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27 初夜 後編
しおりを挟む少し間を開けて隣に座ったはずなのに、何故か近い距離にアレクセイがいて。
ブランシェは今まで感じたことのなかった緊張感を感じ、間をあけて逃げようとすれば。
アレクセイはブランシェの肩に腕を回し、逃げられないように拘束した。
「ちょ、あの……離して下さい! 近いです!」
近すぎてアレクセイ様の方を向けない。
この距離は恥ずかしい。
「どうして?」
「そんな、どうしてって……! なんかアレクセイ様、最近すっごく変です! 私に優しくしたり、高価なドレスとか色々と買ってくれたり……爵位なんか急に渡してきて!」
私の知るアレクセイ様は、仕事中毒でお仕事にしか興味を持たれなくて。
優しくして貰った事なんて一度もないし、私相手にあんな風に微笑んだりしなかった。
「ドレスは公爵夫人になる君に必要だから渡しただけ、あと爵位は君が一人前になったから。それと夫が妻に優しくするのは普通だろう? 私は君に約束したはずだ夫としての勤めを果たすと」
確かに『最低限夫としての勤めを果たす』とかそんな事、前に言っておられましたが。
いま私がアレクセイ様にお聞きしたいのは、そういうことじゃなくて。
「いや、それだけじゃなくて! あの、その……今日の結婚式で……」
「……結婚式で君に口付けしたり?」
「っ……は、い」
そりゃ結婚式なんですから?
誓いのキスなんて、して当たり前でしょうけど。
だけど私達は契約結婚なんです。
キスをするフリだけでも十分だったではずで。
だからどんな意図でされたのか私はアレクセイ様に聞かなければなりません、これからの為に。
でも本当は聞くのがとても怖い。
「君に口付けをしたかったから、しただけだが……私にされるのは嫌だったか?」
「い、嫌じゃありませんでしたが……アレクセイ様は私のこと好きじゃないし、愛さないとおっしゃりました! なのにキスしたいなんて変です!」
「あ、嫌じゃないのか?」
「っ……今はそういう問題じゃありません!」
今はアレクセイ様にキスをされて嫌か、嫌じゃないという話ではなくて。
もっと大事なお話しの最中です。
「ふむ? あの時はそう君に言ってしまったが、今は違う。私は君の事を女性として見ているし、愛してしまっている」
「え、うそ、だって……」
アレクセイ様が私を好き……?
え、本当に……!?
私の聞き間違いとかじゃなく?
「ブランシェは私の事、どう思っている? 上司ではなく男として見れるか?」
アレクセイは俯いていたブランシェの頬に手を添えて自分の方を向かせ、視線を合わせた。
ガラス玉みたいな青の瞳、美術品の如く整った美しい造形が視界いっぱいに広がって。
ブランシェの胸は激しく高鳴っていく。
「え? あの、それは……えっと……」
「出来れば君にも私を男として見て欲しいし、好きになって貰いたい。『愛を求められても困る』等と言ってしまった私がこんな事を君に言うのも間違っているが……自分勝手だな、すまない」
「アレクセイ様、私は……」
「ブランシェ、契約による偽りの夫婦ではなく本当の夫婦にって欲しい」
適当にはぐらかされるかもしれないとか、ただの仲良しアピールだと言われるかもしれないとブランシェは思っていた。
なのにアレクセイは、とても真剣な告白をブランシェにしてくれた。
それがただ、嬉しくて。
「私も……契約による偽りの夫婦ではなく、アレクセイ様と本当の夫婦になりたいです」
私もアレクセイ様と本当の夫婦になりたい、もう恋なんてしたくなかったけど。
男性なんて信じられないけど。
アレクセイ様なら信じられる気がする。
「それで、なんだがブランシェ……」
「はい、どうされました?」
「……初夜は、してもいいのか?」
「え……」
ここは夫婦の寝室。
そして今は新婚初夜。
ブランシェとアレクセイは想いが通じ合ったのだから、身体を重ねても何ら問題はない。
というか何もしない方が問題大有りで。
「ブランシェが嫌ならば無理にしようとは思わないが、出来れば……」
「っ……お、お手柔らかにお願い致します」
「ああ、優しくする」
その言葉通り。
アレクセイはとても優しかった。
何度も何度も飽きるほどブランシェにその愛を告げながら、アレクセイは優しく触れた。
口付けひとつにしても、唇から蕩けてしまいそうなほど甘く優しくて。
まるで夢の中にいるような幸せな夜だった。
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