93 / 99
93 朝飯前
しおりを挟む王子となってしまったアシェルを謁見の間で見た私は、そんな事をあの王妃殿下が許されるはずなんて絶対にないと予想して動いた。
どうにか間に合ったようだがこの取り引きは綱渡りの様なものだ。
もしサミュエル様が廃嫡されたり、王太子の位を奪われた時点で王妃殿下は動く。
だから何としてでも、サミュエル様を王にしなくてはいけなくなった。
最初は正直一人で楽な方に逃げようとするサミュエル様に腹が立って言った事だったけど、ここまでややこしくなるなんて想定外。
まさかアシェルがヘタレな国王陛下の婚外子で王子だったなんて、あの馬鹿サミュエル様と腹違いの兄弟だったなんて予想外。
あのまま神殿に隠れていれば命の危険なんてなかったのに、いったいどういう心境の変化なのか。
せめて一言くらい言って欲しかったと思ったけれど少し前まで私は、アシェルからも逃げていた事を思い出して。
とりあえず侯爵領に人員の派遣は取り付けたから、次は問題児フローレンスの王妃教育だなとフローレンスを探すけれど。
……どこ行きやがったあのヒロイン!
何日も無断外泊しやがって、そんなこと揚げ足取りの貴族達に知られたらサミュエル様の婚約者になんてなれやしない。
王家に嫁ぐ為には清廉潔白でなくては、いけないというのに色んな所で男達を誘惑して好き勝手遊び呆けてる、よくあれをヒロインになんてこの乙女ゲームは採用したな?
やっぱりこんな糞ゲームの営業だけは絶対にしたくないなと、社畜はフローレンスの行方を血眼になって探しながら思った。
そんなプロの社畜である姉スカーレットの、腹違いの妹であるヒロインフローレンスは。
公爵令嬢レオノーラの家を潰す為に、それはもう楽しそうに暗躍していた。
こんな暗躍するヒロインなんて、社畜が知ったらまたこんな糞ゲーム嫌だと言うだろう。
だがこのヒロイン本当に悪さをさせるに大変有能で、公爵家没落まであとひと押しという所まで来ていた。
方法は至って簡単で、レオノーラの公爵家の嫡男を誘惑し全財産を貢がせるだけだった。
普通嫡男じゃ公爵家の全財産なんて動かせないだろうが、恋に溺れてしまった男なんて見境がなくなってしまう。
だからたった半月で公爵家の金庫がほぼ空になってしまっていたし、それだけ急に無くなれば意外に誰にも気づかれないし、フローレンスはその貢がれた金を全て神殿に募金し神殿を味方につけていた。
なので、それが発覚してもフローレンスを責めるに責められなかった、だってフローレンスはただ欲しいと言っただけ。
それを勝手に公爵家の嫡男が全財産を横領してフローレンスにプレゼントし、フローレンスはそれをそのまま神殿に全て募金していた。
それにフローレンスはあれも欲しいこれも欲しいとは言ったが、全財産を使えとも、プレゼントをくれたら何かしてやるとも言っていない。
欲しいな? とおねだりしただけである。
そしてフローレンスは無駄に手広い交遊関係を使い、公爵家のその醜聞を流した。
公爵家の嫡男がどこぞの令嬢に惚れ込んで公爵家の全財産を横領し家が傾いていると。
そんな醜聞が出回れば公爵家の社交界での発言力は弱まるし、そんな馬鹿が居る家の令嬢など、王子の婚約者には相応しくないと貴族達は思うだろう。
こんな事、国家転覆紛いの事をしたフローレンスにとったら朝飯前過ぎたのだった。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
4,172
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる