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鈍感な悲しみ
しおりを挟むナメちゃんは2000年代初期の大学にタイムスリップした。青少年が勉学に勤しむ空間で青春を垣間見た!
第一章 心の詩
月日の浪費は内省期間には最適だ。図書館に足を運び専門書を読んでは蝉の声に和む。海や山に繰り出す奴等が、健康的に日焼けして学業に戻る頃には真っ白い顔が自慢できる人間に俺はなりたかった。そして数ヶ月は瞬く間に過ぎていた。
期末テストが終わりゼミの連中が雀荘で仲間相手に商売をしている頃、普通の学生の暮らしも結構楽しいものだと俺は納得した。見えないものは見なければいい!
ガキから大人へ脱皮する奴らは皆そう思うのだろう。
自分のスケジュールを音楽から切り離し本来の学業中心に戻し、退屈に紛れながら単位を取る事に励んだ。
季節に迷った赤蜻蛉が銀杏の枝を渡っては窓辺にJumpする。残照に飛び込んでは翻る華麗なwaltzに眼を奪われた。
…ガキの頃は夕焼けの落ちる広場で蜻蛉を追い駆けた。
夕飯の時間が来て友達が消えた後、迷った筈だ。このまま蜻蛉を追うか?家に帰って飯を喰うか。迷いがあった時のほうが自分らしかった。
いまは!違っている。
あれ程馴れ合いを嫌った俺が単位の為好きでもない女と馴れ合っている。胸の中で何かが弾けた。
生きていくのに億劫じゃ無いだろ。女の一人二人騙すのは。
「くそったれ、お前なんか消えちまえ!」心に巣食うもう一人の自分に向かって叫んでいた。
「独り歩きしたお前は違う視点から物が視えるようになったんだぜ」お利口さんによ!
「莫迦野郎消えちまえって言ってるのに」
授業を抜け出すと校庭に出ていた。
伽藍とした気分で噴水に小石を投げる。苔に絡まる小石が墓場は此処じゃ無いと云った。
耳に心地良いギターの調べが心の糸を共鳴させたのはその時だった。
樹にガムテープで楽譜を貼り付け歌を練習している女がいた。
透明な声で限りなくさざめきに近いメロディを模索する横顔。
空白の心に滴る歌詞は痛烈なMessagを突きつけた。
🎵~壷という歌だった。
「封じ込めろ~君の災いを~」
そのフレーズが妙に引っ掛かった。在ろうことが広々としたカレッジの風景が凝縮されて歌の中に描かれていた。
眼を閉じた一瞬俺は自分が歌の世界に没入していたのを感じて戦慄した。dragsongs!それは強力な情念を秘めていた。
運命的出会いというもの等信じた事が無かったが、彼女との出逢いは宗教家が常套句にする表現と類似するものであった。
近づいて行った陰に気づき、その女はちょっと心外の顔を向けるとギターを止めた。
幻覚から開放された俺は深く深呼吸すると、ベンチに転がっていた麻製のバッグを足で拾い中身を開けてみた。女は驚いた振りも見せず無関心に俺の方を睨みつけた。「いいんだ聴かせてくれないか!魂が腐る前の救済の歌をリクエストしたいね、」すらすらと気障な文句が出たのに自分でも驚いた。
女は芝生に散らばった所持品に嫌な顔も見せず呟いた。
「偏見で物を言わないでくれない」
……歌い出したいという事はね!
その女は歌声とは違う嗄れた地声で喋った。
「忘れていた感動を再現することね」
学生証から女の名前を知ると尋ねた!
彼女は今さっき迄の焦りを鎮めようとしていた。
「ぼくちゃんは」
Pocketに入っていた学生証をぶん投げると彼女の左手は見事にキャッチした。
「自己紹介が遅れてすまなかったよ」
彼女は学生証を開くと中に入っていた俺のステージ写真を見つめていた。
「付属校から来る子は良いよ内申書なんて嘘ばっか」
彼女はくすっと笑った。「私もそうだったけど」
銀杏の木に持たれ栗毛色の髪をかきあげた彼女はバージニアスリムに火を付けた。
「今偶然と言う事をあたしは恐れるわ」「もし偶然が今日も明日もそして…ずっと続いたら自分の存在価値さえ危ぶまれるもの」
期待のない時に逢う人によって人生観が逆転するという講義内容を彼女は思い出した。
彼女は学生証を投げ返すと先程の無礼な振りを戒めるように眼で合図した。
「パスポートの写真見ないでくんない!ちっとも似てないでしょう…私もっと美人だと思っていたのに」
俺はギクッとして見詰めていた。
「ハーフの女みたいだなお前」
「その言い方失礼だよ。隔世遺伝で眼が青くたって、私はJapaneseに誇り持ってるの!」
「大和撫子だろう」
訂正して所持品を一つ一つバッグに戻す。
それ使うならやるよと言われたのは生理用品だった。
「悪いけどそういう趣味は卒業したんだ」
彼女は少し警戒心を緩めたようだ。ギターを芝生に立てると顎を乗せて俺を見ていた。
洒落たサインペンが一本あったので失敬しようと思ったら戒められた。
「一本しかないのよ三色ものリップスティックなんて」
芝生に散らかした所持品に一つ一つ注釈を付けては元のバッグに仕舞うのを確認する。
彼女は告げた?!
「…歌わなきゃいけない運命を背負った人間達を同胞って呼ぶのよ」
木陰に置いたグラスファイバーのケースにギターを仕舞い彼女は寝転んだ。
「空がっさ~こんな風に真っ青な瞬間あたしは死んでも良いって思う」
「この空に看取られて死ねるなら、それだけで良いって」
真青な空が学園内を包囲すると網膜に侵入を始めた。
過去の事象がVisionとなり錯雑し始める。
糸を一本一本解して俺は記憶を遡った。
今まで事故や病気で死んでいった奴等の顔が浮かび、彼等の代弁者の様に言ってしまった。
「死をそんなふうに簡単に考えちゃいけない。」
「誰かが…泣…くんだ」
「産まれてからずっと1人だなんて云ってる奴も1人じゃない」
「拘らずに大きくなれない」
芝生に髪を擦り付けていた彼女は落ちて来る銀杏の葉に埋もれながら続けた。
「確かにそうだけど」
「人間は1度その相手のために泣いたら」
「あとは嘘泣きなの」
「悲しみから流れる涙は現時点で最高の物」
「時間が経てば涙も渇き、瞼に残留した悲しみが成長するのよ」「人間の心は…成長して鈍感になるの」
女らしく無い大胆な姿に学生達は、教室の窓から彼女の姿を嫌悪していた。
銀杏の葉に埋もれ大の字になり寝転んでいる女は確かにお淑やかという風情ではない。
窓から覗いている学生達を手で払いながら彼女に答えた。
「…鈍感な悲しみかい、そういう云い方は初めて聞いたよ」
開放的な姿に躊躇したのか、おもむろに開いていた足を狭めると彼女は膝を立てた。
「感情は絶えず心に命令しているのよ」
あたしは新しい何かが歌えそうって想い続けてきた。
半身を起こすと俺の方に向き直り彼女は云った。
「いまから始める予感はながい沈黙の終りに訪れたわ」
「そして…いま…歌いたい。そう、信じたい」
鈍感な悲しみを説いた彼女が言い続ける「~たい」という願望に同感だった。
それは断定で生きてきた俺がもう一つ違うやり方を見つける指針となる言葉の様に思われた。
「希望を歌うから私は」
ジーンズの埃を払い彼女は付け足した。
文化祭の準備で学生達が徹夜している教室では赤々と照明が灯ったままだ。
迷彩服を着てカメラを下げた奴がスケッチブックを脇に抱えた娘に引っ張られていく。
自動小銃でも股間に隠しているのか膨れていた。しけこむ先が暗室だとわかったのは娘の会話が耳に飛び込んだからだ。
あの写真だけは展示しないでと叫んでいた。
*
細長いワンルームマンションの中に40のクラブが詰め込まれている。彼女に案内された部室は良い言い方をすれば人間的だ。
間口3軒程の窒息しそうな空間には食い残しの弁当や片付けた事のない本等が足の踏み場もなく散乱し狭っ苦しい感じを与える。
此処に女は居ないのかと聞きたくなった。
部活は現在休止中だと彼女は告げた。新しい部長がアイドル路線のコーラス隊を作り、運動部のチアガールとして売り込んだ為、まともな部員は夏季に辞めたらしい。
彼女も実質的には退部していたが、副部長という肩書上、学内で行く場所が無い時は利用するらしい。
何処でも内輪揉めはあるものだと思った。
其れにしては穢いな!ゴキブリをカップラーメンのうつわで飼っているのかよ。
上司に送ろうなんて考えてんじゃない?
