16 / 52
16 お飾りでいいのに
しおりを挟む言った。
言ってしまった。
ついその場の雰囲気と勢いに任せて私の命運を握る公爵様相手にとんでもない事を言ってしまった。
やっちまった感。
でも、すごく……すっきり。
キモチイイ……!
晴れやかでとても爽やか。
鬱々としていた気分が一気に晴れて。
今にも舞い踊れそうなほどに気分がいい。
小躍りを披露したい気分だが今日はだめだ。
筋肉痛が私の身体を今も蝕んでいる。
でも、馬鹿とかお飾りの夫とかすごい事をラファエル公爵相手に啖呵切って言っちゃった!
うわ、どーしよ?!
お……追い出されないよね?
たぶん……。
怒って無かったと思うしきっと大丈夫、それに私に恋……してるとか言ってたし!
恋って、恋ってなんだ。
なに乙女みたいな可愛いことを、あの仏頂面で言ってるんだろう、あの男は。
似合わなさ過ぎて笑える。
ラファエル公爵の乙女発言も笑えるが、自分のお馬鹿な発言にも乾いた笑いがでる。
ラファエル公爵に否定されてなんか無性に腹が立ってお茶会に行けるとか行ってしまうなんて、どうして私はそんなことをっ!
きっと、いきなりキスされて動転してたんだ。
まさかラファエル公爵が私にキスなんてしてくるなんて予想してなかった。
跡継ぎを産ませたいだけだと思ってた。
でも現実感があまりにも無くて、触れられる事を覚悟してなかった。
それにきっとその行為自体も事務的にさくっと済ませてキスなんてしてこないだろうと、私はたかをくくっていた。
そこに愛や恋なんて絶対無いと思ってた。
まあそりゃ結婚してるんだから?
夫であるラファエル公爵に望まれれば、妻である私は拒めないが、……でも、やだなぁ、鬱陶しいなあ。
……私はもう一生お飾りの妻でいいのに。
どうして私の邪魔をラファエル公爵はするのか。
今さらそんなこと言われても、普通に困る。
そしてアイリスはやっちまった感と、これからの夫婦生活について苛まれながら天を仰ぐが、今さらどうすることも出来ないし悩んでも仕方ないかと考える事を放棄した。
嫌な事は全部投げ出して、耳を塞ぎ目を閉じて時が過ぎるのをただ待ちわびる。
それが彼女に出来る唯一の事だったから。
繊細なレースが縫い付けられたカナリアイエローのお茶会用のベルラインシルエットのドレスは、とても可憐で可愛いらしく品が良い。
アイリスの細いウエストを際立たせるように、ウエストから裾にかけて釣り鐘のようなラインになっていてプリンセスドレスよりは裾のボリュームが少なめで清楚な雰囲気を醸し出していた。
そして専属メイドジェシカの手によって美しく編み込まれたアイリスのチョコレート色の髪はハーフアップにされてリボンで可愛らしく飾られた。
とても残念な事にドレスは問題なく期日通りに届き、縫製は完璧でアイリスの体調も良い。
空は晴れ渡る青空でお茶会日和である。
それにラファエル公爵に行けると啖呵を切ってしまった手前、アイリスは行かないわけにも行かず。
重い足取りで公爵邸を出て馬車に乗る。
本日はクッションを忘れずに持参したので尻の心配は必要ないだろうが、ドレスが重い……!
久し振りにドレスで着飾った運動不足な引きこもりニートは、清楚で可愛いらしい微笑みを浮かべ見送りに来た使用人達に。
「では、行って参ります」
「行ってらっしゃいませ!」
軽く挨拶をして王城に旅立っていった。
引きこもりアイリスにとっては馬車で10分の王城も長い旅路である。
さて問題のお茶会のマナーだが。
昨夜眠る前に付け焼き刃くらい必要かと思い直してちらっとお茶会マナーの本を読んだが、アイリスにはそれが出来る気がしない。
まずアイリスはカーテシーが録に出来ない。
運動不足で、足腰が貧弱だからだ。
それに出席者名簿を見て貴族名鑑もチラ見したが覚えられる気もしない。
だから早々に諦めて隅っこの席でなるべく目立たず息を潜める事に専念しようと心に決めるが。
近衛隊長の妻であり、フォンテーヌ公爵家の公爵夫人が王城で行われるお茶会で隅っこの席に座らされるなんてことは、絶対にあり得ないのに。
そんな冷遇をフォンテーヌ公爵家の公爵夫人にすれば、ラファエル公爵に王族がわざわざ喧嘩を売りに行くようなものなので、そんな馬鹿な真似はしない。
そしてアイリスは王城にやってきた。
……クッションを敷いてたのに尻が痛い。
王都の街に敷き詰められた石畳に、馬車の車輪が勢いよくガンガン弾んでいつもより強い衝撃がたっぷりとアイリスの尻に伝わった結果である。
アイリスは日頃部屋に引きこもってばかりいるから腹があまり減らずとても少食で華奢というか貧弱。
なので尻にもあまり肉がついていない。
その為に、起こるべくして起こってしまった、これは悲しい引きこもりならではの悲劇であるが。
そんな骨に響くような痛みに尻が訴えているなんて露とも顔には一切出さず、お茶会の会場である庭園に重い足取りでのっそりと歩いていく。
絢爛豪華な王城をアイリスは一人庭園にまで歩いていると、悲しいかな道に迷ってしまう。
だってアイリスは王城にはデビュタントの時の一回だけしか来たことがなかったから、迷ってしまうのは仕方がなかった。
周囲をくるりと見渡すが誰もいない。
メイドでもいれば、庭園までの道を聞けたのになと、王城の廊下の隅っこで途方に暮れていると。
「……アイリス一体ここでなにしてる?」
その声に、アイリスが振り向くと。
「っげ……お父様……」
359
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた
ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」
「嫌ですけど」
何かしら、今の台詞は。
思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。
ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻R-15は保険です。
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる