【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅

文字の大きさ
44 / 52

44 まだ根にもってる。

しおりを挟む


「……やってしもうた!」

 その膝は崩れ落ちて。

 後悔するくらいなら言わなければいいのにとはおもうが、自分も似たような事をやった事があるので人の事が言えない。

 後悔の念に駆られる今生の父ヴァロア男爵は頭を抱えて唸るけど、今さらもう遅い。

 そして久し振りの貧乏男爵家での生活に、アイリスは不安を覚えたけれど気のせいで。

 骨の髄まで染み付いていた貧乏は、三年程度セレブリティな生活をした所で消える事はなく。

 直ぐに順応した。

 そして引きこもった。

 フォンテーヌ公爵家で与えられていた日当たりのいい広い部屋とは真逆で、ヴァロア男爵家にあるアイリスの自室は狭くて薄暗くてじめじめとしていた。

 そして所狭しと並ぶえっちで下世話な本がずらりと並び、アイリスにとっての楽園で。

 数日くらいはそれなりにアイリスは楽しんだ。

 けれど、ふと……寂しくなった。

 あの夜会の夜から、何の連絡もない。

 男爵家に迎えに来てくれるどころか手紙の一通もなくて、ほったらかし。

 ずっとほっといて欲しいと思っていたのに、放置されると無性に腹が立った。

 『君に恋をした』とか『好き』とか、言った癖に、連絡の一つも寄越さないとかありえない。

 うぶな乙女心を弄びやがって……!

 と、むしゃくしゃしていたら。

 なんてタイミングの良いことか?

 ラファエル公爵の元彼女アンリエットから、お家にご招待されて馬車で向かう。

 やっぱり例の如くお尻が痛い。

 公爵家の馬車より男爵家の馬車はよく揺れる。

 車輪が石畳で跳び跳ねて打ち付けるお尻を擦りながら、到着したアンリエットの自宅にアイリスは呆けた。

 一応貴族であるアイリスの実家よりも、アンリエットの家は遥かに大きくて豪華……簡単に言えば豪邸。

 フォンテーヌ公爵家に勝るとも劣らない大きさの豪邸に、アイリスは驚かされた。

 それにテーブルに並べられた宝石のようなお菓子がとても美味しくて、お金持ちは違うなと唸る。

「……え? 本当にヤッてなかったの!?」

「あ、はい……好きな人がいる方に義務で抱かれるのは嫌でしたので、必要ないとお断りしました」

「アイリスちゃん、かっこいい……! いやでも普通はそれでも一応、妻という地位を揺るぎないものにするためにヤると思うけど……? そんなにラファエルが嫌だった?」

 一口優雅にお茶を飲むアンリエットさんは、私よりも貴族らしく見える。

 アイリスも一口そのお茶を飲めば、高そうな味がして公爵家を思い出した。

「イヤ……というより、結婚自体したくなかったですし、契約結婚だと最初からラファエル様に言われてましたので、面倒でした」

「ふふっ……面倒っ……! 一応ラファエルってそれなりに顔は整ってるのに……アイリスちゃん面倒って……貴女、いい! 素敵、あはは、うける……!」

 アンリエットは愉快そうに腹を抱えて笑う。

「そんなに笑わなくても……」

「いやだって……! んー……でも、今は連絡の一つも寄越さないのが腹立たしいんでしょ?」

「それは……」 

「ふふっ……アイリスちゃん可愛い! 初恋、かしらね? 貴女も録でもない男に惚れたわね? あ、私はもう別の良い人がいるから安心してね?」

「え……?」

「ふふっ、女はね恋をして綺麗になるのよ?」

 少し頬を赤く染めて笑ったアンリエットは、アイリスの目から見てもやっぱり綺麗で。

 どうして自分なんかをラファエル公爵は好きだと言ったのか、わからなくなった。

 帰りの馬車もよく揺れて、乗り心地は最悪で。

 サスペンションやらなんやらで異世界チートなんて引きこもりには、そもそも詳しい仕組みが全くわからないし出来る気もしない。

 だからお尻の下にクッションを当てて耐えるけど、男爵家の馬車はオンボロで揺れる揺れる。

 だから、座り心地の良かったラファエル公爵のお膝の上をつい思い出してしまい。

 アイリスは盛大な溜め息を溢す。

 初恋とか言われても、前世でも恋とかしたことがない引きこもりにはその胸の高鳴りが恋だとは確信が持てないし、それに。

 ラファエル公爵相手に恋をしたとは……どうしてもアイリスは認めたくなかった。

 やる気も愛も無い結婚式で。

 『愛するつもりはない』

 『お飾りの妻だ』

 と、宣って。

 三年間も放置しやがった相手に恋をするなんて。

 ……なんか嫌だった。
 
 アイリスはまだ根に持っていた。
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」 「嫌ですけど」 何かしら、今の台詞は。 思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。 ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻R-15は保険です。

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

処理中です...