まさか!
心を覗いたなと想い彼女の顔を見た。
彼女は(あんた)と喋りかけてから少し黙っていたが、くすっと笑うと手心を加えてあげると告げては続行した。
あんたの考えは幼稚ね…まだ…ガキなんだ。現実なんて認識の問題。
攻めたら…直情を告げられ何が手心かと疑った。
再三部室を貶した事が気に入らなかったらしい。
一つしかない窓を開けると彼女は布の椅子に深く腰を沈めた。肘掛けがないので、肘をどこに置いたら良いのか暫く考え込んでいた彼女は結局膝の上に両手を置いた。
色のない部屋はまるで倉庫みたいだ。棄てられた人形のような気分になっていく。耳に彼女の歌唱スタイルを明らかにする意味が不意に飛び込んてきた。
……オトコなんて穢らわしいよ!
薄暗い部屋で不感症の女の愚痴を聞くとは心外だと言う顔を見せた。心なしか何かが彼女の記憶の奥で憂鬱な色合を深めているような気がした。
悪かった!
謝るべき問題もなく謝罪してしまった。
ためらいを瞳に浮かべ彼女は夏からめくられていないカレンダーの海辺を見ていた。
夢見る少女の時代はあっけなく過ぎた。白い帆が風に揺れる避暑地のレジャーランド!
背中から声をかけようとして一瞬戸惑った。何か居場所のない気まずさを感じた。
これ以上初対面の女と密室に居ると、性犯罪者の情慾が芽生えるのを察知したからだ。
一心にカレンダーの風景を見入って微かに肩を震わせた姿に、今さっきの不謹慎な心を警告した。
「どうしたんだよ」
言葉に気づいたのか、唇を噛み締めていた彼女は「なにも」と告げた。
「海に行こうか!」
誘いかけたら意外な言葉が返ってきた。
「海が嫌いなの!嫌な想い出があるから!潮の匂いを嗅ぐと吐きそうになる。」
「16の夏が青春じゃ無い娘がいてもおかしくないか」
不意に口から滑った言葉に彼女は「そうよ」と云った。
カレンダーを二枚破ると冬にして彼女は思い出していた。
……親友の従兄弟を紹介された時はそうなる予感がしていた。
従兄弟ともう一人の大学生が花火をしていた彼女達を浜辺に誘ったまでは良かった。
ロマンチックな星の輝き、寄せては引く波の音に、普通の女学生総てがそうであるように甘美な夢を追った。
暗闇のなか初めてでも、二人の男が入れ替わりに彼女を楽しんだのは容易に理解できた。
その屈辱が無かったら、岸壁に打ち付ける波の音に砕かれようとは願わなかった。
コンビーフの蓋が自殺の凶器になるとは誰も考えずに捨てて行くのだろう。力無く歩いた夜明け、友人が見つけてくれなかったら…いや、探しに来なければ良かったのにと彼女は思った。
あなたの従兄弟だから許せないのよ。彼女の失ったものは多すぎた。
彼女にとって女を捨てて人間として生きる方向を教えてくれたのは、ラジオの深夜番組から流れてきた一曲の歌だった。それが俺のデビュ曲「海が好きになるように」だと言う事を彼女は知らなかった。
ただ歌詞の中に歌われた世界が彼女の傷だらけの心を救った。
「穢らわしいか!」
彼女の使った言葉の複数形を聞き流し、ただ男であるという敗北感を味わってみた。
右側は應援團の分室だった。
洋ランを着た顔のでかい団員がlolita写真と睨めっ子している情景がカレンダーで揺れている節穴から見えた。
「節穴から亀さんが顔出すときあるんだ。処理して演ると後から壱万円札が出て来る。アラジンの魔法のランプよ」
肩に垂れかかるワンレングスはミーハー女学生の様に見えた。
視線に気付いたのか、横着してたらボブが伸びたと指先でカールを作ってた。
反対側のPosterを彼女が捲ろうとした手を制止した。
「他人の私生活をそれ以上覗くな。げっそりだねあんたのやってる事が女性週刊誌の記事と同じなんて!ゴシップやスキャンダルにさえ馴れてしまっては駄目だ」
彼女はハッキリとした口調で云った。
「馴れたく無いから冷静に観察しているのよ!馴れたらあんたの言うところの婆さんと一緒になるから」
少しだけ動揺した心を抑える為に壁に顔をつけている陰に告げた。
女に対して心情の欠片でも告白するのは珍しかった。
別に彼女が魅力のない女と言う訳では無かった。何か安心できるもの、違う付き合いが出来る女として見たからだろう。
肩の震えを止めて椅子を戻すと破れたカーテンをめくって呟いた。
「慣れたらあらゆるものに酔えなくなってしまう!初めてお酒を飲んだ時は演歌を唸っていた、タバコを吸った時停車場にバスが来た。酩酊状態でみた街の空は蒼く沈みきっていた」
「なけなしの金で買った花束を抱いて女を待っていた!5時間待っていた」「電話したら居留守を使われた何時間でも待つから逢ってくれと頼んだ。受話器の向こうで男の声が響いていた!バースデーソングが聴こえていた」
HappyBirthdayディアヨーコって言葉が喉に詰まってどうしても言えなかった。
バスも無くなり、終電も見送り歩いてダウンタウンまで帰った。
歩いていくうちに気づいた。慣れたら行けないってね!みんな場所と時間と状況と雰囲気を兼ね備えて夢見ているから良いんだ。imageingされた娘を海の中に泳がせて陽の光をあてるから美しい。愛らしい姿を緑の丘に走らせて風に靡かせるからこそ想い出になる。そして過ぎてしまえば残酷な仕打ちを受けた恋ほど美しい表現が似合う一曲の歌になっていた。
彼女は心の奥の嘆きを隠して信じたいと願う男の背中を見た。
………ナメちゃんは不思議な感覚に陥った。これが青春と言うものなのか、男と女が心を隠して意地を張りあっている。
第二章 クラブ天竺
快楽の都市を照らす真夜中のIllumination!誘われて女に成りたての少女達が悩殺のポーズを取っては街角に立つ。
ソバージュの髪に夜風を受けていた彼女は、クラブ天竺に行く近道を抜けながら通りゆく女に嫉妬を表す。
眼で喧嘩している彼女に怖いものを見た。
あいつらのがあたしのワンステージのギャラより率が良いなんて癪だよ!誰かを騙すなんて平気な娘達なんだ。見た目は少女してるよ。
駆け足で路地を行く道先案内人の姿が消えた時、ポン引きが強引に腕を引いてピンクの安っぽい店内を指差す。目を凝らす闇の彼方、白いシャツとサーキュラースカートが色っぽく揺れた。
彼女は行って来なよと言わんばかりに曲がり角に立っていた。
追い付いて腕を掴もうとしたらするりと躱された…!路地に大の字になっている泥酔者を跨いで、彼女は振り向くと俺にギターをもたせ先に行ってと命令した。
何かと思ったら酔っ払いの所まで駆け寄りポリバケツを被せると蹴飛ばして逃げてきた。
早く行けよ!言われるまま逃げたが理由はなかった。
お前が演った事だろ!なに腹立ててるんだよ!
彼女は泥酔した男を跨ぐ時に蔑まれた言葉が気に障ったらしい!
何が毛深いだ!見た事も無いくせに!
