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45 断罪?
しおりを挟む……鈍い音と共に赤い血飛沫が床に飛び散った。
冷たく固い床に叩き付けられて。
苦悶の表情を浮かべるイスマエルを、侮蔑を含んだ目で見下ろすラファエル公爵。
その見下ろしたラファエル公爵の黄金の瞳は、ギラギラとギラついて。
獲物を狩る獣のようで、ゾクリとする。
普段は怒ったりする事は殆どなく、無表情で淡々と必要最低限しか喋らないラファエル公爵が珍しくブチギレしてイスマエルをぶん殴った。
その様子に、なんて馬鹿な真似をしてくれたんだと息子イスマエルの失態にフルニエ公爵は、苦虫を噛み潰したような顔で頭を抱えた。
そして一部始終を見守るのは王太子夫妻で、珍しくキレるラファエル公爵を呆気に取られて見ていた。
「私は妻に近づくなと、警告したはずだが?」
ドスの効いた声でラファエル公爵は、イスマエルを見下ろしながら言い放つ。
「っ……隊長はっ……アイリスとは白い結婚でしょ? なら私にもまだチャンスが……ふぐぅっ……!」
ドッ……と、また鈍い音がその場に響く。
ラファエル公爵が床に寝転がるイスマエルの腹部に、容赦なく蹴りを入れる。
「……可笑しな妄想を披露するのは止めて貰おうか? 私とアイリスの結婚は教会が執り行い、王家も承認した確固たるもの、イスマエルお前にチャンスなどあるはずがない」
「……ええ、承認致しましたわ」
それに是と肯定するのはアイリーン王太子妃で。
「それで、フルニエ公爵? コレ、一体どうされるおつもりで? 我が近衛隊からは職務規定違反で除隊処分は当たり前ですが、コレがやったことは犯罪ですので裁判にかけるつもりです、そうならば貴方にも責任は出てくる」
コレとラファエル公爵がフルニエ公爵に目配せしたのは、未だに床に這いつくばるイスマエルで。
「……さ、裁判なんて!」
「隣国の王女殿下の親友に対する不敬なんて、どうしてそんな事をしてしまったのです?」
フルニエ公爵の懇願に、シュナイゼル王太子は事実のみを淡々と返した。
「へ……? フォンテーヌ公爵夫人が隣国の王女の親友……ど、どういう……」
シュナイゼル王太子に告げられた事実に、フルニエ公爵は唖然として視線をさまよわした。
「留学に来られているエレノア王女殿下からも今回の事、厳罰にとの嘆願を国に頂きましたので、私共の私情で何もなかった事には出来ません。国からの処分は爵位の降格が妥当と国王も判断されました」
私情を挟むつもりも、逃げ場もないとシュナイゼル王太子はフルニエ公爵に告げて。
……これでいいか?
と、ラファエル公爵にシュナイゼル王太子殿下は目配せした。
今回の事ラファエル公爵の根回しだけでなく、ラファエル公爵の母で前フォンテーヌ公爵夫人カーラの動きも大きい。
だって、前フォンテーヌ公爵夫人カーラと、エリザベート王妃の二人は若かりし頃は仲良く社交界でブイブイ言わせていた大親友だったから。
今でもその交流は絶えずに続き、頻繁に二人は優雅にお茶を一緒に飲んで、あーでもないこーでもないと夫や息子の愚痴を言い合う仲で。
……王妃にまで上り詰めてしまったエリザベートには、なんのしがらみもなく話せるカーラ前公爵夫人という親友は貴重な存在で大事なのだ。
「と、いう事ですのでフルニエ公爵? コレどうされるおつもりですか? ……ああ勿論貴方がどんな決断をされましても我がフォンテーヌ公爵家からは損害の賠償を請求もさせて頂きますので悪しからず」
「っ……イスマエル! この馬鹿息子……三男だし家督も継がせてやれんからと甘やかしてやっていたら……フルニエの家名に泥を塗りおって……爵位の降格なんて」
と、フルニエ公爵の嘆きとイスマエルのひきつった表情と共に王城で行われた断罪……?
いや、ラファエル公爵のストレス発散は終了した。
……あの夜会の夜以来アイリスに会えない悲しみ、そして寂しさでラファエル公爵はストレスがたまっていた。
本当はすぐにでもヴァロア男爵家にアイリスを迎えに行きたかったが、全てが後手後手に回ってしまったせいで危険な目にあわせてしまったから。
まずはそれを取り除いてからと、思っていたらもうあの夜から十日も過ぎていて。
ラファエル公爵はヴァロア男爵家にいるアイリスを迎えに行ったら、嫌そうな顔で冷たく拒絶されて。
泣きそうになった。
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