【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅

文字の大きさ
31 / 52

31 傍観する引きこもり

しおりを挟む


 香ばしいアーモンドタルトの上に濃厚なクリーム、甘酸っぱいイチゴや季節の果物がたっぷりと乗ったフルーツタルトを、アイリスは口いっぱいに頬張る。

「はふぅっ……!」

 甘いものが大好きなアイリスは、チョコレート色の瞳を大きく開けて幸せそうに頬を桃色に染めてにこにこと微笑む。

 美味しそうにタルトを頬張り夢中になっているアイリスはとても可愛らしくて微笑ましく、その幸せそうな笑顔に釣られるようにラファエル公爵まで笑顔になって幸せな気分になった。

 だがそれと同時に。

 この程度の事でこんなに喜ぶのなら、もっと早く連れてきてやればよかったと罪悪感に胸が痛んだ。

 今さら過去の過ちを後悔しても遅いとは重々承知の上で、若気の至りだとしても馬鹿な事をしてしまったとラファエル公爵はアイリスの笑顔を見て悔やむ。

 本当は自分の手元からアイリスを解放し、同世代で家格の近い男と良縁を結んでやって、そしてやり直しを支援してやるのが一番の償いだと、ラファエル公爵もわかってはいる。

 でも……手離してやれない。

 公爵夫人という立場がアイリスにとっては重荷で、苦痛でしかないと知った今でも、こちらの事なんて全くなんとも想って無いと知っていても。

 この可愛らしい笑顔を側で見ていたいから。



「君は本当に美味しそうに食べるね?」

「あ……ごめんなさい、つい美味しくて、私……はしたなかった……ですか?」

 ついタルトが美味しくて、口いっぱいに頬張って夢中で食べてしまっていた……!

 うわ、恥ずかしすぎる!

「え、君は綺麗に食べているよ? アイリスはもっと自分に自信を持つといい」

「う……はい……善処します……」

「そんなにここのタルトが気に入ったなら帰りに買って帰ろうか? 晩餐のデザートにするといい」

 やっぱりラファエル公爵って実は良いヤツ!?

 流石は高位貴族様っ! 太っ腹!

 ここのタルトびっくりするくらい高いのに……!

「っはい!」

 ラファエル公爵が晩餐のデザートにタルトのお持ち帰りを買ってくれるというので、アイリスが店のショーケースの前でうきうきと選んでいると。

「……ラファエル?」

 タルトを上機嫌に選ぶアイリスを、後ろでゆったりと眺めて待っていたラファエル公爵に驚いたように話しかける女性の声。
 
 その声にアイリスが振り返ると。

 扇情的な艶かしい身体を見るからに高級なドレスに身を包み、自信に満ち溢れた立ち姿でラファエル公爵に追い縋る美人さんがそこにはいて。

 まるで映画のワンシーンのような光景がそこでは今正に繰り広げられていて、アイリスはちょっとウキウキした。

「……アンリエットその手を放してくれ、もう君と私は終わったはずだ」

「っ……冷たいのね、ラファエル?」

「いいから手を放しななさい、私と君とはもう無関係の他人だ、そう話し合って……終わっただろう?」
 
 その二人の会話にアイリスは。

 ……もしや、このエロい身体のお金持ちそうな美人が、ラファエル公爵の元彼女さん?!

 ヒョロガリの私なんかより断然こっちの扇情的な美人の方が魅力的なのに、別れるなんて勿体ない!

 と、完全に傍観者として二人を眺め楽しんでいる。

 そんなアイリスを、ラファエル公爵が見たのにアンリエットは気づいて。

「なにこの子……ラファエルの所のメイド? 人の事をじろじろ見るなんて礼儀がなってないのね、躾が必要なんじゃない?」

 アンリエットが自分より下の者をみるような蔑んだ視線をアイリスに向けて睨み付けるから。

 アイリスは僅かに残った野生の本能からなのか、ビクリとその視線に怯えてしまい咄嗟に後退りする。

「え……あ、私は……」 

「アンリエット! いい加減にしなさい!」

 アンリエットのアイリスに対するその不敬な態度に、ラファエル公爵が怒鳴る。

「え……何よ、私はこのメイドに躾を……」

「……彼女は私の妻だ。いくら君でも私の妻に対する不敬な態度は許されない、アンリエット謝罪を」

「えっ……うそ……この子が?! どうしてこの私が謝罪なんてしなければいけないの……!?」

 謝るなんて不服だと、アンリエットはラファエル公爵を見つめて嫌だと抗議するが。

「アンリエット、妻に謝罪を。君と違って妻は貴族だ、もしそれが出来ないと言うのなら私は……君に罰を与えなければいけなくなる」

 険しい顔で凍るように冷たい視線をラファエル公爵はアンリエットに向け謝罪がなければ不敬に問うといい放つから。

「っ……知らなかったとはいえ不敬な態度、申し訳……ございませんでした」

「あ……えっと……はい、謝罪を受け取ります」

 謝罪なんてアイリスは特に求めてはなかったが、一応アンリエットの謝罪を受けとっておいた。

 もしここでその謝罪を受けとらないと、平民であるアンリエットはアイリスに対する不敬でラファエル公爵に罰せられてしまうだろうから。

 アイリスは平和が一番な事なかれ主義なので、揉めごとなんて極力したくないのだ。

「優しい彼女に感謝するといい。普通の貴族なら君のその態度は絶対に許してなんて貰えないからな」

 それだけをアンリエットに言い残して、ラファエル公爵はアイリスを連れて店を出る。

 そしてラファエル公爵に連れられて店を出られてしまったアイリスは、買い損ねてしまったお持ち帰りのタルトに想いを馳せる。

 ひとり残されたアンリエットはギリギリと歯軋りをして、二人の後ろ姿を見送った。
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」 「嫌ですけど」 何かしら、今の台詞は。 思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。 ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻R-15は保険です。

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

処理中です...