そうなのかと嘲笑すると、その逆だよと耳元で怒鳴りつけられた。
クラブツアーの一年、客はみんなあたしが女だから見に来ている。際どい姿でバンチラでも見せれば客は増えるからしろよってマスターは云うんだ。
店はそれでいいよ!あたしはどうなんだ!あたしの歌は種類が違うって何度言っても無駄なの!
此処はぶきっちょな娘がいる街、歌舞伎町、最近ヤクザは少なくなったけど、海を渡ってくる出稼ぎがタチ悪いんだ!
この街が故郷の人間には耐えられない。みんながこの街を汚して行くんだから!盛り場を故郷に持った人間は可哀想なのよ~だ!
彼女はビルの立つ場所を指さした。
貯水池があったのよ!此処には幼稚園の帰りにフェンスから小石を投げて波紋を数えていたわ。
あの角には人の良いおばさんの居る駄菓子屋があったわ!算盤塾の帰りによく行っては意地の悪い友達に告げ口されたわ。
天罰ね、その子は貯水池にはまってしまったけれど。その頃の体験を綴った歌に貯水池のランドセルって歌が有るの!
狭いが上品なクラブだ、キャパは50がせいぜいだろう。それ以上詰め込んだら酸欠でぶっ倒れかねない…!客は疎らだったがじきに増えるだろうとステージを眺めていた。店内は無性に懐かしい匂いがした。ライブの匂いなんて暫く忘れていたが、座り心地の良い椅子に腰を沈めると落着いた。
オールキャストじゃないのかい!
嫌味たっぷりに云うと、その通りとメンバーを紹介された、てっきりギターの弾き語りかと思ったがピアノとベースが待機していた。
ロコ!連中は彼女の事をそう呼んだ。
リハーサルの強烈なビートが頭をイカれさす。soundは進化する音楽であった。
そしてメガロポリスのジャズメンがバックを受け持っていた。
暗澹とした暗闇が続くステージに振り絞る様な歌声が響く。
胸に突き刺さる歌詞は学園内で歌っていた私小説的な観念詩を超えていた。頸動脈を切られ失神する感覚、突然ホリゾントに映し出された真っ赤に燃えた隕石。まさに血が噴出する時、彼女の背中を灼き尽くす様に堕ちてくる幻影にオーディエンス達は視覚的異世界に導かれていく。紫色に染まる彼女の髪が逆立つ。まさか…店がエフェクトマシンを装備しているとは驚いた。昼間に漂う塵が豪雨の音と共に散らばるとスポットライトが彼女を照らした。
壁
君は僕の宇宙を根こそぎ持っていこうとした
僕は必死になってしがみつき陰を残そうとした
僕の時間は奪われ僕の抱きしめる形も奪われた
僕は生きている でも昔の僕のようにはいかない
平べったくなった僕の頭は二次元
君は活字を見せて僕の空想を転移した
空間に浸り夢みた幻想が文字によって壊された
押し付けの言葉が僕に一つの意味しか持たせなくする
壁に文字を書いたのは君だ
何も書かなければ眼を開けて夢が見れたのに
壁が動く 壁が喋る 壁が壁が壁が僕を飲み込む
ゼラチンが紫に変わり回転する音が聞こえる。彼女はスローモーションで動く。バックのビアノがせせらぎのフレーズを奏でるとき、マイクスタンドの陰が樹木の様に聳える。後退する彼女の姿は猫のようだった。明らかにパントマイムの動きだ。寓意性と云うタイトルの不思議な挑発に彼女は侵入していった。
メルヘンの湖を思い浮かべるだけじゃ直ぐに消えてしまう。
明確なイメージに残すため歌いたい…そして叫びたい。
今ある状況と過去を比較して祈りたい。あなたは何がいま欲しいって聞かれたらどう返答する。
俺はステージに向かい?だと茶化した。彼女は数人の客に対してアジテーションしていた。
私はこう答える。いいえ答えたい。歌いかける叫びとしてのコミニケーション!それが真実、生のこと!でも現世ではそれが希薄だから焦るわけ…!
現実という殻の中で脆弱な憤怒を温めて爆発するのをみんな待っている。もうじき…私の夢や悩みが私だけのものじゃ無くなり、此の化け物が徘徊する国で爆発するのよ…!
