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16 『醜い』と言われないまでも
しおりを挟む朝はバター香るサクサクのクロワッサンに熱々のコーンスープ、そしてシャキシャキレタスのサラダに肉汁滴るベーコンエッグでデザートはヨーグルトに蜂蜜かけて。
昼はチーズたっぷりのクリームパスタとオニオングラタンスープにシーザーサラダ、そしてデザートに瑞々しい葡萄一房丸ごと。
そして極めつけに、午後には豪勢なアフタヌーンティーを用意されまして。
アレクセイ様のお屋敷の立派なお庭で私は今、とっても優雅にマカロンを口一杯に頬張っております。
ここはもしや天国でしょうか?
ややこしい書類を見なくてもいいですし、仕事中毒の上司にあれやれこれやれと命令もされません。
しかも昨日たっぷりと寝かせて頂いたおかげで、カサカサだったお肌はふっくらもちもちに戻ったような気が致します。
それにばぁやさんに髪もお手入れして頂いたので、パサパサになってしまっていた黒髪も多少はマシになったと思います。
これなら以前のように可愛いと言われないまでも。
『醜い』とはもう、言われないんじゃないかなと思う次第で。
久し振りの休日らしい休日。
優雅なひととき、ずっとこのまま続けばいいのにと願っておりましたが現実は無情。
「ブランシェ様、アレクセイ様がいま先程お屋敷にお帰りになられました」
「え……そう、ですか」
優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいたら、ばぁやさんがアレクセイ様のご帰宅をお知らせして下さいました。
まだお日様は天高く空に昇っていらっしゃるのに、お帰りになるのが少々お早くないですか?
いつもは魔塔で夜遅くまでお仕事なさってらっしゃるのに、これはどういう風の吹き回しでしょう?
やはり天変地異の前触れ?
そして私はばぁやさんに連れられて、アレクセイ様の元へと伺い致します。
お屋敷でお世話になってしまいましたからね、社会人としては一言お礼をお伝えせねばなりません。
「アレクセイ様、ブランシェ様をお連れ致しました」
軽く扉を数度ノックされて、ばぁやさんが先にお部屋に入室されます。
私はその後ろに続いてお部屋に入ります。
……紙とインクの匂い。
通されたお部屋の壁一面には天井まで届くような本棚、そしてそこには古今東西の魔法の書やらがびっしりと隙間なく収まっていた。
……仕事中毒の上司らしいお部屋。
そしてアレクセイ様は、銀色の眼鏡をかけてまた何やらお仕事をなさっていらっしゃいました。
少しでも時間があればお仕事、それは自宅でも変わらずらしいです。
「ブランシェ、もう身体は大丈夫か?」
アレクセイは書類からふと視線を上げて、部屋に入ってきたブランシェと目線を合わせて声をかけた。
「あはは、ちょっと疲れが溜まってしまっていたみたいで。すいませんアレクセイ様、ご迷惑をお掛け致しました」
そしてブランシェの顔色や表情等を、アレクセイは窺うようにじっくりと観察する。
昨夜より顔色は良く元気そうでゆっくり一日休めた事が、その表情から手に取るようにわかる。
けれど無理は禁物、アレクセイはもうブランシェに無理をさせるつもりはないのだから。
「いや、それについては何も気にしなくていい。ドレス、着てくれたのだな」
先程からずっとアレクセイ様は、私を真っ直ぐに見ていらっしゃる。
急にどうしたのかと思っていましたが、アレクセイ様がご用意されたこちらのドレスを私が着ているからのようです。
「はい、素敵なドレスありがとうございます。ですが私には、その……」
とても素敵なドレス。
ですが『醜い』と言われてしまった私なんかが、こんな素敵なドレスを着ていいものなのか。
着る時はとても迷いました。
ばぁやさんに綺麗に髪も結って頂いて、少しはマシになった気も自分ではするのですが。
でもまた『醜い』と言われたらと思うと、人に顔をじっと見られるのはすごく怖い。
それがたとえアレクセイ様でも。
「ブランシェ、君にそのドレスは良く似合っている。君の艶やかな黒髪に青が映えてとても美しい」
「えっ……」
美しい……?
「これからは私の婚約者として、そして妻としてドレスを着る機会も格段に多くなっていくだろう。だから今のうちからドレスに慣れておきなさい」
「……あ、はい?」
いま……アレクセイ様は何と言われました?
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