなが苦しんでいるところで終わってしまって。今週はどうなるのか楽しみだぜ!」
「なんという鬱展開なんですか、それ」

 むしろどこらへんを楽しみにしているんですか、座敷童さん。と心の中で思ったことは秘密だ。日曜日の朝、朝食も終わり部屋に戻ろうとしたあたしは座敷童さんに呼び止められ毎週見ているというアニメを一緒に観賞することになった。

 初めてみるアニメに、座敷童さんが先週の展開はどうだったかを身振り手振りをくわえて教えてくれた。

 ちゃぶ台に肘をつき、子ども向け番組でやる流れではないと思うのはあたしだけだろうか。人1人死んでるんですけど。苦しんでるとかそういうんで終わらせられる話なのか、これ。警察何してんの、働けよ。

 っていうか魔法少女が殺人罪で逮捕ってなったらそれもそれで字面やばいけど。アニメ終わってしまうけど。

「あぁ! みいなが! あんなに殴られてみいなが死んでしまう!」
「驚きの急展開ですね、大丈夫ですよ。たぶん死にません」
「しかし……」
「座敷童さん、あたしを信じてはくれないんですか」
「ぐ……、し、信じてるとも!」
「じゃあ、ちゃんと座って観てくださいね」

 がたんとちゃぶ台を跳ね飛ばさんばかりの勢いで立ち上がった座敷童さんを座らせる。幸いちゃぶ台の上には何もなくて、何かがこぼれたり落ちたりすることはなかった。

 というか、主人公らしきみいなとか言う子が仲間らしきカラフルな髪色の少女たちからリンチ食らってるんですけど。めっちゃ殴られてるし蹴られてるんですけど。本当、なにこの展開。まじで少女向けアニメとしてこれでいいのか。

 社会の闇が如実に再現されているような気がするんですけど。最近のアニメ怖い…とあたしはドン引きだった。いや、誰でもドン引きするだろうと思い座敷童さんを見ればはらはらした顔でそれを見守っていた。

 情操教育上よくないんじゃないの、これ。しかも仲間を殺したからとか……。いや、洗脳中の出来事だって言ってんじゃん、怖いわ最近のアニメ。なにが怖いってこれで放送OK、視聴率が取れてるところが怖い。

「悪の手先め! みいなをいじめて!」
「これって悪の手先のせいなんですか?」
「悪の手先がみいなを洗脳したから、今みいなは仲間たちからいじめられているんだろ?」
「そういう考え方なんですね」

 くっと悔しそうに拳を握る座敷童さん。その顔は、そこに行けないことが無念でならないと言いたげだった。テレビ画面を睨みつける座敷童さんに、乾いた笑みが口先にのぼる。

 いや、これフィクションですから。っていうか本当にこの展開で合ってるのかこのアニメ。みいなをリンチしてるのはたしかに感情的な妥当性はあるかもしれないが正当性はないぞ。

 あたしが渇いた笑みを浮かべたまましょっぱい気持ちでテレビ画面を見ていると。もうエンディングらしく、先ほどまでみいなを甚振っていた少女たちとみいなが手を取り合ってダンスしている画面となる。

 みいなよ、いいのかそれで。心の底から叫びたかったが、ほっと胸をなでおろしている座敷童さんを前に、あたしは何も言わなかった。いや、言えなかった。

 エンディングまで見おわってから、落ち着いたのかにこにこしながら座敷童さんがあたしを振り返った。

「いやー、楽しかったな」
「そうですか、よかったですね」

 あの展開を楽しかったと言えるあなたがどうしたんだ座敷童さん! 絶叫したかったが我慢した。その代わりあとでジブリとか情操教育に良さそうなアニメをいっぱい見せようと思った。あれが普通のアニメだと思われたら困るのだ。

 良作がこの世にはたくさんあるんだということを知ってもらわねばと、謎のやる気を燃やしているあたしに気付かず。そっけない返事に座敷童さんがしょんと肩と眉を下げた。

「君、魔法に興味がないのか?」

 あたしの顔をのぞき込みながら不安げに座敷童さんが呟く。どうやら魔法系に興味がないのにアニメを見させたから不機嫌になっているんだと勘違いしているらしい。

 そうじゃない、そうじゃないんだよ座敷童さん! 内心唸りつつ否定の声を上げて、あたしは苦笑した。

 それを見て、さらに肩を下げる座敷童さんのちゃぶ台に置かれた手をさりげなくとる。座敷童さんが頬をほんのりと赤らめる。こういうスキンシップで言葉がより伝わりやすくなると聞いたことがあるからだ(うろおぼえ)。

「いつも見てますからねぇ、なんとも」

 苦笑いと共に告げれば、座敷童さんがばっと萎んでいた体を起こして、あたしの言葉に食いついてくる。ちゃぶ台から身を乗り出すようにして、座敷童さんの手を掴んだあたしの手を、包み込むようにもう片一方を添える。

「なんだと! 現実世界に魔法があるのか!?」

 目をきらきら輝かせて食い気味にちゃぶ台越しに近づいてくる座敷童さん。まるで子供のような反応だった。

 あたしの手から骨ばった男の手の感触が伝わって、ワンピースの袖の下に鳥肌が広がる。しかしそこはあえて置いといて。「どんな魔法なんだい!?」と尋ねてくる座敷童さんににっこりと笑う。

「あたしを幸せにしてくれる、あなたという魔法がありますよ」

 そう告げれば、まるで豆鉄砲を喰らった鳩のようにきょとんとした顔をさらした後。一瞬で顔を赤に染め上げると、座敷童さんはしゃがみ込んで身を縮めてしまった。

「座敷童さん?」
「……」
「座敷童さん、おーい」

 ふるふると震える身体に声をかけるが反応はなく、座敷童さんが再び立ち上がるまで10分を要した。
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