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24 あちらの結婚式
しおりを挟むシン……と、静まり帰った聖堂に。
虚しくパイプオルガンの音色が響く。
多少あちらに招待客が奪われるだろう事は、式の日取りを被せられた事を知った時から皆一応予想はしていた。
一度取り止めて別日にしようとしたが、ダフネが『そんなの絶対に嫌だ』と言って聞かなかった。
だから予定どおり式をすることになった。
だが、ここまでとは誰も想像していなかった。
だって聖堂には両家の親族以外誰もいないし、席は九割以上空いてしまっていて。
式に列席した両家の親族達は閑散とした聖堂に、居心地の悪さを感じる。
そしてここに居ることがなぜか悪い事のように思えてしまい、言い知れぬ不安に襲われる。
正直もう『帰りたい』。
それに出来れば今日は自分達も、あちらの式に行きたかった。
だがそれは残念ながら出来ない。
でもそこは貴族。
余裕の笑みをべったりと顔に張り付けて、バージンロードを歩く花嫁に拍手を送る。
そしてバージンロードを父オクレール伯爵と歩く、ダフネ・オクレール伯爵令嬢はベールの中で顔をひきつらせる。
どうしてこんなに列席者が少ないのかと。
いくら相手が男爵家の嫡男といえど、ダフネはオクレール伯爵家の令嬢。
王都で王族や貴族向けの商会を営む、オクレール伯爵の影響力は絶対のはずでこんな閑散とした式など普通あり得ない。
ベールの中でダフネはギリギリと歯軋りする。
……どうして、どうして、どうして!
私は皆に盛大に祝福されて、幸せな花嫁になるのが当たり前のはずでしたのにっ!
美男子な新郎に、贅を尽くした煌びやかなウェディングドレスで列席した令嬢達に羨ましがられる予定だった。
なのにそこで拍手を送るのは、作り笑いを浮かべる親族達だけで。
最低最悪な結婚式。
こんな事ならこんな男を欲しいなんてお父様に言わなければよかった。
だってエクトルはそれなりに美男子だけど、貧乏男爵家の嫡男。
どうせ結婚するのなら、この間お会いしたアレクセイ様のような高貴な方がよかった。
もっとあの場でお話出来ていれば、隣にいた女なんか捨てて私を選んでくれただろうに。
たかが男爵家の嫡男風情が私の邪魔をするから。
「ああ、本当に結婚したいだなんてお父様におねだりしなきゃよかった」
ポツリとダフネはそう溢す。
王宮でチラリと見かけた美男子エクトルに、ダフネは一目惚れし。
父親であるオクレール伯爵に、彼と結婚したいとお願いした。
目に入れても痛くない愛娘ダフネに、そんなお願いされてしまったオクレール伯爵は。
二つ返事で承諾。
だけどエクトルには既に平民の婚約者がいて。
オクレール伯爵は二人を婚約破棄させる事にした、調べれば二人の婚約は融資との引き換え。
だから金の切れ目は縁の切れ目として。
ブランシェの父親を失墜させる計画をオクレール伯爵は考え、知り合いの商会や貴族達を使い新規事業だと持ちかけて。
ブランシェの父親に多額の負債を背負わせた。
もうそのあとは簡単、フロベール男爵に無利子の融資の話を持ちかけるだけ。
たったそれだけで、愛娘ダフネの願いをオクレール伯爵は叶える事が出来て。
娘に『パパ大好き』と言って貰えて、オクレール伯爵は最高の気分だった。
なのに。
王弟が、たかが平民と結婚すると言い出してから。
全てが狂い出した。
ただ『平民のような薄汚れた血と王家の高貴なる血を混ぜるなんて穢らわしい』と言っただけなのに。
王弟が平民の女を悪く言った貴族の領地は、今期から魔物の間引きを止めるとか言い出して。
領地に魔物が増えた。
それによって田畑が魔物に荒らされて、街道にも魔物達が増えてオクレール伯爵家の領地は大損害。
それに加えて『王弟の不興を買ったヤツの商会から物を買うのは嫌だ』とか貴族達が言い始めて。
王都で営んでいた王族貴族向けの商会も、ここ最近大赤字続きで。
オクレール伯爵は、多額の負債を背負う事になってしまった。
だからオクレール伯爵は、祝いの場でバージンロードを娘と歩いている最中だというのに盛大な溜め息を溢した。
そして新郎のエクトルは。
隣にやってきたイライラしたダフネの顔を見て。
やっぱりブランシェのほうがよかったと、小さく嘆息をついた。
だってブランシェの方がお淑やかで我が儘なんて絶対に言わないし、自分が何を言っても何をしても楽しそうに笑っていてくれた。
それに最近財政難のオクレール伯爵家の令嬢を貰って、頭を下げて融資を頼むより。
自ら働いて稼いでくれるブランシェのほうが、融資を頼まないでいいし融資の返済もない。
それにブランシェはまだ自分の事が好きなはずで。
好きでもない王弟なんかと結婚するより、自分と結婚したほうが絶対に幸せになるはず。
それに今ならブランシェと結婚すれば、自分が侯爵になれるはず。
そんな事を馬鹿な事を考えながらエクトルは。
「誓います」
と、上の空で適当に答えて。
伯爵令嬢ダフネと結婚したのだった。
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