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49 恋の始まりは
しおりを挟む神殿長室での勤務が始まってから、そろそろ1ヶ月が経とうとする。
神殿長のお仕事のお手伝いに礼拝での聖書朗読などやりがいのある仕事ばかりで、社畜は、スカーレットは承認欲求が満たされて毎日が楽しかったが。
最近……なぜだか神のような、田舎のおばあちゃんのような上司が、なんか近い。
物理的にも、人間関係的にも。
それに……最近なんか美しいとか言ってくるんだ。
この間なんてちょっと暑くて髪を結んでいたら
「髪を結い上げてるスカーレットは、本当に女神様に似ていて美しいね」
とか……その神が作り出したようなお綺麗なご尊顔で、切なそうな顔をしながら……言うんだ。
美しいのは貴方の顔だと思いますが、本当に貴方は人間ですか? 男の人なのに髭とか生えてないよ…?
最初は社交辞令かなって思って対応していたんだけれど……なんか……違う。
貴族社会で学んだ社交辞令の雰囲気とも違うそれは、なにか熱を感じてしまうような……胸がドキドキと高鳴るような……。
いや、まさか。
アシェルは神上司だし、神殿長だし、出家して神官になったとわかっている、私にそんな熱を向けてくるハズがない。
私は結婚はおろか恋愛も許されていない出家させられた神官なのだから。
でも、ただの気のせいにして済ますには、それが段々と度重なってくる。
そして、二人きりになると、なにか言いたげな視線と雰囲気を作り出してくるし……。
だから、なんとなく、その雰囲気が居心地が悪くて…そんな雰囲気出されたとしても、もしこの気のせいが気のせいじゃなくても……それでアシェルに恋をしてしまったとしても。
私は……スカーレットは、貴族の位を剥奪されて、出家し、この女神シャダンの厳格な神殿に神官として入れられてるから。
それはただの悲恋じゃないかと、社畜はその気持ちに蓋をして、これはただのセクハラだと済ます事にした。
大丈夫、大丈夫、セクハラの対処は慣れてるし?私は大人だし、営業畑の社畜舐めんなよと、徹底してそんな雰囲気を作らせないようにした。
二人きりにならないように、アシェルを避けた。
その度に、アシェルは少し寂しそうな顔をするけれど、そんなの気にしないように、見ないように、考えないように。
もう、スカーレットがアシェルに恋をしている事なんて、気づいているのに邪魔をして。
自分もアシェルといるのが心地よく思っているのに、アシェルの想いが優しくて、私を気遣う言葉が、嬉しくて。
でも結ばれる事なんてないと、大人の私が一番わかっているのに…胸が苦しくなるのは、
……どうしてなのかな。
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