個人より大衆に愛を歌うの。私信などつまらない。感情のはけ口としての歌の命は数分間の情事と同じよ。百回愛してるって、叫んだって、愛の切なさはその場限りにしか相手に伝わらない。愛に渇望しているみなし児に私は捧げる。聖母の愛!
それがこのザマかよ!と客席を指差した。
客の多さと歌の良さはたえず反比例するものなの!
此処はウォーターフロントよりもファンの耳が肥えているのよ。
言葉が届いたのか?一蹴させられた。
椅子に読み捨てられた雑誌を拾う。見出しを広げこれしかないぜと云った。
サンプリングされたガムランの音が響き、ギターの掻き鳴らしやプッシュする音がステージ空間に散る。アドリブの続くステージから彼女は雑誌を読むと鼻で笑った、
何を言いたいのよ!スキャンダルを起こすならあんたとなんか起こさないわ。
私は良い血を残そうと思ってるの。もっとネームバリューのある相手と起こすわ!
こっちだってゴメンだ!
お互い初めて意見が合ったわね!
彼女の笑顔は素敵だった。
このエロキューションの旨さは何なんだ。見事に彼女のペースに乗せられていく。打ち合わせ無しに対応する此れは天性だ。
作品の密度の高さといいアンサンブルの独創性、演出といい、カウンターパンチを喰らってしまった。
彼女は悔しがってる俺を尻目にチューニングを始めていた。
「総てが逆さまに世の中は周る」
という歌に入っていた。
神秘主義者なのか!彼女の歌詞には現実を超越したフレーズが多々含まれていた。
彼女が夜バイトしている店の授業員達が現れて客席はどうやら格好がついてきた。
彼女は俺の方に寄って来て囁いた。
実力よ!
やはり客が多い方がノルらしい。
俺の友人がやって来たのは数曲が終わってからだった。
アマチュアの役者仲間をこぞって連れて来たので天竺は満員になった。
彼女がまた降りてきた。
実力よだろう…!
キャパ50のライブで立見が出たくらいで喜ぶなよ…!
繁華街で彼女と飯を食った帰り妙に寂しかった。
友人の住職は彼女を口説こうとしていたが、彼女の方はまるで関心がないらしい。
俺が聞いたのと違う電話番号を教えるとバイトに行った。
口の中で韮が歯の隙間に挟まり、舌の先で取ろうとしては目付きが悪くなる。
住職がガン飛ばすなと言っちゃパフォーマンスする。飲食店から失敬してきた醤油を垂らして人混みの中を一周してきた。
さっきの女、日本語上手いなと、彼女の事を聞きたがっている。
どうやら電話の会話を信じているらしい。クラブに誘う時。ハーフが歌っていると云ったのだ。
ゲームセンターではガキがジャリ銭をコインに変えて血走った眼をしている。
あんな時代もあった。
赤毛の女がキャバレーに駆け込んじゃ支配人に怒鳴られている。
いくら~考えても…答えが見つからない…もんなんだ~!ヨーコは医者から貰った薬をビールに溶かしては朝食にしていた。
あたしは幸福を探してるのかもしれない。
少し足りない女ほど可愛いものだ!俺は過去の女に教わった人生論に頷いた。
落ちぶれたサンドイッチマンが時給二千円の看板を持って立っている街角を抜ける時、独り言が聞こえた。行きは良い良い帰りは怖い…童歌を歌う奴にも将来の希望があるに違いない。
そんなもんだよ!感染したのか!問わず語りした。
夢を売る改装中ホテルからこれ以上にない楽しい人生を送っているアベックが出て来る。
小便も満足に出来ない酔っ払いが絡んでいる。
どんな愚直な奴だってドラマの一つ2つ持っている!
住職はポン引きに社長と呼ばれると気を良くすると着いていった。
普段なら刺戟的な情景も、快楽への探求をさせるものじゃなくなっていた。
街では天竺に続く道をみんなが歩いていく。
………………終り
ナメちゃんは惹かれ合いながらも意地を張る二人を見ていた。
地球人は悲しい性のもと生きるのかも…!ちょっぴり羨ましくもあった。
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