死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

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41 手紙

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41



 レイチェルが涙ながらに罪の告白をしたあの日から、今日でもう十日が経った。
 
 そして脅迫の手紙はあの後すぐに調べられて。
 その筆跡から、ある一人の侍女がこの事件に関係していることが判明した。

 ――その侍女とは。
 王妃殿下主催のお茶会で、私に毒入りのお茶を渡した侍女として現在行方を捜索されているミア・フックスだった。
 
 ミア・フックスは徴税官の婚外子で、最近になって王宮に仕え始めたばかり。
 そしてその徴税官が担当していた地域は、モルゲンロートとシュヴァルツヴァルトの国境付近。
 ……どう考えても、これはただの偶然ではない。
 
 なにやら非常にきな臭い。
 背筋を氷で撫でられるような嫌な感覚。
 絶対に裏になにかある。
 
 さらにその徴税官の自宅を近衛騎士達が捜索の為尋ねたところ、邸宅内には家財道具の一つすら残されておらず。
 唯一あったのは、床に点々と残された黒ずんだ血の跡……だけだったらしい。
 
 その報告を最後まで聞いた瞬間。
 和平条約が結ばれたというだけで、争いの火種自体はまだ消えていなかったのだと理解したのです。

 そしてそれ以降私は安全措置として、数人の近衛騎士が常時護衛してくれるようになりました。
 
 加えて侍女がいないのは不便だということで。
 リーゼロッテ王妃殿下付きの信頼のできる侍女数人を、側に置いていただけることになったのですが。
 
 その中にはフリードの乳母だったという侍女もいて、彼の恥ずかしい昔話を延々と数時間に亘って聞かされるという珍事件がありました。
 
 ですが侍女達とは概ね関係は良好で、何不自由ない生活を送らせていただいています。 

 ――そんなある日。
 モルゲンロートから持ち込んだお気に入りの本を片手に、優雅なティータイムをしておりますと。

 一人の侍女が、私の元へある一通の手紙を携えてやってきたのです。

「王太子妃殿下、ヴァイス公爵家のご令嬢……クラウディーヌ様よりお手紙がございますが……」

「クラウディーヌ公爵令嬢から私に?」

 思わず本のページを捲る手を止める。
 いったいなんの用向きでしょう。
 
 ……もしや果たし状かな?
 とか、馬鹿なことを考えてみますが絶対に違うでしょう。

「どう、いたしましょう?」

「こちらへ手紙を渡して頂戴、中を確認するわ」

 そして侍女から手紙を受け取り、おそるおそる封を切ってみますと。
 封筒の中には上品な香りのする、可愛らしい意匠の便せんが数枚入っていました。

『フランツェスカ王太子妃殿下。突然のお手紙失礼いたします。先日のお茶会でのこと、どうしても謝罪したくこうして筆をとりました。もし謝罪の機会をいただけるなら、一度当家でお茶をご一緒していただけませんか? 父や母も王太子妃殿下にご挨拶したいと申しております』

 ――と、書かれた手紙が入っていて。
 一瞬、どうするか迷いました。

 ……けれど。
 あの日、泣きそうな顔で私を見詰めるクラウディーヌ公爵令嬢の顔を思い出して。
 もう一度会ってみようと思ったのです。 
 
「王太子妃殿下、どうなさいますか?」

「そうね。このお誘いお受けしようと思います、一度ゆっくりと彼女とお話してみたかったですし……」

 ――そう、私が口にした瞬間。

「――フランツェスカ、その必要はありません」

 その声に、振り向けば。
 そこにはフリードの姿があった。

「あら、それはどうしてですか?」
 
「逃げた侍女が未だ捕まっていません、危険です。それにクラウディーヌとお茶を飲むだなんて……貴女の気分が悪くなるだけだ」

「その為にこうして近衛騎士が側で守ってくれています。それにお友達とのお茶会で気分が悪くなるなんてこと、ありませんわ」

「そんな嘘はもうつかなくていいんです。なのでフランツェスカは王宮で大人しくしていてください」

「それは……命令ですか?」

 そう問いかけるとフリードの薄氷のような青い瞳が、かすかに揺れた。

「命令などではありません……! 貴女に私が命令など……するわけがないでしよう。私はただ貴女の事が心配で……」

「でしたら放っておいてくださいませ。私に干渉しない、あの約束をフリードはもうお忘れですか?」

 その一言で、フリードはまるで言葉を失ったように黙り込んだ。
 けれど視線でなにか訴えてきます。
  
 ……なんなのでしょうこの人は。
 自分で言ったことくらい守ってほしいです。

 それに、ちょっとお茶を飲みに行く程度のことで危ないやらなんやらと騒がしいです。

「フランツェスカ……」

 そしてなぜか悲しげな声で名前を呼ばれましたが、そんなこと知りません。
 私はやると決めたら、やる女なのです。

「それに心配はご無用です。私は自分の身は自分で守れますので」

 ……そう。
 なにかあっても自分の身くらいは自分で守れる。

 その辺の、か弱いご令嬢達と一緒にしてもらっては困ります。

 まあ犯人が逃げている以上、怖くないと言えばそれは嘘ですが。
 でも逃げてばかりいるのは性分に合いませんし、負けたみたいで……嫌なのです。
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