【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅

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40 初めての夜会

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 目が眩み圧倒されるほど煌びやかな世界が、大きくて重厚な二枚扉が開かれたその先には広がっていた。

 豪華なシャンデリアが照らす夜会の会場には、美しく着飾った貴婦人達が華を添えて、王城の使用人達が休む暇なく給仕する。

「フォンテーヌ公爵夫妻、ご入場!」

 高らかに宣言されたその声にざわめきが起こる。

 浴びせられる鋭い視線に足元がすくみ、囁かれる言葉に身体が震え、人の多さにめまいがした。

 そして情報量の多さに圧倒されて、顔面に張り付けていたお得意の清楚で可憐な深窓の令嬢メッキがぺりぺりと剥がれ落ちそうになるのを必死に維持する。

 エスコートしてくれるラファエル公爵の腕をぎゅっと強く握り、どうにか緊張で震える足を動かした。

 ……想像してたより人が多い。

 それにすごく見られている。

 しかも何か言われてる。

 貴族として生まれたからといって、こんな煌びやかな世界に引きこもりの自分が来ることは一生ないとアイリスは思っていた。

 それに来たいとも全く思ってなかった。

 来てしまった今も帰れるならば今すぐに帰りたいし、ここにいる人達はみんな笑ってるし笑顔だがこれの何が楽しいのか全然わからない。

 異世界転生したら引きこもりが突然明るくなって社交的になるとかそれ、絶対に嘘。

 もしそんな人が実在するなら。

 にわかの、なんちゃって引きこもりだからそれ。

 ガチの陰キャ舐めんな……?!

 ただ私は何かが辛くて引きこもってる訳じゃなく、ただお家が好きなだけ。

 それに静かな場所が大好きで沢山人がいると疲れてしまうし、働きたくないし動きたくない。

 だからから引きこもってるだけのプロの引きこもりニートであって、私にとって夜会は地獄だ。


 むせ返るような香油や香水の悪臭、夜会の会場を埋め尽くす大量の人間、そして不躾な視線にアイリスはただ入場しただけで既に満身創痍。

「大丈夫かアイリス……?」

「っえ、だ……大丈夫ですっ……!」

 それに加えてラファエル公爵をアイリスは意識し始めた直後という事もあり、ただ話しかけられるだけで胸が高鳴り顔が赤くなって目まで潤んでしまうから。

 色々と大変で。

 そして愛する妻アイリスに、そんな可愛らしい態度を急に取られてしまったラファエル公爵も。

 それはもう……色々と大変で。


 そしてそんな二人を目にしてしまった夜会の会場にいた王族と貴族達は、目を丸くして驚いた。

 それはいつも仏頂面で冷徹な態度を崩さないラファエル公爵が、優しくアイリスに微笑んで話しかけていたからだ。

 というか、公爵夫妻……?

 フォンテーヌ公爵夫人って、初夜を拒否されるほど不細工な豚じゃなかったっけ?

 でもラファエル公爵の隣に居るのは、透き通るような美しい肌を持つ可憐で清楚、それに華奢な可愛らしいご令嬢だし、二人の仲はとても良さそう。

 王家主催の夜会に集まった貴族達は、そんな二人を呆然とただ眺め確信し。

 ……また噂が囁かれ始める。

 公爵夫人が可愛いからって誰にも見せたく無くて領地に隠してやがったな、と。

 もしかしたらあのいけすかない平民の愛人も、公爵夫人を隠す為のカモフラージュ……!?

 実は冷徹公爵ではなく束縛公爵だったのか!

 等々、貴族達は好き勝手に根も葉もない妄想を展開し、新たな噂が囁かれていく。

 その新たな噂を聞いて、フォンテーヌ前公爵夫人カーラは満足そうに笑う。

 多少変な噂も混じっているが概ね満足。

 あとは息子夫婦が本当の夫婦になってくれるだけだと思うが……二人の様子があまりにも初々し過ぎて。

 ……これは当分無理だなと渋い顔をした。


「アイリス、来て頂けましたのね?」

 そんな初々しい二人に、ゆったりと近付いて話し掛けたのはアイリーン皇太子妃。
 
「王国の月の女神にご挨拶を、アイリーン王太子妃殿下、本日はお招きましてありがとうございます」

「あら、私とアイリスの仲じゃない? そんな畏まらなくてもよろしくてよ? 今日もとっても可愛いわ! 流石は私のアイリスね!」

「……誰が貴女のですって? 王太子妃あまり調子に乗らないで頂けますか?」
 
「調子に乗らないで欲しいのは公爵、貴方ですけれど? 私はこれでも一応王太子妃ですのよ?」

「自分で一応って付けてる時点でその程度、あまり調子に乗ってるとシュナイゼル王太子に貴女がまたエリザベート王妃殿下の所に仕事もしないで媚を売りに言って遊んでいると話しますよ?」

「っ……この仏頂面、覚えてなさい? 私と社交界の大輪の薔薇であらせられるエリザベート王妃殿下との仲を引き裂こうだなんて……!」

「……どれだけ王妃殿下が好きなんですか貴女は……シュナイゼル王太子殿下が不憫に思えてきます」

「……あら失礼ね? シュナイゼル様も愛しておりますわよ? シュナイゼル様は私の推しですし、ただ愛の形が違うだけですのよ? だって……社交界の大輪の薔薇であらせられるエリザベート王妃殿下は至高の存在ですからね!」

「ああ……うん、そうですか」

 アイリーン王太子妃の、エリザベート王妃への愛の叫びがまた始まってしまったと、この話題を振った事にラファエル公爵は後悔した。

 アイリーン王太子妃は、エリザベート王妃殿下をまるで神のように崇拝し崇めていて面倒だからだ。

「まあ、今日の所はこれくらいにしてさしあげるわ、私今日はとっても忙しいの!」

「ああ、隣国の王女一行が留学に来ているんでしたっけ? ならこんな所で油を売ってないで早く王女の所に戻って下さい」

「……戻った所で通訳なしだと言葉が通じないんですもの、相手するのも疲れてしまうわ」

「貴女はそれでも一応王太子妃なのですから公用語くらいしっかり学んで下さい」

「語学だけは苦手なのよね……? まあお二人は楽しんでいって? またね、アイリス! またお茶会にご招待致しますわ!」

 にっこりと優雅にアイリーン王太子妃はアイリスに微笑んで、去っていく。

「え? はい……お招きお待ちしております……」

 アイリーン王太子妃は悪い人ではないし、何故か自分に良くしてくれるから嫌いではない。

 だがやっぱり自分との大きな違いを見せつけられて、アイリスは卑屈になってしまった。


 そしてラファエル公爵とアイリスは気付けない、入場からずっとアイリスの事を舐め回すように見つめる視線に。
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