死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

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60 自業自得です

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 ――モルゲンロート、王都。
 
 騎士の隊列に先導されて、四頭立ての豪奢な馬車が王都の街へと足を踏み入れた。
 
 大通りをゆっくり進む豪奢な馬車。
 先導する騎士達が高らかに掲げるのは、モルゲンロートの象徴……赤い鷹が描かれた軍旗。
 けれどその後方をいく豪奢な馬車に刻まれているのは、シュヴァルツヴァルトの象徴……銀の獅子。

 二つの国の象徴が堂々と並ぶその光景に。
 沿道にいたモルゲンロートの国民の目は、一斉に馬車へと向けられた。

 そしてその馬車にフランツェスカ・モルゲンロートが乗っていることに気付くと。
 人々から盛大な歓声が巻き起った。
 
 歓声をあげる人々の顔は喜びできらきらと輝く。 
 老婦人は深々と頭を下げて、幼子は必死に手を振りその尊き名を呼ぶ。
 
「フランツェスカ様ー!」
 
「フランツェスカ様、モルゲンロートへお帰りなさいませ」
 
「姫様、姫様だー!」

 風花がモルゲンロートの空をひらひらと舞う中。
 馬車の前を行く騎士達は真紅の軍旗を誇らしげに掲げて、喜びに沸き立つ群衆に応える。

 人々の祝福に包まれ、フランツェスカとフリードが乗る馬車はモルゲンロート王宮へと向かってゆっくりと進んだ。
 そして馬車がその場を過ぎ去った後も、フランツェスカの帰還を心から歓迎する国民の歓声が王都の街を揺らしていた。
   
  
◇◇◇

 
「すごい、歓迎ですね」

「……ありがたいことです」

 歓迎してくれるのはとってもありがたい。
 ですがこれは、ちょっと。
 ……盛りあがり過ぎじゃないでしょうか?

 途中立ち寄った町や村でも、同じように笑顔で歓迎されましたが。
 これは……今までと規模が違い過ぎます。
 
 大通り沿いはまるでお祭り騒ぎ、沿道は私達を一目見ようとする人で溢れかえっていた。
 これではまるで、英雄の凱旋パレード。

 ……なんだか少し、気恥ずかしい。

 そんな中、フリードはというと。
 ――どこかそわそわとして落ち着かない。  
 そしてなにか言いたげなのに、なかなかそれが言い出せないようで。
 何度か困ったようにため息をついていた。
 
「あの……フランツェスカ。モルゲンロートの王宮に到着する前に一つ、お聞きしても?」

 そしてようやく決心したのか、フリードが重たい口を開いた。 

「ええ、なんなりとお聞きください」

「ずっと……気になっていたのですが。あの、あれは……いったいなんですか」

 フリードの視線の先。
 そこにあったのは――。

 私達が乗る馬車の後方。
 侍女ヘルマやフリードの侍従が乗る馬車の御者台に縛り付けられた、クソ親父の姿。

「――お父様ですが、あれがなにか?」

「……それは見てわかります。ですが、どうして両手両足を縄で縛られて……さるぐつわまで?」

「逃げられないようにする為ですけれど? モルゲンロートに戻るの……嫌がりましたから。現実を見たくないんですね……」

 ――お父様に。 
「一緒にモルゲンロートに戻りましょう」
 と申し上げたら。
 
「私にはもう関係ない」
 と言って、モルゲンロートに戻るのを嫌がった。
  
 なので仕方なく両手両足を縄で縛って、問答無用で後方の馬車に押し込みました。
 すると案の定、文句を大声で喚き散らしてきて、とにかく騒がしい。
 そのうち諦めて静かになるかと思い放っておいたのですが、まったく静まる気配がなく。
 ヘルマやフリードの侍従にも迷惑だったので、少しだけ静かにしていただきました。
 ……ただ、それだけのことです。
 
「だからといって、いくらなんでもあれは……さすがに……ちょっと……」

 フリードは苦笑いを浮かべながら私を見る。
 どうやらさっきまでの落ち着かない態度は、これのせいだったらしいです。
 シュヴァルツヴァルトを出発してから約二日、ずっと気になっていたみたいです。

「こうなったのはお父様の自業自得です。国王の地位から退いたとはいえ王族ですから、こうなった責任をご自分で取っていただかないと……」

「まあ、それは……確かにそうですね……」

 逃げ出したい気持ちも勿論わかります。
 ですが、自分がやったことの責任くらいはご自分で取っていただかないと。
 大人なのですから。
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